第八話 暴走する武将 ②
敵味方総じて、同じ事を考える状況はそうはないであろう。
ただ、確実にここに居る者全員同じ事を考えていた。
『呂布を逃がしてはダメだ』
その呂布は今、紫電との戦いに悦を感じていた。
己に決して引けをとらない、この目の前の人物を倒したくて仕方がないという目をしている。
「良いぞ!! もっとだ! この俺の怒りを! 闘争心を満たしてみろぉぉお!!」
呂布は、雄叫びを上げながら戟を振り回し、辺りを破壊していく。
紫電が横にいれば、横になぎ払いついでに、前方まで破壊する程の衝撃波を放つ。
紫電が後ろにいれば、90度向きを変えつつなぎ払う。
ついでに、呂布の周り全体を破壊する程の衝撃波が発生する。
紫電が、上から攻撃してくれば縦に叩きつける様に斬りつけてくる。もちろん、前方を一層する程の衝撃波が地面を穿つ。
もはや、呂布が暴れれば暴れる程辺りは荒野になっていく様である。
周りのビルや住居なども一緒に破壊しており、住民が一斉に避難をするのは当たり前であった。
「あかん。一振り一振りが強力過ぎて逆に近寄れん!」
龍化している紫電ですら、その状態である。
普通の軍人など到底敵わない。
なので、この場に自衛隊が到着したところで何もやれることはなかった。
紫電の戦いを見て、他の者達の状況を見て、自分達が何とか出来るレベルではないことを把握してしまった。
なので、住民への安全確保を優先している。
すると、再び呂布の攻撃により大地が揺れ、衝撃波が地面を穿ち蛇の様に進んでいく。
次々と建物を破壊していきながら。
「はよ、なんとかせなあかんのに。こら不味いわ。自慢の雷も効かへんのかい」
すると、今度は呂布の周りを霧がまとわりつくように発生する。
恐らく、ネブラが出したのであろう。
だが、その霧は途中でかき消えていく。
それは、沢村の能力によるものであった。さすがに、今までこんなに何回も、自分の攻撃を防がれたことは無かった。
若干、不愉快な思いをしながら沢村に視線を向ける。
「先に、お前を消さないとダメなのか?」
その言葉に、沢村は得意気になりネブラに返した。
「そりゃな。せっかくの、俺の研究成果を壊されたくはないからな」
この期に及んでも、まだ自分の研究を優先していた。
すると、丁度2人の間に呂布の放った衝撃波が走っていく。
さすがに今のは危なかったのだろうか、2人とも冷や汗をかいている。
「あっぶねぇなぁ!! 電撃特攻!」
さすがに、避けてばかりのカウンター狙いでは意味が無いと感じた紫電は、一か八か呂布の懐に飛び込み、次々と連撃を与えまくっていく。
「おっらぁぁあああ!!」
だが、もちろん呂布はビクともしていない。
「これで、どうや! 紫死雷弾!!」
そう叫ぶと、紫電がしっかりと両手を合わせて握ると前に突き出す。
すると、その手に纏っていた紫の雷が弾の様に固まっていき、そしてその両手から放たれたのだ。それも、呂布に向けて至近距離で。
「ぬっ! ぐっぉぉおおおお!!」
さすがの呂布も、腕を前に十字に組みその雷弾を受け止めるが、その強力な雷弾による衝撃で、そのまま後ろに吹き飛んでいく。
「なっ! う、嘘だろう!」
そして、その先にいる『ブーンドック セインツ』の残り2人を巻き込み、建物の残骸となった壁に激突した。
それと同時に、激しい放電が辺りに散っていき、その周辺にある機械に当たると激しく爆発を起こして、炎が立ち上った。
「なぁ?! 何て事を! 俺の研究データが!!」
どうやら、ただ壊れただけなら後でサルベージは可能だったのだろう。
だが、雷が当たりショートして爆発というこの状態は、さすがに全データが壊れたのだろう。沢村は、頭を抱え絶望の表情になっている。
そして紫電は、沢村のその様子に満足気にしている。
しかし、事態はまだ終わっていなかった。
激しい雄叫びと共に、衝撃波が発生し瓦礫が吹き飛んでいく。
「うぉおおおお!!」
なんと、呂布はあの攻撃にも耐えていたのである。
