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煉獄の焔  作者: yukke
第九章 邪悪との邂逅
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第十二話 決戦へ向けて

 花凛が目を覚ました時、既に神楽家に帰りついていた。

日が沈み始めており、夕焼けが神楽家の庭を幻想的に彩っていた。


「ん……ごめんなさい。寝ちゃってた」


「いや、しょうがないさ。あれだけの事があったんだからな。ただな、これからはあんまり、1人で抱え込むなよ?」


「ん、分かった」


 神田にお姫様抱っこされながら車を降り、そのまま神楽家の門をくぐる。すると、3つの人影が花凛に走り寄ってくる。


「花凛! 大丈夫?!」


「大丈夫でしたか? 花凛さん。墓地が凄いことになっていると、ニュースでやっていたので心配していました」


「でも、無事そうで何より」


 そう、今や花凛の親友である夏穂、美穂、志穂である。

そして、神田の後ろを別の車で着いてきていた、亮の家族の姿もあった。


 もちろん、3人とは初対面の為軽く自己紹介をする。

花凛が男だったことは伏せて。親戚ということにしておいた。


「こらからも花凛をよろしくお願いしますね」


 亮の母親は丁寧にその一言だけを言う。それ以上の言葉は要らなかった。

花凛のそばで、花凛を心配そうに見ている姿を見れば、仲良くしてくれているのは一目瞭然であった。


 するとそこに、3人の父親である神楽亮蔵がやってくる。

その面持ちは、至って普通ではあるが厳格なその顔は、少し疲れて見えていた。


「花凛さん、大丈夫でしたか。3人がいたく不安がっており、驚きましたよ。3人を、特別扱いせずに友人として居てくれている証拠ですな。しかし、自身の事を蔑ろにするとはまだまだですな」


 亮蔵は、花凛に向かい少し厳し目の言葉を投げかける。

しかし、それは事実その通りであった。


「はい、すいませんでした」


 花凛は、ただ申し訳なく思い暗い表情になっていた。

そして、神田に降ろしてくれるように頼み、降ろして貰うと頭を下げた。


「3人の護衛を怠り、申し訳ありませんでした」


「花凛……」


 夏穂が止めようとするが、それを亮蔵が片手を夏穂の前に出して制した。


「何事も、節度は必要だ。怠った事に謝罪をする。それは、誠に良い心掛けだ。そなたは、龍にしては殊勝な心掛けをしている。これからも、3人をよろしく頼む」


「はい、分かりました」


 花凛は、その間ずっと頭を下げていた。


「よし、花凛。とりあえず着がえるぞ。そのままでは風邪ひくだろ?」


 横にいた神田が、花凛の肩を叩きそう促す。

そして、再びお姫様抱っこをしてくる。


「ちょっ……賢治さん。もう自分で歩けるから」


「い~や。足元がふらついている、部屋まで運んでやる」


 するとそこに美沙が走り寄って来て、耳打ちをしてくる。


「じゃぁ、私達はこれで帰るね。もう大丈夫そうだしね。後さ私達にも、もっと相談してよね? 特に、恋愛相談とかは大歓迎だからね」


 そんな美沙の言葉を受けて、花凛は耳まで真っ赤になっていた。

そして、手を振りながら家族と一緒に美沙は帰っていく。


「さ、花凛。私達の服で良ければだけど、着がえ用意するね」


「夏穂、あなたのじゃぁ。胸がちょっと」


「そっちは関係ないでしょうが、美穂!」


 美穂なからかわれながら、夏穂は美穂を追いかけていく。

その後に続いて志穂も家に向かい、花凛も神田にお姫様抱っこされながら家に入っていく。







 着がえが終わった花凛は、夏穂、美穂、志穂そして神田と一緒に、ある部屋に向かう。

そこは、初めてこの家に来たときに、亮蔵と話をした部屋であった。


 因みに、着がえは数十分程かかっていた。

主に、夏穂、美穂、志穂のいたずらを受けながらだったので、時間がかかっていた。


「もう、少しは考えてよね。夏穂」


 花凛は、夏穂にそう文句を言っている。

どうやら、いたずらは全て夏穂から仕掛けているようである。


「まぁまぁ、良いじゃない。お父様からは、準備に時間がかかるからゆっくりしろって言われたからさ。久々にいじくり倒したかったんだよね~」


「あなた達の護衛を始めてから、ずっとじゃない」


 花凛は夏穂に対してそう言い返した。

しかし、夏穂は反省する色を見せておらず、今後も色々いじくり回されるなと、花凛は半ば諦めていた。


「それにしても、花凛さんから反撃されるとは思わなかったですね」


「やられっぱなしじゃ癪なので」


 美穂の言葉に、花凛が強気な態度で返している。

それは、いつもの花凛の様子とは違っていた為、3人は少し戸惑ってはいる。

それでも3人は花凛を信じていた。きっと花凛の闇は消えたのでは無く抑え込んでいるんだ、闇を受け入れた花凛の行動を信じて、そして暴走しないように自分達がずっと味方でいてあげよう。そう、決心していた。


