第十三話 裏切られた想い
辺りは静かになり、戦いの終わりを報せていた。
花凛は、哲郎を抱えると屋上から下へと飛び降り着地すると。
校舎の前に倒れている2人の元に、哲郎も横にさせると。
3人を真剣な表情で見ていた。
「この人達にとって、自分のを救ってくれた人への恩返しなのだろうね。でも、恩返しする人を間違えているよ」
花凛の寂しげな横顔を見て、リエンがフォローしてくる。
『あなたも、私が悪い奴ならどうしていたの?』
「あっ……」
その言葉に、花凛が何かに気づいたように声を発した。
『結局救ってくれた人が悪でも善でも、人はそうしないと気が済まないものでしょう? 特にこの人達は、命を救われたに近いのよ? 必死に恩返しするのは必然でしょ?』
リエンの言葉に、花凛はゆっくり頷いた。
しかし、嫌な予感はしていた。あの人物が、慈善事業みたいなことを果たしてするのだろうか?
自分の計画の為だけに、彼等を利用しているのだとしたら?
花凛は、3人の首元に付いている紫色のチョーカーに目を落とす。
「花凛~!! 皆、無事か?!」
すると、そこで神田の声と警察官達が一斉に学校内に入ってきた。
そして、救急隊員も来ているようで倒れている人達の元に駆け寄っていく。
「何やねん、今更かいな?」
「毎度の事なんだけど、紫電さん。しょうがないと思うのだけど?」
紫電の毎度同じみの言葉に、花凛は飽きられる様に呟いた。
こんなとんでもない戦いに、普通の人間が出来ることは、周りの人達が戦いに巻き込まれない様にするくらいであった。
「全く、本当に不甲斐ない限りだよ。さて、今回の襲撃者達を捕まえて、黒幕を世界中に公表して貰おうか」
そう言って、神田が3人に近寄り手錠をかけようとしたその時。
グラウンドの方から誰かの声が聞こえてくる。
「いや、なかなかに良いデータが取れたな。『アビリティルギー』の今後の改良に役立てそうだ。しかし……ふむ。ゲートから漏れる薄いエネルギーでは、理性が崩壊するくらいで人格は保てているな。だが、力は弱く能力も付かない。逆に濃すぎたりすると、人格が崩壊。また、生き物すら化け物にし、死体すら鬼化して動かしてしまう」
グラウンドにいる、白衣を着た人物が顎に手を当てこちらにゆっくりと近づいてくる。
その男は眼鏡をかけ、髪はボサボサで、ヒョロヒョロの体をしている。
しかし、左目にはあの制御装置が埋め込まれていた。
それを見た花凛達は咄嗟に身構えた。
「あぁ、そんなに警戒するな。俺はただ、今回使った者の処分に来ただけだ」
「処分……だと?」
その言葉に、目を覚ましていた哲郎が起き上がり白衣の人物を睨みつける。
「あぁ、そうだ。使えなくなったものは処分する。それが基本だろう?」
「沢村!! サディアスさんが黙ってないぞ!」
続けて目を覚ました清太が声を荒げる。
よく見ると、吾郎も意識を取り戻しており立ち上がろうとしながら睨んでいた。
そして白衣を着た、沢村と呼ばれた人物はメガネを指で上げ不敵な笑みを浮かべる。
「その、サディアス氏からの指示だ。使えない者は処分しろってな」
「なっ……」
「えっ?」
「嘘を、つくな!!」
吾郎、清太、そして哲郎が手を横に振り払い沢村にくってかかろうとする。
「本当の事だ。そうそう、ついでだ。もう1個お前達で実験させて貰う」
沢村はそう言うと、ポケットから取り出した小型のリモコンのスイッチを押した。
「なっ、何を。あ、ぐぁ……」
すると、急に三つ子が苦しみだす。
そして、よく見ると徐々にチョーカーの紫の色が端から白くなっていく。
「ま、まさか……」
『あの、チョーカー! 例の薬をしみこませているんじゃないの?!』
花凛が驚き、リエンも驚きの余り声を張り上げていた。
そして、徐々に三つ子の体がボコボコと変形しだす。
