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煉獄の焔  作者: yukke
第七章 全てを託され前へと進む
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第五話 神楽家への侵入者

 お風呂でバカ騒ぎしたからか、それとも連日ろくに寝ていなかったのか。

今、花凛の両脇では夏穂、美穂、志穂の可愛い寝息が聞こえている。

風呂から上がった後、パジャマに着替え部屋に戻ると、布団が敷いてありそこでしばらく3人とお喋りしていたが、ものの30分もたたないうちに3人はそのまま寝入ってしまったのだ。

仕方なく、花凛が布団に寝かしつけ自分も布団に潜っていた。


「3人共、よっぽど怖かったのかな」


 いつも、バカみたいに気丈に振る舞っていてもそこはやはり女子高生、自分達が狙われているとなると、やはり生きた心地はしなかったのだろう。

信頼出来て、強い人物の花凛が居てるだけで3人はそんなに安心しているのかと、3人の寝顔を見て花凛はそう思っていた。


「そう言えばリエン。あなた最近、様子おかしくない? 口数が少ないと言うか、考え込むことが多いよね?」


 花凛は、仰向けになると最近のリエンの態度について聞いてみた。

リエンはここのところ、考え込んでることが多く。いつものからかいも少なく、どことなく元気も無かったのである。


『気にしないでいいわよ。単に、こんな状況になるとは思っていなかったし、あなたを巻き込んでしまったことに、負い目を感じているのよ』


「えっ?」


 リエンの意外な言葉に、花凛は思わず聞き返す。


『最初は、単に鬼退治をさせるだけのつもりだった。鬼化の原因も、あんな奴等が絡んでいるとは思わなかったわ。厳しい戦いに巻き込んでしまったわ、ごめんなさい花凛』


「もう、ほんとにリエンらしくないよ。いつものリエンだったらさ、『原因が分かったんだから、ちゃっちゃっと片付けるわよ!』って言いそうなものなのに」


『そう、だったわね。でも、今回ばかりは、私も強がりばっかりで自信が無いのよ』


 花凛の言葉にも、あまり快活な反応を見せないリエンに、少し寂しく感じているようで、花凛は布団を頭から被った。


「何があっても、これは私が選んだ道だよ。最初は、巻き込まれたかもしれないけれど、今は違うよ。自分の意思であいつ等を許せないと思っているんだよ。だから、リエンに責任はないから」


