第十話 花凛の秘密
高層ビルが立ち並ぶオフィスビル街。神田の住む街の隣に位置しているが、マンションは一切無くすべてがオフィスビルになっている。
このビル街の中の、50階以上はありそうな高層ビルにNECの日本支社が3フロアにかけて入っている。
その45階のいくつかある会議室の1つ、そこに部長である豪徳寺と彼を連れて行った外国人の金髪碧眼の女性、アビゲイルが入る。
「お連れしました。とりあえずの応急処置はしてありますが、しばらくは無茶はできないかと」
アビゲイルがそう言い、つかつかと奥へと進む。
そこには、2人の男性が高級で座り心地が良さそうな椅子に座っている。
「我が弟ながら情けない」
薄暗い室内に、円形に並べられた会議用のテーブル。
トップの人間が座わる場所、その横に居る人物が先に声をかける。
「ふん、社長で兄であるからといって態度がでかすぎるんですよね」
豪徳寺がその人物に向かい悪態を吐く。
するとその人物はため息を吐き、立ち上がり入り口にいる豪徳寺に近づく。
その背丈は170後半の宗次朗よりも高く、年齢も40代後半と言ったところだろう。そして、髪は短髪で同じようにオールバックにしている。だが、風貌を出すためなのかスーツにヤクザが着るようなファーのついたオーバーコートを肩がけしている。そして、目つきは鋭いつり目に見下したような目で見下ろしていた。
「宗次朗、これ以上勝手をするならその部長の肩書きをはく奪するぞ。勝手をした結果がそれだというのなら、少しは大人しくするがいい」
「ぐ……」
豪徳寺は、いや宗次朗は口ごもる。
「まぁ、良いではないですか源十郎君。私は欲深い人は好きですよ」
トップの人間が座る場所に座っている人物が、二人の会話に入ってくる。
「しかし、いくら代表取締役のあなたの言葉でも身内の問題ですので」
社長と言われた人物源十郎が、難しい顔をしてその人物の言葉を否定する。
「そうですか。まぁ、いいでしょう。ところで、宗次朗君。どうでしたか? あの方達は」
今度は、宗次朗に話しかける。代表取締役らしい柔らかな話し方であり、姿も悪くはなかった。しかし、歳は30代に見える若さである。
そして、銀髪のセミロングに背丈も高くスーツをピシッと着こなしている。見た目は外国人に見えるが、日本語は流暢であった。
そして、目はつり目なのだが赤い目をしており、源十郎のような鋭い目つきではなく冷酷な、全ての人を人間としては見ていない様な目つきをしていた。
「そうですね、今は脅威ではなくとも邪魔な存在になりそうですね」
宗次朗は、出来るだけ代表取締役と目を合わせないようにしていた。
やはり、その目つきが恐ろしいのだろう。
「そうですか、分かりました。では、あなたはしばらくは怪我の治療に勤しんで下さい。源十朗君、釘を刺すのは良いですが程々に」
そう言って源十朗をにこやかに見つめているが、源十朗も目を合わせてはいなかった。
笑顔も、ほんとに心からの笑顔ではない作り笑いだというのが分かっていたからであろう。
「分かりましたサディアスさん。来い、宗次朗」
そう言って、宗次朗のを部屋から出るように誘導する。
「ク、クヒヒ。あんたは甘い。今にその地位を奪ってやりますからね」
宗次朗が憎々しい目で源十朗を睨め上げる。
「やってみろ。甘いのはどちらか思い知らせてやる」
兄弟喧嘩どころではない殺意と、物騒な事を言い合いながら2人は会議室を後にした。
「お義父様、宜しかったのですか? あのままにして」
アビゲイルが、代表取締役のサディアスに親密な感じで話しかける。
「あの2人はあれでいいんだよ。それよりも、アビゲイル君。今君は私の秘書だよ、養子の娘ではあってもそこは分別しないとね」
サディアスが、冷酷な目でアビゲイルを睨む。
「はい、失礼しましたサディアス様。でわ、仕事に戻ります」
そう言って一礼すると会議室から出ていった。
「さて、面白くなってきたものの。私の邪魔だけはして欲しくないですね。あいつ等には徹底的に釘を刺しておきますか」
そう言って、椅子に座り直す。
「そして、そろそろステージを引き上げるとしよう。欲深き人間は、どのように動くのか楽しみだ。フフフフ」
最後の言葉は、声色が変わっていた。まるで人間ではない様な声に。
そして、薄暗い会議室に不気味な笑い声が響く。
戦いから2日後。
総合病院の一室、神田と花凛はそこに入院していた。
花凛は、前日にようやく意識を取り戻し傷もほとんどふさがっていた。
しかし、一応念の為に腕と額に包帯を巻いていた。何せ、今日は朝からクラスメイト達が見舞いに来ていたからだ。
神田は、あばら骨に数本ヒビが入っておりしばらく入院する必要があった。
「この調子なら私の方が先に退院出来そうだね~」
家族やクラスメイト達の見舞いに、少しだけ上機嫌な花凛が神田に向かって言ってきた。
「くそ、恨めしいな。龍の体というのは。イテテ」
どうやら、少し力が入ってしまったようで神田は脇腹を押さえている。
「あっ、ごめん。大丈夫? 神田さん」
「はは、俺の養子になったからお前も神田だろうに」
当然の事を神田は口にしてきた。
「えっ、でも。なんか今さら名前で呼ぶのも恥ずかしくて。お父さんもなんだか違うような」
神田の言葉はに戸惑う花凛に、神田はにこやかな顔をして花凛の頭を撫でる。
「ふにゃ?」
「まぁ、お前の好きな様に呼んだら良いさ」
花凛は、顔を赤くて俯いた。
