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煉獄の焔  作者: yukke
第二章 放浪
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第四話 河川での戦い

 花凛の住む所には、海まで縦に縦断するように河川が流れている。そして、この繁華街からも少し行けばその川に出られる。


 そこは川幅が広い為、この3人いや3体と十分戦えそうな広さがあった。


 そして人混みをかき分けながら、すれ違う人々の驚愕や悲鳴などを聞き、花凛はひたすらに走った。走りながら後ろを確認すると、奴らは他の人等に危害は加えていない。あくまで花凛を襲う、その事しか頭にないようだ。


 理性も罪の意識も無い、人間で無くなり鬼化した彼等を救う術は、既に無かった。


 そして、花凛は再び前を向き走りだす。

 すると、ようやく目の前に目的の川が見えてきた。花凛は対岸に架かる大きな橋まで行くと、そこから河原に飛び降りる。


「はぁ、はぁ。ふぅ……」


 しかし、全力で逃げていた為に息が切れている様だ。


 花凛はゆっくりと深呼吸をし、目を閉じる。精神を落ち着かせる花凛は、少し緊張していた。

 何せ、まだ1体としか戦っていないのに、いきなり次は3体ときたものだ。さすがの花凛も勝てるのか不安になっていた。


 ここの河原は横に芝生もある、対岸まて数十メートル距離がある。申し分ない広さではある。

 後は、どれだけ野次馬が集まる前に早く倒せるか……それだけであった。


 そして、けたたましい声と共に激しい震動が3回、花凛の足元を響かせる。


「鬼ごっこはもう終わりか~?」


「観念したようだな」


「はは……さぁ、俺達の相手してくれよ~」


 そう、ついに鬼化した奴らがやってきたのだ。


 そして、花凛はゆっくりと目を開け、右手に炎を纏わせあの偃月刀のような武器を出し、そいつらに向ける。

 それを向けた瞬間、刃と柄のつなぎ目にくくってある鈴が、綺麗な音を辺りに響かせる。


「あ~? んだそれは?」


「やろうってのか?」


「お~もしれぇ」


 だが、3体は怯える事無く花凛に詰め寄って来る。


「落ち着け、相手は理性が無い。こっちが冷静になればなんとかなる」


 花凛は自分自身を落ち着かせる為にそう呟き、そして武器を構える。


 だがその瞬間、3体の鬼は雄叫びと共に向かってきた。

 やはり理性がないものらしい突撃の仕方で、横一直線にただ突進してきてるだけである。


 しかし、花凛はそれを見た瞬間安心したのか油断したのか、鬼達の次の行動に対処出来なかった。


「えっ?!」


 驚きの声を出した花凛を尻目に、3体の鬼達の1体が上へ飛び上がりながら、こっちに突進してきたのだ。


 そして、残り2体は真っ直ぐ向かってきてる。


「っ?!」


 花凛は一瞬対応に悩んだ為に、対処が遅れたが、何とか後ろに飛び退き回避をする。

 そして、上空の鬼が花凛のいた場所に腕を振り下ろす。その瞬間、地面が大きく陥没し周りの地面がめくれ上がる。


「きゃっ?!」


 そしてそれに足をとられてしまい、花凛は後ろに倒れてしまった。


『きゃっ、だって~か~わいい』


 リエンがその様子を上から見ている。しかもこの状況で、面白そうにニヤニヤしている。


「ちょっと?! こっちはマジなんだし、真剣なんだよ!」


 そんなリエンを睨みつける花凛だが、それよりも目の前の状況に驚き、直ぐさま体勢を立て直す。


 そう、残り2体が左右から猛スピードで、迫っていたのだ。


「くっ?!」


 花凛は一旦跳びあがり、2体を交わす。

 しかし、交わしたのもつかの間、目の前にもう1体の影が見えた。


 花凛に追い打ちを掛けるべく、交わした2体の内の1体がそのまま跳びあがり、追撃を浴びせようとしていたのだ。


「うそっ?!」


 花凛はとっさに武器の柄で防御姿勢を取るが、その後に激しい震動と痛みが加わり、花凛は川に叩きこまれてしまった。


 激しく水しぶきが辺りに飛び散る。気がつけばかなり野次馬が集まっている。映画の撮影かと思いきや、とんでもないことになっているようで、皆ざわめいていた。


「ひゃははは!! 楽しい~ねぇ! おい!」


「もっともっとだ、何故か気分がいい!」


「さぁ、気絶してるだろうし今のうちに犯っちまおうぜ~!」


 そして3体が、川に入り花凛に近づく。しかし、その先から花凛は立ち上がり、びしょ濡れになりながらも3体を睨みつける。

背中を打ちつけ痛みだしてるが、その前に花凛の頭にはある1つの疑問が生じていた。


