第六話 ~ 生物兵器開発を止めろ ~ ④
ネブラは、次々と濃い霧を発生させる。
まるで何かを確かめるかの様にして。そして、もちろんその霧は文字通りに、霧散する様にかき消えていく。
「ちっ、どうやら。あの白衣を着た野郎が何かしてやがるな」
どうやら、沢村の事を言っている様である。
確かに、ネブラが霧を発生させそれがかき消えると、不敵な笑みを浮かべているのだ。どう考えても、私がやっていると言っているようなものである。
完全に舐められている様子に、ネブラは若干苛立っていた。
「まだまだぁぁぁああ!! うぉぉぉおおお!」
「はっ! さすがに力はそっちの方が上やな! せやけど、スピードはこちらのが上やで!」
ついでに後ろの、呂布と紫電の戦いのびと、衝撃音にも苛立っている様だ。
頭を掻きむしりながら、ため息を付くと紫電達に聞こえない様につぶやく。
「耳障りなんだよなぁ……」
「ネブラさん、それはちょっとだけ言い過ぎですよ。って、きゃわ?!」
アシエが、ネブラに注意しようとした時。今度は真正面の、沢村の後ろにいる人物達の方向から、長い鉄片がネブラとアシエ両方を狙う様に飛んでくる。
それを何とか、お互いが左右に跳んで回避をする。
「ふん、沢村博士の手を患わす様なことはさせん! 我々『ブーンドック セインツ』の精鋭部隊が相手だ!」
そう言って、前に出てきた男性が手を上に上げると、それに引っ張られる様に下に落ちている鉄片が浮き上がる。因みに、男性を含む後ろの人物達は、皆一様に白いロングコートにフードを被っているので、顔がほとんど見えない。
今まで会ってきた『ブーンドック セインツ』達は、各々好きな格好をしていた。ほとんどが普段着ではあったが。
だが、この人物達は同じコートを着ているので、精鋭部隊と言うのは確かなのだろう。
「俺は、磁力を操れる様になった。こんなに、便利な能力が付く者は滅多に居ないのだよ。くらえ!」
そして、そいつは今度は手を前に突き出した。
すると、その男の前に浮き上がらせた鉄片がまっすぐに、アシエに向かって飛んでいく。
「むぅ? 鉄心龍であるアシエを狙うとは、舐められたものですね!」
そう言うと、アシエは飛んで来た鉄片を殴りつける。
すると、その鉄片はぐにゃぐにゃと形を変えていき、大きな鉄の拳となった。
「鉄心拳 アシエちゃんパ~ンチ!!」
アシエがそのまんまのネーミングを叫ぶと、その拳は真っ直ぐに飛んできた方向に向かっていく。
だが、磁力を操る人物にたどり着く前に、鉄の拳は一種で砂の様にボロボロに砕けていく。
「ふえ?! さっき、ハンマーをボロボロにされたのと同じですか?!」
どうやら、これも沢村のせいなのだろう。また、不敵な笑みを浮かべている。
だが、その後。沢村の表情が怒りの顔に変わる。
「もう少し考えてターゲットを決めろ。さっき、あの子は鉄のハンマーを作っているんだぞ、つまり鉄を操る龍だろう。そんな奴に鉄をぶつけてどうするんだ、このアホ」
沢村に注意された、磁力を操る人物は縮こまっている。
すると、今度は別の人物が前に出てくる。
「なら、ここはこの俺の熱を操る能力で!」
すると、急に実験室の中が熱くなっていく。
厄介な能力を持った人物ばかりを集めている様であり、まともに戦うとなるとどれだけの時間がかかるだろうか、そんなことをしている間に、敵側の他の四天龍が出てきたら、一貫の終わりである。
「甘いな、ここの温度を上げきる前にここを壊せばいい。アシエ、一か八かだ。さっき出したハンマーの、倍の大きさのハンマー出来るか?」
「簡単です! でも、ちょっと実力出さないとだめですから、龍化するです!」
そう言うと、今度はアシエの体が徐々に変化していく。
お尻に龍の尻尾も生え、瞳孔も縦に変わるとさすがに普通の女の子じゃないと、だれでも分かるであろう。
「いくですよ~!!」
龍化したアシエが、残った片方の腕輪を変形させると、自分の能力で容量と大きさを増やしていく。
すると沢村は、何故かそのハンマーを睨みつけている。
