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煉獄の焔  作者: yukke
第五章 学園祭襲撃
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第十二話 煉獄龍 花凛 VS 三つ子の処刑人 哲郎 ②

 上空にいる鬼化した鷹の背に乗り、憎々しげにこちらを見つめている哲郎。

この事態は想定外の様で、ぶつぶつと何か呟いている。

そこに、花凛が偃月刀から放った巨大な炎の刃が飛んでくる。


「ちっ!!」


 哲郎は舌打ちをしながら、下に飛び降り花凛の炎の刃を回避し再び校舎の屋上に降り立つ。鬼化した鷹は炎の刃に斬られ、炎に包まれ浄化した。


「さぁ、覚悟しなさい。もう、小細工は通用しないわよ?」


 そして、花凛が哲郎に偃月刀を向ける。しかし。


「……せに」


 哲郎は、まだ何かを呟いている。


「何も知らないくせに……」


 そして哲郎は、ありったけの怒りと憎しみを込めた目で花凛を睨みつける。


「何も知らないくせに!! 邪魔をするな!!」


「なっ、何が?!」


 その言葉に花凛は思わず聞き返していた。

あまりにも冷静さを失っている哲郎は、何をしでかすか分からない。

そう思い、花凛は警戒しつつ哲郎の様子を伺った。

すると、哲郎はぽつぽつと自分達の事を語り出した。


「五体満足のお前等には、想像できんだろうが。身体に障害を持った奴等の気持ちなんかな!!」


『身体に障害?』


 その言葉に、リエンが首を傾げて聞き返している。

どうやら彼女達、龍にとっては自分達の役目を全うするためによそ見をしてこなかった。

人間達の中に、体が不自由な人達が居ても気にも止めていなかったのだ。

それは、自分達には関係なく。そして、それ以上にやらなければいけないことがあったからである。


「下半身が動かずに車いすだったり、腕が片方無かったり。様々な人達が居るけど、総じて正常に体を動かせない人達の事だよ。リエン」


 花凛が、リエンの為に大まかな説明をしていた。


「ふん。お前達、正常者は常に弱者を蔑むからな。どんな、惨めで哀れで思いをしてきたかわかるか?!」


 徐々に哲郎は、感情的になり声を荒げていく。

余程の事が、この三つ子にはあったのだろうか。

しかし、それでもこの事態を起こして良い理由にはならないはずてある。


「俺達は、小さい頃ある事故に巻き込まれてしまい、俺は下半身付随。三男は、両腕を失い。次男は両足を失ったんだ。なのに、両親はそんな風になった俺達を捨てちまいやがった!!」


 両親が相当悪かったのだろうか。花凛は、そんな考えが頭をよぎる。

そして、じっと哲郎の様子を見ている。


「施設に入れられた俺達は、そこでも良い扱いは受けなかったさ。弟達は酷いいじめを受け続けた。俺達はもう、限界だったのさ」


 哲郎は、重い口調のまま。それでも花凛を睨みつけながら続けている。


「そこに現れたのが、サディアスさんだった。そして、俺達にこう言ったんだ。『もう一度まともな体が欲しくないか?』てね。俺達も最初は半信半疑だったさ。だがな、俺達はもう人生を捨てていたし、この体が治るのならどんなことでもしてやると、そう考えていたのさ。その、結果はどうだ? 俺達は見事に、正常な体を手に入れた! しかも、おまけに特殊な力も付いた!」


 哲郎は、両手を広げて何とも嬉しそうな表情をしている。

確かに、障害を持っていた人達から見たら奇跡であろう。


『怨念、違うわね……どういう事? サディアスって人物は何者なの? 腕のない人に腕を与えたり、歩けない人を歩かせたり。さすがにそんなの、タルタロスの怨念では無理よ』


 リエンは、新たに浮かび上がる謎に頭を抱えていた。

怨念だけでは、その怨念を濃縮した薬だけでは説明が付かなかったのである。


「とにかく、サディアスさんはその様な障害を持った不幸な人達を救い、その人達を集めて特殊社員として雇って下さったのだ。それが我ら、『ブーンドック セインツ』さ。サディアスさんの、邪魔する奴等はその名に置いて消す!」


