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煉獄の焔  作者: yukke
第三章 新生活
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第十一話 感謝の気持ちと決意

「今、何て言った……?」


 花凛の先程の言葉に、鬼が聞き返してくる。


「あなたと結婚なんて、断るって言ったのよ」


 すると、鬼の両手がプルプルと震え出す。そして。


「うぉぉおおお! またフラれた~! ちくしょう!!」


 鬼は両腕を、めちゃくちゃに振り回し花凛達に襲いかかる。


「こうなったら、全員連れ込んで殺してやる~!!」


「うわっ、たっ。ほっ」


 無規則に掴みかかろうとしてくる腕を、花凛は反射神経で交わしていくものの、いつまでも避けられるものではない、反撃のチャンスを花凛は伺う。


 すると、鬼の腕は再びロッカーの中に腕を引っ込め静かになる。


『なるほど、向こう側を一度締めて開き直せば別の所に繋げられるのね』


「じゃぁ、どっからくるのか分からないのね」


『大丈夫よ、私もいるし警察官も援護する為しっかりロッカーを見てるわよ』


 リエンにそう言われ、周りを見ると神田含む警察官達が鋭い目線で、ロッカーを凝視している。

すると、突然後ろのロッカーがガタガタ動き出し、それと同時に神田が叫び出す。


「花凛!! 後ろだ!!」


 その声と同時に、花凛の後ろのロッカーがけたたましい音と共に開け放たれる。

そして、今度は2本の腕が1つのロッカーから飛び出し、両手でしっかり捕まえようと花凛に襲いかかってくる。


「大丈夫! 予測してたから!」


 花凛はそう言うと、鬼が両手を縦にし掴もうとするのを、ヒラリと身を翻してそのまま上に飛び上がり回避する。


「あっれ? どこにいっ……たぁぁあ!!」


 鬼が、見失い両腕をそのままにしキョロキョロとしているところに、真っ直ぐに偃月刀を突き刺し、両腕を固定した。

そして、その柄の上に花凛はフワリと着地する。


「あなたは、いったい今までどれだけの女の子達をさらって殺したの?」


 花凛が、冷たい口調で鬼に言葉を投げかける。


「いたたた! うるさ~い! 俺の嫁になるのを拒否した奴らは皆殺してやったわ~!」


 その言葉に、花凛は怒り心頭し声を荒げる。


「もう、あなたには贖罪(しょくざい)の余地は無いわね!! 燃え尽きなさい!!」


 花凛はそう言い、柄の上から飛び上がると指を鳴らし高らかに叫ぶ。


「煉獄の焔“炎芯(えんしん)”!!」


 すると、突き刺していた偃月刀は炎の塊になり、棒のように鬼の腕を固定したまま腕を焼き尽くしていく。


「うぎゃぁぁぁあ!! 熱い熱い!!痛い~!!」


 鬼は、叫びながら必死に腕を抜こうともがくも、しっかり炎の棒に貫かれ固定されてしまった腕は抜けなかった。

そして、徐々に腕から先に炎が燃え上がる。そして、ロッカーの中にまで炎は侵入していく。


「あぁぁああ!! 俺は、俺は何も悪いことしてないのにぃい!! 何で、何でえぇぇぇ!!」


「自覚まで無いなんて、最悪ね」


 花凛は、鬼に一瞥しそんな言葉を吐き捨てた。


『花凛、多分もう聞こえてないよ』


 花凛は、そう言われ見てみると腕は燃え続けていたがピクリとも動いていなかった。


「それにしても、いつも思うけどこの炎鬼だけを都合よく燃やすよね」


『当たり前でしょ、有機物しか燃やせないように出来てるからね』


 リエンにそう言われ納得する花凛に、神田が話しかけてくる。


「終わったな。よくやった、この状態ならどっかでボヤ騒ぎと変な死に方をしてる奴が出てるはすだ。ただ、あまり感情的になるなよ」


 そう言いながら、神田は花凛の頭を撫でてきた。


「ふみっ? ちょっと、何して……」


 あまりの事に、花凛は驚き撫でている手を振り払おうとする。しかし、神田は止めることなく撫で続けてくる。


「ん? 花凛、少し熱いな。あれだけ炎を出していたら、そうなるのか?」


『まぁね~花凛は完全な龍の体じゃないしね、体が炎の熱さに耐えられるようには出来てないのよ』


 神田の問いに、リエンが代わりに答えている。


「それを早く言え、まったく。あまり無茶はさせられんな」


いまだに頭を撫で続ける神田に、花凛は何か言いたそうな目をしている。しかし、この人は真剣に自分の心配をしているのだと感じ、言葉には出さなかった。「大丈夫だから」というその言葉を。


