第十話 闇の征服者
沢村は、ゆっくりと話し始める。
サディアスのやろうとしていることを。
「ぐっ、げほ……。あいつはな。人を鬼化させるのが、目的ではない。あの怨念で、人を生物兵器にすると言うのも、俺の一方的な思い込み。なら……うぐっ、何が目的か……。奴はタルタロスの中に居る、何かを欲しているよう、俺にはそう見えた……はぁ、はぁ。だが、俺はそんな事より、自分の野望を達成させたかった」
沢村は、サディアスのやろうとしている事に、若干気づいていたのだろう。
だが、自分の野望の為目を背けていたようである。
「はぁ、はぁ。奴は、闇そのものだ。人を人と思わず。自分には邪魔だと思えば、平気で断ち切る。人を追い込む。操り人形にする。まさに、手段は選ばない。だが、それが上に立つものなんだ、それが普通なんだ……く、くく。ぐぅっ。げふ!」
沢村は、うつ伏せになりながらも必死に自分の考えも付け加えて、話している。
「てめぇの、持論はどうでも良いんだよ」
ネブラはその沢村の言葉を否定するかのように、言葉を投げかける。
「なるほどな、サディアスの野郎の狙いはタルタロスを完全に開くことか。しかし、そんなことをされたら今以上に大変な事になるな」
すると、ネブラの近くに気圧を圧縮したかのような衝撃が発生し、地面が陥没する。
「ちっ、出来るだけ薬を飲まさないようにと、大量の武器を用意したのに、綺麗に片付けやがったな」
そう、そこにはネブラの攻撃を回避していた、朽木の姿があった。
だが、息も絶え絶えになっており交わすだけで、披露困ぱいしているのが分かる。
だが、それでも手にはしっかりと『アビリティルギー』を持っていた。
「はぁ、はぁ。てめぇからだ。真っ先に、てめぇからぶち殺してやる」
「やれるもんならな!」
すると、再びネブラが瘴霧を発生させる。
だが、次の瞬間。雄叫びと共に、地面を穿つ衝撃波が3本も飛んできた。
「くっ! いい加減、呂布を止め……っておい、紫電!」
「はわわ、紫電さん!」
ネブラとアシエ、2人が驚いているその先には。
何と、呂布の戟に突き刺さり、ぶら下げられた紫電の姿があった。
「がはっ! ちくしょうが……」
丁度、腹を突き刺されており、紫電は痛みに顔を歪ませている。
だが、もちろん。その目に、戦意は消えていなかった。
すると、紫電を助ける様にアシエが片腕にだけ鉄を纏わせ、大きな龍の腕の様に変形させると、呂布に向かってその拳を突き立てる。
もちろん呂布はビクともしないが、それでもアシエは殴り続ける。
「うっとうしぃわ!!」
「うぐっ!」
戟を持たない左手で、思い切りにアシエを払いのける。
その威力にアシエは後ろにずり下がる。
「う~、本当に人ではないです。この力は」
すると、突き刺さっている紫電が自分の腹に刺さっている戟を握ると、そこに大量の電流を流し込む。
「うっ、ぐぉ!」
「はっ! さすがに、これは効くやろうな! 魂まで感電させる、特殊な雷やしな!」
そして、呂布が戟を手放したことにより、ようやく解放された紫電は、自分の腹に刺さっている戟を乱暴に抜き取った。
「紫電さん。乱暴過ぎます」
「今は、そんなん言うてる場合ちゃうわ!」
そして、2人して呂布に立ち向かおうとするが。
呂布の顔は、どこか満足していない様子である。
「ダメだ、貴様等ではダメだ!」
そして、呂布はどこかへ去っていこうとする。
「おっ? ちょっ、待てやてめぇ!」
だが、呂布は歩みを止めない。
すると、その様子を見た朽木が呂布の元に向かう。
呂布の攻撃によって、足元が不安定になっている様で、ネブラはすぐには追いつけないでいた。
「ヒャハッ。すげぇな、さっきから見ていたが。お前、本物の呂布か?」
「だったら、どうした?」