『そっ、ありがとう。花凛』


 花凛は、布団からちょっとだけ顔を出してリエンの方を向くと、リエンは今まで見た事のないような優しい笑顔を見せていた。


「リエン、あなた。そんな顔で笑えるんだ」


『う、うるさいわね。あなたも寝ておきなさい。見張りはやっておくから、何かあったら起こすわよ』


 リエンは、顔を赤くしてそっぽを向くと、ぶっきらぼうに花凛にそう返した。


「うん、分かった。おやすみ」


 そう言うと、花凛は再び頭から布団を被る。

花凛はリエンの笑顔を見て、少し嫌な予感がしていた。

そのうち、魂が馴染むとリエンの残った意思までもが消えてしまうかもしれない。

以前、そう言われた事が頭をよぎったのだ。

しかし、花凛もそのうちウトウトしだして眠りについた。









『花凛、花凛起きて!!』


 どれくらいの時間がたったであろうか、突然リエンが叫びながら花凛を起こしてくる。


「ん……? 何、どうしたの?」


『3人が、目の前で消えたのよ!!』


「えっ?!」


 その言葉に、花凛は慌てて飛び起き両隣を見ると、布団がめくれて3人がいなくなっていたのだ。


「どこにいったの?!」


『分からないわよ! 突然、スーッと消えて布団が勝手にめくれたの! 多分、NECのあいつらよ!』


 リエンが言いたいのは、恐らく学校を襲撃した『ブーンドック セインツ』の事である。


『何もかも消してしまう能力なら、布団をめくれ上がらせるなんてしないわ。その場で殺すからね。そうしなかったということは、触れた対象を見えなくする能力よ』


 リエンがそう言うと、花凛は咄嗟に目を閉じる。


「ん、だったら気配までは消えてないよね?」


『そうね、だから急いで起こしたのよ。分かる?』


 花凛は、ひたすら集中していた。ネズミの動き1つすら、逃さないかのように。

すると、木材の軋む音がどこからか聞こえてくる。


「まだ、廊下だ。こっちね」


 どうやら、犯人は物音を立てないようにゆっくりと移動しているらしく、まだ部屋を出てすぐの廊下をゆっくりと歩いているようである。


 その音を聞き逃さなかった花凛は、廊下に飛び出ると何も無い空間に、一部分から何やらオーラの様なものが出ているのが見えた。

恐らく、『ブーンドック セインツ』が付けている制御装置、そこから発せられている鬼化した人物が出す怨念のオーラであった。


 ゆっくり前後に動いているのを見ると、恐らくそこは腕なのであろう事が分かる。

ならば、だいたい体の位置も分かったようで、花凛は右腕を引き見えない犯人に向かい飛び込んでいく。


「そこよ!! 火焔掌波!!」


 花凛は、オーラの位置から体の位置を特定し、その場所に思い切り掌底を浴びせる。

そして、爆炎と共に何者かが前に吹き飛ぶ。


「ぐぅあぁ!!」


 それと同時に、ロープで縛られガムテープで口を塞がれた夏穂が、突然放り投げられたようにして姿を現した。

恐らく、肩に担いで居たところを花凛が吹き飛ばしたので、そのまま後ろに放られたのであろう。


 花凛は、その姿を確認すると慌てて夏穂の下に移動して、見事にキャッチした。


 そして辺りを見渡すと、両脇に突然見知らぬ男性が2人現れた。

恐らく、最初に吹き飛ばした人物が『触れた対象を見えなくする能力』の様である。

突然の事に、侵入者2人はびっくりして慌てふためいている。そしてその肩には、美穂と志穂の姿がある。

この一瞬の隙を逃す花凛ではなかった。


「その2人も離して! 火焔双掌波!!」


 花凛は、瞬時に2人の間に入ると横に両手を広げ、残りの2人にも掌底を浴びせ爆炎と共に吹き飛ばした。


「がっ、ぐぁ!!」


「うわぁぉああ!!」


 1人は隣の部屋に扉を破りながら吹き飛び、1人は廊下の窓から下の庭に落ちた。


 美穂と志穂も、その衝撃で放り投げられると、花凛が急いで2人をキャッチした。

そして、3人の拘束を急いで解く。


「花凛、ありがとう」


「ありがとうございます。花凛さん」


「ありが、とう」


 やはり、3人は怖かったらしく今にも泣きそうな顔をしている。

とにかく、無事であった3人に花凛はホッと胸をなで下ろす。


「おいおい、こんな奴が護衛しているとか聞いてね~ぞ」


 しかし安心したのもつかの間、前に吹き飛ばした奴が起き上がり、こちらに歩いてくる。


「おい、2人共動けるか。せっかく、ここまでやったのに失敗とか洒落にならんぞ!」


 そいつは左の吹き飛ばした人と、外に吹き飛ばした人に言っている様である。

すると、部屋から吹き飛ばした人物が、ケロッとした様子で廊下に出てくる。

外に吹き飛ばした人物も、壁をよじ登り窓から再び侵入してくる。