『それにしても神田さん、あなたもちょっと普通じゃないかもね。カプセルを使っていなかったとは言え、普通あの攻撃をもろに受けたらヒビどころじゃ無く、折れてるし内臓も損傷する程よ』
「はは、そりゃ鍛えているからな」
リエンの言葉に神田が当然の様に返す。
『それだけじゃないわよ。あなたも、もしかしたら……』
リエンが顔を俯かせて呟く。
「ん? どうしたんだリエン」
神田が、リエンのその態度に不思議そうな顔で見つめた。
『何でも無いわよ』
リエンはそれに気づき、慌てて顔を横に振る。
「そうか、それよりも。リエン、君は花凛の事で何か1つ隠してる事があるんじゃ無いのか?」
戦いの中で、リエンが花凛の事を信じられない目で見ていたが戦いが終わった後、どこか納得のいく顔になっていた。
それに神田は気づきその場で聞こうとしたが、ずっと押し黙っていた。
「何か、言いにくい事でもあるのか?」
神田が問い詰めてくる。リエンは一度花凛に目を向けると、ため息をつきその時期が来たのだというような顔で話し始めた。
『私も、融合した時や煉獄であなたに説明していた時には分からなかった。でも、現世に花凛が肉体を持って戻った時に私も気づいたのよ。花凛、あなたは普通じゃなかった』
「えっ?」
リエンの言葉に花凛は目を丸くした。
『あなたの魂に、ごく僅かに龍の情報があったの。恐らくあなたの遠い祖先に龍がいたのよ。それが、私の魂と融合するときに目覚めたの。私の魂を使って、復活したって感じね』
「つまり、どういうこと?」
花凛は、不安そうな目でリエンを見ている。それもそのはず、自分が普通ではないと聞かされたら誰でも不安になる。
『つまり、花凛。あなたには半分人で半分龍って言っていたけれど。正確には魂は私と融合した時、既に龍になっていたの。そして、今回の戦いで体も殆ど龍になったわ』
花凛は、呆然とした。自分は、いつの間にか人では無くなっていたからだ。龍の力を手に入れた時から覚悟はしていたが、それはリエンが完全にいなくなってからだと考えていたのだ。
あまりにも早すぎた為に言葉を失っていた。
静まり返った、病室の中。神田がその静寂を破る様に話しかける。
「だが、それは良かったのでは無いのか? これから一層戦いはキツくなるだろうしな」
『そう、良いことよ花凛、胸を張って。あなたは、もう私無しで力を制御出来るはずよ』
だが、それはリエンとの別れが近いということでもあった。
複雑な顔をする花凛に、リエンは心配かけないように笑顔を振る舞う。
すると、テレビから聞き慣れた社名が聞こえてきた。
『先程、NECが記者会見を開き新たなエネルギーを抽出する機械を生み出した事を発表しました。このエネルギーは減ることがなく、エネルギー界に大きな激震を及ぼしております』
そして、画面は切り替わり代表取締役の記者会見の映像が流れる。
花凛達は、初めて見る代表取締役のその目つきに異常を感じていた。
『初めまして。私はNEC代表取締役のサディアス・H・ネビィルです。私達は今回、素晴らしいエネルギーを発見しそれを抽出する機械の発明に成功しました。何と、このエネルギーは減らないのです。これにより、人類はエネルギー資源の枯渇から脱却できるのです。今はまだ、有機物にしか反応を示さず、無機物を動かすことはできませんが。研究を重ね、石油や天然ガスに変わる新たな資源となり得るよう開発を進めていきたいと思います。そしてーー』
その後は、会社の理念や新たな資源の活用法を事細かに説明する。
そして、最後にとんでもないことを説明始める。
『最後になりましたが、今このエネルギーは有機物でも人間にしか反応を示しておりません。そこに着目して作られたこの薬は、人間の体を強化する薬となっております。その名も《アビリティルギー》です。これを飲めば、病気や怪我をしないどころか、寿命を格段に伸ばせる事が分かったのです。既に国の認可と降りております。薬として販売しておりますので、ぜひこの新たなエネルギーの力を試して見て下さい』
その後、もちろんの事ながらその薬の安全性を語っている。
そして、病室にはただならぬ空気が流れていた。
「くそっ!!」
『ふざけないで!!』
神田が、ベッドの備え付けのテーブルを叩くと当時にリエンも叫んだ。
『何が、新たな資源よ!! 嘘ばっかり! タルタロスの怨念を引っ張り出して何を企んでいるのよ、こいつは!!』
リエンがここまで怒り狂ったのは初めてである。花凛が、珍しそうな目で見ている。
「それでも、嘘だろうと何だろうと。大企業や世界を味方に付けたぞ。完全に先手を打たれた。我々は、世界を敵に回すことになるかも知れないぞ」
神田も憎々しい目で、テレビの中のサディアスを見つめていた。
だが、そんな中花凛だけは冷静にサディアスを眺めている。
そして、ゆっくりと落ち着いた口調で話し始める。
「例え、世界を敵に回しても私のやることは変わらない。大元であるこいつを倒せば良いだけ」
花凛の落ち着いた言葉に2人が静かになった。
「鬼化する人、そしてそれで犠牲になる人。そんな人達を生み出さない為にも私は戦う。例え、世界を敵に回したった一人になっても。私は戦う!!」
花凛の目には、信念の炎が燃えていた。戦う事への信念。花凛は今回の事でそれを見つけたのだ。
「1人じゃないさ。ここに何時までも味方をする奴がいるからな」
神田は、そう言って花凛の頭を撫でた。
「賢治さん……」
「お、やっと名前で呼んでくれたな」
「あっ……ち、ちがっ」
慌てて布団を被る花凛に、神田もリエンもいつの間にか笑顔になっていた。




