第七話 ~ 悪の鼓動 ~ ③
豪徳寺の登場とその言動に神田が怒り心頭している中、花凛だけは冷静なリエンの言葉により落ち着きを取り戻していた。
それでも心中は穏やかではない。
「神田さん、お落ち着いて。そいつのペースに飲まれないで」
神田の怒りを収めようとして花凛が声をかける。
「むっ、しかしこいつは……ぐっ?!」
その瞬間、目の前の神田の姿が消えた。いや、正確には横に吹き飛ばされ地面に叩きつけられていた。
「神田さん!!」
花凛が叫ぶと同時に、ペットショップのオーナーが吹き飛ばされた神田に駆け寄っている。
「クヒヒ、邪魔ですよ。さぁ、あなたの力をいただきましょうか」
どうやら豪徳寺が、右腕で神田を殴り飛ばしたようで右腕を横に振り抜いていた。とてつもないパワーである。
『やっぱり、右腕だけ人の腕じゃないみたいね』
リエンが腕を組み、豪徳寺を睨み付けている。すると、豪徳寺もリエンの方に目線を向ける。どうやら、リエンが豪徳寺にも姿が見えるようにしたらしい。
「おぉ、あなたは。あの時手に入れ損ねた龍ではないですか。いきなり現れて驚きましたよ。なら、丁度いいあなたの力もいただきましょうか」
『残念だけど、私はあの時の攻撃で体を失い魂までもが消失しそうだったのよ。何とかこの人のおかげで助かって、今はこの人が私の力を受け継いだ形になっているわ』
リエンが、仇敵を見つめる様な目で豪徳寺を見ている。
しかし、豪徳寺は一切気にせずに花凛の方を見てくる。
「そうですか、2体手に入ると思い喜んでしまいましたよ。なら、取り損ねたあなたの力頂くとしましょうか」
そう言って豪徳寺は、スーツの内ポケットを探り何かを取り出した。
それは、透明なプラスチックの円筒型のカプセルの様な物であり、中の物が見えている。そして、中には何かガスの様なものが渦巻いている。
すると、豪徳寺が握っている部分をねじるように回し先端を開いた。
『まさか、あれは!! タルタロスに閉じ込められている神族の怨念?! 止めなさい! そんなもの使えば、人じゃ居られなくなるわよ!!』
しかし、リエンの叫びは届いていない様である。豪徳寺は気持ち悪い笑みを花凛達に向けていた。
そして、右腕をまくるとその異常な腕が露わになる。
それは人の腕ではなかった。
ボコボコに変形した腕がそれを物語っている。そして、何カ所かに円筒のプラグの様な物が突き刺さっている。
この状態の腕でも相当なパワーを持っているらしく、リエンが信じられないといった表情をしていた。
そして、豪徳寺は持っている円筒型のカプセルを腕に付いているプラグに突き刺し、中のガスを注入していく。
その様子を見ていたリエンが声を上げ損ね、くぐもった声を口から漏らす。
豪徳寺は中のガスを注入し終えると、カプセルを捨てる。
そして、右腕はみるみるうちに変化していく。右腕は、急激に膨れ上がりスーツの右腕部分が破れ散る。そして、ボコボコと刺々しい骨の様な物が突き出し、更に手は異様に変形し指の部分が刃の様な形に鋭く変化する。
豪徳寺は真鬼達とは違い、完全に怨念をエネルギーとして利用していたのだ。
『嘘……でしょう。どうなってるのよ』
さすがのリエンも理解不能に陥ってる。
「ふぅ、クヒヒ。相変わらず、これは気分が良くなり最高ですよ。自分の黒い部分が膨れ上がる様な……ねっ!!」
言い終わらないうちに、豪徳寺が振り上げる。すると、真空波のような物が刃の様な指から放たれ、花凛に向かう。
「くっ?!」
花凛は咄嗟に、横に飛び退き何とか回避する。
真空波は、地面をえぐりペットショップの壁にも3本の傷を与えた。
「オーナー! 神田さんは?!」
花凛は、神田の様子を見ていたオーナーに叫び声を上げた。
「大丈夫だ! 意識はないが、命に別状は無さそうだ。後、警察と救急車も呼んでおいたぞ!」
「ありがとう!! でも、出来るだけ離れていて!! 巻き込まれたら大変だから!」
花凛は、そう言うと自ら出した炎から偃月刀を取り出し豪徳寺に向ける。
