表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
煉獄の焔  作者: yukke
第六章 正義の復讐者
60/122

第二話 ある1つの事件

 2日後、神田は謹慎処分につき自宅にいた。

そして、リビングに飾ってある1つの写真立てを手にし眺めている。

そこには屈託のない笑顔を向ける母娘の姿が映っていた。


奈都子(なつこ)沙織(さゆり)。今日はお前達の……」


 すると、そこに目をこすりながら眠たそうな顔をした花凛が起きてきた。

そして、神田の姿を見ると慌て始める。


「あ、賢治さん。起きてたんだ。ごめん、今朝食作るから!」


 いつも通り、出勤する神田の為に朝ごはんをと花凛は焦っていると。


「おいおい、今俺は謹慎処分だぞ。慌てなくても大丈夫だ」


「あっ……」


 花凛は、すっかりその事を忘れていたようである。


『全く、おっちょこちょいな娘ね~』


 花凛のその姿に、リエンが久々にからかってくる。


「む~、リエンは一言多いよ」


 まるで、姉妹を見ているかのような感覚に神田は自然と笑顔がこぼれていた。

しかし、再び悲しげな顔になると先程の写真に目を戻すと、写真立てをそっと元の場所に戻した。


「えっと、それ。ご家族の写真?」


 その様子を見ていた花凛は、台所から神田に尋ねる。

今日の朝ごはんは、昨日余った味噌汁と焼き魚にちょっとしたサラダである。

花凛はここのところ料理の腕が上がっており、その作業も手慣れたものになっていた。


「あぁ、今日。この2人の誕生日だった。母親と娘が同じ誕生日だなんて奇遇なものだ」


「だった? じゃぁ、やっぱり……」


 過去形になっているところで花凛は気づいた。

いや、前からそうなのだと確信はしていたが敢えて聞いていなかった。それは、神田から話てくれるのを待っていたからだ。


「そうだ、もう亡くなっている」


 花凛は、なんら驚く事無く神田の言葉に耳を傾けていた。


「そう、事故で?」


「いや、殺された」


「えっ?!」


 あまりの言葉に、花凛は驚きの声を上げた。

花凛が予想していたものとは違っていた為に、衝撃的だったからである。


「いつかは、話さなければとは思っていた。この前の学園祭の事件から、俺の事を怖がってる感じだったからな」


 花凛は、無言のまま焼き魚をお皿に盛りつけてテーブルに持っていく。

それでも動揺は隠せなかった。


『殺されたって事は、あなたに恨みを持った人がやったことなの?』


 花凛が黙ってしまったために、代わりにリエンが神田に質問している。


「俺に恨みか……それなら幾分かマシだったろうな。だが、そうではない。通り魔さ」


「そんな……」


 花凛は、朝食をテーブルに置くと席につく。呆然としながらも、体に染みついた朝の支度を無意識にやってのけているのを見ると、良い主婦になれそうである。


「2人は買い物に向かった先で、突如現れた通り魔に襲われたのさ。顔や胸等数十カ所を滅多刺しさ」


「何でそんな……」


「わからんさ、犯人の気持ちは考えたくも無い。だがな、もっと苛立つのは何も出来なかった自分自身にだ」


 神田の手がワナワナと震え出す。神田の怒りは犯人と、自分自身に向けられているようである。


「賢治さん……無理しなくても」


 花凛が咄嗟に止めようとする。常人なら、耐えられない程のストレスだ。無理に聞き出すのは良くないと、花凛はそう判断した。


「いや、大丈夫だ。お前には聞いておいてほしい」


 神田は、真剣な目つきで花凛を見ていた。

何故、自分にそこまでの事を話すのだろうか不思議ではあったが、とにかく神田が聞いて欲しいのであればと思い、花凛はゆっくり頷いた。


「俺はな、その時パトロールでその近くにいてな、その時丁度買い物に行く2人が見えたよ。2人も俺に気づき俺に手を振りながら、走ってきたんだ。そして、次の瞬間。横から突如現れた、パーカーのフードを被った男がナイフを片手に2人に襲いかかったのさ」


 神田は、非常に重い口調で事件の事を話し続ける。


「もちろん、俺は助けようと咄嗟に拳銃を抜いた。だが、その時脳裏に浮かんだのは、無許可で発砲した場合の処分の事だった。人命がかかった場合、すぐに発砲出来るとは言え俺は一瞬その事が頭に浮かび、拳銃を撃つのが遅れた。そのせいで……妻と子供は。俺の目の前でっ……! 我に返った俺は警棒で犯人を捕まえようとしたが、高笑いしながら奴は逃げていった」


