第三話 ~ 生物兵器開発を止めろ ~ ①
ネブラを含めた3人は、上階へとたどり着いた。
この建物は思ったより低く、2階建てである。
読み通りであれば、この階に沢村と生物兵器を開発する場所があるはずである。
そして、上階に上がった直後に襲ってきた敵も、ネブラによって夢の中へと連れて行かれてしまう。
潜入等、このネブラには朝飯前であった。
「強すぎんでネブラさん」
「面倒くさいから、とっとと終わらせたいだけだ」
紫電の言葉に想像通りの事を返してくるネブラは、ある意味いつも通りなのだろう。
そして次々と部屋を見ていくが、これと言って変わり映えはしなかった。
ただ、1階と違いどの部屋にも社員が居なかったのである。
居るのは、襲いかかってくる『ブーンドック セインツ』のみである。
「おかしいです。2階には、社員は居ないのですか? それとも、避難したんですか?」
アシエは、その事をしっかりと疑問に感じていた。
2人は気づいているのか、確認の為に聞いている様である。
「あ? 沢村って奴が、感づいて避難させたんやろ?」
「いや、それなら1階から2階へと上る階段付近の奴等も、その事を聞いているはずだ。だらか外に逃げるか、この2階に逃げているはず。しかし、居ないということは……」
そう、2階に上がる階段付近の部屋にも社員は居なかったのである。
結局、NECの社員が居たのは入り口付近の部屋で、データ入力をしていた人達だけであった。
「きな臭いですね」
片っ端から部屋を調べている紫電達に、アシエが呟いた。
それは、ある予感をしていたからか。不安な表情をしていた。
「ん? なんや? どっかからか悲鳴? いや、うめき声が聞こえんで」
すると紫電が突然そんなことを言ってくる。どうやら、遠くから聞こえる微かな声を聞き取っていたようである。
その言葉に、アシエの顔色がより一層悪くなる。
「うぅ、嫌な予感が当たっているかもです。だとしたら、その沢村って博士は狂っているです」
そのアシエの言葉に、ネブラが足を止める。
そして、後ろにいるアシエに振り向くと、アシエの考えを確認してくる。
「言ってみろ。お前達は情報収集が得意だろ。だからこそ僅かな情報でも答えを見つけ出す。それが、ネーヴァの配下達の能力だからな」
ネブラに言われてアシエは頷き、うっくりと口を開く。
「恐らくですけれど、NECの社員達を使って『アビリティルギー』を利用した生物兵器を、ここで作り出そうとしているんじゃないかと思うです」
アシエの見解に、ネブラも紫電も腕を組み考えている。
だが、紫電はどちらかというと、アシエの言った事を理解するために考えている様子である。
「なるほどな、とりあえず声のする方向に行くぞ」
ネブラに続き、紫電とアシエも足早に声のする方向に向かっていく。
ただ1人、アシエだけは不安な表情を消せずにいた。
そして悲鳴が聞こえてくる廊下の先、突きあたりになっている右から聞こえてくる様である。
そちらの方にネブラは足を向けると、突然立ち止まる。
「うわっと! どうしたんすか? ネブラさん」
急に立ち止まるものだから、紫電はぶつかりそうになってしまう。
しかし、その先の光景を見て紫電もアシエも息をのんだ。
その廊下は真っ直ぐ続いているが、両側がガラス張りの大きな部屋になっていたのだ。
そして、どうやら悲鳴やうめき声はそこから発せられれている様である。普通の人間ならそれだけでも恐怖なのだが、龍である3人は別のモノもその目に捉えていた。
「何なんですか、この怨念のオーラの濃さは」
そう、3人にはタルタロスから漏れた怨念のオーラ。人を鬼化させる原因のオーラが、その廊下中に満ちていたのだ。
そして、その先からゆっくりと何かが近づいてくる。
「ちっ、面倒すぎるぞこれは。鬼化した……いや、真鬼化した奴等だ」
