第十一話 煉獄龍 花凛 VS 三つ子の処刑人 哲郎 ①
屋上からは、爆発音が度々鳴り響く。
先程から、眩い雷光や、意味不明な巨大ゴーレムが現れて少しパニックになってしまっていた花凛は、敵の攻撃を避けるのに精一杯であった。
『あの2人、何やってんのよ~』
腕を組みながら、校舎の下を眺めていたリエンがぶつぶつと呟いている。
その横を、何かの生き物が飛んでいくと激しく四散する様に破裂した。
『あぁ、もう汚いわね~まさか、タルタロスの怨念がここまでの事をするなんて』
「はぁ、はぁ……さっきから何ぶつぶつ言ってるの?!」
花凛は、目の前の異形の生き物達の突撃を避け続けながらリエンに叫ぶ。
そして、花凛の目の前には信じられない光景が広がっていた。
「くっくっ、素晴らしいだろう。この能力、そしてこの薬! この2つを組み合わせた俺は、最強さ!!」
腕を前に広げ自慢気にしてくる、哲郎の前には様々な化け物が集っていた。
そこには、カラスの様な姿をしているものや、猫の様な姿をしているもの、虫に近い姿をしているものがあった。
そう、これらは哲郎が洗脳し集めてきた動物や、鳥、そして昆虫等であった。
哲郎は、生きている者ならば何でも『洗脳する能力』を持っていた。
その洗脳の力で、集めてきた生き物達に濃い色をした『アビリティルギー』を振りまいたのだ。
すると、その煙は生き物達に一気に吸い込まれていくと、見る見るうちに姿が変貌し地獄の化け物の様な姿になってしまっていた。
昆虫等は大量にいる。そして、それが変貌すると正にエイリアンそのものであった。
「さぁ、次々と集まって来るぞ。何時まで耐えられるかな?」
そう言うと、哲郎は手をならし周りと生き物達を洗脳する。
そして、再び高濃度の『アビリティルギー』を振りまく。すると、カラスはくちばしが異様に変形し、羽根は大きくなり、体も倍ぐらいに膨らんでいる。
猫は、眼球が無くなりガラスの様な目になると、爪が太く長く伸び、体と倍に膨らむ。
そして、どれも共通していたのは額から角の様な物が出ている事である。
「行け、目の前の奴を殺せ」
「ぐぎゃぁぁあああ!」
「があぁぁぁああ!」
これはまるで生き物達までもが、鬼化している様である。
花凛は、迫ってくる鬼化した動物達を偃月刀で切り裂き浄化していたが、数が多すぎていた。
それに、『神龍の加護』を受けた自分の力を完全に制御出来ていたわけでも無かった。
時折、制御を失敗しとてつもない爆発を巻き起こしたりしていた。
それで、ある程度まとめて浄化は出来ていたが。そのうち屋上が崩壊するのではないかと、心配になるくらい屋上にはボコボコの穴がいくつも空いていた。
先程から聞こえていた爆音はそれである。そして、生き物達が勝手に四散しているのも、あまりにも濃い怨念がその身に入り込んだ為に体が耐えきれず、体が破裂しているようである。
「さぁ、やれ。次々と襲いかかれ、手緩いぞ!」
哲郎が、化け物になった生き物達に指示をだす。
そして、次々と花凛に襲いかかる。花凛は、その生き物達を浄化し続けていたが、そのおかげで哲郎に近づけずにいた。
「くっ、せめてこの生き物達を何とかしないと」
元は猫であったであろう化け物を、偃月刀で斬りつけて浄化すると哲郎を睨みつける。
『あいつは人どころか、生きてる者全てが自分の駒だと思っているわね』
「絶対にあいつは倒して装置を破壊してしまわないと。放置していたら、どんどん犠牲者がでるわね」
花凛に向かって突撃してくるエイリアンの様に変貌してしまった虫を、斬って浄化すると再び花凛は哲郎に顔を向ける。
『それよりも、花凛。何を出し惜しみしているの? 神龍の加護はある程度、制御出来るようになってきたでしょ?』
「いや、その……」
リエンの言葉に、花凛は自分の心臓が高鳴っているのに気づく。
自分の心の内を読まれたのではないのかと、焦っていたのだ。
そこに、今度は小鳥が変貌したであろうくちばしに牙の生えた鳥型の化け物が花凛に襲いかかる。