 そう叫ぶと、哲郎は両手を打ち鳴らし再び生き物を洗脳しようとする。しかし、何度もさせる花凛ではなかった。

偃月刀を振りおろし、炎の刃を哲郎に放つ。


「……っ?! ちっ!!」


 咄嗟に、哲郎は避けるがおかげで洗脳をする事が出来なかった。

そして、続け様に花凛が哲郎に向け攻撃を仕掛けていく。

振りおろした偃月刀を、哲郎に走り寄りながら振りあげ、真横に回避されたところを反転させ持ち直すと、哲郎に真っ直ぐ突くように追撃する。

すると、激しく刃と刃がぶつかる音と火花が散る。

よく見ると、哲郎がどこからともなく大きめのジャックナイフを取り出し、花凛の偃月刀をギリギリで止めていた。


「ちっ、俺達の邪魔をするな!」


「あなた達が、サディアスと言う人を崇拝しているのは分かった。もう、何を言っても聞かないでしょうね。それでも、あなた達のやっている事は非人道的よ許されるものではない。私があなた達を止める!」


 花凛は、真っ直ぐに哲郎を睨みつける。視線を外さず、自分の強い思いを相手に与える為に。


「ちっ!! うるさい、うるさい!!」


 そう言うと、哲郎は自分の体を駒のように回しながらしゃがみ込み、その勢いで花凛の偃月刀を弾いた。


「えっ?!」


「言ったはずだぞ、俺が戦闘が出来ないと思ったら大間違いだとな!」


 哲郎はそう言うと、下からナイフを花凛の喉元に突き刺そうとする。

しかし、花凛は咄嗟に相手は体術の使い手だと言うことに気付くと、頭を切り替え戦闘タイプを変える。

そして、喉元に向かってくるナイフをしゃがんで避けると、左手で体

支えながら、相手の顎に向かって蹴りつける。


「がっ?! くっ!!」


 見事に顎にクリーンヒットしたが、相手は後ろにバク転して飛び退き、威力を殺していたのでたいしたダメージにはなっていなかった。


「ふぅ……あなた、どこでそんな動きを?」


「ふん、少し軍隊でな」


 そう言って、ジャックナイフを起用に右手でくるくると回している。

軍隊の動きにしては少し雑な部分も多いと感じた花凛は、軽くCQBの基礎を学んだくらいだろうと判断した。


『ちょっと、花凛。大丈夫なの? 本格的な戦闘を学んだ相手って事でしょ?』


「ん? 大丈夫。拳銃等があれば別だけど、この程度なら何とかなりそう」


 そう言いながら、花凛は偃月刀を回すと柄を下にして地面に突き立てた。

そして、辺りに偃月刀に付けられた鈴の音が鳴り響く。


「舐められたものだ、なっ!!」


 どうやら、哲郎の心は徐々に怒りが満ちてきている様に感じ取れる。

自分達をサディアスさんを否定する存在。そして、その者達をなかなか殺せずにいるもどかしさ。

それが相まって、イライラはピークに達しているようだ。

そして、怒りに任せ低姿勢で花凛との距離を詰めると、再びジャックナイフを下から突き上げる。


 だが、花凛の顔面に届く前に哲郎の顎に衝撃が走る。

花凛が、手に持っていた偃月刀を反転させ柄の部分を、哲郎の顎にヒットさせたのだ。


「がっ……」


 その衝撃の強さで、哲郎は一瞬視界が揺らぐ。

その隙に、花凛は左手を広げると指を真っ直ぐに伸ばし左手に炎を纏わせる。


「火焔掌波!!」


 花凛はそう叫ぶと、広げた左手を哲郎のみぞおちを強く打ち込み、炎の衝撃波と共に吹き飛ばした。


「がはっ……ぁああ!!」


 その衝撃で哲郎の体がコの字型になりながら吹き飛び、屋上の端ギリギリの所まで来る。

すると、哲郎は目を見開き落ちないように、ジャックナイフを突き立て体勢を立て直す。


「はぁ、はぁ。げほっ。ぐぅ」


