第四話 ~ 狂った殺人鬼 ~ ②
その後、しばらくすると神田が花凛達の元にやってきた。
花凛達は、その間にスマホのテレビニュースで外の状況を確認していた。
それは、まさに地獄絵図だった。
濃い赤紫色の霧が立ち込めており、皆倒れている。生きているのか死んでいるのか誰も確認が取れずに、助けにも行けずにいた。
それは、この赤紫色の毒ガスが衣類などもすり抜けてしまうからである。
つまり防護服は意味をなさず、ガスマスクを付けていても服をすり抜けて侵入されしまう。
まさに、今この事態を解決出来るのはここにいる花凛達だけであった。
「なるほど、そいつがこの毒ガスを生み出した犯人か。真鬼とはな。また、君達に頼むしか無いようだ」
「へっ! 任しとき!」
紫電はかなりやる気である。
だが、花凛は浮かない顔をしている。神田の部下から電話があった連続殺人犯がこの近くにいる、さっきの電話で神田が血相を変えて見回りに行ったのもその為だろう。そして先程あった人物。
パーカーのフードを被った人物は、まさしく神田から聞いた神田の家族を殺した殺人犯。
それが、今回の真鬼だからである。
しかし、そうなると腑に落ちないのが1つある。いつ真鬼になったかである。
もし、ごく最近なら能力を使いこなせていない可能性があるが、何ヶ月か前ならかなり使いこなし強敵になっているはずである。
『花凛、言わないの? 真鬼があの殺人犯だってこと』
「何だか、言っちゃいけない気がする」
その花凛の言葉にリエンも気づいたのか、それ以上は追求してこなかった。
「このモールに居る人達には、外に出ないようにと言ってある。恐らく、今頃は吹き抜けのホールに集まっているはずだ」
「神田のおっさんナイスやで。固まってくれている方が守りやすい」
神田の言葉に紫電が満足そうに頷く。
しかし、花凛の頭には1つ不安材料があった。
「あの、特殊社員『ブーンドック セインツ』はその中には居なかったの?」
「あっ……」
神田と紫電がハモった。あまりにも、ピッタリだったのでリエンがお腹を抱えて笑っている。
「心配していてもしょうが無いか。紫電、アシエ。『ブーンドック セインツ』も居ることを前提に、あいつを探すわよ」
「了解です!」
「というか、いつの間にお前がリーダーになってん?」
何やら紫電が不満を漏らしている。
やりたいわけでは無かったのたが、花凛は自然と紫電やアシエに指示を出してしまっていた。
「あっ、ごめんなさい。じゃぁ、紫電がやる?」
「面倒くさい事はごめんや」
「性格悪いわね」
「なんやて?!」
不満を言うくせに、自分はやらない。
典型的なヤンキーか不良の態度であった。
『まぁ、分析役の私がいるのだから花凛がやるのが妥当じゃないの?』
「アシエちゃんは大賛成ですよ!」
「ちっ、しゃ~ないな」
まだ何やら不満を漏らす紫電を横目に、花凛は皆に指示を出し始める。
「じゃぁ、アシエは2階~3階を見てきてくれる?」
「了解! わかったです!」
花凛の指示にアシエが敬礼して答えている。
その姿は、軍隊ごっこをする子供のようでもあった。
「それで、気が乗らないだろうけれども紫電はここの4階から3階も見てきてくれる?」
「ん? 3階もか?」
「ここは広いからね、アシエが2階を見ている間に3階の半分を見てくれたら効率良いかと思って」
紫電はどこか納得した様な顔をすると、頭を掻きながら花凛の指示に従う。
「賢治さんは……」
「分かってる、1階で一般人を警護しつつその中に不審な人物がいないか調べる。もし見つけたらお前達に直ぐに報せる」
「……うん、お願い」
花凛は、感じていた。
今回の真鬼となった殺人犯と神田とを会わせるわけにはいかないと。
