第六話 ~ 悪の鼓動 ~ ②
ペットショップ内の奥は今重苦しい空気に包まれている。
花凛と神田がオーナーの前に座っている。そしてこれから話されるのは、一般人ではほとんど耳にされないであろう社会の闇の事である。
辺りの空気が重くなるのは当然であった。
「そうだな~今から2~3週間前か。その同級生が、突然上機嫌で俺に電話してきたんだよ。そいつの話からすると、近々とんでもない技術が発表される。俺達は、その技術を作っている事業に多額の資金提供をしている。と言っていたな。俺は、正直この時点では奴の言葉を信じてはいなかっさ。俺にも協力してくれと言われたが、正直関わりあいになりたくなかったからな、断ったさ」
オーナーは淡々と話を続けていく。
あまり、話たくはない内容らしくその口調はひどく重かった。
「そして、1週間前の事だ。そいつからまた電話がかかってきたんだが、こんどはひどく脅えていた。殺される、あいつに殺されるってな。俺に助けを求めて来やがったが、俺はそれも断った。暴力団の組に居るなら、そういう事も覚悟の上だろうとそう言ってやったんだ。そしたらそいつは電話を切ったよ。それが最後さ」
花凛達は、静かにそれを聞いていた。そして、花凛の不安は的中してしまう。
「やっぱり、それって。資金源に暴力団を使ってたけど、用済みになったから消したんじゃ」
花凛のその言葉に、神田は目を閉じ唸っていた。
「俺から話せる事はこれくらいだな」
そう言って、オーナーが立ち上がる。
「わかりました。ありがとうございます」
そう言って、神田も立ち上がったので花凛も立ち上がった。
『真鬼の可能性が出て来たわね』
いつの間にか、リエンが後ろで話を聞いており花凛に話しかけて来たものだから、花凛は驚いてしまいオーナーに少し不審な目で見られてしまった。
その後、店から出るとオーナーも一緒に着いてきた。
神田は、花凛達から離れこの話を上の人に報告する為に電話で話していた。
「お前、またここで働かないか? お前が抜けてから大変なんだ。それにそんな美少女になったんだから、客寄せにもなるしありがたいんだがな」
オーナーが、店の前のゴミ箱の横でタバコを吸いながら花凛に話かけてきた。
花凛は、丁度オーナーの横で神田の電話が終わるのを待っている。
「あはは、ありがとうございます。でも、今は人が化け物になる現象を解決しないといけないので、それが終わってからでお願いします」
「そうか、わかった」
オーナーは、そう言いながら吸い終わったタバコを靴底で消して、もう1本タバコを取り出し吸い始めた。かなりのヘビースモーカーである。
「よし、花凛。署に戻るから、お前も着いてきてくれ。お前の意見も聞いて、話をまとめたい」
「うん、分かった。あ、じゃぁオーナー行きますね。お疲れさまです」
「おぉ、お疲れ」
バイトの時のクセが残ってるなと、花凛は苦笑いしてしまう。それに反応するようにオーナーも苦笑いしている。
花凛と神田が車に向かおうとした時、店の前の通りに一台の高級なリムジンが止まる。
こんな物を見るのは初めてなので、花凛は立ち止まり眺めてしまう。
すると、運転席から運転手が降りてきて後ろの扉に周り、そして扉をあける。
そして、中から1人の男性が出てきた。
その男性は、セミロングの髪を後ろに流しワックスで固定したオールバックで、背は神田と同じくらいだった。
しかし、その目は異常でサングラスの様な形をした眼鏡の奥からぎらつくようなつり目から、睨め上げるように花凛達を見てきた。
それは奇抜な格好も相まって、花凛達を後ずさりさせるのには十分過ぎた。
赤いスーツに白のラインが入ったストライプだったからだ。
「クヒヒ、皆さんいきなりの訪問失礼します。あまりにも耐えきれなくてですね。おっと、自己紹介が遅れました。私は、NEC(New Era Crporation)の日本支社部長。豪徳寺宗次朗と言います。以後お見知りおきを」
