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煉獄の焔  作者: yukke
第七章 全てを託され前へと進む
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第七話 神楽家急襲 ~ 助っ人と敵の増援 ~

 雪をイメージした水色のドレスをなびかせ、源十朗の攻撃を軽やかに交わすネーヴァは、表情を変えずに悠々としている。

のんびり屋な性格は、戦闘でも焦らず事態を処理するにはうってつけであるようだ。

しかし、お互いをよく知る存在な為、源十朗も焦らず本気で攻撃していなかった。


「どうしました? 本気で来ないのですか?」


「ふん、貴様も本気ではあるまい」


 お互い様子見なのだろうか、威力はありそうだが全て本気でうちこんではいなかった。


「私達が本気を出せば、この辺り一帯が荒れ地になってしまいますからね」


 とんでも無いことをしれっと言うネーヴァの言葉を、少し離れた所で聞いていたリエンは、ため息をついている。


『相変わらずね。あの人は』


「どうしたの? リエン」


 リエンの呟きに、向こうで何かあったのかと思い、花凛が聞き返す。

しかしその時、風を切る音がし見えなくなっている敵が、攻撃をしてきたことに気づき花凛は、偃月刀を横に構え柄の部分でそれを防ぐと、返す勢いで偃月刀を回転させ、その何者かのバランスを崩すと、思い切り横になぎ払った。


