第十二話 決戦へ向けて
花凛が目を覚ました時、既に神楽家に帰りついていた。
日が沈み始めており、夕焼けが神楽家の庭を幻想的に彩っていた。
「ん……ごめんなさい。寝ちゃってた」
「いや、しょうがないさ。あれだけの事があったんだからな。ただな、これからはあんまり、1人で抱え込むなよ?」
「ん、分かった」
神田にお姫様抱っこされながら車を降り、そのまま神楽家の門をくぐる。すると、3つの人影が花凛に走り寄ってくる。
「花凛! 大丈夫?!」
「大丈夫でしたか? 花凛さん。墓地が凄いことになっていると、ニュースでやっていたので心配していました」
「でも、無事そうで何より」
そう、今や花凛の親友である夏穂、美穂、志穂である。
そして、神田の後ろを別の車で着いてきていた、亮の家族の姿もあった。
もちろん、3人とは初対面の為軽く自己紹介をする。
花凛が男だったことは伏せて。親戚ということにしておいた。
「こらからも花凛をよろしくお願いしますね」
亮の母親は丁寧にその一言だけを言う。それ以上の言葉は要らなかった。
花凛のそばで、花凛を心配そうに見ている姿を見れば、仲良くしてくれているのは一目瞭然であった。
するとそこに、3人の父親である神楽亮蔵がやってくる。
その面持ちは、至って普通ではあるが厳格なその顔は、少し疲れて見えていた。
「花凛さん、大丈夫でしたか。3人がいたく不安がっており、驚きましたよ。3人を、特別扱いせずに友人として居てくれている証拠ですな。しかし、自身の事を蔑ろにするとはまだまだですな」
亮蔵は、花凛に向かい少し厳し目の言葉を投げかける。
しかし、それは事実その通りであった。
「はい、すいませんでした」
花凛は、ただ申し訳なく思い暗い表情になっていた。
そして、神田に降ろしてくれるように頼み、降ろして貰うと頭を下げた。
「3人の護衛を怠り、申し訳ありませんでした」
「花凛……」
夏穂が止めようとするが、それを亮蔵が片手を夏穂の前に出して制した。
「何事も、節度は必要だ。怠った事に謝罪をする。それは、誠に良い心掛けだ。そなたは、龍にしては殊勝な心掛けをしている。これからも、3人をよろしく頼む」
「はい、分かりました」
花凛は、その間ずっと頭を下げていた。
「よし、花凛。とりあえず着がえるぞ。そのままでは風邪ひくだろ?」
横にいた神田が、花凛の肩を叩きそう促す。
そして、再びお姫様抱っこをしてくる。
「ちょっ……賢治さん。もう自分で歩けるから」
「い~や。足元がふらついている、部屋まで運んでやる」
するとそこに美沙が走り寄って来て、耳打ちをしてくる。
「じゃぁ、私達はこれで帰るね。もう大丈夫そうだしね。後さ私達にも、もっと相談してよね? 特に、恋愛相談とかは大歓迎だからね」
そんな美沙の言葉を受けて、花凛は耳まで真っ赤になっていた。
そして、手を振りながら家族と一緒に美沙は帰っていく。
「さ、花凛。私達の服で良ければだけど、着がえ用意するね」
「夏穂、あなたのじゃぁ。胸がちょっと」
「そっちは関係ないでしょうが、美穂!」
美穂なからかわれながら、夏穂は美穂を追いかけていく。
その後に続いて志穂も家に向かい、花凛も神田にお姫様抱っこされながら家に入っていく。
着がえが終わった花凛は、夏穂、美穂、志穂そして神田と一緒に、ある部屋に向かう。
そこは、初めてこの家に来たときに、亮蔵と話をした部屋であった。
因みに、着がえは数十分程かかっていた。
主に、夏穂、美穂、志穂のいたずらを受けながらだったので、時間がかかっていた。
「もう、少しは考えてよね。夏穂」
花凛は、夏穂にそう文句を言っている。
どうやら、いたずらは全て夏穂から仕掛けているようである。
「まぁまぁ、良いじゃない。お父様からは、準備に時間がかかるからゆっくりしろって言われたからさ。久々にいじくり倒したかったんだよね~」
「あなた達の護衛を始めてから、ずっとじゃない」
花凛は夏穂に対してそう言い返した。
しかし、夏穂は反省する色を見せておらず、今後も色々いじくり回されるなと、花凛は半ば諦めていた。
「それにしても、花凛さんから反撃されるとは思わなかったですね」
「やられっぱなしじゃ癪なので」
美穂の言葉に、花凛が強気な態度で返している。
それは、いつもの花凛の様子とは違っていた為、3人は少し戸惑ってはいる。
それでも3人は花凛を信じていた。きっと花凛の闇は消えたのでは無く抑え込んでいるんだ、闇を受け入れた花凛の行動を信じて、そして暴走しないように自分達がずっと味方でいてあげよう。そう、決心していた。
「あんまり調子乗っていると、その反撃が怖いよ~花凛~」
「ふふん、かかってきなさいよ」
夏穂の脅しにも屈していない様子の花凛は、呼び出された部屋のふすまを開ける。
「よう、元気そうやないか」
するとそこには、ネブラと紫電そしてアシエの姿があり、アシエの横にネーヴァも座っていた。
神田も、ネブラの横に座っていて花凛達の到着を待っていた。