「……っ!!」
花凛の目の前まで迫っていたそれを、偃月刀を振り上げて斬り裂くと化け物の体に炎が発生し、一気に燃やして浄化していく。
『まさか、自分の中にある邪悪な力を怖がっているの?』
「!?」
リエンの言葉に花凛は目を見開いた。
花凛が、不安に感じている事を当てられたからである。
『全く……。いい? さっきのはあなたの感情が昂ぶった事によって、軽く力が漏れでたくらいよ。感情にまかせなければ、暴走する事はないわよ。と言うか、私がさせないわよ』
リエンが、そう言い終わると哲郎の後方から何かが校舎を登っている音が聞こえてくる。
「ほう、俺が洗脳出来る範囲にこんなやつが居るとはな……いや、居るわけがないな。ということは、奴の差し金か。まぁ、いい」
哲郎がそう言うと、再び高濃度の『アビリティルギー』を3つ開けると、何かが登ってくる方に振りまいていく。
すると。
「グゥオオオオオオ!!!」
激しい雄叫びが、辺りに響き渡る。
「えっ? なに? 何がくるの?!」
花凛は、慌てて武器を構え直した。気づくと周りの鬼化した生き物も、攻撃を止めていた。
哲郎の口元が動いているのを見ると、どうやら哲郎がいったん攻撃を止めさせている様である。
『花凛、とにかく今は自分の中にある邪悪な力は置いておきなさい。とんでもないのが来るわよ!』
「分かった!!」
そして、花凛は音のする方に目を向けた次の瞬間。
下から上がって来た、何かが屋上の端に手をかける。
その大きさは、前に腕組みをして立っている哲郎の全身を軽く握り潰せそうな大きさであった。
次に、もう片方の手も屋上の端にかけると、ゆっくりと頭から顔を覗かせ始める。
花凛は、姿を現そうとするその生き物の大きさに少したじろいでしまう。
それは、確実に元の大きさの2倍近くになっているはずで、人間が対峙してきたどの生き物よりも大きかったのだ。
遂に、それの顔が現れ徐々に体も見えてきて、そして屋上に登ろうとしている。
花凛は、これが元ヒグマであったのではないかと考えていた。
体の形、顔の形、手足の付き方からそう考えたのだ。
しかし、その大きさも風貌も最早ヒグマではなかった。
頭から巨大な角を2本生やし、牙は更に巨大なものに、手足等は人間の全身を一瞬でぺしゃんこにする程の大きさ、体の毛という毛が逆立ち、肩甲骨も盛り上がり、骨の様な太い何かが皮膚を破り突き出そうになっている。
モンスターと呼ぶに相応しい風貌になった、鬼化したヒグマは哲郎によって洗脳されており、哲郎の指示を待っている様に突っ立っていた。
そして、その周りに攻撃を止めていた他の生き物達が集まってくる。
まさにこれから、総攻撃を仕掛けると言わんばかりに禍々しいオーラを放ち、花凛の方を睨み付けている。
『ちょっと、これは。本気でいかないとヤバいわよ。花凛』
「くっ……生き物達をあんな風に扱って、あなた今に天罰がくだるわよ!」
花凛が、哲郎に向かって指をさして威勢良く叫ぶ。
しかし、もちろん哲郎はその言葉に同様もせずに薄ら笑いを浮かべ花凛に言い返す。
「ふっ……神など居ないさ。居るのだとしたら、俺達にこんな仕打ちをしないさ。いや、神がこんな仕打ちをしたのか? まぁ、どうでもいいな」
哲郎は顔を少し下に向け、憎しみが籠もった口調でそう呟いている。
何か、この三つ子には人に言えない闇があるのだろう。
「さぁ、お喋りは終わりだ。やれ!!!」
哲郎が、顔を上げ花凛を睨み付けると鬼化した生き物達に指示を出す。
すると、我先にと一斉に攻撃をしてくる。その中で、1番先に花凛に攻撃をしてきたのはもちろんあの鬼化したヒグマであった。
「グォォォオオオオ!!」
鬼化したヒグマは、振り上げた腕を渾身の力を込めながら花凛に振り下ろす。
しかし、花凛は怯んでいなかった。
花凛は、目を閉じゆっくりと深呼吸すると再び目を開ける。
そして、鬼化したヒグマの攻撃を左手で受け止めたのだ。
「なっ?!」
哲郎が、目を丸くし驚きの声を上げる中。花凛は、再び目を閉じ偃月刀を右手でくるくると回している。