 すると何かを斬りつけた感覚と、うめき声が聞こえ目の前に倒れ込む音がする。

紫電や、アシエ達は気配を察知するのは苦手なのか、範囲攻撃で対応しており、神田はさすがに武道をやっているだけあってか、気配を察知しカウンターで反撃したりしている。

しかし、どれだけの援軍が来ているのか分からずに、体力だけが消費されている。


「くっそが、大将とらな不味いで。ネーヴァさん、はよしてくれや」


「もしくは、透明化能力の人物を倒すです」


「でも、そいつは私がダメージ与えているから何処かに隠れ潜んでいるはず、見つけるのは難しいわ」


 3人は、いつも間にかお互いに背を預け合いながら戦っており、そこから離れると敵の集中攻撃を受けるのは間違いない無く、透明化能力の人物を探すのは至難の業であった。

こうなったら、大将と戦っているネーヴァに頼らざるを得なかった。


 その頃、ネーヴァと源十朗は相変わらず本気を出さずに、源十朗の攻撃を氷の塊の壁で防ぎネーヴァが反撃し、それを源十朗は避ける。

そして、また懐に飛び込む様にして、逆手に持った日本刀を斬りつける。

これを先程から、ずっと繰り返していた。

その様子からして、源十朗は何かを待っているようである。

すると、源十朗の胸ポケットに入れてあるスマホが、1回だけ振動をする。


「やれやれ、ようやくか」


 源十朗が、そう呟くと左指をパチンと鳴らす。

その瞬間、大きな衝撃波がネーヴァの後ろから飛んでくる。


「む……増援?」


 後ろから突如攻撃されたというのに、ネーヴァは落ち着いて氷の壁を作り、衝撃波を防いでいた。

そして、ネーヴァは衝撃波が飛んできた方向を向く。

そこには、腕を異形に変化させた宗次朗の姿があった。

相変わらず、赤に白いストライプのスーツで派手である。


「遅いぞ、宗次朗」


「クヒヒ、来てやっただけでもありがたく思いなさい。そっちと違って、私は龍ではないのでね。そちらの父親が龍だからと言って、あまり威張らないで欲しいですね」


 どうやら、この兄弟は母親が同じでも父親が違うらしい。

そして、源十朗の父親が龍であるようで、龍と人間のハーフみたいである。


「ふん、それがどうした。たかが人間の癖に、俺に嫉妬して龍の力を欲するあたり、不様だぞ。もう30年もお前とは年の差が出来ているのだ、諦めろ」


「黙りなさい。とにかく、私達の邪魔をする者を先ずは消しましょう。そして、龍の力を手に入れたら、次はおまえだ」


 この兄弟はやはり普通ではなく、お互い憎しみ合っている様である。

しかし、源十朗の力が強大な為に渋々従っている様に見える。

宗次朗は、睨め上げる様な目で源十朗を睨むと、次にネーヴァに視線をうつした。


「兄弟喧嘩は、終わりですか? 人間と言うのは、情というものがあり面倒くさいものですね」


 まるで興味なしと言った様子で、ネーヴァが話しかける。

そして、弓を構え宗次朗に狙いを定め、氷で出来た矢を放つ。

その軌道には、空気中の水分を凍らせながら飛んでいる為か、綺麗な霜の線が出来ている。


 だが、宗次朗は変形した右腕を横になぎ払い、風圧でその矢を吹き飛ばした。


「人間をあまり、舐めないで欲しいですねぇ。あなたも、忌々しい源十朗と同じ四天龍ならば、あなたの力を頂いた方が強くなれそうですねぇ。クヒヒ」


 すると、源十朗はネーヴァを無視するかのように、神楽家の2階へと向かおうとする。


「ですから、神龍の巫女は状況打開の切り札です。あなた達にやらせは……っ?!」


 ネーヴァが源十朗に狙いをつけると、宗次朗がそれを止めるかのように、ネーヴァに飛びかかると、右腕を振り下ろしてきた。

それを、ネーヴァは辛うじて回避するが、宗次朗は右腕をそのまま地面に叩きつけ、地面を抉り破壊してくる。


 盛り上がった地面と土煙によって、ネーヴァは視界を奪われてしまい、懐に入られた宗次朗の攻撃を防ぐだけで精一杯になってしまう。


「くっ……何て事、タルタロスの怨念をこんな風に利用するなんて、人間は愚かであると同時に、恐ろしい存在ですね」


「クヒヒ、お褒め頂き光栄ですねぇ」


 そして、その様子を見ていたリエンが源十朗の動きを確認すると、危機的状況であることを皆に伝える。


『不味いわよ。のんびり屋のネーヴァが、敵の増援に捕まったわ!』


「増援が来とんのは知っとるわ! こっちの敵が一向に減らんからな!」


 リエンの言葉に、紫電が言い返している。現時点で。十数人は倒しているが、一向に敵の攻撃が緩むことが無い。


 そんな状況の中、花凛が皆の傍から離れて、爆炎で周りを取り囲む者達をなぎ払うと、1人源十朗の元へと走って行く。

このままでは、源十朗が3人を捕らえてしまう。

それは、不味い。助けなければ。

ただ、花凛の頭にはその事しか無く、勝てるか勝てないかは二の次になっていた。


『花凛!! あなた、勝てる相手ではないでしょうが!』


 リエンが止めに入るも、花凛は聞いていなかった。


「くっ! 花凛、待て! うぉ!!」


 神田も止めようとするものの、見えない何者かの攻撃を感じて、咄嗟に身を引き回避する。


「これ、もしかしてですが。増援ではなく、能力によって何かを生み出しているのではないですか? そして、それを透明化能力で消してるのではないですか?」


 アシエが、ここまで敵の数が減っていないことに疑問を抱くと、1つの可能性を示唆してくる。


「あぁ、それやったら納得やけど、いったい何を生み出しとるねん」


「それが分からない以上。私達は、花凛さんの援軍に向かえないです!」


 紫電達は、完全に見えない敵に翻弄されていた。

やはり、透明化能力の相手を倒さなければ、状況を打開する事が出来ないようである。


 その間に、花凛は源十朗の元にたどり着く。

源十朗は、既に神楽家の2階の真下にたどり着き、跳び上がろうとしている。

そこを、花凛が走りながら偃月刀を横に振りかぶり、源十朗に向けて斬りつける。

しかし、源十朗は花凛の方を向かずに、その攻撃を右手に持った日本刀で受け止める。 


「やれやれ、貴様はまだこのステージに来るには早いぞ」


「それは、どうかしら!!」


 花凛は、そう言うと精一杯の力を込める。

例え、邪悪な力がわき出ようと構わなかった。


 神龍の加護のパワーで周りが燃えても、ネーヴァの氷の壁があるから問題ないとふんだ花凛は、握った手に力を込める。

すると、激しい爆発と共に爆炎が舞い上がる。


「なに?!」


 これにはさすがの源十朗も予想外だったのか、少しだけ後ずさっていた。


