第五話 ~ 狂った殺人鬼 ~ ③
花凛は、正気を失っていた。
目の前の、殺人鬼の言動に内から沸いてくるどす黒いものを抑えきれずにいた。
「……消す」
花凛は、そう呟くと偃月刀を強く握りしめる。
そして、真鬼目がけて突き刺す様にして前に突き出す。
しかし、その攻撃は何かに遮れるかのようにして弾かれた。
毒ガスが集まり厚くなり、まるで強固な壁の様になっており花凛の攻撃はそれで防がれていた。
「ヒャハッ、殺気のこもった良い攻撃じゃね~か! だが、甘ぇ」
真鬼が、そう言うと再び周りの毒ガスが集まり束になっていくと、数本の剣の様なものになると次々と花凛に斬りつけてくる。
「なっ?! ぐっ、くそ……」
花凛は、なんとか偃月刀で対応するも全てを防ぐことは出来ず、何本かの攻撃は体に当たっていた。
「こ、のぉぉ!!」
怒りに満ちた言葉を花凛が放つと、偃月刀に大量の炎が現れまとわりつき、その周りを黒いオーラが包んでいる。そして。
「火焔冥龍閃!!」
花凛が叫ぶと同時に、黒いオーラを纏った炎が刃となり毒ガスの剣を切り裂きながら真鬼に向かっていく。
「ヒャハッ!」
だが、真鬼は悠々とそれを毒ガスの壁で防ぐ。しかし、花凛の放ったこの炎の刃は普通ではなかった。
刃の当たった毒ガスの壁は、一瞬でかき消えたのだ。
「なにっ?!」
それに気づいた真鬼は、赤い目を見開き驚きの表情を見せるが、即座に車のボンネットから横に飛び降りる様にして回避する。
「ちっ、なんだその力は?」
『花凛、まさか……あなたの中の邪悪な力って』
花凛の異常な力に、リエンが何かを思い付いた様である。
しかし、その前に花凛の様子がおかしかった。
黒いオーラが出たときからおかしかったが、今は別の意味で様子がおかしかったのである。
「はぁ……はぁ……っ。くっ……」
花凛は誰が見ても弱っているように見えた。
どうやら、ほんの少し漏れ出ただけでも花凛はその力を扱いきれずにいた。
そして、ついに。花凛は膝をつきその場に倒れてしまった。
『花凛!!』
リエンが、心配して近くに寄っていき叫ぶが。荒い息をしており、意識は無かった。
「つまんね~なぁ、強すぎる力を使って気を失うか。期待外れだぜ」
すると、そこにようやく『ブーンドック セインツ』を片付けた紫電とアシエがたどり着く。
「花凛!! 大丈夫か?!」
「やっぱり、真鬼はここにいましたですか。でも、毒ガスのせいで外に出られないです」
『紫電!! 龍化して来て! 一瞬なら大丈夫だから!』
リエンが、紫電に向かって叫ぶ。
すると、リエンの声に応じ紫電が龍化し一瞬のうちに倒れた花凛を担ぎ上げると、ガラスで囲われたエスカレーター乗り場に戻ると花凛を下ろす。
「くそっ、手足が若干痺れるな。神経毒やなこれは」
花凛を助け出すと龍化を解き、自分の手を動かしている。だが、若干動かしづらい様である。
『えぇ、あいつはひと思いに殺すことはしないみたいね。それにあいつの能力は、毒ガスを発生させているんじゃなく、気体を操る能力のみたいよ』
「あ~なるほどです。あんな軽装で、こんな大量の毒ガスをどうやって散布したか謎でした。でも、そういう能力なら大量の毒ガスを作り出せるです」
リエンの言葉に、アシエが頷きながら答える。
しかし、紫電には何の事だかさっぱり分かっていない様子である。
『そう気体を操るならその量や濃度まで自在に操れるし、真空の刃だって自在に生み出せられるわ。剣みたいにしていたけれどそれはフェイクみたいね。壁で防いでいる様に思えたのも、気体を集めて空気圧を変えれば巨大な空気の層を作り物質を弾ける』
リエンは、たったあれだけの攻撃の中で相手の能力を見抜いていた。
そして、リエンの説明でようやくながら紫電も理解し始めていた。
「ほな、相手に変なことをされる前に一撃で沈めなあかんな」
そう言うと、徐々にこちらに近づいて来ている真鬼を睨みつける。
しかし、真鬼は自分の欲望を満たすために紫電達との戦闘を渇望しているように見え、その歩みを止めることなく徐々に距離を詰めていく。
すると、そこに何故か神田が現れる。
「お前達、大丈夫か?! って、花凛! どうした?!」
神田は、意識を失い仰向けで寝ている花凛の元に急いで駆け寄る。
「神田のおっさん! 何でここに?!」
「何でって、君達の戦闘音が響きわたるわ、その後に『よっしゃ! 屋上の駐車場に向かうで!!』って、大声で叫ぶ声が聞こえたからな」
「紫電さんのせいじゃないですか」
アシエは、そう言うと失態をした紫電に担いでいたハンマーで頭を軽く叩いた。
「いった! す、すまん……」
「それより、花凛は大丈夫なのか?!」
