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煉獄の焔  作者: yukke
第八章 嘲笑う者、欺く者
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第七話 暴走する武将 ①

 夕暮れに染まった街。その雑居ビルが立ち並ぶ場所から煙が立ち上る。

シンプルな外観の、ある会社の建物が突如として崩れたのである。

もちろん、付近の住人達は驚き警察に通報している。


 そんな、建物の残骸からは地下への通路が見えていた。

そこは、ネブラ達が最初に上がった階段とは逆方向に位置しており、入り口からだと死角になっていたのである。


 すると、その先の広げた場所から、丸いドーム状になっている物体が見える。

それは、アシエが作った瓦礫から身を守る為の物であった。

アシエの鉄の前では、崩れる建物から身を守る事など朝飯前であった。

そしてドーム型の鉄は、真ん中から広がる様にして、徐々に形を変えていく。


「ふわぁ。中々激しく崩壊しましたね。皆大丈夫ですか?」


 アシエが辺りをキョロキョロと見渡しながら、他の2人の無事を確認する。

すると、その中にはネブラと紫電の姿も見られた。

どうやら3人とも無事のようである。


「アシエが特製の鉄で守ってくれたさかいに、無事に決まっとるやろう」


 紫電も、崩れた建物の瓦礫を眺めている。

だが、その目は誰かを探している様である。


「あいつら、潰れて死んだんか?」


 どうやら、紫電は沢村を含む『ブーンドック セインツ』のメンバーと、冥界から復活をした呂布を探していた。


「だと良いがな。野次馬も増えてきたし、これで終わっていて欲しいものだな」


 だが、ネブラの期待を裏切るかのように、後ろの瓦礫が激しく吹き飛んだ。

まるで、爆弾でも爆発したかのような吹き飛び方である。


 そう、そこにはあの呂布の姿があった。

信じられない事に、ほぼ無傷である。


「マジで化け物やな」


 紫電はどこか達観したような、そんな表情になり呂布を眺めている。

まじめに戦っても、きりがないのは紫電が実証済みである。

だが、このまま呂布を野ざらしにするわけにもいかなかった。


「しょうがねぇ。紫電、卑怯とか言うなよ。アシエと俺とで協力して、奴を冥界に送り返すぞ」


「元よりそのつもりですわ」


「アシエも、頑張ってみるです!」


 3人はそれぞれ構えると、呂布に対峙する。

ネブラとアシエは、対峙するのが初めてである。

紫電は、こんな奴と戦っていたのかと思い直してしまうくらいに、その気迫だけで吹き飛びそうになる。


「紫電、あんまりお前を責めるべきではなかったようだな。この気迫、相対するだけで常人なら腰が抜けてしまうだろうな」


「褒めてもなんもでないですよ。呂布を倒せないと意味ないですからね」


 3人は、ジリジリと呂布へと迫っていく。

すると、呂布の方が先に仕掛けてきた。


「ぬぉぉおおお!!」


 呂布の標的は、最初から紫電1人であった。

振り回した戟を、まっすぐに紫電に向かい振り下ろす。


「ちっ! 端から俺しか狙っとらんのかい!」


 そう言うと、紫電は龍化した腕でその戟の柄の部分を受け止める。

たったそれだけだが、衝撃により辺りに旋風の様なものが巻き起こり、辺りの瓦礫を吹き飛ばしていく。


「きゃわ!!」


 残念ながら、その衝撃波の様な物でアシエは後方にひっくり返ってしまう。

そして転んだ際に、スカートがめくれ上がりくまさんパンツが見えてしまう。

アシエは、慌ててスカートを押さえ辺りを見渡すが、ネブラは戦いに参加する機会を伺っており、見ていなかった。紫電は戦闘中なので、見ている暇などない。

見られて居なくて良かったと、安堵する一方で。自分に魅力がないのかと腹が立っているようで、頬を膨らましていた。


「アシエ! ボサッとしていないで立て!」


「ひぇっ?! は、はい!」


 ネブラの言葉に驚き、慌てて立ち上がると。

アシエが、さっき転んでいた場所の瓦礫が粉々になっていく。

そう、まるで分解しているかのように。


「ま、まさか……」


 アシエは、ずっとその場所の様子を見ていると、その場所の瓦礫から沢村の姿が現れた。


「はぁ、はぁ。くそ、あのバカ武将が自分勝手なことを! 止まれ、呂布!」


 沢村は、再び冥界の魂を操るという装置に向かい命令する。

だが、やはり呂布はビクともしない。

それどころか、次々に紫電に攻撃を浴びせていく。


「あっぶな! この、野郎が!」


 紫電は、呂布の攻撃をのけ反る様にしてギリギリで回避すると。

体を戻す勢いで、雷を纏った拳で呂布の顔面を殴りつける。

もちろん呂布は避ける気などは毛頭無く、紫電の攻撃を受けていた。


「ふん!!」


 そして、その攻撃にビクともしなかった呂布は、戟を横に振り抜く。


「のわぁ!」


 今度は跳び上がって避けた紫電に、呂布は頭を後ろに反らすと、紫電の頭めがけて強力な頭突きを放つ。


「なっ?! がっ……」