そこに、ネブラを合わせた3人がやって来る。
何とか、今ここで2人を止めなくてはと考えている。
だが、2人は既に1階部分の残った床にいる為、地下部分にいる3人は反撃されやすかった。
「ちっ、朽木とか言う奴のせいで霧がうまく展開できん」
状況にもよるのだろうが、朽木の能力はネブラにとっては少し厄介であった。
「俺の、持ってるこの薬が更に強くなれるようだぜ? 俺と組まねぇか? あんたの気迫は気に入ったぜ」
だが、呂布は朽木には目もくれず日が暮れ、真っ暗になった街に向かって歩き出す。
「ヒャハッ。おいおい、無視かよ。流石だねぇ、昔の武将さんは。おっとぉ!!」
呂布の後ろを着いて行こうとする朽木に、先程拾ったその戟を顔の目の前に突き出す。
「着いてくるな。貴様何が目的だ!」
その呂布の怒号と気迫に、朽木は一瞬たじろいだが、直ぐに呂布に向き合う。
「ヒャハッ。別に目的かなんかねぇよ。ただ、お前といると人を沢山殺せそうだと感じただけだ。お前の行く先は、常に戦いになるだろう?」
朽木の狂気の目は、呂布にも分かっていたはずである。
だが、それでも呂布には何かその目に惹かれるものでもあったのだろうか?
ただ、一言だけ朽木向かい言放つ。
「好きにしろ」
そして、呂布に着いていく様に朽木も、夜の街の中へと消えていった。
その場には、ネブラ達3人と何人かの『ブーンドック セインツ』と、社員の死体。生きている者は2人。
そして、沢村は今まさに息絶えようとしている。
その傍に、ネブラが近寄ってくる。
その目には、哀れみはなかった。ただ、自業自得によって起こった事。
これは、天罰なのだとネブラは思っていた。
「く、くく。さぞ、満足、だろうな。当初の目的は、達成出来たのだからな」
すると、そこにパトカーや救急車が大量にやって来る。
ようやく静かになった為、自衛隊がここに来るように指示したのだろう。
その様子を見て、ネブラが紫電達に言葉をかける。
「お前等、とっとと退散するぞ。警察はNECのお抱えになっている。捕まったらアウトだぞ」
「分かりましたです! 紫電さん、立てますか?」
「問題ないわ!」
アシエは、刺された腹部を押さえている紫電に、手を差し出すが。
紫電は、それをはね除けた。
どうやら、苛立っている様子である。
「くそ、呂布の野郎。俺では、満足出来んってか! ふざけやがって!!」
どうやら、紫電は最後の呂布の行動に納得いかなかった様である。
歯を食いしばる紫電の様子を見て、アシエもそれ以上は何も言わなかった。
「おい、行くぞ」
龍化を解いたネブラは、同じ様に龍化を解いた2人に急がせる様に言う。野次馬まで増えてきており、これ以上ここに居るとまずかったのである。
そして、ネブラは沢村に目をやる。
そこには、片方のみの目を閉じ息を引き取った沢村の姿があった。
「愚か者が」
ネブラはそう言うと、紫電達と共にその場を後にする。
夜の闇の中、研究所の合った場所はテロでも起こったのかと、言わんばかりの人が集まっていた。
だが、人々は知らなかった。そこが、一連の化け物騒動の原因になっている、怪しい薬を開発していた所だとはまだ知る由もなかった。
だが、人々が鬼化する原因となっている、タルタロスへの穴はまだ閉じてはいない。
しかし、サディアスはそれが目的ではないと言うのなら、何も穴を空けなくても良いように思えた。タルタロスの門を開き、その中に入れば良いだけである。
何故、怨念をこちらに流す必要があるのか。
ネブラは夜の街を、屋根伝いに移動しながらそんな事を考えている。
「まだ、何かあるな……サディアスの野郎の真の目的はいったいなんだ。そして、そんなことが出来る奴、そんな事を考える奴は1人しかいねぇ。まさか……」




