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煉獄の焔  作者: yukke
第七章 全てを託され前へと進む
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第八話 神楽家急襲 ~ さようなら ~

 花凛は、源十朗をその先に行かせない様に、次々と攻撃を浴びせる。

いくらネーヴァの氷の壁があるとは言え、源十朗の前では意味が無さそうだと、花凛は感じていた。


「ふん、うっとうしい。弱者は弱者らしく、地面に這いつくばっておけ!」


 花嫁の攻撃を受け止めた源十朗が、叫ぶと同時に逆手に持った日本刀を偃月刀ごと、振り抜いてくる。

花凛は、そのまま後ろに飛ばされるが、その次の瞬間。

振り抜いた日本刀から、多数の真空の刃が放たれ花凛を襲う。


「ぐぅっ!!」


 花凛は、腕を前にもってきて何とか防御姿勢を取る。

しかし、真空の刃は強力であり、再び花凛は膝をつく。

だけど、退くわけにはいかない。花凛は、再び立ち上がる。


 何度攻撃しても倒れない花凛に、源十朗はイラつきを抑えられずにいた。

その姿は今までの自分の考えを、生き方を、その全てを否定されているかのように見え、攻撃にも怒気がこもりつつあった。


「あぅ!!!」


 源十朗の何度目かの攻撃によって、花凛の体は傷だらけになり、血で庭の葉を赤く染めていく。


「はぁ、はぁ。まだまだぁぁあ!」


 花凛は、偃月刀を構え再び源十朗に突撃する。

このままでは勝てないのは花凛でも分かっていた。それでも、心は折れない。折ってたまるか。そんな思いを持って、花凛は攻撃していく。

縦に、横に、斜めに。様々な方向から、相手の隙を見つけるために出来るだけ素早く攻撃していく。


『花凛……』


 その姿に、リエンは何かを感じている。

花凛と出会い、今までの事を振り返っている様に。

リエン自身も色々考えさせられた、数ヵ月。

過去の自分を悔いる事なんてないと思っていた。だけど、花凛と出会いその優しさに触れ、リエンは少しずつ龍と人の関係に憂いを感じていた。


「いい加減にしろ、勝てないと分かっているはずだぞ!」


 源十朗が声を荒げ、日本刀を逆手に持ち振り抜く。

その度に剣閃が飛び、真空の刃が花凛を切り刻む。


「俺は、まだ本気ではないぞ。それなのに、相手にもなっていない。それでも向かってくるか! 命を無駄にする行為に何の意味がある!」


 気づけば花凛の体には無数の傷があり、息も絶え絶えになっている。

それでも、花凛は向かっていく。懐に潜り込めば、渾身の一撃を叩き込むつもりで。身を低くし、源十朗に向かい突撃する。


「それでも、私は。諦めない!」


「鬱陶しいわ!!」


 源十朗が、足を高く上げその場でかかと落としを繰り出す。

何もないところにかかと落としをするなんて、と思っていた花凛は数秒後に相手の行動の真意を理解する。

今度は、源十朗の足全体が刃の様になっており、蹴り下ろしたその足から巨大な真空の刃が飛び出し、地面を抉りながら花凛に向かってきたのだ。


「っ!!!」


 激しい、衝撃音が辺りに鳴り響く。

判断が少し遅れたのか、花凛はもろにくらっている様子であるが、土煙によりよく見えなくなっていた。


「ちっ、少し力み過ぎたか」


 しかし、その直後。

土煙の中から、花凛が猛スピードで突っ込んできた。


「なに?!」


「はぁあ!! 火焔掌波!!」


 一瞬の隙に懐に飛び込んだ花凛は、最大の力を込めて源十朗のみぞおちに、炎を纏った掌底をくらわす。

