第六話 ~ 狂った殺人鬼 ~ ④
今、その場で起こっていることを説明するなら1つの言葉で現すことが出来る。それは『暴力』である。
神田は、ただひたすらに家族を殺人犯にその怒りをぶつけていた。
6年も探していた。殺人事件を担当する刑事になり、常に奴を追っていたのだ。その相手を前にして、怒りで自分の中の何かが覚醒した。
真鬼とは言え、鬼化せずに力を扱う朽木を初撃で圧倒すると次々と畳みかける様に殴る蹴る。そして、己から発する“気”を衝撃波の様にしぶつける。想定外の攻撃に、朽木はなすすべ無くぼろ布の様になっていく。
「あり得ん。なんやあれは……後、神田のおっさんはなんで毒ガスが平気やねん?」
『闘気龍の力、“気”で毒ガスを吹き飛ばしているみたいね。そして、恐らくは覚醒遺伝と言ったところかしらね。あの人は龍の血が半分混じっていたようね』
紫電の疑問に、リエンご答えている。
しかし、花凛はそんなことよりもこのままでは神田が元に戻らなくなるかもしれない。
そんな恐怖に捕らわれていた。
「賢治さんを、止めないと……」
花凛は、まだ上手く動かない自分の体を引きずりながら外に出ると、毒ガスが薄くなっていることに気づいた。
『なるほど、あくまで能力で毒ガスの量を増やしていただけだから、相手を倒せば毒ガスは消える事になるのね。だから朽木とかいう真鬼はあの時、自分を殺すしかないって言ったのね』
それでも、完全に消えていない所を見ると朽木の意識はまだ残っている様である。
ならば、尚更反撃される可能性が十分にあった。
そして、目の前では変わらず神田が猛攻を行っていた。
すると、吹き飛ばされ車に打ちつけられた朽木が不敵な笑みを浮かべる。
「ヒャハッ……さっきからやってくれたなぁ。おい。そんなにボコボコ殴って楽しめてたかぁ?!」
朽木は、そう言った瞬間。
目の前に風が渦巻いた様なものが現れ、周りの毒ガスを巻き込み銃弾の形になると、一斉に神田に向けて打ち出された。
しかし、神田は避ける事もなく銃弾を浴びていく。
だが致命傷は避けたらしく、歩みを止めず朽木に飛びかかろうとする。
「ヒャハッ。来いよぉ。その瞬間がてめえの最後だぜ!」
朽木は確実に何かを仕掛けている様子で、口元が緩みにやけている。
しかし、そこにようやく花凛がたどり着き、神田の体を前から抱きしめる様にして掴んだ。
「ダメ、賢治さん!!」
「……は、なせ! 奴だけは、奴だけは!」
花凛が見えていないのか、それでも神田は止まらない。
目は正気を失い、あきらかに殺意にまみれている。
このままでは本当にこの人は、人間じゃなくなるのではないのだろうかと花凛は真剣に恐怖している。
この人を失いたくない。その一心で必死に止めていた。
「離せ!!」
「お、お願い! 目を覚まして!! 賢治さん!!」
神田の力は緩まない。花凛でも、ギリギリ留められるかどうかである。
『花凛!! 危ない!』
「えっ……? ぐぅ?! あぁぁぁ!」
リエンが叫ぶと、花凛の背中に衝撃と激痛が走る。
どうやら、朽木が先程の銃弾の弾の様な気流を花凛にぶつけていた。
先程のやつよりも更に大きな物である。
朽木はいつの間にか、気流の渦を作り徐々に大きくしそれを神田にぶつける気でいたのだ。
「ちっ! 邪魔しやがって。てめぇもろとも撃ち抜こうと思ったが、案外丈夫じゃね~か」
気がつくと、朽木の怪我が消えている。
信じられないことに、この男はタルタロスから漏れ出た濃い怨念を自分のものにし、制御装置も無しに完璧に扱いこなしていた。
その力で、自然治癒力を上げてしまう程である。
この男は異常であった。
「ぐっ。はぁ、はぁ……賢治さん。お願い」
目の前で花凛が傷ついていても、神田は気にも止めずに朽木に襲いかかろうとしている。
「ダメ! そんなんじゃあいつは倒せない! 怒りのままで戦っても倒せない!! さっきの私と同じ事になっちゃう! ううん、もっと酷いことになるよ!!」
「殺す……殺す!! 朽木ぃぃいい!」