「風船を膨らます感覚。半分で、あの威力ならもう少し膨らまして……うん。良い感じ」
花凛が、目を開けると偃月刀の回転を止めて握り直す。
もちろん、その間鬼化したヒグマは花凛から腕を離そうとしたが、花凛がガッシリとヒグマの手を掴み逃がさないようにしていた為、逃げられずにいた。
「“煉獄の焔”!!」
花凛は、そう叫び手に持っていた偃月刀を鬼化したヒグマに向けて投げつけた。
すると、今までは偃月刀に炎を纏わせながらでなければ放てなかった技が、普通に投げただけで瞬時に巨大な炎の塊となってヒグマに襲いかかった。もちろん、炎の大きさも今までの比ではなかった。
「……ォォオオオオオオ!!」
鬼化したヒグマは雄叫びを上げながら、炎に包まれていく。
そして、その勢いのまま。今度は後ろに居る哲郎にも襲いかかる。
周りの鬼化した生き物達を飲み込みながら。
「ちっ、この化け物が!」
哲郎が、そう言うと両手を打ち鳴らす。
そして、おそらく鷹であろう鬼化した猛禽類の様な生き物が哲郎を掴み空高く飛び上がり、花凛が放った炎の塊を回避した。
「あ~惜しい。もうちょっと威力強めでも良かったのかな~でも、強すぎたら校舎まで焼いちゃいそう」
『それよりも花凛、あなた龍化せずに放ったよね?』
しかし、先程の花凛の攻撃で誰よりも驚いていたのはリエンであった。
『そんな簡単に神龍の加護を受けた力を制御出来た龍は、あなたが初めてよ』
「えっ? そうなの? でもさ……まだちょっと力を出し過ぎないようにって思っちゃってるかな」
花凛はそう言うと、目の前を凝視する。
すると、炎の中から巨大なヒグマの手が現れ、花凛を叩き潰そうとしてくる。
「……っ!! ほらね、さっきの耐えられちゃったみたい!」
花凛は、瞬時に後ろに飛び退く。
しかし、鬼化したヒグマの力は想像以上であった。
花凛を叩き潰し損ねたヒグマの腕は、そのまま校舎の屋上を叩く。
すると、一斉に周りにヒビが入り屋上が一気に崩れてしまったのだ。
「しまっ……?!」
花凛は、咄嗟に校舎から離れようとしたが間に合わず、瓦礫やヒグマと共に下の教室へと落ちていく。
「花凛!! 大丈夫か?!」
「紫電さん?!」
しかし間一髪で、花凛が落ちる前に紫電が腕を伸ばして支えていた。
どうやら、紫電達が屋上にたどり着いた瞬間に屋上部分が崩れた様である。
「助かった。ありがとう」
丁度真ん中の部分が崩れたらしく、ポッカリと大きな穴を空けていた。
しかし、下の教室に落ちた鬼化したヒグマは当然ながらピンピンしており、屋上に上がろうと壁を掴み登ろうとしていた。
「ちっ、何やねんこの状況は。生き物すら鬼化出来るんか?」
『怨念が濃ければ、そうなるみたいね』
「全く、恐ろしい事を考えるですね人間は」
紫電の後ろには、アシエも立っておりハンマーを担ぎ空を見上げている。
紫電も、両手の指を鳴らすとアシエと同じ様に上空の鬼化した鷹の上に乗っている哲郎を睨み付ける。
「あいつは、花凛に任すで。俺等は周りの鬼化した生き物の相手しといたるわ」
「うん、ありがとう!」
そう言うと、花凛も上にいる哲郎を見上げた。
「アシエちゃんは、あの化け物ヒグマを相手するです!」
「アホ!! あれは俺の獲物や!」
何だか、喧嘩しそうな勢いの2人にリエンが止めに入る。
『ちょっと、そんなことしてる場合じゃないわよ!! ヒグマの化け物が来たわよ!!』
リエンが叫ぶと同時に、壁をよじ登ってきたヒグマが穴から這い出てきた。
「ほな、どっちが先に狩れるか競争や!!」
「臨むところです!!」
そう言うと、2人は一斉にヒグマに飛びかかった。
それと同時に、残っていた鬼化した生き物達を瞬時に浄化していく。
『とりあえずヒグマの化け物はあの2人に任せましょう。腕は確かだから』
「大丈夫かなぁ……」
しかし、そんな心配をするよりも自分のやるべき事をやらねばと思い直し、花凛は再び上空にいる哲郎へと顔を向けた。