しかし、激しい爆炎は上がったが、源十朗が吹き飛んだ感触がなかった。

そして、ガシッと腕を掴まれ花凛は身動きがとれなくなる。


「これがどうした。こんな攻撃で俺がやられると思ったか」


「う、嘘?!」


 花凛の攻撃に、ビクともしない源十朗は日本刀を構え花凛に向けて、上から下に真っ直ぐ渾身の力で斬りつけた。


「あっ……」


 真っ二つになることはなかったが、激しい血柱が花凛の体からほとばしる。

そして、ゆっくりと花凛は後ろに倒れ込んだ。


「花凛!!」


「あかん! 神田のおっさん! 今、飛び込んでも見えない敵の餌食や!」


 その様子に神田が絶叫する。普通なら即死レベルの攻撃である。

いくらなんでも、ただで済むはずがなかった。


「あっ、うっ、ぐ……。がはっ!!」


 視界が歪み、口から鉄の味が広がり吐血し、血はとめどなく流れてくる。

もちろん、立つことは出来ない。自然治癒力が上がっているだけなので、さすがにこれだけの重傷は、すぐには治らない。


 それを確認した、源十朗はゆっくりと神楽家へと歩みを再開する。


「まったく、手間をかけさせやがって」


 花凛に捨て台詞をはいて。


「まっ……。うっ、ぐぅ!」


 動こうとすると、全身が痛み血が噴き出す。

これは、さすがに不味いと花凛は感じていた。


『やれやれ、こうなるのは目に見えていたでしょ』


 倒れ込んだ花凛の上から、リエンがのぞき込む。


「はぁ、はぁ。そ、それでも。ぐっ……。さ、3人を」


 這いつくばってでも源十朗に向かおうとする花凛を見て、リエンはため息をつく。


『あなたねぇ、気合いで実力の差を埋められたら、苦労はしないでしょう』


「そ、そんな事くらい……。はぁ、はぁ。げふっ!」


 再び、大量の血を口から吐き出す。

これ以上無茶をすれば、いくら龍であっても死は免れない。


『まったく、花凛。あなたって人は。でも、あなたはそれでいいのよ。その意志が、いつか大きなうねりとなって、あいつらの野望を打ち砕く力になるはずよ』


「リ、リエン?」


 いきなり、何を言い出すのかと引きずっている体を止めて、リエンの方に向く。

すると、リエンの体の一部が炎に変化し徐々に大きくなっていく。


「えっ? リエン。な、何を? 何をするの?」


 花凛はリエンに不安そうな顔を見せ、リエンの行動を問いただす。


『以前、あなたに言ったわよね。あなたの魂は既に龍になっているって。でも、体はまだ完全では無いって。源十朗を倒すには、花凛が完全に龍にならないと無理よ』


 花凛は、その言葉でリエンが何をしようとしているかが分かった。

そして、それを必死になって止め始める。


「だ、だめ! リエン止めて! それ、だけは」


『じゃぁ、このまま3人が連れ去られ殺されても良いの?』


「よ、良くない! それでも、リエンも失わずになんとかしてみせる!」


 しかし、花凛のその提案はリエンに聞き入れられなかった。


『ダメよ、私はあなたの枷にはなりたくない。花凛、あなたは既に私を超えているのよ。神龍の加護を得たときに、私を超えているのよ。でも、私の潜在意識がこうやって残っているいじょう、あなたは神龍の力をうまく扱えないのよ』


 ゆっくりとリエンは目を閉じる。そして、リエンの体は徐々に炎へと変化していく。


『もうとっくに、私とあなたの魂は馴染んでいたのよ。でも、私が無理やり自我を保ち、潜在意識を残していたから力も分散してしまっているの。もう既に、あなたと融合した直後とは違っているのよ。花凛、あなたはもう私なの。そして、リエンである私はあなたなのよ』