「クヒヒ。良いですね~その力、今すぐ私の物にしてあげますよ。そうすれば、私は一足先に新人類となれるのです!!」
『新人類ですって? タルタロスの中の怨念を使って? 笑わせるわね、そんなの新人類でも何でもないわよ!』
豪徳寺の言葉の数々に、リエンも徐々に耐えきれなくなってきている。
「何を言ってるのですか? 新たな空間から発見された、消費されないこの新エネルギーを人に使えば。肉体が活性化し、人を超越した体に進化する。これが、新人類と言わずに何と呼びますか?」
豪徳寺が腕を広げて、自慢気に言ってくる。
『ただの怨念の人形よ。化け物になった人達を見たの?』
「あぁ、別のカスのようなエネルギーも漏れ出ていたのでそれにあてられて、新人類のまがい物みたいになっているようですね。しかも、死体まで動かしている。だが、私達が使っているのは純粋なエネルギーなのですよ。それに、怨念なんてあるわけないでしょうが!!」
もはやこの男には言葉は通じない。何を言っても無駄だった。
花凛もリエンも同じ気持ちだった。
『あんたは……』
「絶対に倒す!!」
花凛は、まっすぐ偃月刀を豪徳寺に向ける。
「クヒヒ、無理ですよあなたの力ではね。そしてあの方が言うには、このエネルギーを使えばあなたの龍の力を奪いこの身に宿せると言う。龍の力を持った最強の新人類となって、私がこの国を動かしてあげますよ!! さぁ、私が最強の新人類になる為の糧になりなさい!!」
そう叫びながら、豪徳寺が突撃してくる。
しかし、花凛はその動きが酷くゆっくりに見えた。
どうやら、以前戦った侍が速すぎて対比でゆっくり見えてしまうようである。
「これなら!!」
豪徳寺の刃を、きっちりと偃月刀で受け止める。しかし。
「えっ?! きゃぁあ!!」
豪徳寺は、偃月刀の刃を掴み花凛を横に振り投げたのだ。
「……っ!!」
しかも、その威力は凄まじく。花凛は、横の建物に強く叩きつけられた。
「どうしました、その程度ですか?」
豪徳寺がゆっくりと近づく。すると、土煙の中から花凛が現れ低い体勢で豪徳寺に突撃していく。
「はぁ!!」
そして、豪徳寺にめがけて下から刃を振り上げるが。
楽々と指で止められてしまう。
「こんなものですか?」
そう言って右手を広げると、なんと掌の中央に目玉が埋め込まれていた。そして、それがギョロギョロと動き花凛に視線を向けると、いきなり凄まじい威力の衝撃波を放ってきた。
「うぁああああ!!!」
あまりの衝撃に、花凛は大きく後ろに吹き飛んだ。
『花凛!!!』
「……っ、大丈夫。何とか耐えられた」
そう言って、花凛は地面に着地した。
「おや、やはり1本では威力が足りませんか。この前は2本使ってとんでもない破壊力でしたから控えましたが、調整が難しいですね。まぁ、生け捕りにしないといけないですからね」
そう言って再び腕を振り真空波を花凛に向け放つ。
「くっ……!」
その刃を、なんとか偃月刀で受け止める。しかし、3本の刃になっていた為受け止めきれなかった刃が、花凛の体に傷をつける。
何故避けなかったのかは単純であった。
離れているとは言え後ろに、オーナーと神田。そして、この騒ぎに野次馬も集まって来ていた。
この男は人を殺すのに躊躇はしない。
避ける事が出来ずに受け止めるしかなかったのだ。
「リエン、リミッター外して。そして限界まで力を貸して!」
花凛が、必死の表情をしてリエンに頼んだ。そうしなければ勝てないと考えたからだ。
『あなたの体が耐えられる限界までね。それでも倒せるの? 花凛、あなたには絶対的に足りない物があるわよ』
リエンが花凛を咎めるように言ってくる。
「足りない物?」
『そう。私が、この戦いを押し付けた形になってしまっているから仕方が無いのだけれども。花凛、あなたには戦いへの《信念》がないからよ』
リエンにそう言われ、花凛は目を見開き驚いている。
《戦いへの信念》
そう言われたら、流されるままに戦って来た花凛には存在しないものであった。
『あいつは、強い想いと欲望を持っている。信念が無ければ、打ち勝てないくらいの強い想いをね』




