第十話 力の器
花凛と神田の足元に倒れ込んでいるフェールは、別段怒りを覚えている様でも無かった。
ただ、意外な事態に少しは戸惑っている様である。
そして、地面にめり込みながらも不気味な笑い声を響かせる。
「フフフフ。ハハハハハ!!」
すると、再び激しい爆発の様な衝撃が発生し、辺り一面に強風が吹き荒れ、土煙が舞い散る。
つまり、花凛達は再びフェールの姿を見失う。
「くっ、こんな手ばっかり……うぐっ?!」
花凛が、土埃が目に入らないように、腕を前にしていると。突然横腹に衝撃が走る。
どうやら視界を奪った後、フェールが花凛の横腹に蹴りを入れた様だ。
「戦闘の基本は、相手の視界から消える事。これは試合ではないぞ」
フェールはそう言うと、花凛を思い切り蹴り飛ばす。
「あっ……ぐぁ!!」
二転三転地面を転がり、今度は寺の壁に激突する。
幸いにこの墓地は、既に住職が亡くなり、墓の所有者のみで管理しているだけであったので、基本的に人は居ないのである。
そして、花凛は反撃しようと起き上がり、偃月刀の刃に炎を纏わす。
だが、その炎はいつもとは違っており表面に黒いオーラを纏っていた。
「大丈夫、私はもう大丈夫。飲み込まれたりしない」
花凛は、そう呟きフェールを睨みつける。
フェールはたった今、神田を花凛とは反対の方向へと蹴り飛ばした所であった。
そんなフェールの姿を花凛が捉えた瞬間。一瞬でその姿を見失う。
「はっ!」
だが、花凛は咄嗟に横に飛び退く。
すると、ちょうどその位置に、フェールが手に持った剣を振り下ろしてくる。
「ほぅ、なるほど。冥界龍としての自らを受け入れた為、龍としての力も跳ね上がっているのか。だが!」
そう言うと、フェールは振り下ろしていた剣を、そのまま花凛目がけて切り上げてくる。
「ぐっ……!」
花凛は、受け止めると反撃出来ないと判断したのか、武器で受け止めるのではなく、今度は後ろに跳んで回避すら。
だが、どうやら花凛は気づいていたのだろう。
花凛の後ろから、神田が突撃してくるのを。
「花凛! 頼む!」
「任せて!」
神田にそう言われ、花凛は偃月刀を下にさげる。すると、その柄の部分に神田が跳び乗って来る。
「はぁっ!」
そして花凛は、偃月刀を踏み台にさせて神田を上へと放り投げた。
だが、フェールは跳び上がった神田を見上げず、花凛をずっと見ている。
「くそっ、俺に見向きもしないとはな。避ける事も無いという事か、ふざけるなよ」
神田は、フェールの上からそう言うと、気を纏った拳で下にいるフェール目がけて、上から叩きつける様に殴りかかった。
だが、フェールは一切微動だにせずに神田の攻撃を避け、カウンターで神田の顔面に裏拳を叩き込む。
そして、神田は空中できりもみしながら、寺の外に吹き飛ばされた。
「賢治さん!」
「ふん、龍の力に目覚めたばかりの新参者が図に乗るからだ」
確かに、神田は未だに龍の力を使いこなせていなかった。
そうなると、神田には少し荷が重すぎた様である。
とにかく龍として覚醒している為、あれくらいで死ぬことは無いだろうが、しばらくは立ち上がれ無いだろうと感じた花凛は、ゆっくりと深呼吸をしフェールを再度睨みつける。
「いい目だな、闇に染まったわけではない闇に屈しないという目。だがな、それが何時しか叶わないものだと知り、闇に染まるのさ」
「そんな事にはならない、なってたまるか。私を信じてくれている人達の為にも、私はもう2度と闇には屈しない!」
花凛は、決意のある目をフェールに向けてそう叫ぶ。
そして、偃月刀をフェールに向けてその刃に纏う炎の塊を、フェールにぶつける。
だが、フェールは逆にその炎を自らの刀に纏わせる。
「おいおい、この程度か? お前の力の器は、もっとデカいだろう?」
