第九話 人間の脆さ
その場に居る者、誰もが目を疑っている。
当然である。いきなりイレギュラーな存在の人物が現れ、しかも沢村を容赦なく刺したのである。
そして、突き刺したナイフをまた容赦なく抜く。
その瞬間。沢村は吐血し、胸は赤く染まっていく。
「がっ……ぁ。き、きさまぁ。朽木智也ぁぁ」
沢村は、膝を折り今にも倒れ込みそうになっている。
それでも、渾身の力を振り絞り何とか踏みとどまり、朽木を睨みつけている。
最悪の殺人鬼、朽木智也。何故、ここに居るのかは分からなかったが。
ただ、沢村を殺しに来ただけでは無いのは確かであった。
「ヒャハッ。良いねぇ、その苦しそうな顔。でも、目が気に入らねぇな。もっと、脅えた目が良かったんだがな~」
そして、朽木はゆっくりと沢村に近づくと。
その顔面を蹴り飛ばす。もはや、狂った殺人鬼に容赦など無かった。
「ぐっ……あぁ」
朽木は、為す術無く地面に倒れ込んだ沢村に近づくと、その白衣を探り始める。
「あった、あった。施設は壊れちまったけど、いくつか自分で持っていると思ったぜ」
そう言って、朽木が白衣の内ポケットから取り出したのは。
例の、鬼化する薬『アビリティルギー』3個であった。
どうやら、朽木の目的はその薬の様である。
それに、気づいたネブラ達は瞬時に動き出し、朽木を止めに入る。
「てめぇ、それは止めと……うぉ?!」
だが紫電には、瓦礫の中から地面を穿つ衝撃波が放たれてくる。
何とか、それに気づいた紫電は立ち止まり衝撃波を回避した。
「ちっ、まだかいな! しつこいなぁ!」
すると、紫電が向いた先には何と呂布の姿があった。
瓦礫から這い出た呂布は、ゆっくりと紫電に近づいてくる。
「紫電、お前はそいつにだけ集中しろ!」
朽木に向かって走りながら、ネブラはそう言った。
そして、自らの手から大量の毒霧を発生させると、朽木に向かって放つ。
だが、ネブラはまたしても屈辱を味わう事になる。
何と、ネブラの毒霧は何故か自分の思った方向に行かなかったのである。
「ヒャハッ。俺は気体を操れるようでな。そんな霧ごときで、俺を倒せるわけないだろうが」
「なっ……そんな奴ばかりか? 面倒くせぇな」
すると、ネブラの目の回りから顔全体に広がる様に模様が入りだす。
そして、額には龍の角が生えてくる。
そう、面倒くさくなったネブラは、遂に龍化したのだ。
「霧幻毒!」
そうネブラが叫ぶが、変わった様子は見当たらない。
それは朽木も同じ様であり、問題ないならと思い薬を飲もうとする。
だが、次の瞬間。急に朽木の腕が震え出す。
そして、体も脚も、全身が震えだす。
その後、徐々に視界が揺らいでいく。
「なっ……こ、これは?」
「そう、見えない毒霧さ。徐々に四肢の自由が奪われていくだろう? もう、お前達は終わりだ」
だが、朽木は不敵な笑みを浮かべてゆっくりと立ち上がる。
どうやら気体を操れる朽木は、霧を霧散させる事が出来るようである。
「やれやれ。思った以上に面倒くせぇな。なばら、これならどうだ」
すると、ネブラが放った霧が集まり形を成していく。
凝固された霧は、何本かの刀剣になっていく。
「霧刀 ネーベルソード!」
ネブラがそう叫ぶと、ネブラの周りに集まっていた。
刀剣が、空を舞い朽木へと向かっていく。
「ヒャハッ。こりゃすげぇな! だが、それも無意味だ!」
そう言うと、先程と同じ様に朽木はその霧を霧散させようとする。
だが、その前にネブラが放った刀剣の方が先に霧散する。
「はっ?! んなぁっ!!」
その出来事に朽木が驚くが。次の瞬間、朽木の後ろに瞬時に霧が集まり、先程の刀剣の形になると朽木を斬りつけたのだ。
