第八話 龍王の目的
同じ、冥界龍と名乗った男はゆっくりと花凛達に近づく。
そして、近くの墓石にドカリと腰掛けた。この男はバチなど気にしないのか。いや、自らが冥界に通じている為、霊など自在に操れるのだろう。
「そうだな、先ずは自己紹介か? 俺は、龍王をやっている冥界龍 フェールと言う。宜しくな」
思いの外礼儀正しいこの男。だが、その目は相変わらず冷酷であり、全ての生物が竦んでしまうほどである。
それでも、花凛は武器を仕舞わずに戦闘モードのまま、フェールに話しかける。
「龍王をやっている? やっぱり、龍王と言う龍の種類は居ないんだね」
「当たり前だ、龍王とは称号の様な物だ。あの、煉獄王をやっている者も、煉獄龍だろう? それと同じだ」
フェールは、口角を上げニタリと笑う。
その顔は、好印象を与えようと言う意志など少しも見当たらなかった。
このフェールと言う龍は、目つきは冷酷で鋭いが、目鼻立ちはハッキリしている為、イケメンと言われてもおかしくはないレベルであった。
ホストクラブのNO,1をやっていそうな、プライドが高く自信家な雰囲気も相まってか、花凛達の警戒度は徐々に上がっていく。
「あなたが、ここに来た目的は何?」
花凛は、その手に偃月刀を出現させフェールに向ける。
しかし、もちろんフェールは微動だにせずに花凛を見ている。
「まぁ、武器を仕舞え。今日は戦いに来たわけでは無い。確認に来ただけだ」
そう言うと、フェールは花凛の武器を、右手の人差し指と親指で摘まみ横に動かす。
すると、花凛は抵抗出来ずにされるがままに武器を横に動かしてしまう。
これにより、花凛とフェールの力の差がはっきりしてしまいそうであった。
「くっ! 信用出来ないわよ! そんな言葉」
花凛は、必死に武器を戻そうと力を込めるが、一向に武器を動かすことが出来なかった。
すると、神田が花凛の前に出て来て、花凛の前に花凛を制する様に手を横に伸ばしてくる。
「まぁ、待て花凛。向こうに戦闘の意思がないなら、話だけでも聞いておくべきだぞ。交渉の余地はあるかも知れんだろ? 後、こいつの目的も聞けるだろうしな」
「ほぅ、話が分かる奴が1人くらいは居るようだな」
そう言って、フェールは神田に顔を向ける。
そして、同時に彼は手前にある墓石を指さして、神田に座るように促す。
もちろん、神田は断る。さすがに、日本人としてその行為をするわけにはいかなった。
「話なら、このまま聞く。話せ」
「まぁ、良いだろう。そうだな、まず俺の目的から話そうか」
そう言って、フェールはゆっくりと話し始める。
「まず俺はな。人類の滅亡を狙ってはいない」
フェールが、はっきりと言い切ったその言葉に何処までの真意が分からないが、現状を見る限りそれが信用に足る言葉とは思えないものであった。花凛達はそう考えたのだろう、全員眉をひそめてフェールを見ている。
「ふっ、信じる信じないは好きにしろ。とにかく、俺の目的はタルタロスの中にある、封じられた力のみだ。それ以外に興味はない」
フェールは、右腕を直角に曲げ拳を作り、その発言に力を入れている。
今行っている事は長年求めていた願い、それを叶える為にやっている事だと。
フェールの言葉から、そう読み取れた。
「ふざけないで、あなたのその身勝手な目的の為に、どれだけの人達が犠牲になったと思っているの?」
神田の後ろで武器を持ち、いつでも襲えるようにと目を光らせている花凛が、フェールの言葉に苛立ちを隠せない様子でフェールを問い詰める。
「は、花凛。あんまり挑発しない方が……」
逃げるタイミングを見失った亮の家族は花凛の後ろに、そして美沙が花凛の横から花凛に耳打ちをしてくる。
「大丈夫、ジッとしていて。何があっても守るから」
花凛は、安心させるために家族達にそう呟いた。
「ふん、大義を果たす為の必要な犠牲というやつだ。少なくとも、サディアスの野郎よりかは、俺の方がまともな目的だと思うがな」
その言葉に、神田がより一層険しい顔になる。
落ち着いて話を聞こうとしていた神田でも、さすがに不快に思えて来るのだろう。
「ならば、そのサディアスの方がもっとヤバい奴だと言いたいのか?」
神田のその言葉に、待っていましたと言わんばかりに目を見開き、笑みを溢す。
自分なんかよりよっぽどヤバいそいつに集中して欲しいのか、策略が見え隠れするその笑みに神田も花凛も油断をせずに睨んでいる。