『大丈夫よ。ちょっと、自分の中の力を制御出来ずにダウンしただけよ。いくら花凛でも、毒ガスの中では10分しか持たない。短期決戦をしかけたのは良いけれど、力を見誤っちゃったのよ』
そうリエンが答えると、神田は安心した表情になる。
しかし事態は最悪な展開の為、神田は真剣な表情でこちらに近づいてくる真鬼を睨む。
「あいつが、今回の真鬼か……って。ま、まさか……あいつは」
すると、神田の表情がみるみる変わっていく。
驚いた表情から、徐々に怒りの顔に変貌していく。
「そうか……あいつが。見つけたぞ。ようやく……朽木!!」
恐らく、真鬼の名前であろう言葉を放つと。
神田はゆっくりと立ち上がり、スーツの上着を落とす。
「神田のおっさん、どないしてん?」
『あ~あ、だから花凛は遠ざけていたのに。あの真鬼はね、神田の家族を殺した男なのよ』
「な、なんやて!!」
「だ、だめです!! 神田さん、復讐にとりつかれているんじゃないですか?!」
ようやく、2人も慌て始める。このままでは、毒ガスの充満した外に飛び出してしまいそうである。
『ダメよ! 神田!! 落ち着きなさい! あの真鬼は、変化がないのよ! 目が赤くなっているくらいで、ほとんど姿形を変えずに力を使っている! 制御装置も見当たらない! 自力で鬼化を防いでいるとしか考えられないわ!! そもそも一般人が敵う相手じゃない!』
リエンの叫び声は神田に届いていない。次は、神田が暴走をしそうであった。
そして、リエンの叫び声により花凛が目を覚ました。
「うっ。ここは……えっ? け、賢治さん。何でここに……」
「花凛! 気いついたか?!」
そして、花凛はよろよろと立ち上がり神田を止めようと手を伸ばす。
「ダメ、ダメ! 賢治さん!」
しかし、花凛の制止もむなしく。花凛の手は空を切った。
神田が外に飛び出してしまったのだ。
「貴様だけは!! 貴様だけは、この俺が許さん!!」
「あ~? 何だ貴様? 貴様に用は……なばぁぁぁあ?!」
真鬼。いや朽木が喋り終わる前に、神田が猛スピードで朽木の懐に飛び込み、みぞおちに強力なパンチをくらわした。
そして、とんでもない勢いで後ろに激しく吹き飛ぶと止まってある車に激突した。
「がっ、はぁ?!」
口から血を噴き出すほどの強力な攻撃に、朽木はぐったりと座り込む。
そして、そこにゆっくりと神田が近づいてくる。
「朽木。朽木智也。この俺を覚えているか?」
「げほっ、はぁ? 誰だ貴様。で、何故この毒ガスの中を平気でいられるんだ?」
リエン以外は全員呆然としていた。物凄い攻撃を繰り出したこともさることながら、毒ガスの中でも平気でいられることに合点のいく説明が思い当たらなかった。
だが、リエンだけは納得いっている様子ではあるものの険しい顔をしていた。
「ダメ。賢治さんを止めないと。あのままじゃ、ダメ!!」
神田の正体よりも何よりも。復讐のまま戦っても、良いことにはならない。花凛は、直感でそう感じていた。
しかし、花凛は邪悪な力を使った反動なのか上手く体が動かなかった。
「そうか。6年前に貴様が殺した母娘すらも、覚えていないのか」
「あ~? 6年前なんて……。あぁ。俺が始めて人を殺した奴等。俺は、幸せな奴の幸せな顔を見ているのが許せなくてな。あの時、あの場で最高に幸せそうな面した奴等がいたなぶっ殺してやりたいほどに、そして俺はその衝動が抑えられなかったっけ。あぁ、そうかお前はあの時の俺を殺人鬼へと導いてくれた、最高の絶望を見せてくれた男か」
「……っ!!」
神田の顔は更に怒りに染まり、まるで鬼の様な顔になっていた。
今にも目の前の男を殺すかのような、怒りと殺気の入り混じったオーラを放つ。
「ヒャハッ! 復讐ってか? 良いね~!! それも良い! そして、それが叶わなかった時の絶望も……がふ!!」
またしても、朽木が喋り終わる前に神田が渾身の力で顔を殴りつけていた。
「もう、喋らなくていい。お前は今すぐ俺が殺してやる!!」
神田は左手でネクタイを緩ませると、ピークに達した怒気と殺気を相手にぶつける。
「なっ?! ぐぁぁぁああ! バカな、なんだコレは?! 気迫が衝撃波の様に? ぐあぁぁ?!」
神田は無意識だったのか。そうすれば、こういう事が起きると分かっていたかのように、握りしめた拳を離れた相手に向けて打ち込んでいくと、次々と神田から放たれた気が波動の如く相手に襲いかかる。
そして、袖をまくり上げた神田の太い腕には龍の鱗がくっきりと現れていた。
『やっぱり、間違いないわ。怒りで目覚めたのね。闘気龍が』
リエンの言葉に、紫電とアシエが驚きの目で見ている。
「賢治……さん」
そして、花凛は必死に神田の元に行こうとする。神田を止めるために。