人を射殺すさんとする様な、恐ろしく鋭い目つきで睨みつけていた。
「よし、完成です! 鉄心槌 アシエちゃんDXハン……」
「ごちゃごちゃと技名言ってないでさっさとやれ。技名言う時点で、隙が出来てやられやすいんだよ。長ければ長い程無意味だ、もう少し考ええろ」
アシエがハンマーを振りかぶった所で、ネブラにそんな事を言われたので、その格好のままピタリと止まってしまった。
「何も、そこまで言わなくてもいいじゃないですか」
少し泣きそうな顔で、アシエはネブラをじっと睨みつける。
だが、もちろんネブラはそんなことはお構いなしに、アシエに指示してくる。
「いいから早くやれ。また粉々にされるぞ」
だが、今回は粉々にされる気配がなかった。
それに気づいたアシエは、一気にハンマーを振り下ろした。
因みに、周りの温度は既に40度を超えていたが、龍であるネブラ達は、お構いなしに動いていた。
普通の人間なら、倒れそうな位の暑さである。
となると、もちろん普通の人間のままの『ブーンドック セインツ』達は、暑さで朦朧としていた。しかも、ロングコートを着ているので尚更である。
「くらえです~!!」
そして、アシエはそのまま遠慮なく巨大なハンマーを、研究所の機器類に目がけて振り下ろす。
「くっ!!」
すると、ここでようやく沢村が険しい表情になる。
どうやら、このハンマーは粉々に出来ない様である。
だが、アシエのハンマーは機器類を壊す事なく、途中で止まってしまう。
「ほえ?! 今度は何ですかぁ!」
2度も3度も自分の攻撃が止めらてしまうアシエは、さすがに苛立ちを隠せないでいた。
すると、沢村が後ろにいる人物達に怒りの言葉を投げかける。
「ふう、危ねぇな。遅いぞ!!」
すると、後ろにいる『ブーンドック セインツ』の1人が、申し訳無さそうに謝ってくるが、少し言い訳も混ざっていた。
「も、申し訳ありません。このバカのせいで暑くて……。おかげで、糸を張るのに時間がかかりました」
その言葉に、アシエは目を凝らすと。細いピアノ線の様な物が、アシエのハンマーの上から、ハンマーを吊すように伸びていた。
どうやら、それで引っ張って止められたようである。
「ふふ、残念ね。私は糸を操る能力よ。あなた達、全員を操り人形のようにして……って、寒いわね! 今度は寒過ぎて、指がかじかんで動かないわよ!」
「暑すぎる、寒すぎるってうるさい奴らだな! 暑い暑いって言うから下げたんだよ!」
その様子をアシエは困った表情で見ている。
チームワークというものがなっていない『ブーンドック セインツ』達。
沢村も、さすがにうんざりとした様子でそいつらに次々と指示をとばす。
「どうでも良いから、早いとこ糸で奴等の動きを封じろ! 霧や鉄で防ごうとしても、俺が分解してやるから早くしろ! 後な、熱を操る奴は気温を操るな! 分かんねぇのか自分の能力が」
「あっ、す、すいません!」
その人物がそう言うと、周りの気温が安定してきた。
しかし、次の瞬間。見えない何かが、アシエとネブラの動きを封じてくる。
「ぬぅ。こんな糸くらいで、アシエちゃんは止められないですよ!」
アシエは、自分の体の表面を鉄の様に硬くコーティングをすると、思い切り腕を広げて自分を拘束する糸を引きちぎった。
もちろん、ネブラも表面に目に見えない程の薄い酸の霧を発生させ、拘束する糸を溶かしている。
「ちっ、ガキの方はたまたまだろうが、眠そうな奴は俺の能力が何か分かってやがるな」
「あぁ、だいたいはな。なかなか面白い能力だが、少し使い勝手が悪そうだな」
沢村の言葉に、ネブラがにやけ顔でそう告げる。
「貴様の能力、物質を分子レベルで分解する能力だろ?」
その言葉に、沢村の眉が若干動いた。まるで、見事に正解を言い当てられた時の様に。
「しかも、その目で見た無機質の物100キロ以下しか分解出来ない様だな」
「ふん、ご名答。こんな能力が付くなら、制御装置を片目にはめるべきではなかったな。まぁ、どうせ片目は生まれつき見えてなかったから、どうでも良いがな」
