第十話 鉄心龍 アシエ VS 三つ子の処刑人 吾郎 ②
ハンマーを担ぎ、自慢気にしてくるアシエに吾郎がイラつきながら睨み、言い返す。
「ふん、俺のバリアを見切っただ? グフヒヒ、でまかせ言うんじゃ……」
「そのバリア、裏表があるですね?」
そのアシエの言葉に、吾郎が口を閉じる。
吾郎のその様子からして、どうやら当たりの様である。
「ふっふ~ん、防げるのは表だけですね? 裏はすり抜けてしまう様ですね!」
「ちっ、雑魚ドラゴンの癖に頭だけは回るようだな」
吾郎が、アシエに向かって憎々しい様子で言ってくる。これは、余程自信があったらしい。しかし自らの技に酔いしれて、結局自爆する形で能力のカラクリがバレてしまっていた。
「ふっふ~ん、タネが分かれば簡単……ではないですね」
「グフヒヒ、分かった所でどうしたって話しだな。俺のバリアは最強さ!」
アシエが首を傾げる中、吾郎が壁のバリアを張ると更に壁のバリアを張る。
そうやって次々とバリアを厚く連ねていく。
「グフヒヒヒ。これだけ、層にしたらさすがに壊せないだろ! 更に、属性を岩に変えてやる!」
そう言って、吾郎は右手をツッパリでもするかの様にに突き出す。すると、連なって層になったバリアがアシエに向かってくる。
アシエは、急いでハンマーを盾に変化させると、その盾でバリアを防ぎ何とか押し返そうとしている。
「うぎぎぎ……!! う~バリアの裏表を自在に変更されていたら、裏からなんか狙えないです。それと、さすがに岩は操れないです!」
「グフヒヒヒ!! そう言うことだな! さぁ、次は後ろにも出してプレスしてやるわ!!」
すると、吾郎は左腕を伸ばしてアシエの後ろにも属性のついたバリアを何枚か張ると、アシエをプレスしようとバリアを動かしてくる。
「もう、めんどくさいです!!」
前のバリアを盾で防いでいたアシエが、叫ぶ。
すると、アシエの持つ盾が再びスライムの様にぐにゃぐにゃと変形し始めると、アシエの腕に纏わり付いてくる。
そして、同時にアシエの姿も変貌していく。
腕に纏わり付いた鉄は、どうやらアシエ特製の鉄らしく物量を自在に変化させている。
そして、アシエの両腕には鉄の爪があしらわれた巨大な鉄鋼のアームが取り付けられる。
お尻には鉄の様な龍の尻尾が生え、頭の両サイドには可愛らしい龍の角がぴょこんと生え、目は縦に獣の様に変化する。
そう、遂にアシエも龍化して戦う事にしたのである。
「せ~の~ドカーン!!」
そしてアシエが叫びながら、両腕で今まさにアシエをプレスしようと迫るバリアを両方一度に叩き壊した。
「なっ、なっ!!」
少なくも5枚近く重ね、更に岩の属性を付けていたバリアをたった一度の攻撃でたたき壊してしまった、アシエの力に吾郎はたじろぎ驚いていた。
そして、アシエは続けて右腕を吾郎に向けて手を広げると、近くにあった鉄や鉄で出来た物が変形しながらアシエの周りに集まってくる。
もちろん、変形させても差し障りない物を使っている。
すると、集まってきた鉄が弾丸の様な弾になりアシエの周りを浮遊している。
「さぁ、いくですよ! 鉄心弾“アシエちゃんショット”!!」
すると、アシエの周りを浮遊していた鉄の弾が次々と吾郎に向けて放たれる。
「グフヒヒヒ、これぐらいで俺のバリアは破れないぞ!」
もちろん、吾郎は前方にバリアを展開しそれを防いでいる。
「後ろにも注意ですよ~」
「なっ……にぃ?!」
アシエの言葉に吾郎が振り向こうとした瞬間、吾郎の後ろから小さな鉄の拳が飛んできて、吾郎の顔面を殴りつけたのだ。
「ぐへぇっ、がぁ……」
吾郎は、勢いよく前方に倒れこむ。
そして、アシエは追撃として先程作った鉄の弾を吾郎に浴びせまくる。
「ちぃっ、調子に乗るなぁ!! 雑魚ドラゴン!!」
そう言うと、吾郎は立ち上がりながら両腕を広げると、自身の周りにドーム状のバリアを張り、アシエの鉄の弾を防ぐ。
「はぁ、はぁ。お前の攻撃では俺のバリアは、やぶ……」
だが、目の前にアシエの姿は無く代わりに巨大な影が現れていた。
「あっ? なんだコレ?」
「何処見てるですか~? こっちです!」
すると、上からアシエの声が聞こえてくる。
吾郎がそちらに顔を上げる。すると、そこにはとんでもないものがそびえ立っていた。
「な、なんだこれはぁぁぁああ?!!」