「俺は、体を鉄に変化させられるからいいが、外に吹き飛ばされたのは効いたんじゃね~の?」


 部屋から、出てきた人物は体が鉄の様に変化しており、これで花凛の攻撃を防いでいたようである。

そして、窓から入ってきた人物にからかい気味で言ってきた。


「うるせぇ、俺は筋力が数倍に強化されているだけだが、単純な能力ほど強いんだよ」


 どうやら、3人共戦闘用の能力である。

花凛は、偃月刀を出現させると3人に刃を向ける。


「あなた達、NECの特別社員『ブーンドック セインツ』のメンバーよね? 誰の指示なの?」


「ほぉ、俺達の事を知っているのか。誰の指示かは言えんな。大人しく後ろの3人を差し出せ」


 真ん中の人物が、今にも襲いかかりそうな雰囲気で迫ってくる。

体型は、普通だがセミロングの髪をワックスで無造作にまとめているため、まるでヤンキーみたいな雰囲気である。

残りの2人も似たようなものであり、あまり区別が付かないくらいである。

ただ、筋力を強化されると言っていた人物は、ヤンキーの風貌をしていながら筋肉がムキムキであり、物凄く違和感を感じていた。


「3人を差し出せっておかしいでしょ、今さっき助け出したんだから、差し出すわけないでしょうが!」


 どうも、この人物は国語力があまりない様に思える。

だが、それと戦闘は別であるため花凛は油断せずに武器を握りしめる。


『見えなくする能力は、対象に触れなきゃ意味ないみたいね。今の位置なら2人を見えなくする事は出来ないから、まずは真ん中の奴を倒すわよ』


 しかし次の瞬間、花凛の右膝に何かが刺さる。


「ぐっ……!! ま、まさか! ナイフを透明化させて、ずっと持っていたの?!」


 花凛が、痛みで膝を突くと両側の2人が、真ん中の透明化させる人物に近づいていく。


「さっきは、驚いて解除してしまったが、透明化は俺の意思で消したり、出現させたりする事が出来るのさ。だから、今度は解除しねぇ。覚悟しろよ」


 透明化させる人物が、2人に手を当てようとする。

戦闘タイプの2人を透明化されてしまえば、さすがに戦いにくくなる。


「ごめん、後で弁償するから!!」


 花凛はそう言うと、右膝に刺さっているであろうナイフを掴むと、勢いよくそれを抜く。見えないけれども、刺さっている場所に手を当てればだいたい掴む事ができる。

同時に花凛は3人に向かい走り出す。

そして、偃月刀を左横に振りかぶりなぎ払う様に切り払う。


「ちっ……!!」


 もちろん、3人共それに気づきしゃがんでそれを回避する。

それと同時に、透明化の人物が2人の体に触れた。

すると、両脇の2人が一瞬で姿を消してしまう。


「くっ……! でも、まだそこに居るでしょう?!」


 花凛はそう叫ぶと、左足に炎を纏わせ姿を消した人物がいるであろう場所めがけて、横に吹き飛ばす様に蹴りを入れる。

すると、何もない空間に何かが当たる感触があった。間違いなく、さっき姿を消消した人物である。鉄に変化している様で、花凛の方に痛みが襲う。


「くっ……!! このぉぉお!!」


「なっ……!!」


 花凛が、そう叫ぶと炎を纏わせた足から爆炎が上がり、姿を消した人物と一緒に残りの2人も巻き込む様にして、右側の窓の付いた壁を突き破り外に吹き飛んでいく。


「ぁぁぁあああ!!」


 1人しか見えないが、3人分の悲鳴が確かに聞こえてくる。

確実にダメージは、与えられたはずである。


「よし、何とかなったかな?」


『油断しないで、家に侵入されたら透明化で巫女の3人を狙われるわ。外で片付けるわよ!』


「分かった!!」


 花凛が外に飛び降りようとすると、物音を聞きつけた夏穂、美穂、志穂の3人の父親が、二階に上がってきた。


「これは、何事だ?!」


「あっ、3人のお父さん。丁度良かった。今、NECからの刺客が屋敷に侵入し、3人を誘拐しようとしてきたの。外に吹き飛ばしたから、3人をさらわれないように、見ていて上げて下さい。後、賢治さんに連絡お願いします!」


 花凛は、そう言うと壁に空いた穴から、颯爽と外の庭に飛び降りる。

ナイフの刺さった右足は、すでにある程度自然治癒しており、痛みはなかった。


「さぁ、私は気配であなた達の居場所が分かるのよ。私を倒さないと、3人はさらえないよ」


 先程の攻撃で、意識を失っていないのであれば、3人共透明化しているはずである。

花凛は、感覚を研ぎ澄ませて3人の気配と、飛び道具による攻撃、僅かな足音。全てを逃さずに捉えようとする。


 風が吹き荒れ、静かな夜の暗闇の中、神楽家の庭だけは生き物が近寄れない程の、殺気に満ちていた。

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