第十一話 強い想い
寺のお堂は既に跡形も無くなっている。
それ程、激しい戦闘が繰り広げられていた。
フェールは、この展開を予想していなかったのだろう。
まさか花凛が、自分と対等に戦えるレベルとは思っていなかったのだ。
しかしそれでも、フェールは本気を出してはいなかった。
片手で楽々と花凛の攻撃を受け止め、弾き返している。
だが、花凛もまたフェールの攻撃を受け止め弾き返していた。
お互いに死角をついても防がれる。そんな攻防が、もう30分近くも繰り広げられていた。
「ふん。なるほどな。これは、今のうちに消さねば脅威となるか」
フェールは、花凛の攻撃を剣で防ぎながらそう言ってくる。
そして、闇のオーラで作った刃で花凛に攻撃を放つ。
「あなた達のやっていることを止めるまで、私はもう止まらないわよ!」
花凛は、その刃を避けると次に自分の偃月刀から炎の刃を、フェールに向けて放つ。
もちろん、闇のオーラを表面に纏わせたものを。
「ふん。だが、相手が相手だ。貴様の行動は止められる」
それを、フェールは再び剣で軽々と受け止める。
そして、巻き散った炎を剣で薙ぎ払い、花凛に近づいていく。
「これだけの力があるのなら、やはり俺と手を組まんか? サディアスを倒す間だけでも構わん」
「お断りだって言ってるでしょう!」
花凛は、近づいてくるフェールに向け、偃月刀を突きつけて言い放つ。
その目には、もう何も迷いはなかった。
「残念な事だ。なら、今ここで散れ。墓なら沢山あるから遠慮するな」
そう言うとフェールは剣を構え、構えた腕を後ろにやると、その剣から更に巨大な闇のオーラが現れ刃となっていく。
そして、瞬時に剣を前方に斬り上げるように振り抜く。
その刃は、地面を抉りながら花凛に向かっていく。
「それも、お断り!!」
花凛も、負けじと巨大な炎を刃から作り出すと、目の前の巨大な刃に向かってそれをぶつける。
「はぁぁぁああ!!」
そして、激しい爆発と衝撃が辺りに響いた……。
「……っ、くそ。気絶していたか」
爆発の衝撃により、神田が目を覚ます。
とても、人様には見せられない様な格好で、頭を地面に向けてひっくり返っていた。
「情けないな。これでは、俺が完全に足手まといじゃないか。そうだ、花凛!」
神田は、急いで戦塵が立ち上る場所に走って行く。
例え足手まといだろうと、花凛を守る為にと奮い立っていた。
「なっ、これは?!」
だが、神田が見たのは衝撃的な光景であった。
寺のお堂のあった場所に、巨大なクレーターの様な大穴が出来ていたからだ。
そして、その大穴の前で花凛が裸で横たわっていた。
どうやら、先程の攻撃は最大限の力を込めたものだったのだろう。
「花凛! 大丈夫か?!」
神田は慌てて花凛の元へと駆け寄り、花凛の状態を確認している。
どうやら、気絶しているだけのようであり、神田はひとまず胸を撫で下ろす。
「そうだ、奴は?」
神田は、フェールの姿が見えない事に焦り辺りを警戒する。
また不意打ちをくらうわけにはいかないと、気を引き締めている。
すると、大穴の向こうからフェールの姿が見えてくる。
「やはり、立っているか……くそ!」
相手が本気を出していないとは言え、花凛でようやく相手が出来るレベル。神田が敵う見込みはどこにもなかった。
しかし、フェールは襲ってくる気配は無かった。
その理由は、フェールの姿が全て見えた時に判明する。
「ちっ、まさかこの俺がな……」
なんと、フェールの左腕が吹き飛んでいたのだ。
花凛の攻撃は、フェールの刃を凌駕し彼に襲いかかったのだ。
咄嗟に、両腕でガードしたフェールだが、その威力の前にかなりのダメージを負ったようである。
だが、フェールの表情に変化が無いところを見ると、これくらいでは致命傷にはならないようである。