「皆! 良かった、たいした怪我も無さそうだね。でも、何でそんなにやつれているの?」
そう、紫電とアシエは少しやつれた顔をしていたのだ。
「ふ、ふふ。そりゃぁ、もうアシエちゃん達は一晩中、全国にあるNECの工場破壊のお手伝い為に、全国を飛び回っていましたから」
「言ったやろアシエ。ネブラさんの配下の俺達は、こんな、事は。日常茶飯事、やで……グゥ」
「寝るな」
そう言ってネブラが紫電の口元を怪しい霧で覆う。すると、紫電は途端に苦しみだす。
「あ、あかんてネブラさ……それ、永眠す……」
「ならば、起きとけ。これから重要な話をするんだ」
花凛は、心底3人の護衛をしておいて良かったと、そう感じていた。
そんな花凛をネブラは見ている。そして、何かに気づいた様な表情をしていた。
「花凛、闇に飲まれなかったのは良いが。それで良いのか?」
ネブラに言われ、花凛は強く頷く。そこに迷いはなかった。
それが、花凛の出した答えだからだ。
「誰にだって、闇はあるわ。だから私は、この負の感情も自分の一部として受け入れる。私は、どんな事でも受け入れる。そして、乗り越えて見せる」
「なら良い」
ネブラは、花凛のその言葉に二言は無いと感じ、それ以上は追求しなかった。
「花凛、お前はどんどん強よなってくな。感心するで」
「アシエも負けてられないです」
紫電とアシエが花凛の決意を聞き、負けていられないと言った表情を見せていた。
やはり、2人共龍としてのプライドがあるのだろう。
最大の戦いを前にして、2人も決意を新たにしていた。
するとその後、ネーヴァが現状把握の為に話を切り出した。
「さて、皆さん。現状なのですが。鬼化現象は未だ収まっていません。薬はもう出回らないとは思いますが、どうやらタルタロスの穴が広がってしまったようです。その証拠に、ネブラ達がとんでもない人物と出会っていますからね」
その後、花凛と神田はネブラ達が研究所での戦いの事を話し始めた。
最後に、朽木と呂布に逃げられた事も。
「朽木……」
その話を聞いた神田が、拳を握り締めて怒りを露わにしていた。
しかし、その隣に居た花凛が神田の手を握る。
その瞬間神田は目を見開き、そしてため息をついた。
「すまん、花凛……俺は何も変わってないな」
「ううん、そんな事はないよ賢治さん。やっぱりさ、決着付けないとね」
花凛は、そう言って神田に微笑んだ。
その姿に皆がほほえましいと感じ、暖かい目で見ていた。
「さて、事態はそれだけではないのですよ。どうやらサディアス。いえ、その前に。花凛は、この男の正体を知ったのでしたよね?」
ネーヴァの言葉に、花凛は頷いた。
「うん、サディアスの正体。それは、冥界の主ハーデースだったわ。ただ、龍王から聞いた情報だからほんとかどうかは知らないけどね」
花凛のその言葉に紫電やアシエ、ネブラやネーヴァも驚いていた。
「あったのですか?! 彼に?」
あの大人しくのんびりしたネーヴァが、声を荒げていた。
それもそのはず、倒すべき2人の総大将の1人と相対し、戦ったと言うのだから。
「無事やっただけで奇跡やのう。だが、ハーデースかい。更にやっかいやな」
紫電のその言葉には、明らかに絶望が混じっていた。
それだけ危険な相手らしい。
あの、龍王さえも協力させるほどであるから、当たり前ではあった。しかし、いざその名前を目の当たりにすると、それは絶望以外の何ものでもなかったようである。
「紫電、どんな相手でも勝たねばなりません。向こうは実験の日取りを、1ヶ月以上も前倒しにしてきたのです。思った以上に準備が早く終わったのでしょう。年が明ける前に、巨大実験が実施されます。私の配下の龍達の情報ですから、間違いないです」
ネーヴァの言葉に、紫電が驚きテーブルを叩きながら声を張り上げた。
「アホな! まだこっちの準備が!」
「そうですね。亮蔵さん。神龍復活の儀は、あとどれくらいで準備が終わりますか?」
紫電の言葉の後、ネーヴァがゆっくりと落ち着いて、亮蔵に現在の状況を確認している。
「後、1ヶ月以上はかかる」
「ギリギリですね。巨大実験が開始される前に、復活の儀をやってしまいたかったのですが……間に合わないかも知れませんね」
ネーヴァの言葉の後、部屋の空気は重苦しくなっていた。
しかし、それを花凛のたった一言で重苦しい空気を変えた。
「やってみなくちゃ分からないわよ。絶望して作業が遅くなるより、希望を持って作業したほうが、早く終わるかも知れないじゃん。絶望していても、敵は待ってはくれないよ!」
その言葉は正論過ぎて、絶望した皆を正常に戻すには十分であった。
しかし花凛は知らない。ハーデースの脅威を。
そしてそれは、ネブラやネーヴァ達も知る由が無かった。
彼の思惑は、色んなな人達が考えている、その一歩先をいっている。
それが後に、絶望となり花凛達にのしかかってくる。
だが今は希望を信じて、花凛達は各々のやるべき事を再確認していた。




