第二話 墓場の異変
神田は、花凛の後を追いながら携帯で電話をしている。
電話口からは、女性の声が聞こえてくる。
『分かりました。あの子最近、忙しいそうでこちらに姿を見せないと思ったら、そんな事になっていたなんて。ありがとうございます、神田さん』
「いえ、そんなことはありません。ただ、もし彼女が暴走した場合、それを止める可能性を少しでも上げるためにと、そう思ったまでです。でわ」
そう言って神田は電話を切る。どうやら、電話の相手は亮の家族である。つまり、花凛の前の家族という事である。
そして、神田は再び前をフラフラと、何かに導かれる様にして歩く花凛の姿を確認し、後を追う。
その花凛は、いまだに額を押さえている。
頭の中に声が響き、気持ち悪くなっている様である。
「だ、れ……。誰なの? 私? 私だって?」
そして、ブツブツと何か言葉を発しながらなので、道行く人達は花凛を精神障害者だと思ってしまっているようであり、我関せずという顔をしている。
すると、花凛の歩いて行く方向に神田は見覚えがあるらしく、目を見開いている。
「こ、この道は? あの時、花凛が正体を明かした場所。亮君の墓のある所じゃないか?」
まだ、明るいこんな時間に幽霊が呼んでいるのかどうか。
神田は、少し不機嫌に思っていたがとにかく、もう一度谷本家に電話をかける。
『えっ?! お墓ですって?』
再び、電話に出た母親が驚きの声を上げる。
それは、やはりといった様な言い方である。
「谷本さん、墓に何かあったんですか?」
神田がそう問いかける。
それは確実に何か知っている人への、警察の質問の仕方に近かった。
長年染みついた警察のクセというのは、普段の時でも出てしまう様である。
『じ、実は……』
谷本家の母親は、凄く言いにくそうにしている。
「非現実的な事なんて、とっくに起きまくっていますよ。だから今更、おばけとかそういうのでは驚きません」
神田がそう言うと、電話口からゆっくりと言葉が聞こえてくる。
それでも、まだ言いにくそうではあった。
『その、先週からなんですが。亮のお墓が、揺れていると寺の人から言われて。怖かったのですが、急いで見に行くと卒塔婆が全て無くなり、添えていたお花は全て萎れていたのです』
「それは、誰かが持っていったというのは?」
確認の為か、神田がそう言ってくる。
だが、誰が好き好んで卒塔婆だけ持って行くだろうか。
『いえ、そんなことは無いはずです。お寺の防犯カメラには、怪しい人は映っていなかったので』
「そ、そうですか……」
当たり前の答えに気まずくなってしまった神田は、口ごもってしまう。
だが、気を取り直して前の花凛に目を向ける。
やはり、間違いなく墓地へと向かってる。
しばらくして、花凛は墓地へとたどり着く。
既に、日は高く上がっている。
「ったく、学校へは休みの連絡を入れたものの、大事な3人をほったらかして何やってるんだか」
神田、花凛に聞こえない様にボソボソとつぶやく。
そして、花凛は迷う事なく真っ直ぐに亮の墓に。
つまり自分だった者の墓へと向かって行く。
すると、それに呼応するかの様に谷本亮の墓が動き出す。
「うぉっ……」
さすがに、この心霊現象には神田も驚いている。
そして、花凛がゆっくりとそれに向かって話しかける。
「くっ……。何で、なの? 誰なの、そこに居るのは」
【おいおい、誰だとは失礼な奴だな】
その声は、墓場から聞こえてくる。
そして、花凛はその声に聞き覚えがあるのは当然である。
「嘘……なんで? だって……」
【何を驚く必要がある? お前は、俺だ。そして、俺はお前なんだぜ】
そして、その声の直後。谷本亮の墓が上に大きく吹き飛ぶ。
まるで、何かが墓の中から蹴り上げた様に。
「っ?!」
「なっ?!」
余りの出来事に、つい神田も声を上げてしまう。
その声に花凛は咄嗟に振り向く。後ろから聞こえるその声も、知った声であるからだ。
「えっ?! な、なんで。賢治さんが、こんな所に?」