「はぁ、そいつを甘く見ていたな。やむを得ん、今回は退かせてもらうとしよう。この状態の俺を、厄介な奴に嗅ぎつけられる前にな」
そう言うと、フェールは振り返り捨て台詞も無しに、後方の闇の中へと消えて行った。
「助かった……のか。ふぅ」
さすがの神田も、かなり緊張をしていたのだろう、今は緊張の糸が切れたかの様な表情をしている。
そして、花凛を抱きかかえるとその顔をのぞき込む。
その顔は何とも可愛らしく、とてもその身に闇の力を持っているとは思えないくらいである。
「ふっ。やはり花凛、お前はこうじゃないとな」
どんなものでも立ち向かう。そんな、花凛が当たり前だと思っていた。
「お前がどんな闇を背負っていようとも、俺は絶対に見捨てたりしないからな。花凛」
神田はじっと花凛を見つめる。だが、その目は我が子を見つめる目では無く、愛しき者を見つめる目であった。
すると、花凛が意識を取り戻した。
「んっ……んぅ……あれ?」
花凛は、まだ意識が朦朧としているのか、事態が把握出来ていない。
「あれ? け、賢治さん。無事だったの? あっ、そうだ! あいつは?!」
花凛は、慌てて状況を確認してくる。
すると、神田が花凛に笑顔を向けてくる。
「大丈夫だ、奴は去った。何とか、危機は回避したぞ」
「よ、良かった……って良くない! 何で、私は裸で賢治さんに抱っこされてるの?!」
花凛が安堵したのもつかの間、今の自分の状況を見て一気に赤面していた。
「そりゃ、裸で倒れていたらこうするだろ?」
「そ、そうじゃなくて。別におんぶでも……」
「そうか、その胸を俺の背中に押し付けてくれるのか。さすがに、そんな事をされたら我慢できんかもな」
「抱っこでお願いします」
神田もそこそこのダメージを負っているはずだが、飄々と花凛に冗談を飛ばしている。
だが、神田も今回の事で思うところがあるみたいである。
「さて、あの3人も心配しているだろうからな、帰るぞ」
そう言って、近くにあった自分のスーツを花凛に着せると、寺を後にする。
既に日は傾き始めており、人気は少なかった。
それでもこの惨状は、相当なものであり。近くの住人達が少しずつ集まってきていた。
「俺の部下達が、野次馬を防いでくれていて助かったな」
「えっ? でも、賢治さんは今は謹慎でしょ?」
花凛が、不思議そうに神田を見つめている。
「俺の部下達の中にもな、NECを不審に思っている奴らも居る。だが、今の警視総監のせいでろくに動けずに居るらしい。そこで、こっそりと俺に協力してくれているのさ。こうやって野次馬が来ないようにしてくれたりな」
すると、神田の前に1台の車が止まる。
そして、中から若い男性が降りてくる。
「ん? お前か。良いところに来てくれた」
「本当ですよ、神田さん。そのまま、帰ろうとしたら野次馬やマスコミにたかられますよ」
どうやら、この若い男性は神田の部下の様である。
花凛は、2人の会話からそう推理した。
「その子が例の?」
その男性は、花凛に目をやるとそう言ってくる。
「あぁ、そうだ。あんまり見るなよ。見て良いのは俺だけだ」
「賢治さんでもダメ」
あまりにストレートな物言いに、花凛は慌てて注意する。
これから戦いが激化するかも知れないのに、こんな事で良いのかと花凛不安に思っていたが、神田の逞しい腕に抱かれていると、何故だか安心してくる自分がいる。
戦いの前や後には、こういう事も必要なのだろうと花凛は思い直していた。
そして、神田の部下の車に乗り込み、花凛の帰りを待ち侘びているであろう巫女の3人の家へと走らせる。
もちろん、その車中で花凛は可愛い寝息を立て始める。
それは、車中でも神田にお姫様抱っこされたままだったからだろう。
「俺が、守ってやれる様にならないとな」
その寝顔を見て、神田は真剣な顔をしていた。
2度も大切な者を失いたくない。神田は、ただその想いの中この戦いに挑んでいく決意をする。