どうやら、気体を操る事で少量の風を作り、霧を霧散させていたことに気づいたネブラが、霧散させる前に自ら霧を操り霧散させ、再び死角に収束させる事で、朽木の能力に対応していたのだ。
「さて、見えない刀剣の脅威をその身にとくと刻みつけてやるよ。お前は、動かしてはならない奴を動かしたんだ」
ネブラがそう言うと、次々に霧の刀剣を作り出していく。
その数は既に数十本になっていた。
「ちぃ。んだこいつはぁ!」
朽木は予想外だったのだろうが。ネブラは、これでも四天龍である。
実力は、そこらの龍とは違っていた。
「何だ、不満ならもっと作ってやろうか?」
そう言うと、ネブラは両手を広げる。
すると、ネブラの体から瘴霧が吹き出し空中に上がっていく。
そして、それぞれが武器へと変化していく。
だが、今回は刀剣だけでは無かった。
槍、戟、鉈、短剣。様々な種類の霧の武器が、ネブラの上空に浮遊する。
ネブラを本気にさせてはならなかった。
朽木がそう気づいた時には、既に遅かった。
目の前には、面倒くさがっているネブラの姿は無く。
四天龍らしい気迫を纏い、朽木を睨んでいる。
「まぁ、せいぜい後悔しろ。霧幻千武」
すると、本当に1000個はあるのではないかという程の武器の数が、朽木へと向かい飛んでいく。
「ぬぉ! くそがぁ!」
朽木は、ただ逃げるしか無かった。
次々と攻撃してくる武器達が、朽木の後ろギリギリを突き刺したり、斬りつけたりしていく。
その光景を横目に、ネブラは倒れている沢村の元に向かう。
そして、無様にも殺人鬼の凶刃に倒れ、虫の息になっている沢村を見下ろす。
「まだ死ぬなよ。聞きたい事があるからな。工場は、全国に何ヶ所あってどこにあるんだ?」
「く、くく……それ、を。俺が、はな……すとでも。ぐっ……! おも、うか?」
激痛と苦しみにより、顔を歪ませる沢村にネブラは条件を持ち出す。
「もし、教えるなら。命は助けてやろう。ヒーリングできる龍が、俺の配下にいるのでな」
その言葉に、沢村は驚いたり悩んだりするかとネブラは考えていた。
だが、沢村がとった行動は予想外であった。
「く、くく。はぁ、はぁ。そんな、事で……この俺が。敵に、情報を……ながすと、思うか? 答えは……NO。だ」
「そうか、そりゃ残念だ」
どこか、悲しそうな顔をするネブラの後ろに、アシエがやってくる。
その手に携帯を携えて。どうやら、どこかから連絡が入ったようである。
「ネブラさん、大丈夫です。私達の仲間が、ネーヴァさんの配下の龍達が、全国のNECの工場を見つけたようです。今、その工場を破壊しているそうです」
そのアシエの言葉に、沢村は口元をにやつかせる。
「はは、ぐぅ! はぁ……げほっ。無駄な、事を。たかが、部下の龍如きに……破壊できる、わけないだろ」
だが、沢村はアシエの次の言葉に愕然とする。
「それが、その工場には殆ど人が居なくて。普通の社員しか居なかったそうです」
「なっ、なんで……がはっ!!」
あまりにも驚いた沢村は、起き上がろうとして体に力が入ってしまうが、既に満身創痍の沢村の体はいうことをきかずに、吐血し激痛によって再び倒れた。
「貴様、あのサディアスという人物は、お前とは別の目的があるようだな。それも、教えてもらおうか? どうせ、貴様は見捨てられたんだ。奴にとって、生物兵器開発など人間や俺達龍を、足止めするくらいにしか考えていないだろう。そうやって時間を稼ぎ、自分の目的を果たすつもりだろう」
だが、ネブラの言葉に沢村は反応を示さない。
死んだわけではないようだが、ショックが大きい様である。
虫の息である沢村は、気力だけで持っているのか、徐々に弱々しくなっていき、意識も朦朧としてきているようである。
だが、既に立場を失っている事に気づいたのか、ポツリポツリとサディアスの目的を話し始める。




