挿話〜嵐の夜のこと〜
本編とは全く関係ありません。
カールは窓の外を見ていた。外は嵐。ひどい雨と風が吹きつけていた。
「あの子達が来たのもこんな日でしたね…。」
そう呟いた。
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こんな嵐の夜のことだった。当時、カールは8歳、兄コールは13歳。
父グニルと母の仕事の終わりを待っていた。
カールの母、シリルは嵐の中仕事に出ていたため、3人は心配しながら帰りを待っていた。
「ただいま。」
カールは母が無事に帰って来たことに安心したと同時に異変に気がつく。
その傍には5歳くらいのクラーケンの男の子とその子が抱いている赤ん坊が。
「オカン、その子誰?」
カールがそう問うと、男の子はシリルの後ろに隠れた。
「ほら、お兄ちゃん達に挨拶し。」
男の子がそっと伺うようにこちらを見て、
「僕、ニールっていうの。この子はニコル。女の子だよ。」
ハニカミながら男の子は名乗った。
カール達は自分より幼い子がきちんと自己紹介をしたため、つられて名乗る。
「僕、カール。」
「俺はコールや!」
「今日からニールとニコルはうちの子や。お母さんがちゃんと迎えに来るまで、な?」
ニールはシリルの方を見てこっくりと頷いた。
「じゃあ、みんな、母さんも帰って来たし、もう遅いからベッドに入りなさい。
ニールはお腹減っていないか?減っていたら少し何か食べてからにしよう。」
そうグニルはいうとニールに優しく笑顔を向けた。
「お腹減ってる…。」
自分のお腹を見つめるニールの頭を撫でながらグニルが優しく言う。
「じゃあ、夜食を食べてから寝ようか。
コールとカールもお腹が減ってたら、一緒に夜食を食べてもいいよ?」
「本当に?じゃあ食べる!」
「うーん…僕は寝るね。」
ニコルが眠るためのベッドをグニルが魔法で作り、ニコルを寝かせる。
カールは早々寝室へと向かい、コールとニールは夜食を食べてからベッドに入った。
子どもたちが寝静まる頃、夫婦は話始めた。
「一体どうしたんだい?大体…あんな子どもなのにこの嵐の中で…」
「それが…よくわからないんよ。」
ーーー嵐がやって来て、海は荒れていた。シリルは遭難者がいそうな予感がして、
夜の海へと向かった。しかし、船の気配はなく…いたのは子どもだった。
子どもはシリルのことを母と勘違いし、近寄ってきたが、
すぐに勘違いと気づき、顔に落胆の色を浮かべた。
そしてその子どもは
「おばさん、僕達とおんなじだね。僕、お母さん以外で初めて見た。」
と寂しそうな顔をしながら言った。
「どうしてこんなところに居るん?」
シリルが尋ねると男の子は
「お母さんが妹と一緒にここにいてねって言ったの。」
そう答えたのだった。
この嵐の中、ここに居ては危ない。魔法で母親にメッセージを残し、
男の子と赤子を家に連れ帰って今に至るーーー
シリルはそうグニルに話して聞かせた。
「そうか…それは…」
2人は心の中では同じことを思って居たが、口には出さなかった。
同じ親として、あまりに切なく、あまりに辛いことだったから。
「だから、うちで育てようと思うんよ。うちの子として。」
「そうだね…。君がそうしたいなら僕は反対しないし、
彼がクラーケンを見たことないのだったら、
うちのような中間地点で慣れていくのが一番かもしれないね…。」
そして、しばらく沈黙が続く。
夫婦は急ごしらえのベビーベッドに安らかに眠る赤子を見て、
思わず顔を綻ばせた。
読んでくださってありがとうございます!
割と初期からあった設定パート2。もっと違う話だったんですが、書いてみたらこうなりました。
オトン初登場です。オトンとニールさんは外見は似てませんが、中身が似ています。
本編に出るスキマなさそうなので、挿話くらいは出してあげたかったオトン。