104.問題山積
食事を終えて宿に帰る。終始和やかな雰囲気の食事会であったが、
プリシラが酔っ払い、大変めんどくさかった。
いつも以上にニールさんに絡む、絡む。2人で飲みにいくのは禁止だな。
打ち上げとか特別な時だけにしよう。そう心に誓っていたら、
「ヤキモチか…。」
心を読んだように、エリーちゃんがボソッと呟いた。違うったら違う!
ニールさんも困ってたし。ただそれだけだよ!多分…。
この間から強く否定できない感情が渦巻いてて、なんとも言えない。
本当にもしかしたら、ヤキモチなのかな。もしそうなら、
「ヤキモチだとしても、兄を取られたって感じのヤキモチだよ!」
「そうか?」
ニヤニヤして返された。私自身はそう思っているんだからそうなの!
エリーちゃん達は今夜は違う宿なので、途中で別れた。
酔っ払ったプリシラの片腕をエリーちゃんが持ってくれていたが、
リンに変わったらバランスが悪くて辛い。レンでも同じだった。
見兼ねたニールさんがおんぶして運ぶとプリシラはご機嫌だった。
なんかやっぱりモヤモヤするなぁ。これがヤキモチなのかな。
元の世界では兄なんていなかったし、よくわからない。
好きな人は…いたはずなのになぜだかよく思い出せないんだよね。
付き合ったこともないし。
あれ?私…またニールさんのこと好きなこと肯定した?
いや、いや、そんなわけない。
そう思いながらニールさんとプリシラの姿を見ていたら、
「どないした?」
とニールさんに優しく笑いかけられた。やっぱり、この笑顔は反則。
しかも、考えていたことがことなので、どきりとしてしまった。
もう、プリシラは寝息を立てていた。
「いやー、兄の彼女を見るってこんな感情なのかなーって思っただけ。」
「プリシラは彼女ちゃうやろ。護衛対象や。」
「あれだけ好き好きビーム出されて、それはちょっと酷くない?」
なんとなく私に対しても護衛対象と言われたような気がして、言い方がキツくなった。
ニールさんがたじろぎながらいう。
「巫女は…異性との交際は禁止やし…。それに…こないた言うたやん。
ガツガツくる子は苦手…。」
「え、巫女って恋愛禁止なの?」
前半部分が気になって、後半の話はスルーしてしまった。
恋愛禁止って知らなかったし、そこまでアイドルと一緒なのね、巫女って。
「なんでも神様がヤキモチ焼くからっていうのが通説で広まってて。暗黙のルールらしいで。
内緒で付き合うっていうのは珍しい話やないらしいけど、
できれば、ないようにって家族や女の獣人を護衛につけるんが、最近の護衛事情。」
視線を落としながらニールさんが続ける。
「前にも言おうと思っとったんだけど、タイミング逃してて。
リリアに言いはぐっとったなぁとは思ってたん。
…あとな、イグニスがブレイ出発する前に言われたこともがあってな。
本当に血が繋がってない以上、過度にリリアに接触するのは禁止やて。
その…なんていったらええかな… お互い兄と妹以上の感情があるように見えるからって…。
そないなこと…ないのになぁ…なぁ、リリア?」
そういってこちらを見るニールさんの顔は赤い。多分お酒のせいだと思う。
撫でようとしてやめたり、さっきも抱きしめようとしてやめたのはそのせいか。
真面目だなぁ。それにしても、イグニスさんはなにを勘違いしているんだか。
私は兄として、ニールさんは妹として私を見てるはずなんだから。
そんなことはないはず…多分。
「ね、そんなことないのにね…。」
そういいながら私は俯く。そう、そんなことないはずなんだ…
そうなはずなのに、なんだろうこの胸の痛みは。
話しているうちに宿についた。プリシラを部屋の前まで運んでもらい、
「おやすみ。また明日な。」
そういってニールさんは自室に戻って行った。
リンが
「お腹いっぱいで幸せ~♪」
と言ってすでにプリシラが寝ているベッドに横になる。
「でもさ、頑張るのはこれからだもんね。
ちゃんと練習して、大踊り場でカッコいい演目やらないとね!」
リンの言うとおり。今考えなきゃいけないことはそれ。
準備期間が短いんだから。余計なこと考えている暇は、ない。
「そうだね。明日から頑張らないとね!早く寝て明日に備えようか!」
そう言って私もベッドに横になった。
早く起きたいから早く寝よう。その一心で私は目を瞑った。
すると、うっすらリリアの姿と声。
「ねぇ、ハルカ。あなたには戻る元の世界なんてないの。
だから、この世界でみんなと幸せになっていいんだよ?
アイリさんなんて探さなくていいの。」
「え?どういうこと?」
私は思わず、声を上げる。
「リリアさん、どうしたのー?寝ぼけたの?」
リンが問う。あれ?夢じゃない。
もう一度目を瞑る。ねぇ!どういうこと!声に出さず、念じる。
「私達は…元々ずっと一緒。」
だから、それはどういう意味なの?わからないんだけど。
「生まれた時からあなたは私。思い出したの。」
そう言ってリリアは消えた。もう目を瞑ってもリリアの姿を見えない。
その晩、結局私は眠ることはできなかった。
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