 しかし、そのダメージは確実に哲郎の体力を奪い、痛みと熱で意識が飛びそうになっていた。

そして、直ぐに反撃しよう顔を上げ目の前の花凛を睨もうとするも、そこに花凛の姿は無かった。


「こっちよ」


 すると、哲郎の上から声が聞こえる。

何と、花凛は哲郎が踏ん張った時点で次の行動に移っていた。

上に飛び上がり、哲郎の視界から外れる様にし、奇襲をかけようとしたのだ。

そして、花凛は偃月刀の刃に炎を纏わせ振り下ろす。

だが、哲郎も花凛の攻撃に気付くと咄嗟にジャックナイフを横に向け、花凛の攻撃をギリギリで防ぐ。


「ちっ! 調子にのるな!!」


 哲郎はそう言うと、ジャックナイフで花凛の偃月刀を花凛ごと振り払った。


「うわっ、と。パワーはあるみたいね」


「ふぅぅぅ……」


 しかし、花凛の言葉には耳を貸さずに哲郎は腰を落とし、ジャックナイフを逆手に持つ。

そして、目は完全に獲物を捉える様な目をしている。


「次は本気の様ね。分かったわ。これで決める!」


 花凛が、そう叫ぶとお互い同時に走りだす。

そして、哲郎の下からの攻撃を花凛は両手で偃月刀を横にし、柄の部分で受け止める。

すると、哲郎の切り上げ様とする力に乗り体を浮かすと。ナイフを軸にしクルッとバク転の様に反転し、哲郎の後ろに回り込むと着地と同時に横から振り抜こうとする。

しかし、哲郎はその攻撃を読んでいたかの様に後ろを振り向かずにナイフで受け止める。

そのまま後ろを振り向きながら、その勢いでナイフを振り抜き花凛に斬りつけてくる。

花凛は、後ろに飛び退き回避すると偃月刀を構え直し、再び哲郎に向けて攻撃を仕掛ける。




 刃を交えてから何分たったのだろうか、リエンはただ2人の戦いを見ているだけである。

花凛の勝利を信じて。


「はぁ、はぁ……」


「はぁ、ぐっ、はぁ。くぅ」


 しかし、どうやら花凛より哲郎の方が先にバテて来ている様子である。

哲郎は何とかガードしつつも反撃していたのだが、動きのキレが落ちている様子である。


 そして、哲郎は最後の力を振り絞りナイフを花凛に斜め上から斬りつける。

勿論、花凛はその動き出したを見て刃で受け止めようとする。

しかし、哲郎は瞬時にナイフを引くと、受け止め様と上に上げていた花凛の偃月刀の下をくぐり抜け、目にも止まらぬ速さで花凛の体を斬りつけていく。


「うっ……ぐっ!!」


 一度懐に入られたら偃月刀では対処できない。花凛の体には次々と切り傷が増えていく。

しかし、次の瞬間。花凛は偃月刀を後ろに放り投げると、次々と斬りつけてくる哲郎の腕をガシッと掴んだ。


「なに?! くそ、離せ!!」


「ふふ、離さない」


 花凛は、女の子らしく可愛く言うと右足を相手の前に踏み出し、しっかりと踏みしめると、何とそのまま勢いよく一本背負いを決めたのだ。


「なっ?!」


 哲郎はあまりの出来事に、踏ん張る事はおろか受け身を取ることも出来ずに、そのまま叩きつけられた。


「まだよ!! 火焔掌波!!」


 花凛は、そのまま右手を離さずに炎を纏わせた左手を、仰向けに倒れ込んだ哲郎のみぞおちに深くたたき込んだ。


「あっ……がぁ!! そ、そんな……」


 哲郎は、右腕をわなわなと持ち上げ花凛に掴みかかろうとするがそのまま意識を失い、右腕はガクッと下に落ちた。


「ふぅ、何とかなった……力を制御しながら戦えた」


 花凛は、何とか切り抜けられた事にまずは安堵した。

そして、後ろから紫電の勝利の雄叫びが聞こえてくる。どうやら、向こうも片づいたらしい。

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