103.セトリ決め
ニールさん、レンが外出先から帰ってきた。
道すがら、討伐した魔物はこの国ではお金になるので、
2人は路銀の足しにするため討伐証明となる部位を持って詰所に行っていた。
ちなみにこの情報はエヴァルドルフ君から聞いていたらしい。
「ロサッポの踊り場、取れたよ!」
そう報告すると、2人もとても喜んだ。
ニールさんは私を抱きしめようとして…やめた。
なにその寸止め、なんかモヤモヤする。
いや、プリシラもいるから抱きしめられたら困るし、きっと恥ずかしいんだけど、
なんか…モヤモヤ感がすごい。
レンはリンを抱きしめて、
「よかったね!姉ちゃん、よかったね!」
と尻尾を振っている。羨ましそうにニールさんは2人を見ていた。
その直後、プリシラが寄って来て
「やりましたわ!」
と私を巻き込んで、隣にいたニールさんも抱きしめた。
ニールさんに抱きつきたいけどそうはできないからって、巻き込まないでほしい。
まぁ、モヤモヤは晴れたけどさ。ニールさんもなぜかちょっと嬉しそうだし…。
訳わからん。
「…そろそろいいですか?」
あ、またイグニスさんほっといてた。
そして私とニールさんのことをなぜかジト目で見ていた。
なぜ私達だけ?
「とにかく時間がありません。
来週の天の日までに衣装や4〜5曲くらい歌う曲を決めておかなければいけません。」
「え!4、5曲も歌うんですか?」
「1曲だけ歌って終わりってわけにもいかないでしょう?」
「確かに…そうですね…。」
4、5曲か…。1曲はメタルアイドルのいつもやってるやつで、最初に浄化は歌うでしょ?
あとは…リンとプリシラの持ち歌ってあるのかな?
「リンとプリシラは歌いたいもの、ある?」
「私は…故郷も近いですし…故郷の歌を歌いたいですね。」
エルフの里ってこっから近いんだ。あんまり聞いてはいけないのかと思って、
聞いてなかったけど。クラリティ大陸のどっかにあるのかな。
今はエリーちゃんとかいるから聞かないけど、あとで聞いてみよう。
とりあえず頷き、リンの方を見る。
「私に歌のこと、聞く…?」
リン…自分で言っちゃダメだよ。
「姉ちゃん…悲しくならない?」
「…とりあえず、リリアさんに任せる!」
あ…レンが代わりに言ってくれたわ。リンは投げたね、多分。
ブレイで歌った歌も入れても、あともう1曲は尺的には必要だなぁ。
どれにしようか…身体強化に使ってる5人組アイドルの曲にするか…
でもなー、なんかバランス悪い気がする。大手グループか…ハロの方か…。
あ、テクノアイドルのにしよう。あのめくらましに使ってるやつ。
踊りが武道っぽいし。あとはプリシラの故郷の歌がどんな感じなのかで曲順決めて…
「練習始めよう!間に合わない!」
そう言って、二人を引っ張っていこうとしたのだが…。外はそろそろ夕暮れだった。
「むう…」
練習は明日からだ。ちょっと凹む。あぁ、でも衣装も決めなきゃだな。
しばらく考えていると、エリーちゃんが私に声をかける。
「食事をしよう。踊り場でやることも決まったのだし、私達が奢るぞ。」
「わーい、やったー!!」
リンが真っ先に喜ぶ。エリーちゃん達、その発言後悔することになるけど、大丈夫?
心配になって来たので、小声でそっとリンに
「奢ってくれるって言ってるけど、少しは遠慮してね?」
と釘を刺しておく。
「はーい♪」
とは言っているけど、大丈夫だろうか…?心配だ。
食事は宿のではなく、食堂というよりレストランのようなところに行く。
エリーちゃんのオススメのお店らしい…高くないのかな…?
リンは見慣れないものが多いらしく、キョロキョロしている。
私も変に緊張してくるからやめてほしい。プリシラは落ち着いていた。
さすが長命種族。その辺は肝が座っている。
レンとニールさんも一緒に来ていた。
この2人は「祝いの席なら自分達はただの護衛だから」と行くこと自体を固辞したのだが、
エヴァルドルフ君から誘われたので、自腹でならと宣言して一緒に来た。
が、レンは完全に挙動不振になって、ニールさんの後ろから離れない。
とって食われたりはしないってば。
イグニスさんは
「友人同士ゆっくり話したいこともあるでしょうし、私は遠慮します。」
と優しい笑みを浮かべて言い、来なかった。
ニールさんはエヴァルドルフ君の友人と言ってもおかしくはないが、
イグニスさんは現在2人の雇用主だし、遠慮したのかもしれない。
メニューは勝手がわからないので、エリーちゃんに丸投げした。
でも、これならリンも食べ過ぎる心配もなくていいか。
「苦手なものがあったりしたら、今の内言ってくれ。避けよう。」
気遣いするエリーちゃん。素敵。プリシラがすっと手を挙げて、
「 ナマモノは避けて頂けると嬉しいですわ。」
と言った。へー、クラリティ大陸はナマモノメニューがあるのか。刺身とか?
この大陸にいるうちに食べてみようかな?でも、安い店だと怖いから、やめておこう。
「わかった。避けておこう。ニールさん、お酒は?」
「おう、頼むわ。」
「では、私もお願いしますわ。」
プリシラがしれっとお酒を注文している。
こちらでは飲酒は18歳くらいとざっくりしている。
もう17歳なはずなので、飲んでも咎められはしないだろうけど、
私はなんとなく飲まない。
20過ぎなきゃ飲んじゃいけないものという意識があるせいだと思う。
エリーちゃんエヴァルドルフ君は明日も仕事だという意識でいるし、
リンレンは年齢的にアウト。
飲めるのは20なんてとうの昔に過ぎたプリシラだけだし、
ニールさんの付き合いで軽く飲むくらい、今日はいいと思う。
そうすれば、飲みに行ったりしても大丈夫かどうか判断できるし。
ある意味お試し。
エリーちゃんが慣れた感じで注文していく。
そして運ばれてきたのはソーセージ、チキンや魚、蒸し野菜などの大皿料理がいくつか。
いつも宿で食べているものと比べものにならない豪勢な料理が目の前に並んだ。
リンは待てをされた犬みたいにエリーちゃんの目を見てまだ?という顔していた。
レンは料理をじっと見ている。君たち今、見た目は犬だよ?狼じゃないよ?
「じゃあ、リリア。乾杯の挨拶を。」
こっちにもあるのね、こういう風習。未成年組はジュースのグラス持っている。
リンレンの視線に耐えられそうないので、一言で。
「乾杯!」
「「「「「「かんぱーい!」」」」」」
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