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煉獄の焔  作者: yukke
第九章 邪悪との邂逅
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第十話 力の器

 花凛と神田の足元に倒れ込んでいるフェールは、別段怒りを覚えている様でも無かった。


 ただ、意外な事態に少しは戸惑っている様である。

そして、地面にめり込みながらも不気味な笑い声を響かせる。


「フフフフ。ハハハハハ!!」


 すると、再び激しい爆発の様な衝撃が発生し、辺り一面に強風が吹き荒れ、土煙が舞い散る。

つまり、花凛達は再びフェールの姿を見失う。


「くっ、こんな手ばっかり……うぐっ?!」


 花凛が、土埃が目に入らないように、腕を前にしていると。突然横腹に衝撃が走る。


 どうやら視界を奪った後、フェールが花凛の横腹に蹴りを入れた様だ。


「戦闘の基本は、相手の視界から消える事。これは試合ではないぞ」


 フェールはそう言うと、花凛を思い切り蹴り飛ばす。


「あっ……ぐぁ!!」


 二転三転地面を転がり、今度は寺の壁に激突する。

幸いにこの墓地は、既に住職が亡くなり、墓の所有者のみで管理しているだけであったので、基本的に人は居ないのである。


 そして、花凛は反撃しようと起き上がり、偃月刀の刃に炎を纏わす。

だが、その炎はいつもとは違っており表面に黒いオーラを纏っていた。


「大丈夫、私はもう大丈夫。飲み込まれたりしない」


 花凛は、そう呟きフェールを睨みつける。

フェールはたった今、神田を花凛とは反対の方向へと蹴り飛ばした所であった。


 そんなフェールの姿を花凛が捉えた瞬間。一瞬でその姿を見失う。


「はっ!」


 だが、花凛は咄嗟に横に飛び退く。

すると、ちょうどその位置に、フェールが手に持った剣を振り下ろしてくる。


「ほぅ、なるほど。冥界龍としての自らを受け入れた為、龍としての力も跳ね上がっているのか。だが!」


 そう言うと、フェールは振り下ろしていた剣を、そのまま花凛目がけて切り上げてくる。


「ぐっ……!」


 花凛は、受け止めると反撃出来ないと判断したのか、武器で受け止めるのではなく、今度は後ろに跳んで回避すら。

だが、どうやら花凛は気づいていたのだろう。

花凛の後ろから、神田が突撃してくるのを。


「花凛! 頼む!」


「任せて!」


 神田にそう言われ、花凛は偃月刀を下にさげる。すると、その柄の部分に神田が跳び乗って来る。


「はぁっ!」


 そして花凛は、偃月刀を踏み台にさせて神田を上へと放り投げた。

だが、フェールは跳び上がった神田を見上げず、花凛をずっと見ている。


「くそっ、俺に見向きもしないとはな。避ける事も無いという事か、ふざけるなよ」


 神田は、フェールの上からそう言うと、気を纏った拳で下にいるフェール目がけて、上から叩きつける様に殴りかかった。


 だが、フェールは一切微動だにせずに神田の攻撃を避け、カウンターで神田の顔面に裏拳を叩き込む。

そして、神田は空中できりもみしながら、寺の外に吹き飛ばされた。


「賢治さん!」


「ふん、龍の力に目覚めたばかりの新参者が図に乗るからだ」


 確かに、神田は未だに龍の力を使いこなせていなかった。

そうなると、神田には少し荷が重すぎた様である。


 とにかく龍として覚醒している為、あれくらいで死ぬことは無いだろうが、しばらくは立ち上がれ無いだろうと感じた花凛は、ゆっくりと深呼吸をしフェールを再度睨みつける。


「いい目だな、闇に染まったわけではない闇に屈しないという目。だがな、それが何時しか叶わないものだと知り、闇に染まるのさ」


「そんな事にはならない、なってたまるか。私を信じてくれている人達の為にも、私はもう2度と闇には屈しない!」


 花凛は、決意のある目をフェールに向けてそう叫ぶ。

そして、偃月刀をフェールに向けてその刃に纏う炎の塊を、フェールにぶつける。

だが、フェールは逆にその炎を自らの刀に纏わせる。


