112.忘れてだと?
アイリさんから言われた申し出の答えを出すまで1年の時間がある。
エリーちゃんの結婚式くらいは出席できる。
後2箇所の踊り場はちょっと間に合いそうもない。
それまでにリリアとも話しておかないといけない。彼女は私がここに残ることを望んでいた。
それは私達の身体がもたないと知っていて言ったことなのか、
そうではないのかもはっきりさせないといけない。
私達の問題だから2人で話し合わなければ。それにはリリアに出て来てもらわないと。
それは祈るくらいしかできないんだけどさ…。
イグニスさんから呼び出しがかかる。
「えーと、休暇を出します。3日ほど。
4日後にオーサの港から出る船に乗りますので、よろしくお願いします。
ニールは4日後までには馬車も移動しておいてくださいね。」
それだけ告げるとイグニスさんは行ってしまった。
このタイミングで休み。そういえばこないだのロサッポの時も
お休みみたいな日があったな。でも今回ははっきり休みって宣言していった。
なんか他意でもあるんだろうか…。まぁいいや。
「うーん、馬車移動せなあかんなら、みんなで移動せなあかんか…。
バナンで過ごしておきたいってヤツおる?」
「なんかあるの?」
リンが聞く。
「いやな、オカンが休み取れたら実家に顔出せっていっとったなぁって。
演目も観に来たんやろうけど…多分別件の用があんねん。
俺とリリアだけなら早馬でと思ったんやけど、馬車も移動せんと。」
「それだったら僕が馬車は移動させてお…」
「みんなでオーサまで行ってしまいましょう?
どうせバナンでもオーサでも過ごし方は一緒ですわ。」
レンが言おうとしたら、プリシラがかぶせ気味に移動することを提案する。
「確かにそうだねー。オーサでも大抵のものがあるしね。」
リンも賛成のようだ。私達はその日のうちにオーサに移動した。
移動の間にシリルさんに【明日には帰るよ!】と簡単な手紙を書いていたのだが、
プリシラが
「こないだも義母様に挨拶出来ませんでしたし!」
となぜか来る気だった。転移使えばいけるかもだけどさ…。
「ねぇ、プリシラ。ついてくつもりみたいだけど、転移で行くの?」
「転移は行ったことのあるところでないと使えませんわ。」
「私達泳いで帰るから、クラーケン並みに泳ぐか
そのスピードで空でも飛べない限り一緒にいけないよ…?
一応、シリルさんちは陸だから滞在出来なくはないけどさ。」
「なんですって!」
さすがプリシラクオリティ。海中の場合とか気づかなかったのね。
「海中の場合を想定してませんでしたわ。でも陸なら問題ありませんね!
空は飛べますし。でも、身体がスピードに耐えられる自信がありませんわ。」
飛べるんかい!なんでもありだなエルフ。
「それじゃ一緒にはいけないね。」
「うぅ…。」
きっとニールさんと一緒に行きたいからオーサまで来たんだろうけど、
そこに気づかなかったプリシラがいけません。別に一緒に行きたくないわけじゃない。
2人が一緒にいるところみてるとなんとなくモヤモヤするとかそういうわけじゃない。
ないったらない。
オーサに着くと、
「みんなは適当に宿取ってな。俺らは行くわ。」
「わかりました。では3日後に。」
「ニールさん、夜だけど?いいの?」
「着く頃は定時巡回の時間と変わらんからこのまま行くで。
あ、それともリリア、疲れとる?そんなら…。」
「ううん、大丈夫。でもシリルさんには手紙書いちゃったよ?」
「別に早い分には大丈夫やろ。」
プリシラがオーサに泊まれよオーラ出してるけど気にしない。
しちゃいけない。一緒に飲みに行かない限り寝るだけなんだし。
私、早く帰って向こうでゆっくりしたいし。
「ニールさん、一緒に飲みに行きましょうよ!」
「あーまた今度な?リリア、いこか♪」
プリシラ撃沈。一応、申し訳なさそうな顔だけしておく。
あ…水着着ておいてないんだけど、まぁいいか。
帰り道はニールさんと少し急いで帰った。
最近のクラーミストの状況もわからないので、早く帰るに越したことはない。
結構な速度で泳いだので少し疲れる。
途中、私が少しへばったのを察したのか、ニールさんが手を差し出してきた。
「誰もおらんし、これくらいええんちゃう?」
ニールさんはあさっての方を見ながらいう。
なんのことかと思ったが、イグニスさんに言われた「過度の接触」を気にしていたみたい。
「誰も見てないんだし、これくらいは!!」
同じセリフは言って私はニールさんの背中に飛びついた。
「プリシラだってしてもらってたし、おんぶ。手を引いてもらうより楽だよ?」
首に手を回して耳元で囁くとニールさんは耳まで真っ赤になった。
「お、おんぶは…2本足やないとしづらい…んちゃうか?
ほら、えっと、首だけに捕まったら、危ないやろ?な?」
なんかデレないで動揺された…。
私の時間は限りがあるし、妹として甘えてみたつもりだったんだけどな。
「そっかー。」
ちょっと残念そうな顔をすると、ニールさんが真っ赤な顔で頭を掻いていう。
「あ゛ー、しゃぁないなぁ。だったら、こっちの方が(まだ)危なない。」
ニールさんは私をお姫様だっこをした。
まだって何が?首が締まる的な意味?
「飛ばすで!しっかり掴まっときや!」
「わぁ!」
ニールさんの首に手回すと…非常に顔が近い。
意外とまつ毛長いなぁ…などと思いながら横顔をみていると、目が合った。
「あの…あんま見つめんといて?(やっぱりコッチでもアカン…)」
「あ、ごめん。」
私も顔が赤くなる。おんぶより目が合う分私は恥ずかしいんだけど。でもアカンって?
「リリア…着くまで目、瞑っといて。」
「う、うん。」
なんだろ?顔近くて恥ずかしいから瞑ってる方がまぁ都合いいか。
…………。
…へ?ニールさん…今…おでこあたりに何か…。
……………。
「もうすぐ着くから目開けてええで。」
「ねぇ、ニールさん?」
「…すまん。今のは忘れて。」
「忘れるって…あのねっ!」
「あ、リリアちゃん、ニールおかえり。こんなとこで止まってどした?」
急に後ろから声。コールさんが後ろにいた。
「にーちゃん、ただいま。ちょうど終わり?」
「あぁ、手紙見てオカンがソワソワしとった。はよ帰ろか。」
「せやな。」
ごまかされた…。忘れてって…忘れられる出来事じゃないんだけど。
だって、さっきの…多分だけど。目瞑ってたけど。確証ないけど。
多分…キスされた…。
読んでくださってありがとうございます!
妹らしさを履き違えるリリアちゃん。