「あんまり調子乗っていると、その反撃が怖いよ~花凛~」


「ふふん、かかってきなさいよ」


 夏穂の脅しにも屈していない様子の花凛は、呼び出された部屋のふすまを開ける。


「よう、元気そうやないか」


 するとそこには、ネブラと紫電そしてアシエの姿があり、アシエの横にネーヴァも座っていた。

神田も、ネブラの横に座っていて花凛達の到着を待っていた。


「皆! 良かった、たいした怪我も無さそうだね。でも、何でそんなにやつれているの?」


 そう、紫電とアシエは少しやつれた顔をしていたのだ。


「ふ、ふふ。そりゃぁ、もうアシエちゃん達は一晩中、全国にあるNECの工場破壊のお手伝い為に、全国を飛び回っていましたから」


「言ったやろアシエ。ネブラさんの配下の俺達は、こんな、事は。日常茶飯事、やで……グゥ」


「寝るな」


 そう言ってネブラが紫電の口元を怪しい霧で覆う。すると、紫電は途端に苦しみだす。


「あ、あかんてネブラさ……それ、永眠す……」


「ならば、起きとけ。これから重要な話をするんだ」


 花凛は、心底3人の護衛をしておいて良かったと、そう感じていた。

そんな花凛をネブラは見ている。そして、何かに気づいた様な表情をしていた。


「花凛、闇に飲まれなかったのは良いが。それで良いのか?」


 ネブラに言われ、花凛は強く頷く。そこに迷いはなかった。

それが、花凛の出した答えだからだ。


「誰にだって、闇はあるわ。だから私は、この負の感情も自分の一部として受け入れる。私は、どんな事でも受け入れる。そして、乗り越えて見せる」


「なら良い」


 ネブラは、花凛のその言葉に二言は無いと感じ、それ以上は追求しなかった。


「花凛、お前はどんどん強よなってくな。感心するで」


「アシエも負けてられないです」


 紫電とアシエが花凛の決意を聞き、負けていられないと言った表情を見せていた。

やはり、2人共龍としてのプライドがあるのだろう。

最大の戦いを前にして、2人も決意を新たにしていた。

するとその後、ネーヴァが現状把握の為に話を切り出した。


「さて、皆さん。現状なのですが。鬼化現象は未だ収まっていません。薬はもう出回らないとは思いますが、どうやらタルタロスの穴が広がってしまったようです。その証拠に、ネブラ達がとんでもない人物と出会っていますからね」


 その後、花凛と神田はネブラ達が研究所での戦いの事を話し始めた。

最後に、朽木と呂布に逃げられた事も。




「朽木……」


 その話を聞いた神田が、拳を握り締めて怒りを露わにしていた。

しかし、その隣に居た花凛が神田の手を握る。

その瞬間神田は目を見開き、そしてため息をついた。


「すまん、花凛……俺は何も変わってないな」


「ううん、そんな事はないよ賢治さん。やっぱりさ、決着付けないとね」


 花凛は、そう言って神田に微笑んだ。

その姿に皆がほほえましいと感じ、暖かい目で見ていた。


「さて、事態はそれだけではないのですよ。どうやらサディアス。いえ、その前に。花凛は、この男の正体を知ったのでしたよね?」


 ネーヴァの言葉に、花凛は頷いた。


「うん、サディアスの正体。それは、冥界の主ハーデースだったわ。ただ、龍王から聞いた情報だからほんとかどうかは知らないけどね」


 花凛のその言葉に紫電やアシエ、ネブラやネーヴァも驚いていた。


「あったのですか?! 彼に?」


 あの大人しくのんびりしたネーヴァが、声を荒げていた。

それもそのはず、倒すべき2人の総大将の1人と相対し、戦ったと言うのだから。


「無事やっただけで奇跡やのう。だが、ハーデースかい。更にやっかいやな」


 紫電のその言葉には、明らかに絶望が混じっていた。

それだけ危険な相手らしい。

あの、龍王さえも協力させるほどであるから、当たり前ではあった。しかし、いざその名前を目の当たりにすると、それは絶望以外の何ものでもなかったようである。


「紫電、どんな相手でも勝たねばなりません。向こうは実験の日取りを、1ヶ月以上も前倒しにしてきたのです。思った以上に準備が早く終わったのでしょう。年が明ける前に、巨大実験が実施されます。私の配下の龍達の情報ですから、間違いないです」


 ネーヴァの言葉に、紫電が驚きテーブルを叩きながら声を張り上げた。


「アホな! まだこっちの準備が!」


「そうですね。亮蔵さん。神龍復活の儀は、あとどれくらいで準備が終わりますか?」


 紫電の言葉の後、ネーヴァがゆっくりと落ち着いて、亮蔵に現在の状況を確認している。


「後、1ヶ月以上はかかる」


「ギリギリですね。巨大実験が開始される前に、復活の儀をやってしまいたかったのですが……間に合わないかも知れませんね」


 ネーヴァの言葉の後、部屋の空気は重苦しくなっていた。

しかし、それを花凛のたった一言で重苦しい空気を変えた。


「やってみなくちゃ分からないわよ。絶望して作業が遅くなるより、希望を持って作業したほうが、早く終わるかも知れないじゃん。絶望していても、敵は待ってはくれないよ!」


 その言葉は正論過ぎて、絶望した皆を正常に戻すには十分であった。

しかし花凛は知らない。ハーデースの脅威を。

そしてそれは、ネブラやネーヴァ達も知る由が無かった。


 彼の思惑は、色んなな人達が考えている、その一歩先をいっている。

それが後に、絶望となり花凛達にのしかかってくる。


 だが今は希望を信じて、花凛達は各々のやるべき事を再確認していた。

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