「あ、あぁぁぁぁ!!」
「ひっ、ひいぃぃ!! 痛いよぉぉお!!」
「ぐ、ぁぁああ。おのれ、おのれぇぇぇええ!! 俺達は、俺達はぁぁあ!!」
それぞれが苦痛と絶望の悲鳴を上げる中、三つ子の体は変形しつつ風船の様に大きく膨らんでいく。
「おぉ、俺の制御装置には限界はないのか? 素晴らしい。こんなになっても化け物にならないとは。どんどん体にため込んでいるようだな。逆にこれは使えないだろうか?」
一心不乱に自画自賛しながらメモを取り、膨れ上がる三つ子をうっとりした目で見つめていた。
「あっ、あかん。最悪や。これは鬼化やない。止めようにも俺等には止められんし、殺すことも出来ん!」
「えっ? どういう事?」
紫電の言葉に、耳を疑った花凛は紫電に聞き返す。
龍であるならば、時と場合にもよるだろうが簡単に人を殺せそうなものである。
『私達、龍族にもタブーはあるの』
「それは、人を殺すことです」
リエンの言葉に続き、アシエが話し始めた。
「私達の王である龍王。その先代が決めたことです。これを破ると、私達はタルタロスに幽閉されてしまうです」
「えっ? じゃぁ、タルタロスの怨念の中には」
「当然、龍の怨念もあるって事や」
そして、花凛への説明が終わると皆再び前を向く。
そこには、人の原型を留めていない三つ子の姿があった。
大きさは3倍近くになり、腕もトゲが突出し太く膨れ、体も肉の塊の様になっており、顔はほぼ埋もれてしまっていた。
それでも、そこから苦痛の声が漏れている。
「う、うぅぅ……うぐぅぅ!!」
もう、誰だか分からない三つ子の内の一人が腕を振り上げ花凛達に襲いかかる。
「くっ!」
そこまでスピードは無かった見たいで、3人は楽々避けたものの。
振り下ろした腕は、大きく地面を陥没させ周りの地面もヒビが入り、そこから割れる様に崩れていく。
「あかん!! 何てパワーや!! 周りに被害が!」
紫電の言葉に、花凛は周りを見渡した。
すると先程の攻撃で、救急隊員や警察官達にの足下灯にヒビが入り、転倒したり衝撃で体ごと吹き飛んだり、足を怪我したりと様々な被害が出ていた。
「くっ、止めないと!」
そう言って、花凛は武器を出す。しかし、目の前にリエンの腕が伸びた。
『止めておきなさい。さっき言った掟、あなたにも適応されるのよ』
「そ、そんな?!」
花凛は、リエンの言葉にただ呆然としていた。
しかし、 よく考えるとこの人達はまだ“人間”なのだ。制御装置という物があるために、完全に鬼化せずに中途半端な状態になっているだけである。
現に鬼のオーラも、発せられていなかった。
「ちっ、あかん!! 一般人守らな! 奴ら自我まで失いめちゃくちゃに攻撃しとる!!」
そう言いながら、紫電は咄嗟に一般人の前に立ち暴走した三つ子の攻撃を防ぐが。
その余りのパワーに吹き飛んでしまう。
「がっ……ぐぅ!!」
校舎の壁に打ちつけられた紫電は、かなりダメージを負ったらしくその場に座り込んだ。
「はわわわ、アシエちゃんの盾もへこまされそうです~」
勿論、アシエも一般人の前に巨大な盾を作ってはいたが2体の同時攻撃に盾がもちそうになかった。
そして、紫電を吹き飛ばした1体も加わりアシエの盾を殴りつけると、遂にはアシエの盾に穴が空き盾もろともアシエを吹き飛ばした。
「きゃうぅぅ!!」
アシエは後ろに吹き飛び、地面に2回ほどバウンドするとうつ伏せで倒れ込んでしまう。
「くっ!!」
その様子を見た花凛は、慌てて偃月刀から炎を出すと暴走した三つ子の周りに炎の壁を作り出した。
「あ……あぁぁぁ」
「た、助け……て。にい……」
「がっ、ぐぅ……ぅぅううう」
どうやら三つ子は意識があるらしく、ただひたすらに苦しんでいた。
何とか、助けられないのか?