吾郎の見上げた先には、巨大な鉄のゴーレムの様な物がそびえ立っている。そして、その肩にはアシエの姿もある。
「鉄心術 “アイアンちゃん”です!! そこら中の鉄を集め、アシエの力で質量を増幅させて作り上げたですよ!! この大きさならバリアで防げないはずです!」
アシエの言うとおり、そのゴーレムは校舎よりも高く、幅も校舎の半分はあるくらいであった。
「ひっ、ひぃ。ひいいぃぃ!!」
それはまさに規格外であった。
ドラゴン等、人型をとっている時点で既に雑魚と勘違いをしていた吾郎は、己の甘い考えに後悔をしている。
そして、いつの間にか腰を落として地面にへたり込む吾郎に向け、アシエは今までの仕返しと言わんばかりに、にやけ顔を作り右腕を振り上げる。
すると、そのゴーレムも右腕を振り上げ手を広げている。
「そ~れ!! バリアごとプチッと潰れちゃえ~!」
「ちょっ、まっ!!」
吾郎が、制止しながらバリアを出し何層も重ねようとする前に、アシエの攻撃が先に届いた。
激しい衝撃音と、バリアが割れる音が響きわたる。
アシエの作ったゴーレムは、手のひらでバリアを押し潰すようにして割ると、その先の吾郎をも押し潰していた。
だがもちろん殺したりはせず、気絶する程度で留めていた。
「ふっふ~ん、アシエちゃん大勝利です~!」
アシエは、ゴーレムの肩の上でピースサインをしながら上機嫌になっていた。
「お~やっと、通れるようになったわ~」
ゴーレムを戻し、元の様々な鉄に戻し龍化を解いたアシエの元に、龍化を解いた紫電がひょこひょこと、清太を引きずってやって来た。
「あっ、紫電さん。今更なんですか?」
「いや~、どうやらお前らの周りにバリア張られとってな~助太刀できんかったわ」
あっけらかんと答える紫電に、アシエがハンマーを作り出しそれで紫電を叩こうと振り下ろす。
「おわっ?! あっぷないわ!! 何すんねん!」
「紫電さんのせいで、ちょっとだけピンチになっていましたから。百叩きさせて下さいです」
紫電は、咄嗟に身を引き避けてはいたが再び振りかぶるアシエを見て、手を前に出して制止している。
「その前に、お前服なんとかせ~や! ボロボロやっ……いだぁ!!」
「見るなです」
紫電の制止もむなしく、ハンマーは紫電の頭に振り下ろされていた。
しばらくして、頭に大きなコブを作っている紫電が吾郎の元に清太を重ねて置くと、アシエに向かって話しかける。
「しっかし、こいつらは例の薬を使っとらんようやで」
「はいですね。体に取り込むこと無く、その制御装置というか手のひらの機械に怨念を蓄える事で、力を使っている様です」
アシエは、破れたワンピースを無事な部分を使って下着だけは隠すようにしヘソ出しルックスの様にすると、紫電の問いかけに答えた。
「となると、花凛や神田が言ってた奴は特別アホな事をしとるようやな~」
紫電が言っているのは、おそらく豪徳寺宗次朗の事だろう。
あの人物だけは、己のからだに直接注入していたからである。制御装置で制御しているとは言え、自殺行為に近かった。
2人が倒した奴等は、制御装置から力を抽出して使っていたようでパワーは宗次朗に劣るものの、安定はしているようである。
「それにしても、こいつらはまたお揃いのチョーカー付けやがって。まるで、実験体の様やで」
紫電は、仰向けに倒れている2人に目を向けると、首元にある紫色のチョーカーを見つけていた。
それは、真ん中にランプの様な物が付いており、紫電の言う通りそのチョーカーが、この2人が実験体であるかのような雰囲気を作り出していた。
「そうなると、この人達の様子を見る為に、この装置を作った人が何処かに隠れているかもですか?」
「そうや」
アシエの問いかけに、紫電が頷きまながら答えた。
そして、2人とも花凛が戦ってるであろう屋上に目を向けた。
「なら、急いで花凛ちゃんの助太刀に行くですよ」
「もちろんや!!」
2人が屋上へ向かおうとした瞬間、屋上が爆発し辺りに何かの残骸が舞い落ちてきた。
「なんやなんや?! 決着ついたんか?」
「違うです! とにかく行くですよ!! さっきアイアンちゃんの上から見たとき、異様な光景が目に映ったです」
アシエはそう言うと、屋上へ向かうべく足を曲げて跳び上がった。
「ちょっ、待てや!!」
紫電もその後に続いた。