そう言いながら、頭を下げ礼をしてきたものの。その礼に酷く違和感を感じる花凛達は、警戒しながらその男の次の行動を待っている。
しかし、そこはさすが警察官である。神田が意を決して豪徳寺に近づき話しかける。
「その、お偉いさんがいったい何の御用で?」
その問いに、頭を下げつつ睨め上げた目線だけで睨みつけてきた。
「……っ?!」
その視線には、殺気まで込められていたので花凛は咄嗟に身構える。
「何か、あいつヤバそうだな。お前逃げた方が良いんじゃないか?」
「あの人がそうさせてくれるならね……」
オーナーの提案も最もだったが、それ以前に豪徳寺が逃がしてくれそうに無かった。
『あの男……まさか』
豪徳寺の登場から、ずっと睨んでいたリエンが思い出すように声をあげる。
「花凛に用か?」
神田が、あまりの不気味さに豪徳寺の前に立った。
「クヒヒ、欲しくてしょうが無いのですよ。人間が新たな時代を築く為には新たな進化をしなければならない。その為にはあなたの力が。龍の力が入るのですよ~」
そう言いながら、崩れた笑顔で顔を上げる豪徳寺はまるで、目の前に欲しくて欲しくてたまらない物があり、そしてそれが今この瞬間手に入るのだという渇望の眼差しと歓喜の顔をしていた。
花凛は豪徳寺を睨みつける。この男は龍の事を知っている。
その時、花凛に新たな考えとそれに伴う不安が過ぎる。
隣のオーナーは、気が狂った人間を見るような目を豪徳寺に向けている。
「あなたの狙いは分かったわ。だったら1つ聞くわね。私の事を知っているということは、人が化け物になる現象も何か知っているの?」
花凛は、意を決して豪徳寺に質問をする。すると、意外な答えが返ってきた。
「あぁ、我が社が開発したテクノロジーの副産物ですか」
「今、何て?」
花凛はすかさず聞き返す。
「ですから、我が社が作りだした新たなエネルギーを生み出す装置。そこから別の変なエネルギーが漏れ出たことによって、あの副産物が出来た。そう答えた方が良かったですかね?」
その場にいた全員が凍りついた。
鬼化の原因。それが人の手によるものだったからだ。
『最悪ね、私の説が当たった上に。この男、腕にだけ変なオーラ出ている。間違いないわ、私がやられたのはこの男よ』
リエンの表情までもが険しくなる。
辺りは一触即発の状態になり、ピリピリした空気が流れ始めその場を重苦しくしていく。
「何で、そんな軽く言えるわけ? 犠牲者が出ているのよ」
花凛は、怒りに震えそうな拳を握り締め耐えている。
「はて? 何を言い出すのかと思えば。人類が新たな進歩をするには、犠牲はつきものでしょう? いつの時代もね」
豪徳寺は、花凛達の言葉が理解出来ないようで自分の考えが正しいかの如く、悪びれもなく言ってくる。
「多少、人が変異しようと新人類として迎えなさいよ。殺すなんて、何て酷いことをするのでしょうねえ~クヒヒ」
あまりにも無責任過ぎるその言葉に、花凛と神田が怒号を上げる。
「お前だけは許さない!!!」
「怖いですね~何がですか? 私は人類の為の研究をしているのですよ~?」
もはや、自分が悪いなど微塵も思っていない様子で仰々しく手を広げている。
『花凛、怒りに身を任せちゃダメ。この男、異常過ぎるわ』
「えっ?」
その中で、リエンだけが冷静に豪徳寺を睨んでいた。
『だってこいつ、真鬼じゃない』
その言葉に花凛は耳を疑った。
真鬼ではないなら、普通の人間なのだろう。しかし、リエンを倒す程の力はある。いったいそれが何なのか分からない。
その時、リエンが冷静になれと言った理由が分かり、花凛はゆっくり深呼吸を始め気持ちを落ち着かせていく。
不意打ちとはいえ、リエンを倒す程の力を持ってるがそれが何なのか分からない以上、無策で突っ込むわけにはいかなったのだ。
『少しは分かったかしら? この男の異常さが』
リエンのその言葉に、花凛はゆっくり頷いた。