花凛の頭の中は、全てを解決するための策を模索していた。
「良いな、素晴らしい。龍をも凌ぐこの力。何とかして制御出来ないものだろうか? いちいち暴走していたら、使え無いからな」
沢村は嬉しいそうにその光景を眺め、そして興奮しているようかの様に体を振るわせていた。
そこに、誰かの声が響く。
「おい! そこのクソイカれ科学者!」
花凛は、その声のする方に顔を向けた。
すると、そこには神田が険しい表情でゆっくりと暴走した三つ子に近づいている。
「危ないよ、賢治さん!」
花凛が、止めに入る。例え、花凛の炎で一旦留めていてもいつその炎を跳び超えてくるか分からなかったからである。
しかし、そんなものは気にも止めないのか神田は歩みを止めることはない。
「おい、こいつらは。もう元には戻せないのか?」
神田が、三つ子の隣に立つと沢村にそう問いただす。
「何を聞くかと思えば。注入された『アビリティルギー』を抽出することは不可能だ。なので、戻れんよ。化け物になった者達も同様だ」
「そうか……なら仕方がないな。これ以上、市民に被害を出さない為には……」
沢村の無責任な発言を聞き終わると、神田はおもむろにスーツの内側から拳銃を取り出すと、シリンダーを回し実弾が撃てるようにする。
そして、ゆっくりと三つ子にその銃を向ける。
「こうするしか……ない」
そう言うと、神田は撃鉄を起こし狙いを定める。
「おっさん!! 何するつもりや!!」
「ダメ!! 賢治さん!!」
紫電が叫び、花凛が止めに入ろうと走り出す。
しかし……
神田は、引き金をひき銃声を響かせた。
そして、三つ子の三つ子の1人のこめかみを撃ち抜いた。
すると、再び撃鉄を起こし別の三つ子に狙いをつけると躊躇なく引き金をひく。
「ちょっ、賢治さん……」
花凛が、呆然とする中神田は最後の1人も撃ち抜いた。
そして、三つ子はその場に倒れ込み動かなくなった。
「な、なんて奴だ。貴様、刑事だろうが」
この展開には、さすがの沢村も驚きを隠せない様である。
そして、その神田の元に花凛が走り寄ると胸ぐらを掴んで叫びだした。
「何やってるの!! 賢治さん!! そんな事をしたらあなたは!!」
「刑事じゃなくなるか? 殺人罪で捕まるか? 地位と名誉、それは数十人の人の命よりも重いのか?」
「……っ。でもっ!!」
声にならない声を絞り出す花凛に、神田は更に続けた。
「君達が手を出せないから、俺が代わりにやったまでだ。他の奴らの命を救う為なら、どんな処罰でも受けてやる」
「……」
神田は、胸ぐらを掴んでいた花凛の手を払う。だがそれに抵抗せず、ただ花凛は顔を俯かせていた。
自分達には、何も出来なかったその事実だけが花凛達に重くのしかかる。
すると、突然大きなエンジン音が周りに響き渡る。何と、グラウンドにはいつの間にか大きなトレーラーが止まっていたのだ。
まるで何か大きな物を運んできたかのような物であるが、中は空っぽなのは花凛達は分かっていた。
おそらく、あれでヒグマを連れてきたのであろう。
そして、沢村はそのトレーラーに乗り込む。
「良いか、今日のところは引かせてもらう。だがお前等が俺達の邪魔をするなら、確実に消してやる。覚悟しておけ」
沢村がそう言うと、トレーラーは大きく旋回し屋台をなぎ倒しながら学校の外へと出て行った。
そしてその運転席には、見たことのある金髪碧眼の女性が乗っていた。
「ちっ、もう一発はあいつの膝にでも撃ってやろうと思ったがな。まぁ、いい。お前等、後片付けは頼む。俺は報告しなければならないことが出来たからな」
そう言うと、神田は花凛の元に歩いてくる。
ようやく動ける様になった紫電とアシエも、花凛の元に集まっていた。
「花凛、そして君達も。後で、報告の為に一度俺と一緒に署まで来てくれないか?」
「うん、わかった」
その言葉に、花凛はゆっくりと頷く。
しかし、花凛は神田へのイメージが変わりつつあった。
躊躇なく人を撃てる神田を、少し怖いと思いだしていた。