「ねぇ、リエン。こいつら、理性無くしてるって言ってたよね?」


 フワフワと対岸から花凛に近づいて来たリエンに、花凛は問いかける。


「でも、さっきの行動どう考えても理性の無い奴らの動きじゃないよ」


『ん~』


 そして、リエンは目を閉じ、その先の言葉を言おうどうか迷っていた。しかし、どちらにするか決めた様で、目を開けてゆっくりと話し始めた。


『まぁ、いつかは戦うことになると思ってたけど、こうも早いとは思わなかったよ』


 そして、再び迫ってくる3体に、花凛は手に持っている偃月刀を横になぎ払い応対する。


 しかし、3体は踏みとどまり円のように花凛を囲いだす。


「どういうこと? 明らかに普通の鬼じゃないよね?」


 その3体の動きを逃さないように、全神経を集中させながら、花凛は会話を続ける。


『鬼化した人の中でも、たまに理性を保つ奴らがいるのよ。そいつらも人では無くなってるけど、なんと人の姿に戻ることも出来るみたいで、普通に人として生活しちゃってるから、厄介な存在なのよね』


「なっ?! そんな奴らがいるの?」


 花凛は驚きのあまり声を荒げる。


『私もこいつらには苦戦したわ、一応私は「真鬼(しんおに)」と呼ばせてもらってるわ』


 その言葉に花凛は唾を飲み、自分が引き受けた事が容易な事では無い事を感じていた。


 しかし、そうこうしてる内にその鬼達が、舌なめずりをしてくる。いよいよ襲える、鬼達にはそんな嬉しさが顔に滲み出ていた。


『さすがに真鬼が3体は、私でも少し本気を出さないと勝てそうにないし、今回は練習がてらリミッター少し外してみるね~』


 リエンの言葉に、花凛は何の事か分からず首を傾げていると。


『私の言うとおりに動いたらいいわ~力の調整は私がやるから、あなたはその力を引き出す事だけに集中して!』


「わ、わかった!」


 そう言われ花凛は武器を構え直す。3体はもう間近に、今にも襲いかかりそうになっている。


『いくわよ~!』


 リエンがそう言うと、花凛は体の奥から熱い何かが湧き上がって来るのを感じていた。


「くっ、何これ?」


 抑えきれない怒りの様な、そんな渦巻くものが徐々に体中に行き渡る。


『いい! 今から私の言うとおりに動くのよ!』


 リエンからの言葉にうなずく花凛。


『武器は長めに握って、左手で添える! そして、そのまま軸足で回転しながらなぎ払う! ちゃんと右手で振り抜くのよ!』


 花凛は、言われた通りの動きを即座に実行する。


 すると体の中の熱が、体外に放出される様な感覚が全身を駆けめぐる。


『はい! 技名叫ぶ!』


 リエンの叫び声の後、花凛の頭の中に、何やら文字が浮かんできた。それをとっさに叫ぶ。


火円刃(かえんじん)!!」


 すると、先程の切っ先に炎の刃のようなものが現れ、円のように花凛を囲む。

 花凛は驚いたが、既に行動をしている為、それを確認した後、武器を横になぎ払うように振り抜く。

 その瞬間、炎の刃は円を描いたまま瞬時に広がり、3体の鬼に襲いかかった。


「ぐぁっ!?」


「げぇ……」


「な、なん……だこれ」


 円のように広がった炎の刃は、3体の鬼達の半身を綺麗に上下で焼き切った。そして、そのまま切り口から炎が吹き出し燃え上がる。それは、最初に倒した鬼の時よりも、数倍激しく燃え上がっていた。


「ちょっ、これは燃えすぎじゃ!」


 慌てた花凛に対して、リエンは冷静に返す。


『しょうがないわよ、真鬼は浄化できないの。だから、完全に魂ごと燃やし尽くさないと』


「そんな……」


『それより、今のうちにあれ回収したら?』


 そう言われリエンの指差す方を見ると、激しく燃える炎の近くに、鬼達の財布であろうか、それが川に落ちていた。

 釈然としないが、リエンに言われたので、花凛は慌てて3つの財布を拾い上げる。


『お金がないと生活できないでしょ? あと服とかもね~』


「でも、盗難じゃ……」


 悩む花凛に、リエンはピシャリと言い放つ。


『迷惑料よ!』


 その言葉に花凛は口元をひくつかせる。しかし、現実問題もうお金が無かったのだ。

 花凛は悪いとは思いつつも、財布から現金を抜き取り、ポケットにしまうその様子は、炎によってよく見えないはずだと、確認の為に橋の上に目をやると、いつの間にやらとんでもない数の野次馬と、警官達が集まっていた。


 倒すのに時間がかかりすぎたようだ。慌てて花凛は跳び上がりその場を後にした。

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