「分かんない、そんなの分かんない! リエン! あなたはあなたでしょ?!」


 しかし、その時。この事態に気づいた源十朗が、2人に向かい真空の刃を放つ。

だが、それはリエンの発した炎に包まれて消えた。


『邪魔しないで、見ておきなさい。グラディウス。これから、四天龍をしのぐ龍が誕生するのよ』


「ちっ! 脆弱なそいつに全てを託すのか? そんなミスをお前が犯すとはな」


 しかし、それでもリエンは止めることはなく、もう既にリエンの体の全ては炎と化し、炎がリエンを形づくっている状態になっていた。


「リエン、ダメ。ダメだよ!」


『花凛。大丈夫。また会えるから。あなたが、私を忘れなければ、また会えるわよ』


 涙を流しながら訴える花凛の頬を、リエンの炎の指がなぞり涙を拭う。

しかし、涙は炎で蒸発する。

それでも、花凛は熱くなかった。むしろ、温もりを感じている程である。

リエンの優しさを、他の龍にはない花凛を思いやる優しさを。

いつの間にか、リエンにとっても花凛はかけがえのない人物になっていた。


『花凛、泣かないで。これから先の戦いは厳しくなるのよ。いつまでも、力を分散させて、効率の悪い事をしていては大事を成せないわよ』


「うん、うん。分かってる分かってはいたんだよ! でも!」


 花凛も、薄々とは気づいていたのだろう。自分が戦っている時、力が何かにせき止められている。そんな感覚があったようである。


『大丈夫。あなたなら、やれるわ。あなたはもう立派な龍よ。さっ、行きなさい! 今は前だけを見て、自分の守りたい者、成したい事、全てを見据えて前に進め!』


 リエンの激励に、花凛は強く頷きゆっくりと膝を曲げ、立ち上がる。


「リエン。きっとまた会えるよね? 嘘じゃ無いよね、その言葉」


『えぇ、もちろんよ』


 その言葉を聞き、花凛はゆっくりと目を閉じる。

リエンと出会い、そして一緒に戦い、一緒に寝て、一緒にバカ騒ぎして、そして時にはからかわれ、家族以上の存在になったリエンとの思い出を、走馬灯の様に思い出していた。


「リエン。ありがとう」


『私もよ、ありがとう』


 花凛の頬に再び涙が伝う。

これは、勝つための犠牲ではない。前に進む為に、2人が出した答えなんだ。

花凛は、何故かリエンも同じ事を考えていると感じていた。


 そして、遂にリエンはその形を崩し、炎の塊となり花凛に重なる。

花凛は、ゆっくりと上を見上げる。


 暖かい。

でも、力強い。

同時に流れてくるリエンの想い。

記憶が流れて来ないのを、少し疑問に感じたが、それを一瞬でかき消すくらいの強い想いが花凛に流れてくる。


 押さえ込まれる事も、壁に遮られる事も無くなった、全ての力が体の奥からわき上がってくる。


 そして、炎に包まれた花凛は、徐々にその炎を取り込んでいく。

炎は優しく花凛をなで上げ、体に纏わり付く。

するとパジャマ姿から、炎をモチーフにしたコルセットを身につけ、偃月刀に取り付けてあった鈴が大きな音を鳴らし、はじけ飛ぶ。

すると、偃月刀の形が徐々に変化し、刃の部分が更に鋭く厳つく変化していく。

その姿に、源十朗は目を丸くし驚いている。


「ちっ……。まさか、そのレベルにまで到達するか。真龍化」


 リエンだった炎は、花凛の体に全て取り込まれて消えた。

そして、ツインテールが解けウェーブのかかったロングヘアーの髪は、まるで炎がゆらめいでいるかのように、真っ赤な色に変化している。


「さぁ、覚悟しなさい。処刑の時間よ。グラディウス!!」


 そう言うと、花凛はカッと目を見開く。

その瞳は炎の形に変化し、もはや普通の龍の瞳とはかけ離れていた。

腕も、肘から下が龍の腕に変化し、龍の翼も炎の様になっており、龍の尻尾も生え、脚も膝から下が龍の脚の様に変化している。


 そして、より力強いイメージに変化した偃月刀を、上に掲げクルクルと回し始めると、横でのらりくらりと、のんびり相手の攻撃を交わしているネーヴァに一喝する。


「ネーヴァさん!! 真面目にやって!! 本気でいくから、壁よろしく!」


「なっ?! 私に、命令? って、ちょっと待ちなさい!!」


 ネーヴァは花凛の偃月刀の刃先が、巨大な炎の塊を纏っているのに気づき、慌てて味方に氷の壁で上下も囲うように、ドーム状に包みこんだ。

もちろん神楽家もである。

それを確認した、花凛は。偃月刀を地面に振り下ろす。


「ちっ、なんだこの熱量は!!」


 あまりの熱さに、源十朗は身動きが取れていなく。花凛の行動を止めることすら、出来ていなかった。


煉獄(れんごく)神焔(しんえん)!!」


 花凛の叫びと同時に、偃月刀の刃が地面に刺さる。

すると、同時に神楽家の庭一帯を焼きつくす様に、地面から業焔がほとばしる。


「ぐわあぁぁぁぁぁあああ!!!」


 複数人の悲鳴が響き渡る。もちろん、源十朗と宗次朗もまともにくらっている。


 これが、完全に龍化した花凛の力であった。

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