だが、ネブラのその言葉を紫電が否定してくる。
それは、どう見ても普通の真鬼化とは違ったからである。この状況は、前にも見たことがあった、花凛と一緒に共闘したあの真鬼の時と。
「ちょっと待った。これはただの真鬼化やない。この感じ、花凛と一緒に戦ったあいつと同じ雰囲気や。間違いない、こいつら死体や!!」
「ひぇっ?! し、死体ですか?!」
紫電の言葉に、アシエが心底脅えてしまう。だが怖いというよりは、腐っていて気持ち悪いというイメージからであった。
「何を今さら。ここ最近、死体が鬼化して暴れているという情報もあったからな。だが、死体なら遠慮なく……」
そう言ってネブラが殺気を放ち、毒霧を出そうとする。
しかし、それを紫電が止めてくる。
「待って下さい。なんや、おかしな奴もおります! あれは、『ブーンドックセインツ』の奴等やないですか?」
紫電の指さす方、鬼化した死体の群れの中に数名の生きた人間が紛れていた。しかも、鬼化はしていない。
だが、その目は虚ろで視点が定まっていなかった。
「ちっ! 範囲攻撃の対策か? くそ面倒くせぇ」
ネブラがそう言った瞬間。
後ろの紫電が、紫の雷を放つ。それは綺麗に死体で鬼化した者だけを、狙い撃ちにしていた。
「ほう、同じ範囲攻撃でもピンポイントで狙えるお前の方が、室内戦闘に向いてそうだな」
「茶化さんとってください。ネブラさんも、やろう思たら出来るでしょうに」
だが、その言葉にネブラは素っ気ない態度で前を向き直す。
どうやら図星であった様子である。しかし、そんなことを言っている場合ではないようで、次から次へとガラス張りの部屋から、真鬼化した死体が沸いてくる。
「ネブラさん、アシエ! ここは、俺が引き受ける。先へ進んで下さい! 感電させて動きを止めますさかい、その隙に!」
「分かった。だが気を付けろ。格好つけている様だが、あいつはヤバいぞ。あんな者まで復活させるとは、沢村という博士は恐れ入る」
どうやら、ネブラと紫電は何か強者の気配を察知したのか、より一層顔を引き締め、真剣な表情になっていた。
「分かってます。せやけど、こちらは龍やで。たとえ強者でも人では限界はある。真鬼化で新たな力を得てもそれは一緒やねん」
「お前は、その油断が弱点だ。気を引き締めろ」
ネブラにそう言われると、紫電は自覚しているのかその言葉に答えるように頷いた。
そして、再び紫の雷で今度は前方の敵を、動けなくさせる程度の電力でその足を止めた。
それを確認すると、ネブラとアシエは隙間を縫うようにして、その先へと走りだす。
「紫電さん、大丈夫でしょうか?」
「さぁな。油断さえしなければな」
ネブラ達の行った後、紫電は足を止めていた鬼化した死体を浄化し、虚ろな目をした『ブーンドック セインツ』も気絶させる。
「何やこいつは、精神をズタボロにされた奴に近いな。何かしらの人体実験を受けて、精神に多大なダメージでも受けたんかいな」
しゃがみ込んでその者の様子を見ていた紫電は、ゆっくりと立ち上がり後ろからやって来る者に声をかける。
「後は、お前やな。お前の様な奴も復活するとは、タルタロスの怨念はえげつないもんやな」
どうやら、そいつは先程の突きあたりを左に向かった先、つまりネブラ達が向かった反対側からやってきている。
「俺達なんかは、若輩者やし会ったことはないが1000年生きる龍の中には、会った奴もおるやろう。現にネブラさんは400年生きとるしな。しかし、鬼神と呼ばれていた事だけはあるで、凄い気迫やわ。なぁ、呂奉先!!」
そう叫ぶと紫電は振り返る。
すると、そこには真鬼化した者と同じように目を赤く光らせ、鬼をモチーフにした厳つい鎧と、大きな戟を握り禍々しいオーラを放つ、三国志の猛将呂布の姿があった。