見つかってしまったのは、都合が悪かったのだろうか。
神田は、失敗したと言う顔をした後、申し訳なさそうに花凛に謝ってくる。
「す、すまん花凛。どうしてもらお前の事が、気になってな」
「ダ、ダメ……。来ないで!」
花凛は、何故か拒否してくる。それは、見られたくないものを見て欲しくないから、見られたらまずい物を好きな男子に見られてしまう。
そんな顔をして、神田がそれ以上近づくのを両手を前にし拒否しているり
【おいおい、見て貰えよ。お前の全てを。俺の全てをな】
すると、墓の中からより鮮明になった声が聞こえてくる。
禍々しいその声は、正に過去の自分自身。何もかもに絶望し、呪ってやろうと考えた事もあった時の、自分の声である。
「止めて! もう、私は谷本亮じゃない!」
花凛は、頭を抱えている。
その後ろにゆっくりと近づく黒い人物がいる。
それは、谷本亮本人であった。
だが、その目はつり上がり禍々しい表情は、余り面影を残していない様にも思える。
しかし、短髪の髪やニキビ後の顔は間違いなく亮本人の物である。
「な、なんだ。あの黒い姿と黒いオーラは?」
【ククク……。それが、俺だからだ。世に絶望し、世を呪うとした男の本性さ。そして、それがこいつの中にも存在しているんだよ。何せお前は、俺そのものなんだからなぁ!!】
「止めて止めて止めて!!」
そして花凛は、後ろの黒いオーラを纏った亮を睨みつける。
【おぉ、怖い。だが、てめぇは忘れてねぇか? 人間の残虐さを】
ゆっくりと花凛へと近づく亮。間近で見ると、益々人間らしくない雰囲気である。
「あなたは、まさか。真鬼……」
【おっと、違ぇよ。俺は、この体の中に多少残っていた、闇の龍の魂の欠片が覚醒した者さ。だがな、その闇の龍の魂は、てめぇの魂そのものでもあるんだぜ!】
どうやら、言葉からして真鬼では無いようである。
そして、亮が死んだときに抜けた魂が、少しだけ残っていた様である。
それは、龍の魂の情報が残った様な状態だったのであろう。
本来なら、この様に目覚める事はないのだろうが、花凛は普通の龍ではない成長の仕方をしたので、この体に残っていた魂も呼応してしまったのだろう。
だが、しばらくはリエンと神龍の加護で抑えられていたのであるが、リエンが居なくなった今、神龍の加護だけでは抑えきれなかった様である。
それだけ、この邪悪な力が強かったのである。
「くっ……。お願い、今更私に何の用があるの? これから、大事な時期だと言うのに、邪魔をしないで!」
【どの口がそれを言う? 思い出せよ……。お前は、男の時やっとの思いで就職した先で、どんな仕打ちを受けた?】
花凛は、しかめ面をし手を広げて偃月刀を出現させると、亮に向かって切りつける。
だが、花凛の攻撃は亮には届かない。
亮は、手を刃の様に変化させそれを受け止めていた。
「くっ……」
花凛は歯を食いしばり、何とか押し込もうとするがビクともしなかった。
【おいおい、危ねぇなぁ。そこのおっさんには聞かれたくね~のかよ? そんなに、そのおっさんが好きなのかよ~? キモっ!】
「うるさ~い!!」
花凛は、怒りに任せ力を放出している。
だがしかし、それも負の感情であり闇の力である。
すると、花凛の体から黒いオーラも発していた。
ショッピングモールの駐車場で見せた、あの黒いオーラである。
そして、もちろん花凛の表情もみるみる変わっていく。
【良いぜ、闇を受け入れろ……俺を受け入れろ。ククク】
「花凛、ダメだ。お前はそっちに行くな」
その様子に神田は、何とか花凛を止めようとするが、足が動かないのだろうかその場から動けないでいる。
【てめぇは、見ていろよ。こいつが闇に堕ちる様をな】
どうやら、闇に染まった亮が神田の動きを封じているようである。
「うわあぁぁああ!!」
偃月刀に、以前とは違う真っ黒な炎を纏わせた花凛が、亮へと向かっていく。己の過去を消し去るために。