「貴様、まさかその力」


 源十朗が、その鋭い目つきで花凛を睨む。

その先には、花凛が炎をその身に纏い、服装はそのままに龍化していっている。


「なるほど、すでに神龍の加護をこいつらの誰かから得ていたか」


 花凛は、瞳が獣の様に縦に変化している目で、源十朗を睨みつける。


「この3人は、私の大切な友人なのよ! 絶対に傷つけさせたりなんかしない!!」


 刃を源十朗に向け、花凛は怒号を放つ。決して源十朗に、臆すことの無いように、自分自身に気合いをいれるかの様に。


「無駄だ」


 だが、次の瞬間。花凛の体が大きく斜めに斬りつけられる。

源十朗は、何もしていないはず。考えられるとしたら、花凛の攻撃を受け止めたあの瞬間しかあり得なかった。


 花凛は、何が起きたのか理解する暇も無く、その場に膝をつく。


「例え、最強の力を持っていても、名刀を使っていても。使い手が、未熟では意味がない。だから、貴様にはこのステージはまだ早い」


「くっ……うぅ!! 未熟だろうと、何であろうと。私は、人を犠牲にして、自分の欲望を満たそうとする奴には、絶対に負けない!」


 花凛は、倒れてしまいそうになる自分の体にむち打って、立ち上がろうとする。


「ふぅ~……。だから、気合いだけではどうにもならない差があるんだよ」


 葉巻を口に加え、火をつけ煙をふかす。

余裕のその表情には、煩わしさもにじみ出ている。


「そ・れ・で・も!! 火焔刃!!」


 花凛は、渾身の力で偃月刀を振り上げ、巨大な炎の刃を作り出し、源十朗に向けて放つ。


「ふぅ~……。俺は、刀刃龍 グラディウスだぞ。刃等、俺は自由自在に操れる。ふっ!」


 そう言うと、源十朗は目の前の炎の刃を斬りつける。

すると、花凛の炎の刃は源十朗の刀に吸い込まれるように纏わると、源十朗の刃と共に、花凛に跳ね返る様にして向かってくる。


「えっ?! きゃぁああああ!」


 予想外の対応に、花凛は為す術無く自分の炎の刃の餌食となる。

所々切り刻まれ焼かれ、花凛の体は宙に浮き地面に倒れ込む。


『花凛!! もう、無茶は止めなさい! ネーヴァの氷の壁もあるし、足止めしている人と一緒に、源十朗を止めてくれるわよ!』


「でも、相手の龍の力の執着心は尋常じゃないのよ。見て」


 仰向けに倒れた体を、何とか起こし上げる。

自分の攻撃をくらったとはいえ、煉獄龍である花凛には炎の耐性があるらしく、ある程度ダメージをカットしていたようである。

それでも、神龍の加護の入った攻撃の為、まともに立ち上がる事が出来ないようである。


 それでも、ネーヴァの状況をリエンに教えようとして、そちらを指さす。

すると、信じられないことにネーヴァが押されていた。

相手の尋常じゃない執着心と、パワーアップされているのであろう自然治癒力により、ネーヴァの攻撃をものともせず、龍の力を我が物にしようと猛攻している。

さすがのネーヴァも、こんな人間は初めてであり、また掟のせいで中々手を出せずにいた。


『こんな時に人間の増援を寄越したのは、ネーヴァが来ることを見越しての事だったのね』


「掟を破ったかどうかは、今の龍王が判断するんでしょ? だから、私達が人を殺せば処分されるけれども、今の龍王の味方で自分の策略を叶えようとしている源十朗は、人を殺しても処分されなかったんでしょ」


 花凛のその言葉に、リエンは頷く。


「だから、今眠についている神龍を復活させれば、神龍によってこいつらにも処分が下る。だから源十朗、あなたは神龍を復活させるわけにはいかない。すぐにタルタロス行きになるものね」


  そう言うと、花凛は源十朗に向け偃月刀の刃を向ける。

まだ立つことが出来ないようだが、それでも膝を立ていつでも動けるようにしている。


「ふっ、たった2発で満身創痍の貴様に何が出来る」


 だが。花凛の怪我はすでに血が止まり痛みもなかった。

これも神龍の加護のおかげなのか、治癒力が上がっているようである。

そして、ゆっくりと脚に力を入れる。体力は戻らないようであり、立ち上がるのにも相当フラフラになりながらである。

それでも、しっかりと立ち上がるまで傷は癒えていた。


「ちっ、忌々しい神龍の加護が。貴様の相手をしている暇はないわ」


「早くしないと、ネーヴァさんが来ちゃうから?」


 だが源十朗は、花凛の言葉に惑わされず逆手に持った日本刀を握りしめ切り上げる。

先程は見えなかった花凛だが、龍化した今では何とか飛んでくる剣閃を捉え、偃月刀でそれを防ぐ。

しかし、相当強力な真空の刃である為、花凛は受け止めたと同時に後ろに

下がっていた。


「くっ……のぉぉお!!」


 花凛は、負けるわけにはいかないと気合いを入れ、今度は源十朗の刃を自ら発生させた炎の刃で押し返しすと、源十朗に向けて跳ね返した。


「ぬっ?!」


 まさか、跳ね返すとは思わなかった源十朗は咄嗟の事に、回避がギリギリになり、葉巻をかすめ先を切り落とされた。


「ちっ、あくまでも俺とやろうというのか」


 源十朗の目は、何度も弱者に邪魔をされたことにより、遺憾の目をしていた。


 何故、弱いくせに邪魔をする。

弱者は強者に従え。抗うな。

守る為に戦う事は無駄だ。弱き者が、弱き者を守り気分を紛らわしているだけだ。

絶対強者は常に孤独だ。常に自分の為に戦うものだ。

なのに。何故だ。


「何故だ、何故貴様は自分の命すらなげうってまで……」


「言ったでしょう、大切な人達だから。状況打開のためじゃない、ただ単純に大切な人達だから、守る」


 源十朗が言い切る前に、何を言おうとしたか分かった花凛が素早く答える。

そこに、一切の迷いは無かった。


「そうか……俺にはよく分からんな。ただ、そうまでして守りたいなら、死んでも守ってみせろ!」


「何言ってるの? 死んだら守れないでしょ。だから、あなたに勝って守ってみせる!!」


  正論を浴びせられ、もはや源十朗の顔には怒りが満ちていた。

今までの自分が生きてきた中で得た価値観。それら、全てを否定するような存在が目の前で、刃を向けていた。

その事に、源十朗はすでにキレていた。



 その花凛の横で、リエンは目を閉じ考えていた。

花凛は、強くなった。最初に比べたら見違えるほどに。

もう、自分の補佐は要らないはず。

それでも源十朗には勝てない。まだ、花凛は完全には龍になっていないから。

そして、リエンはゆっくりと目を開ける。

その目は、何かを決意したように見える。

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