挿話〜アリアの苦悩〜
アリアはため息をついた。
「本当にこれで良かったのかしら…」
アリアは族長の長として、集落を治めていた。
アリアの娘は人魚だった。アリアは娘が人魚であっても愛していた。
よく眠り、愚図ることのない良い子であった。しかし、それは最初だけだった。
2歳にもならない娘はよくわからない文字を書き、鼻歌を歌いはじめる。
アリアはおそるおそる、娘に問うた。
「リリア、何を書いているの?」
「異界の文字。私ね、アイリっていうの。あなたの娘じゃないの。」
2歳の娘ははっきりと喋った。しかも自分の娘ではないと。アリアはこの言葉にショック受けた。
そして、その時の出来事は胸のうちにしまった。
世話係のアントニアには話すべきだったのかもしれない。
しかし、アリアのプライドが人に弱みを見せることをよしとしなかった。
娘は人魚であったため、集落では除け者とされていた。
部屋にこもりがちになり、よくわからない歌ばかり歌って過ごしていた。
アリアは娘を避け、一切の世話はアントニアに任せた。
そして娘が15歳になると、村から追い出した。
アリアは全く娘を愛していなかったわけではない。
しかし、この娘を集落においても幸せなわけがないと思ったからだ。
アイリ。この名前に間違いが無ければ、伝説の人物だ。
その昔、マーマン一族に生まれた伝説の人魚。
その高い魔力と美貌で戦争すら止めたという。
偽証石を作りだし、様々な魔法をこの世に残したという。
娘の幸せと集落の平和のために突き放し、
村を追い出したといえば聞こえはいいのかもしれない。
しかし、アリアの心の片隅には娘に
「あなたの娘ではない」
とはっきり言われた傷があったのかもしれない。
それを認めるほど、残念ながら、アリアは素直ではなかった。
「どうしたら良かったのかしら。」
そう独り言を零すと、目を伏せた。