「おいおい、この程度か? お前の力の器は、もっとデカいだろう?」


 そして、その剣に纏わせた炎が全て黒く変化すると、刀を振り下ろす。


「わっ?!」


 すると、巨大な黒い炎の刃が伸びてきて、寺のお堂を真っ二つに斬り裂いたのだ。

たった一振り。フェールはそれだけで、全ての物を壊せる程の力を持っていた。


「もう、後で弁償するのは誰だと思ってる……の!」


 花凛は、怖じ気づく事なくフェールに文句を言いながら、偃月刀を横に薙ぎ払った。


 しかし、これはもちろんフェールの剣で軽々と受け止められる。

だが、花凛は諦めてはいなかった。


「まだまだ!!」


 花凛はそう叫ぶと、刃先に再び炎を纏わせる。

そして、偃月刀全体にその炎を纏わせていく。


「ほぉ……なかなか使いこなしているな」


 フェールが感心する中。花凛は、力を込めて偃月刀を押し出す様にし、フェールを偃月刀ごと突き飛ばそうとする。

足に力を入れ、全身に力を入れ出し惜しみする事なく、ただ相手を倒すことだけに集中をしている。


 すると、徐々にその炎が大きくなり黒いオーラも纏い、フェールを押し倒そうとするかのように、その炎の勢いが上がっていく。


「むっ? バカな? この俺が?」


 フェールが一瞬、その気迫に押され驚いた表情を見せた、その瞬間を花凛は見逃さなかった。


「はぁぁぁああ!! 煉獄の焔!!」


 花凛はそう叫ぶと、偃月刀を突き放す。

すると、偃月刀はその姿を保ったまま炎の塊となり、フェールを吹き飛ばしていく。その力は、いつもの技とは違い数倍、いや数十倍の威力を持っていた。


「ぬっ、ぐぅぉぉお!!」


 花凛の思いがけない攻撃に、フェールは押し出される様になる。

だが、フェールは必死に剣でその攻撃を消し飛ばそうと対抗する。

だが、徐々に押し出され遂にはお堂の外へ、そして上空へと吹き飛ばれていく。


 その後、空高く上っていき見えなくなっていく。

だが、花凛は油断する事なく新たに炎を出現させ、そこから再び偃月刀を取り出すと、自分の後ろに斬りつける。


 すると、何とそこには先程吹き飛ばしたはずのフェールが、花凛に向けて剣を振り下ろそうとしていた。


「ちっ!」


 フェールは咄嗟に攻撃を止め、花凛の攻撃を受け止めた。


「勘がいいじゃないか」


「あれくらいでやられるなんて、思ってないわよ。そして、あなたが本気じゃないということもね」


 花凛のその言葉に、フェールは目を見開き驚いていた。

まさか、闇の力に気づき取り込んだ直後に、ここまでその力を使える様になるなど、フェールは思ってもいなかったようである。


「クク、やはりお前の冥界龍の力は、俺にも劣らないくらいに強力だな。戯れに子孫を残してみたが、中々の傑作が出来るとな」


 フェールのその言葉に、花凛はフェールの剣を薙ぎ払った後に、フェールに問いただす。


「戯れって……あなたにとって、昔の駆け落ちはその程度のものだったの?!」


「そうだ」


 花凛は、そのフェールの言葉に再び怒りを覚えていた。

こんな奴が先祖だなんて認めたくない。そんな想いもあるからか、フェールの言葉に対して、花凛は毎回怒りを感じていた。


「人は、毎回言ってる事や態度が変わって面白いんだ。俺が人間界でのんびりしていた時に、たまたま俺に好意を持った女が居ただけだ。暇つぶしのおもちゃとして、ずいぶんと楽しませてもらったさ」


 花凛は、偃月刀を握りしめている手が、自分でも分かるくらいに力が入っている事に気づく。

花凛は、息を吐き出して怒りに囚われないようにしていた。

それがフェールの挑発ならば、乗るわけにもいかなかったのである。


「あなたは、やっぱり許せないわね」


「だが、倒すことは出来ない。その力が許せない奴への力に届かなければ、その言葉も無意味だ」


 だが、花凛はもうフェールの言葉には負けなかった。

そして、しっかりと偃月刀を携え、フェールと向き合った。

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