 神田は、顔を両手で覆った。余程の苦しみだったのだろう。辛かったのだろう。


「今でも思い出す。手を伸ばし俺に助けを求める姿が。何故、あの時拳銃に手をかけたのか。安全策を取ってしまったのか。身を犠牲にして警棒で妻と子供を守れば良かったのに、何故」


 神田は、顔から離した両手をじっと見つめていた。


「だから、俺は決めたのさ。もう二度と人命と地位を天秤にかけないとな」


 神田がこの前の学園祭襲撃で、暴走した三つ子を躊躇せずに撃てた背景には、壮絶なものがあったようだ。

花凛は、そっと神田の手をとる。


「花凛……」


「うん、大丈夫。もう怖くないよ。そんな事があったから決意のもと撃てたんだね。少し、賢治さんの事が知れて良かった」


 花凛は、にっこりと神田に微笑んだ。

神田には、それが眩しすぎたのだろうか目を反らしている。


『ラブラブの所悪いんですけど~』


「なっ?! ちょっ、ちが!」


 慌てて花凛は手を離す。どうやら、放っておかれていた事に対して、リエンがご機嫌斜めになっている。


『聞く限りでは、その殺人犯ってさ……』


「そうだ、まだ捕まってはいない」


 リエンは納得した様子で、腕を組み難しい顔をしている。


『でも、6年前ならタルタロスからの怨念でというのは考えられないわね。いえ、でも少しずつ広げていたとしたら。いや、考え過ぎね』


「そうだな、あれだけの目撃情報と犯人の遺留品があるにも関わらず、捕まえられないのさ。確かに、君達に出会ってから奴ももしかしたらと考えたことはあるが。リエン、君と同じ様にあり得ないという結論になった」


 危険な殺人鬼が未だに逃走している。花凛にとっては神田よりも、そちらの方が恐ろしいものだと感じていた。


『後、その人はそれから事件を起こしてないの?』


「いや、何の意味があるのか1年に1回、丁度今くらいの時期に奴は犯行を行っている」


 そう言われると、この時期に一瞬だけ世間を騒がす殺人事件が起きていたことを、花凛は思い出していた。


「よし、暗い話は終わりだ」


 神田が朝食を食べ終え、花凛にそう告げてくる。

そして、席を立つと思い立ったかのように今日の予定を言ってくる。


「そうだ、今日アシエ君と紫電君がこの街のアパートに越してくるのではなかったか? 人手がいるだろうから、手伝いに行くか」


「あっ、そっか。うん、分かった」


 そう、チームとなって動く為には2人もこの街に住んで貰う必要があった。

しかし、紫電は宿無しでホームレス生活をしようとしていたがアシエはしっかりと、自分の住めるアパートやマンションを探しだしていた。

ついでに、紫電にもそこに住むように進言していた。

というより、ほぼ強制でそこに住まわすことにしていた。

そして、花凛も朝食を食べ終えると準備をし紫電達が引っ越すアパートへと向かう。






「あ?! なんやこれ。どう使うねん!」


「あ~もう! 自炊くらい、1人で出来る様になるですよ! こんな簡単な家電の使い方もわからないとかバカですか?! 電気発していて、家電に強そうなくせして!」


「それとこれとは、関係ないやろ!!」


 アパートに着くと、早速紫電とアシエが玄関で何やら揉めていた。

荷物の中から、アシエが紫電の為にと見繕った物があったが、どうやら紫電はそのほとんどの使い方を知らないらしい。

その時点で、今までどんな生活をしていたのかは容易に想像できた。


「2人とも、近所迷惑だから静かにね」


『紫電は戦闘以外はクルクルパーだししょうが無いわよ』


 花凛とリエンが車から降りて、喧嘩している2人に近づいていく。


「あっ! 花凛ちゃん手伝いに来てくれたですか? ありがとうです」


「おい、リエン!! 誰が天然パーマやねん!」


『ほら、それよ。ボケてるの? マジなの?』


 神田は、その風景を見て何やら嬉しいそうな顔をしていたのを、花凛は見逃していなかった。


「賢治さ~ん! 重い荷物運ぶのお願い~!」


「よし来た!」


 そう言うと、神田はカッターシャツの袖を捲り意気揚々と皆の元に向かっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