そして、その剣に纏わせた炎が全て黒く変化すると、刀を振り下ろす。
「わっ?!」
すると、巨大な黒い炎の刃が伸びてきて、寺のお堂を真っ二つに斬り裂いたのだ。
たった一振り。フェールはそれだけで、全ての物を壊せる程の力を持っていた。
「もう、後で弁償するのは誰だと思ってる……の!」
花凛は、怖じ気づく事なくフェールに文句を言いながら、偃月刀を横に薙ぎ払った。
しかし、これはもちろんフェールの剣で軽々と受け止められる。
だが、花凛は諦めてはいなかった。
「まだまだ!!」
花凛はそう叫ぶと、刃先に再び炎を纏わせる。
そして、偃月刀全体にその炎を纏わせていく。
「ほぉ……なかなか使いこなしているな」
フェールが感心する中。花凛は、力を込めて偃月刀を押し出す様にし、フェールを偃月刀ごと突き飛ばそうとする。
足に力を入れ、全身に力を入れ出し惜しみする事なく、ただ相手を倒すことだけに集中をしている。
すると、徐々にその炎が大きくなり黒いオーラも纏い、フェールを押し倒そうとするかのように、その炎の勢いが上がっていく。
「むっ? バカな? この俺が?」
フェールが一瞬、その気迫に押され驚いた表情を見せた、その瞬間を花凛は見逃さなかった。
「はぁぁぁああ!! 煉獄の焔!!」
花凛はそう叫ぶと、偃月刀を突き放す。
すると、偃月刀はその姿を保ったまま炎の塊となり、フェールを吹き飛ばしていく。その力は、いつもの技とは違い数倍、いや数十倍の威力を持っていた。
「ぬっ、ぐぅぉぉお!!」
花凛の思いがけない攻撃に、フェールは押し出される様になる。
だが、フェールは必死に剣でその攻撃を消し飛ばそうと対抗する。
だが、徐々に押し出され遂にはお堂の外へ、そして上空へと吹き飛ばれていく。
その後、空高く上っていき見えなくなっていく。
だが、花凛は油断する事なく新たに炎を出現させ、そこから再び偃月刀を取り出すと、自分の後ろに斬りつける。
すると、何とそこには先程吹き飛ばしたはずのフェールが、花凛に向けて剣を振り下ろそうとしていた。
「ちっ!」
フェールは咄嗟に攻撃を止め、花凛の攻撃を受け止めた。
「勘がいいじゃないか」
「あれくらいでやられるなんて、思ってないわよ。そして、あなたが本気じゃないということもね」
花凛のその言葉に、フェールは目を見開き驚いていた。
まさか、闇の力に気づき取り込んだ直後に、ここまでその力を使える様になるなど、フェールは思ってもいなかったようである。
「クク、やはりお前の冥界龍の力は、俺にも劣らないくらいに強力だな。戯れに子孫を残してみたが、中々の傑作が出来るとな」
フェールのその言葉に、花凛はフェールの剣を薙ぎ払った後に、フェールに問いただす。
「戯れって……あなたにとって、昔の駆け落ちはその程度のものだったの?!」
「そうだ」
花凛は、そのフェールの言葉に再び怒りを覚えていた。
こんな奴が先祖だなんて認めたくない。そんな想いもあるからか、フェールの言葉に対して、花凛は毎回怒りを感じていた。
「人は、毎回言ってる事や態度が変わって面白いんだ。俺が人間界でのんびりしていた時に、たまたま俺に好意を持った女が居ただけだ。暇つぶしのおもちゃとして、ずいぶんと楽しませてもらったさ」
花凛は、偃月刀を握りしめている手が、自分でも分かるくらいに力が入っている事に気づく。
花凛は、息を吐き出して怒りに囚われないようにしていた。
それがフェールの挑発ならば、乗るわけにもいかなかったのである。
「あなたは、やっぱり許せないわね」
「だが、倒すことは出来ない。その力が許せない奴への力に届かなければ、その言葉も無意味だ」
だが、花凛はもうフェールの言葉には負けなかった。
そして、しっかりと偃月刀を携え、フェールと向き合った。




