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煉獄の焔  作者: yukke
第九章 邪悪との邂逅
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第一話 負の欠片

 ここ、神楽家では花凛達が朝のニュースで、昨日の出来事を知った。

NECの建物が、ガス爆発を起こしたとなっているが、紛れもない紫電達がやってくれたのだと、花凛は確信していた。


「良かった。上手くやってくれたんだね」


「あぁ、そうだな。これで、鬼化する人物が減って欲しい所だが。現実は難しいものだな」


 夏穂、美穂、志穂と一緒に朝ご飯を食べていた花凛の横に、何故か神田の姿があった。


「ひゃあ! け、賢治さん。何でここに?」


 あからさまに変な驚き方をする花凛に、神田は首を傾げている。


「いや、俺も朝から夕方まではお前と一緒に、巫女の3人の護衛をする事になっているだろうが」


「あ、えっ。あぁ、そ、そうだったね」


 だが、花凛は何故か顔を真っ赤にして神田から目を逸らす。

するとその様子に、神田が不信に思い花凛のおでこに手を当ててくる。


「花凛、お前。顔が赤いぞ? 熱でもあるのか?」


「あ、ありません!」


 花凛は慌てて、神田の手を振り払う。

そして、今度は真面目の3人が花凛を茶化してくる。


「いやぁ、乙女ですねぇ」


「そうですわね。可愛いわよ花凛」


「うんうん、朝から良い物見られた」


 それを聞いた花凛は、慌てて3人を睨む。


「ちょっと、何言っているの? 私は、可愛くないわよ」


 そう言って味噌汁に口をつける。


「好きなんでしょ? その人の事」


「ぐぶっ!! ケホケホ……何言い出すの?!」


 3人揃ってハモったように言われて、花凛は危うく味噌汁を吹き出す所であった。


「ん? 違うのか。花凛?」


「うぇっ?! あっ、いや。えと」


 思いの他に直球な事を聞いてくる神田に、花凛は口ごもってしまう。

しかも、真剣な眼差しで見つめている。


「うぅ~」


 顔全体所か、首元まで赤くなっている花凛を、正面の3人はにやにやと見ている。


「うぐぐ。き、嫌いじゃないよ。うん」


「そうかそうか。それは、良かった」


 そう言って、神田は花凛の頭を優しく撫でた。ついでに顔も笑顔である。


「賢治さん、それ卑怯……」


「そりゃ、俺も花凛の事は好きだからな」


「ふえっ?!」


 余りの言葉に、花凛は変な声が出てしまっている。

それほど、花凛にとっては予想外の言葉であった。

養子縁組とは言え、他人同士で血は繋がっていない。だから、神田の言う好きとは家族的な意味合いでの好きだと、花凛はそう考えた。

だが、次の神田の言葉でそれは消えた。


「あんな熱烈なキスをされたらな。誰だって、好きになってしまうしな。それに、俺はお前を追っていた時から気になっていたんだよ。お前の事がな」


 これは、完全に家族的な意味での好きではないようである。

花凛の事を1人の女性として、好きだと言う意味であった。


「……」


 もはや、花凛はその言葉でノックダウンしたのだろうか。

真っ赤にした顔を俯かせているだけである。


「お熱いねぇ~」


「男らしく、ビシッと言われるとは。純情な花凛さんには、少し刺激が強かったかしら?」


「全く、動いてないよね?」


 夏穂、美穂、志穂の順に、そして最後に志穂が花凛の顔の前で手を上下に振り、花凛の様子を確認している。


「あ、あははは。賢治さんったら、こんな子供に真剣に何を言っているの?」


 花凛は、目の前の食べている途中の焼き魚に、醤油を付け足そうとしたご。


「花凛、醤油を味噌汁にかけてるよ」


「へ? あ、あぁ。私、こういう飲み方が好きだから」


 そう言って、醤油の入った味噌汁を飲み始める。

その様子に、注意をした夏穂が顔をしかめる。


 そして、今度こそ焼き魚に醤油をと思ったら、何故かサラダに使うドレッシングをかけている。


「か、花凛さん……それは、違うと思いますよ」


「へっ? あぁ、最近ネットで見つけたんだ。このやり方で食べるとおいしいって」


 そう言って、花凛はドレッシングのかかった焼き魚を食べ始める。

もちろん、注意した美穂は少し吐きそうになっている。


「花凛、ごめん。私達がわるかった。だから戻ってきて!」


 夏穂が花凛の方を掴んで、体を揺らしている。

何とか、現実逃避している花凛を戻すために。





「うぅ、何か口の中気持ち悪い」


 朝ご飯を終えて、3人の部屋で制服に着替えている花凛がそう呟く。

口に手を当てながら、さっきまでの自分の行動を悔いている。


「だから、言ったのに……」


 その様子に、夏穂が呆れた口調で言ってくる。

だが、煽ったのは3人であるため、花凛は抗議の意の為に目を細めて睨みつける。


「うぐっ、ごめんってば花凛」


「ちょっと、調子に乗り過ぎちゃいました。ごめんなさい」