 跳び上がっていては避ける事を出来ず、紫電はもろに攻撃をくらってしまう。紫電は、視界が揺れその場に倒れ込んでしまう。

しかし、その時。呂布の周りを霧が立ちこめていく。

ネブラが、今の内にと毒霧を発生させていたのだ。


「ふん、小賢しい! はぁぁぁああ!!」


 しかし、呂布は戟を頭上に上げてプロペラの様に振り回し始めると、呂布を中心に風ご巻き起こり、徐々に旋風に変わっていく。

そして、気迫と共にネブラの毒霧を吹き飛ばしていく。


 さすがに人間離れしたその行動に、ネブラは口元をひくつかせ、信じられない呂布の行動に呆気にとられていた。


「くらえや!!」


 そこで、下に倒れ込んでいた紫電が復活し、呂布に足払いをかけようとする。


「いったぁ!!」


 だが、呂布の脚に攻撃は出来たものの、呂布は一切動くことはなかった。

それどころか、蹴りつけた紫電の方がダメージを負っていた。


 鬼を模した厳つい鎧で身を包んでいるとは言え、龍の攻撃を防ぐのは困難のはずである。

しかし、呂布の鎧は壊れる事はなく、脚は鉄の様に硬かったのである。


「ほんまに、人かい! こいつは!」


 そう紫電が叫んだ直後、呂布が戟を縦に斬りつけながら、叩き込む様にして振り下ろしてくる。


「ぬぉ!」


 紫電はギリギリのところで回避したが、戟が地面に叩きつけられた瞬間、激しい衝撃波が巻き起こり紫電を吹き飛ばす。


「あっ、だぁ! ぐはっ!」


 そして、地面を転がる様に吹き飛ばされると、途中の瓦礫で跳ね上がりその先の崩れた壁に激突した。

その様子に、ネブラはいつ攻撃を仕掛けるかと、再びタイミングを計っていたが、突然に鉄屑が飛んでくる。


「ちっ、てめぇらも生きていたか」


 その鉄屑を酸の霧で溶かし、飛んできた方向を振り向くと。

鉄筋支えにして、崩れる建物から身を守っていた『ブーンドック セインツ』の姿があった。

だが、立っている人物は僅か2人であった。


「くっ、ちくしょう。博士め俺達は無視とは……」


 どうやら、沢村は崩れる建物を分子レベルで分解し、自分の周りだけに安全圏を作っていた様である。


「ふん。自分の身は自分で守りな。たかがこれくらいで死ぬようなら、特殊社員なんて辞めてしまえ」


 沢村は、生き残った2人に辛辣な言葉を投げかける。

その言葉に、2人は愕然とした表情を見せている。


「それにしてもサディアスめ。タルタロスに、あんな危ない奴が居ることは言っておけ」


 そして、愕然としている2人を無視して文句を言っている。

しかし、その言葉の中にとんでもない単語があったことを、ネブラは聞き逃さなかった。


「おい、貴様。その薬が、新エネルギーで無いことを知っているのか?」


「あぁ、もちろんだ。俺は、科学者だからな。正体の分からない薬で、開発をするわけないだろうが。サディアスを問い詰めたら、きっちりと答えてくれたよ。その上で、俺は奴に協力をすることにしたのだよ」


 沢村は、ネブラの方に体を向けると話し始めた。

自分が、異質であることはとっくに理解していると言った口調で。


「私は、身震いしたのさ。奴に協力すれば、俺は自分の長年の夢であった生物兵器開発と、死体を動かしてそいつを兵隊にする研究。それらが、一気に叶うとわかったんだ! そして、こいつらが市場に出回れば戦争は加速する! そうなれば俺は、歴史に名を刻み。神と崇め称えられる事になるのさ! ハハハハ!!」


 沢村の目的。どんな国でも欲しがるであろう、強力な生物兵器と既に死んでいる為に、倒すことが困難である死者の兵。

これらを作ることだったのである。


「狂った奴だな、益々てめぇ野ざらしには出来ねぇな」


「俺が、狂っているのは分かっているさ! だがな、世界は俺を欲したんだよ! 狂った俺を欲した時点で、世界も狂ってるだろうが!!」


 その言葉に、ネブラは不愉快な表情で呟いた。


「あぁ、そうだな」


 しかし、その言葉の後にネブラはこう付け加える。


「だがな、狂った世界が普通だと言うなら、俺はその中で狂った奴を助けてやりたいんだよ。必死になって命の大切さと、人々の繋がりの大切さと、損得関係なしに人を助ける大切さ。それを必死に実行している狂ったあいつを、俺は助けてやりてぇな」


 ネブラは、天井が無くなり空が見えているその場所で、顔を上に上げながら目をつぶり、その人物を思い浮かべる。

勝手をする人々を、何百年と見てきたネブラは正直うんざりしていた。

そんな中見つけたその人物は、ネブラにとっては衝撃的であった。


 今まで見てきた人と同じだったその人物は、ある日を境に変わっていった。

それが、信じられなかったのだ。そしてその人物は、今までのどの龍とも違う性格を持った龍となった。

そして、今この事態を終息させる鍵となっていた。


「花凛、お前は立ち止まるなよ。自分の中の闇に染まるなよ。俺は、信じているからな」


 そう言って、ネブラは目を吊り上げる。

その目は眠そうではなく、面倒くさがっているわけではない。

ただ花凛の力になる。その事だけを意識した目であった。

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