神田の性格が徐々に分かってきていた花凛だからこそ、神田がどう反応するか分かっていた。
「花凛、お前はどこを探すねん」
紫電が、花凛に問いかけてくる。
確かに今ので全ての階が埋まったのだ。とは言え、少人数の為時間はかかりそうである。
しかし、犯人は逃げずにここに留まっている以上、時間を気にする必要はない。
むしろ、時間をかけ一般人の安全を確保しつつ探した方が賢明であった。
すると、花凛はゆっくりと口を開く。
「私は、屋上駐車場に行ってくる」
「なっ?! お前はアホか!」
「花凛! 外は毒ガスが蔓延しているんだぞ!?」
神田が、必死な表情で花凛の肩を掴む。少し、力が入っていたらしく花凛はしかめ面をしている。
「あっ、悪い。しかし、なぜわざわざ毒ガスの蔓延している所に行くんだ?」
「賢治さん、大丈夫。私の考えが正しければ、多分私は毒ガスがあっても大丈夫なはず。でも無理そうならすぐに戻るよ、心配しないで」
花凛は神田に笑顔で返していた。それを見ると、神田は何も言えなくなっていた。確かに、花凛は『神龍の加護』を得ているので様々な耐性も得ている可能性もあった。
「はぁ……しょうがない。花凛、体に異変があればすぐに戻れよ」
「うん、分かってる」
「よっしゃ。決まった様やし、行くで!」
紫電が高らかにそう言うと、全員が頷きそれぞれの階へと散っていく。
そして花凛は、屋上駐車場に向かう。
自分の考えが正しければ、恐らくそこに奴は居るはずだと。
『協力は、要らなかったの?』
「大丈夫、紫電とアシエなら気づくはず」
花凛は、そう言うと急いでエスカレーターに向かう。
自分の考えが正しければ、屋上駐車場に先程の真鬼が居るはずであると。
だから、神田をわざと遠ざけていた。
しばらくして3階に着いた紫電とアシエが、お互い顔を見合わせている。
「なんか、おかしないか?」
「あれ? 紫電さんでも気づきますか」
下に降りながら、何か違和感を感じていた2人は1つ下の階に降りたと同時に、ある事を思い付いたのである。
それは、毒ガスが発生したのが花凛達の前から姿を消した直後だったという事。それに気づいた2人は引き返そうと考えた。
しかし、突然2人の周りを『ブーンドック セインツ』がとり囲み身動きが取れなくなっていた。
「くっくっ、あの殺人犯を見つけ追っていたら、我々も閉じ込められるとは思わなかったわ」
「だが、思わぬ拾いものをした。こいつらを倒せば昇格間違い無しだ!」
『ブーンドック セインツ』達は、思い思いの事を口にし紫電達との距離を詰めていく。
「ひーふーみー……。ん、10人程やな。ちときついか?」
「相手の能力にもよりますです。学園祭の時に襲撃した人達レベルなら、最初から本気出すしかないです」
「面倒やなぁ。花凛の野郎、神田と真鬼を会わせん様にするとはな。んで、実際あの場で奴に会ってた俺等なら、気づくやろうと思ったんやろうな。屋上駐車場に奴が居る事を」
「そうですね。4階のゲームセンターを出てからさほど時間がたっていないのに、毒ガスが発生したことを考えれば。短時間で外に出る事ができる、屋上駐車場に向かった事は容易に思いつく事です」
2人は、花凛の意図に気づき現状把握をしている。
『ブーンドック セインツ』を放置して。
「お、お前等。何をブツブツ言っているんだ! 俺達を無視するとは良い度胸だ!」
さすがに、紫電とアシエの態度に堪忍袋の緒が切れたらしい。
全員が声を荒げ、吠える様に叫んでいる。
「はっ、こいつらたいしたこと無さそうやな」
「そうですね。心構えがなっていないですし、すぐにキレている所を見ると精神面でも幼稚です」