「ヒャハッ。ほらほらほら、その男は俺と戦いたがっているんだよ。離してやれよ!」
朽木は、まるで神田の暴走をあざ笑うかのように周りにいくつもの気流の弾を作り出し、待ち構えていた。
どうすれば、神田を止められるのか花凛はわからなかった。
そして、神田は次々と花凛の背に気流の弾を浴びていく。
「がっ!! ぐぅぅううう!」
「ほらほら、離してやれよ~出ないとてめえが死ぬぞ!」
それでも、花凛は離さなかった。
今離すと、もう止めるチャンスはないと確信していた。
『花凛……あなた、何でそこまで?』
花凛の行動に、リエンが不思議そうな顔をしている。
自分の身を犠牲にしてまで止めようとしている、花凛の行動はリエン達龍にとっては理解が出来ない行動であった。
「分からない、分からないよ。自分でも、この気持ちが良く分からないよ。でも、どんな理由があったとしても。こんな人じゃない私を養子にしてくれた、受けいれてくれた。必要としてくれた。それだけでも私は嬉しかったの。力になりたいと思った。この人は、私にとっては大切な人になったのよ!! だから、だから失いたくない!!」
花凛は大粒の涙を流しながら、信じられない行動に出た。
神田の緩んだネクタイを引っ張り、顔を下に向けさせると。
その唇に、そっと口づけをした。
「……っ!!」
さすがにこの出来事に、神田は目を丸くしている。
そしてその目が徐々に正気を取り戻していく。
長い様な短い様な、でも確実に唇の感触を与える為に、花凛は必死になっている。
そしてゆっくりと唇を離す。
「賢治さん。目、覚めた?」
「花凛……俺は。いったい?」
「賢治さん、よかっ……た」
花凛は、神田が正気に戻ったことを確認すると。緊張が解けたのか、今まで受けたダメージの影響か、そのまま気を失ってしまった。
「花凛!!」
神田は、咄嗟に花凛を抱きしめて支えている。
『花凛、あんた。そこまでして……』
リエンは、花凛の行動に驚きそしてなにか思い詰めた表情をしている。
それは、自分の考えが否定されたかのような。そんな表情であった。
「ヒャハッ。お熱いねぇ。おい。で、もう終わりか?」
「朽木……貴様」
「おっさんどきや!!」
神田が再び朽木に怒りを向けようとしたその時、紫電の叫び声が響きわたる。
すると、同時に紫の雷が朽木に向っていく。
「なっ?! おやおや、ようやくお出ましか?」
咄嗟のことだったが、それでも朽木は紫電の雷を回避していた。
そして、ようやく神田達の元にやって来た紫電達を睨む。
「せやな、お前がアホみたいに気流の弾をポンポン撃ち込んだおかげで、毒ガスも一緒に巻き込まれて綺麗に消えたからな」
紫電の言葉に朽木が辺りを見渡す。すると、紫電の言うとおり確かに毒ガスが消えていた。
毒ガスは、気流の渦に巻き込まれそしてそのまま撃ち出された弾は、花凛の体に当たると何故か消滅していたからである。
それでも、花凛にはダメージを与えていたので朽木は気にしていなかったが、ここにきてその異常さに気づく。
「ちっ、調子にのってしまったか。いったい何者なんだ、あの女……は?!」
朽木がそう言いきる前に、隙をついたアシエが上からハンマーを振りおろしていた。
だが、朽木は勘が鋭くそのアシエの奇襲をかろうじてかわしていた。
「う~外したです」
アシエが悔しそうにしている。
そして、神田の前に紫電とアシエが並ぶ。
「あ~良いねぇ、これ。命がけの戦いってやつか? ゾクゾクしてきた。そうか、これか……俺が求めていたのはこれだったんだぁぁあ! ヒャハッハハハハハハハ!!」
紫電とアシエに向き合いその闘志を感じた朽木は、天を仰ぎそして狂った様に笑い出す。
「さぁ、始めようぜぇ!!」
そして、再び朽木が顔をおろし紫電達に向き合う。
だが、その時。紫電達と朽木の前に、剣閃が飛び地面に切れ目を入れてくる。
「なっ?! 誰や!!」
「そこまでだ、朽木智也」
紫電達が、剣閃の飛んできた方を向くと。
そこには、鋭い眼光をし見下したような目をしたNECの日本支社社長、源十朗の姿があった。