すると、突然アシエが沢村に向かって巨大なハンマーを振り下ろしてくる。
影が見えていたので、ギリギリの所で沢村は回避をする。
「ちっ、クソガキが」
「ふっふ~ん、アシエちゃんはガキではないですよ! それにあなたの能力、私の前では無意味と言うことですね! 質量も自在に操れるアシエちゃんの前にひれ伏し……わきゃぁ?!」
アシエが久々に格好つけていたが、後ろから紫電が飛んできてアシエの後頭部を強襲した。
「あっ、わりぃ。アシエ大丈夫か?」
「紫電さん!! いい加減アシエの邪魔をするの止めてくれませんか?」
アシエが、頬を膨らませて怒っている。
しかし、紫電は自分のせいではないと言わんばかりに否定してくる。
「しゃあないやろ! 呂布の野郎が、やたらめったらに暴れ出していて、押さえつけるのに必死やっての! そこら中の装置まで、派手にぶっ壊しまくってるしな」
「なに?! くそ、起こすには早過ぎたか。理性がまだ保てていないのか!」
紫電の言葉に、沢村が慌てて白衣のポケットから、何か丸い装置の様な物を取り出す。
それを口元に持ってくると、呂布に命令するように言葉にを発した。
「呂布、止まれ。暴れるな」
すると、後方で戟を振り回していた呂布がピタリとその手を止め、まるでマネキンの様に佇み動かなくなった。
「ふぅ、サディアスから貰っておいて正解だったな。何とも、扱いにくい奴だ」
「貴様、まさかそれは……」
沢村の持つ装置に目をやった、ネブラが目を丸くしている。
あの眠たそうな目が、眠気が覚めたかのようにカッと見開いていた。
それほどにまで危険な物なのだろう。
「ほう、これを知っているのか。私はただ、魂を操る事ができる装置としか聞いていないがな。こうやってな。呂布よ、3人だけを狙い殺せ」
「ぐっ、う……うぉぉおおおお!!」
すると、それに呼応するかのように呂布の目が赤く光ると、戟を頭上で振り回し始めた。
「あかん! フルパワーで打ち込む気や!」
「おいおい、俺達だけを狙うならその行為はおかしいだろう」
確かに、呂布が振り回している戟からは、気迫の混じった旋風が吹き荒れていた。
それこそ、周りの機械や装置ごと叩き壊す壊す勢いで。
「おい、待て! 呂布、止まれ!!」
しかし、呂布は今度は止まらなかった。
装置によって命令は効いているはずである。しかし、呂布はそれに反している。
その気迫によるものか、強靭な精神力によるものなのかは分からない。
「俺は。俺は、誰の指図も受けぇぇええん!!」
「おい! 糸で止めろ! 磁力を使って鉄で拘束しろ!」
沢村は、焦って『ブーンドック セインツ』に様々な指示を出す。
「糸でさっきから拘束しようとはしていますが、全部切られちゃいますよ!」
「鉄で拘束しようにも、たたき切られますよ。さっきからみていたら、鉄なんかスパスパ斬ってますよ!」
彼等は、予想だにしていなかったようである。呂布の精神力を、そしてその力を。
冥界で何があったかは分からないが、もはやその力は人を超えていた。
「うぉぉおおおお!!」
呂布は、雄叫びと共に戟を床に叩きつける。すると、いくつもの衝撃波が発生し、地面を這うように辺りを壊しながら進んでいく。
壁に埋め込まれたケースも、中央に何本かあるカプセル型の装置も、沢村の奥にある檻も、何もかもを破壊しながら。
「紫電さん、ネブラさん! 早く、アシエの近くに来て下さいです!!」
遂には天井にヒビが入り、地下室もろとと建物が崩壊する。
それを察知したアシエは2人にそう叫んだ。
「操れない者を復活させてんじゃねぇよ。まぁ、こっちはそのおかげで楽できたがな」
ネブラと紫電が、アシエの近くに来たことを確認すると、アシエは巨大なハンマーを変形させて、自身とネブラ達を包むようにドーム型に変形させる。
そして、その瞬間。激しい轟音が鳴り響き建物が崩壊していく。
アシエの鉄のドームは、崩れる建物の瓦礫を受け止めており、激しく振動していた。