そして、紫電とアシエはにやにやしながら『ブーンドック セインツ』と向き合う。その行動に、『ブーンドック セインツ』はついにブチキレたらしく一斉に襲いかかる。
「速攻で決めるで!!」
「わかってるです!」
その頃、屋上駐車場に着いた花凛はエスカレーターの出入り口から外に出ると、辺りの視界の悪さに驚いていた。
「こ、こんなにたくさんの毒ガスがまかれているなんて、早く何とかしないと死者が出る。いや、もう出てるのかな……」
花凛は、出来るだけ考え無いようにしていたことを口にした。
『そんなことよりも、花凛。あなたの考え通り、加護によって毒ガスに耐性が出来ているけれど、ずっと大丈夫なわけ無いわよ。もって10分。それ以上は、いくらあなたでも蓄積された毒に耐えられなくなるわよ』
「分かった」
自分の体の事なので、花凛も薄々とは感じていた様である。
力の出し惜しみをしていたら、タイムオーバーになってしまう。
花凛は偃月刀を取り出し、パーカーを着た真鬼を探すために辺りを見渡している
すると、突然後ろから声が聞こえてくる。
「何だ、貴様1人か?」
花凛はその声に反応し、ゆっくりと後ろを振り向いた。
そこには、駐車場に止めてある車のボンネットに乗っているパーカーを着たあの真鬼の姿があった。
「仲間は、どうした? お前1人じゃつまんね~んだよ」
「それよりも、この毒ガスを消して。私達は逃げも隠れもしないから! 私達を逃がさない為にやっているのなら、今すぐに消して!」
花凛は、偃月刀を真鬼に向けるとそう叫んだ。
しかし、真鬼はにやりと不気味な笑みを浮かべると、花凛に向かい狂気に満ちた言葉を投げかけた。
「ヒャハッ。嫌に決まってんだろうが! 俺は、人が苦しみ恐怖している顔を見るのが好きなんだよ! それが、幸せを感じている奴なら尚更だ!! 『何で、自分が』『何故こんな目に合うんだ』そんな絶望と恐怖と悲しみが混ざり苦しむ姿を見ると、ここん所のモヤモヤがスーっと消えていくんだよ」
真鬼は、そう言いながら自分の胸を親指でさしてきた。
恐らく、ストレス解消のためにこんな事をしているのだろう。
花凛達を閉じ込め逃げられないようにするだけでは無く、ストレス解消も兼ねていた。
「だからなぁ、止めらんね~んだよ!! 人殺しがな!! ほんとは、ナイフでぶっさしてグリグリした方がスーっとするんだがな、最近手に入れたこの力も悪くね~顔が見られて、俺はご機嫌なんだよ! だから、毒ガスを消すとかあり得んな! まぁ、安心しな直ぐには死なない様にしてある。ジワジワと時間をかけて苦しませてそれを眺めて楽しむのさ。止めるなら、俺を殺すしか無いぞ!」
花凛もリエンも既に怒りはピークに達していた。
力を抑えるつもりも毛頭なかった。一撃で後悔させてやる。
花凛とリエンは同じ事を考えていた。
「もう喋らないで。その口を閉じて。出ないと加減出来ずに、この街諸共消し炭にしてしまいそうよ!」
そう言うと、花凛の周りにいつも以上に激しく燃え上がる炎が現れ、花凛の体を包んでいく。
そして、目は縦に獣の様に変化し背中に龍の翼が生えて龍化していく。
「ヒャハッ。すげぇな、おい! さすがヒーロー様だねぇ! だからこそだ! 一般人の希望の光であるお前達を潰した時の奴らの顔は、いったいどんな絶望の顔を見せてくれるんだろうな! 楽しみだ!!」
「だから、もう喋らないで!!」
『花凛、私も同じ気持ちだけど。時間の事とあなたの邪悪な力の事わかっ……』
しかし、リエンの言葉は少し遅かった。
花凛の目に正気は無く、禍々しいオーラが体から発せられており体を包み込もうとしている。
『ダメ! 花凛!!』
リエンの制止の声も届かず、花凛は真鬼に飛び込んでいく。