フェールの口から、更にとんでもない事実が飛び出す。
「何せ、奴は“冥府の神ハーデース”だからさ」
「なっ?!」
「えっ? そいつは確か……」
神田はただ言葉を失っている。そして、花凛は必死に自分の知識の中から、その者の情報を引き出していた。
「貴様達、人間に伝わっている史実とほぼ同じだ。オリュンポス十二神の一柱。クロノスとレアーの子だな。だが常に冥府、冥界でも良いが。その暗い地下世界に居た為に、根は腐ってやがるぜ」
フェールは何処か、楽しそうに話をしている。
自分の仲間に、状況を説明しているかの様でもある。
「奴の目的は、人間達の滅亡だからな。そっちの方が止めなきゃならないんじゃねぇのか?」
サディアスの目的に、花凛は薄々とは気づいていた様で、別段驚きもなかった。
彼と会った事は無いが、部下の行動、彼が行っている事を考えれば、妥当な線であった。
「そこでだ。神龍復活など止めて、俺に協力してくんね~か? サディアスを倒す為によ」
フェールのその言葉に、ようやく神田が口を動かす。
「ふざけるな。お前の部下達は、割と非人道的な事をしているのだぞ。お前はNECを利用し、そのタルタロスの中にある力を得て、何をしようというのだ!」
花凛も同様の想いでいた。こんな人物に協力など、考える余地などなかった。
「おいおい、龍に非人道的とかは無いだろうがよ」
「ぐっ……」
要らぬ事にツッコミを入れてくるフェールに、神田は更に苛立っていたが、大きく深呼吸をし気持ちを落ち着かせていた。
「そうだな。敢えて言うなら、全ての支配だ」
フェールの顔に、笑みは消えていた。この答えは、かなり真実に近い言葉である事が聞き取れる。
「その力は、神龍に次ぐ力。いや、神龍と同等の力だ。その力があれば、過去の過ちを繰り返す人類の目を、覚まさせてやる事ができ、また俺が正しい方向に導いてやれるのさ」
しかし、フェールのその言葉に花凛は違和感を覚える。
フェールのやろうとしている事。それは、龍王のやる事ではないように思えた。
花凛は、そう感じてフェールに問いかける。
「それは、神のやる事よね? あなたは神になりたいの?」
すると、フェールはまた笑みを溢す。
その言葉が聞きたかった様に、嬉しいそうな笑みを溢す。
「そうさ、俺は神になりてぇんだよ!」
その返事に、この男も相当狂っているとその場にいた誰もが思った。
どちらにせよ、このフェールもそしてサディアスも、その目的は相当なものであった。
「そのために、タルタロスにある力が欲しいんだ。だが、あれはハーデースでも開けられない様に、タルタロスの門で封じられている。中々手が出せなかった中で、ハーデースが動いたのさ。タルタロスに穴を空け始めたのさ。そこに、俺も便乗すりゃその力が手に入るかも知れない。力さえ手に入ればハーデースは消す。それまでは、どんな手も使ってやる」
フェールの目は益々狂気じみていく。
己の目的の為には手段を選ばないのは、サディアスと同じであった。
「邪魔をする者は、全て消す。そのために得た、龍王の称号なのだよ。さぁ、お前達。決めろ。今、ここで!」
神田も花凛も、既に答えを決めている目をしていた。
「答えはとっくに決まっているわよ」
「そうだな、花凛」
そして、2人揃ってフェールを睨みつける。
その目に迷いは無く、立ちふさがる敵として捉えていた。
その想いは次に発せられた言葉にも、強く刻まれていた。
『断る!!』
「クク、だと思ったよ」
フェールは、正に想定内と言わんばかりに、不敵な笑みをしていた。
そして、花凛は続けてこんな言葉を投げかける。
「それでも。あなたも、昔は人を愛していたんでしょ? 私の先祖なんでしょ?」
その花凛の言葉に、フェールは何かを思い出すかの様に目を閉じる。
「あぁ、そうだな。もう100年以上も前だ。少なくとも、俺はそいつを愛していたな、貴族だろうとな」
「だったら……」
フェールの言葉に花凛は、少なくとも説得の余地があると思ったのか、何とか思い止まらせようとするが、その前にフェールが花凛の言葉を遮るように、話を続けた。
「止めときな。俺の説得は無理だぜ。あの、戦争の時代を俺は見ちまっているんだよ」
そう言ってくるフェールの目は、何処か悲しそうであった。