さすがに、巻き添えをくらった『ブーンドック セインツ』は気絶していた。
『ブーンドック セインツ』は特殊社員と言われているだけであり、実験材料にしかなっていないようであった。
彼等に特殊な名前を与え、自分達は選ばれた戦士だと錯覚させることで、実験材料にされている事を、悟らせない様にしているだけであった。
事実、彼等に戦闘能力というものは皆無であった。
すると、呂布は初めて紫電に向け突撃してくる。
その顔は鬼気迫せまり、そして喜々としていた。
「良いぞ、紫電!! だが。まだだぁぁあ!!」
再び呂布は戟を振り下ろす。すると、衝撃波が紫電に向けて放たれる。地面を穿ち、そのメのの物体を破壊するために。
だが、紫電はその衝撃波を龍化した腕で振り払おうとする。
「うぉおおお!!」
さすがに、両手を使わないと振り払えない様であるが、なんとか気迫と共に呂布の放った衝撃波を振り払ったのだ。
だが、次の瞬間。
呂布は紫電の真上に跳び上がっていた。
「なっ?!」
万事休すと思われたその瞬間、紫電の頭上に鉄の板が飛んでくる。
もちろん攻撃を防ぐようにしている為、呂布は鉄の板をその戟で叩きつける。
「紫電さん! 今のうちです!」
そして、その鉄はアシエが作った物であった。
周りの鉄筋や鉄屑も含ませた、その鉄板は普通よりも遙かに強度を増していた。
「邪魔をするなぁぁああ!!」
それにもかかわらず、呂布はその体勢のまま瞬時に、鉄板を左手を使って横に払いのける。
しかし、その隙に紫電は呂布に向けて、さっきと同じ雷弾を撃ち放つ。
「ええ加減、くたばれやぁぁあああ!!」
「ぬぅ?! うぉぉおおお!!」
今度は呂布が跳び上がっていた為に、その攻撃を避けられずにもろに受けていた。
呂布は、再び後ろに激しく吹き飛んでいく。
そして、壁に叩きつけられ放電と共に土埃の中に消えた。
「ったく、タフすぎるわ。助かったわ、アシエ!」
「全くもうですよ。でも、まだ油断しないで下さいね!」
その中をネブラが、絶望していた沢村と対峙していた。
沢村は、絶望からの立ち直りが早い様に思えた。
「くっくく、いくら研究所を破壊しても。工場は全国に大量にある。生物兵器も、死者の兵もそこで増やせる」
どうやら、『アビリティルギー』と題した怨念を使った、人を鬼化する薬は大量の工場の方で作られていた様である。
「ふん。ならば、全国にいる俺達の配下の龍達に、その旨を伝え破壊させればいいだけだ」
ネブラは沢村にそう言うが、沢村は不敵な笑みを浮かべたままである。
その工場は、破壊されることはないと確信しているかの様に。
「くっ、くくく。ははは! 貴様等、龍が全ての生き物の頂点に立っていると、勘違いをしていないか?」
その言葉に、ネブラは少し不愉快になっているが、あまりこの人物の挑発には乗るまいと、冷静になっている。
「全ての生き物の頂点に立っていると、自負しているわけではない。むしろ、そう思っているのは人間であるお前達ではないのか?」
「そうだろうな。人間は、そう思っているだろう。この地球上で一番数が多いし、知恵もあるからな。だからこそ、NECの工場を簡単に破壊出来ると思わない事だな。世界が注目する薬の工場だ、サディアスが人間を使い対策をしているに決まっているだろう」
沢村のその言葉は、自信に溢れている。
自分の考えは合っている。自分の研究は間違っていない。
だが、その自尊心からくる油断こそが、自らの身に悲劇をもたらすことになる。
「ヒャハッ! ご大層な演説痛み入るよ。だがな、俺はお前みたいな奴が、一番嫌いなんでね」
沢村の後ろから聞こえてきたその言葉の後、沢村の体から刃が突き出る。それはナイフの様な物で、どうやら後ろから突き刺された様だ。
「なっ……がふっ!」
突然走る激痛に顔を歪ませ、沢村は首だけ後ろに向ける。
するとそこには、パーカー姿に後ろに付いているフードを被った、朽木智也の姿があった。
その顔は、人を刺した事による高揚感で満ちていた。