「ごめんなさい、花凛」


 その3人の謝罪の言葉に、満足そうに首を縦に振る。

それは、3人を許すという事でもあった。


「花凛~」


 夏穂が、ちょっと泣きそうな顔で抱きしめてくる。


「ちょっと、夏穂。全く」


そして、花凛達はいつもの制服に着替え終わると、いつも通り学校に行く支度をしている。

未だに、街は鬼化した人達が現れたりする。

だが、少しだけその数が減ったようであり、皆普通の生活を行っていた。


「あっ、ごめん。3人共私トイレ」


 そう言って、花凛は部屋を出てトイレに向かう。その胸を押さえながら。リエンが居なくなったその翌日から、花凛の身にある現象が起こっていた。


「はぁ、はぁ。くっ……。冗談じゃないよ。何これ、私の中の何かが暴れ出している?」


 花凛は、廊下の壁に体を預けながら歩いていく。

3人に心配かけないように、トイレへと向かう。

そしてトイレに辿りつき、誰も入っていない事を確認して入ると呼吸を整えていく。闇の奔流。激しい川の流れの様に次々と湧いてくる、負の感情。


「ふぅ、ふぅ、はぁ。落ち着いて、大丈夫。これは、リエンが居なくなったからなの? 今まで、龍の力を制御してくれていたから? それとも、私が完全に龍になったから?」


 花凛は、様々な可能性を頭に巡らせる。だが、原因を探るのは今は詮無き事である。

それよりも、まずこの邪悪な力を抑える必要があった。

すると、花凛の入っているトイレの扉がノックされる。


「あっ、は、入ってます」


「おや、花凛さんが入っていたのですね」


 優しいその声は、ネーヴァであった。

ネーヴァも、もちろん花凛と一緒に神龍の巫女達の護衛をしてくれている。

だが、今は鬼化して襲ってくる人達から守っているくらいであり、NECの新たな刺客がやってくる気配はなかった。


 だから、皆少しだけだが穏やかな時間を過ごしている。

そんな事を回想しながら、ネーヴァはずっとトイレの前に立っている。


「あ、あの。ネーヴァさん?」


 不信に思った花凛は、トイレの外の花凛に声をかける。


「大丈夫ですか?」


 そのネーヴァの言葉に、花凛は首を傾げる。

そんなに、長い事トイレに籠もっているわけでは無いので、その言葉の意図を理解出来なかった。そこで花凛が思ったのは、朝ご飯での出来事である。

しかし、その時ネーヴァは学校までの道のりの安全確保をしてくれていたので、居なかったはずである。

恐らくは、あの3人から聞いたのだろうと花凛は考え返事をする。


「あぁ。大丈夫です、ネーヴァさん。ちょっと口の中気持ち悪いだけで……」


「邪悪な力が、溢れているんでしょう?」


 花凛の考えは違うと言わんばかりに、ネーヴァが少し口調を強めて言ってくる。

そして、その言葉に花凛は目を丸くする。


「だ、大丈夫だよ。心配しないで」


「大丈夫そうに見えないので、心配しているのです」


 間髪入れずにネーヴァが言葉を投げかける。

ほんとに心配してくれているのがよく分かる優しい声ではあるが、どことなく隠すなと注意をしている様にも見える。


 花凛は、観念したかのようにトイレから出てくる。

するとそこには夏穂、美穂、志穂の姿もあった。


「っ!?」


 この3人にもどうやらバレていたらしく、3人とも凄い顔で見てきている。その顔は、心配しているのだが眉間にしわも寄っているため為、怒ってもいる様である。


「花凛、私達に隠し事はしないでよ」


「私達が与えた加護でも、もう抑えきれないのでしょう?」


「花凛の中の闇、膨れ上がっているよ」


 夏穂、美穂、志穂が小言を言ってくる。

だが、どういうわけか花凛はそれがうっとうしく感じていた。

心配してくれるのはありがたい。でも、それ以外の感情も花凛には湧き上がっていた。

それが、邪悪な龍の力のせいだと花凛は気づいていた。


「はぁ、はぁ。ご、ごめん。今は、私に構わないで……」


 花凛は、ふらつきながら廊下を歩き家の玄関へと向かっていく。

その様子に3人共声を上げる。


「ちょっと!! 何処に行くの?!」


「うっ、よば……れている。私を、私が呼んでいる」


 何だか、よく分からない事を口走り花凛は額を押さえて外に出ていった。

その様子に、3人はただならぬ思いをしている。花凛が普通ではなかったと。


「しょうがないです。神田さん、花凛さんの様子を見てあげて下さい。3人の護衛は私がやります」


「あぁ、分かった」


 どうやら、神田も慌てている皆の声を聞きつけて、やって来ていた様である。

ネーヴァは、神田にそう告げるとある物を手渡す。


「もし、どうしても花凛さんが闇に堕ちそうになった時は、これを花凛さんの口に含ませてください」


 それは、アメ玉くらいの大きさの丸い水晶であった。

良く見ると、綺麗な光沢を放ち澄んだ透明な色をしている。

神田は、それを受け取り真剣な眼差しで花凛の後を追った。

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