 数分後、目が細くたれ目であり、この事件の担当をしている刑事がスマホで電話をしている。


「神田刑事、同時刻に別の市でボヤ騒ぎが起きています。そして、その家から行方不明になっていた女子生徒達が発見されました」


「よし、見つかったか。向かうぞ!」


 神田はそれを聞き、花凛にそう告げる。




 花凛は、神田の車に乗り行方不明の女子生徒が発見された場所に向かう。

そこは、横を小川が流れる閑静な住宅街である。

こんな場所で、監禁事件が起きているなど付近の住民は知る由もないだろう。それほどにのどかな場所であった。

目的の家は、前に小川が流れている住宅であり、そこには既に消防署や救急車に大量のパトカーが止まり、規制も張られている。

そこに、たれ目の刑事と一緒に神田と花凛も入っていく。


 たれ目の刑事は、他の警察官に事情を説明し始める。

神田は、色々と警察官から情報を聞き出している。花凛は、神田の近くで話を聞こうと視線を向ける。


「数は合うようだ、行方不明者は10名でその全員が発見された。ただ、6名は殺されていた」


 花凛は、神田のその言葉にショックを受けた。半分近く助けられなかった。そんな自責の念が花凛の中に押し寄せていた。

そんな花凛の様子に神田が気づき、慰めてくる。


「4人も助けられたと思え。花凛、お前が居なければ全員が殺されてたかもしれないんだ」


 そう言われても、花凛は納得いかずに俯く。


「ちょっと!! あなたなの?! 私のタクちゃんを殺したのは!」


 そんな花凛に、1人の50代くらいの主婦が近づき怒鳴りつけてきた。

パンチパーマをし、眼鏡をかけているがその奥の目は怒りに満ちて睨み付けている。あの鬼の母親らしく、息子の名前を叫びながら花凛に詰め寄ってくる。


「化け物になって人を殺したからって、殺すことはなかっでしょうが!! 私のタクちゃんを返して!!」


 徐々にヒステリックになり、花凛に掴みかかりそうになる。


「あ、あの。ごめ……」


 あまりの、剣幕に花凛が口ごもると横にいた神田が花凛の前に腕を伸ばし、制止してきた。


「こういう事の処理は俺らがやる。お前は、ただ感謝と賞賛の言葉だけを受け取っておけば良いんたよ、ヒーローさん」


「ふえっ?」


 そう言いながら、神田は顔の向きを変えずに花凛の頭を掴み、後ろにくるっと振り向かせる。

すると、そこには助かった女子4人が横に並び花凛を見つめていた。


「あ、あなたが私達を助けてくれたんですね?」


 4人のうちの1人が花凛に話しかける。


「そうだけど、ごめん。もっと早くに気づいていれば皆助けられた。そして、あなた達にも恐怖と一生消えない傷を与えてしまった。ほんとにごめんなさい」


 花凛は、俯き申し訳なさそうな顔をしてしまう。

しかし、4人達は何故花凛がそのように謝るのかわからなかった。


「顔を上げてください、あなたが悪い訳じゃ無いですよ。私達は、確かに心に一生の傷を負ったかもしれません。でも、あなたは一生懸命私達を助けてくれたんですよね? だから、言わせてくださいよ。助けてくれてありがとうございます」


 4人は、一斉にお辞儀をした。

「……っ」


 花凛は、その言葉とその姿に涙が溢れ出す。


「泣かないで、あなたは正しいことをしているのよ。胸を張って、これからも頑張ってください。私達は大丈夫です」


 最後の言葉は、彼女達の気づかいだろう。しかし、花凛にとってはこの言葉が何よりも助けになり、そして励みにもなるだろう。

4人は、花凛の手をとり涙でぐしゃぐしゃになってる彼女を励ました。


『もう~これじゃぁ、どっちが被害者よ~』


 その様子を上空からリエンが眺めている。


『あら、綺麗な夕日ね』


 さらさらと何事もなく流れゆく小川に、焼けるように真っ赤な夕日が水面を照らす。







 その帰り、花凛は谷本家の墓の前にやって来ていた。正確には、この体になる前の【谷本亮】の墓に。


『どうしたの? またここに来るなんて。何か考えてるの?』


「……」


 しかし、花凛は無言である。

その反応に、リエンは呆れている。

だが、花凛の真剣なその表情から何かを決意してるようにも見える。

リエンはその姿を見て、それ以上は何も言うまいと花凛の横でふわふわと浮いていた。


「あ、おに……じゃない花凛、来てたんだ」


 その声に、花凛は振り向くとそこには谷本家の家族が揃っていた。

四十九日も間もなく終わる。お墓は、綺麗に保たれていた。よっぽど家族が熱心に来ていたのだろう。

花凛は、返事をせずゆっくりと自分の墓に向き直した。

その横に、妹の美沙が並ぶ。


「どうしたの? すごく真剣な表情ね」


 美沙の横に並んだ母親が、花凛のただならぬ雰囲気に気づき聞いてきた。

美沙は、横でお墓に新しい花をさしている。

花凛は、母親の問いにすぐには答えずに線香を手にし、火を点け墓にさした。


「不思議だよね、ここに自分の体が眠ってるなんて」


「そうね」


 花凛がようやく重い口を開きそうつぶやく。

母親はしっかり聞いていたらしく、それに答えていた。


「私、決心したよ。谷本亮は今日この日完全に死んだから。私は、過去の自分とは決別する」


 その言葉に谷本家の家族は真剣に耳を傾ける。


「私は、神田花凛。それ以外の何者でもない、たった1人の女子高生よ。半分龍だけどね。そうしないと、色々と前に進めそうにないから」


 花凛は苦笑いし、家族に振り向いた。

だが、その顔は半分悲しみの顔も入り交じっていた。


「そう。確かに、戸籍上では谷本亮は死んだ人間よ。その方が正しいと思うわ。でも、そう割り切れるの?」


 その言葉に花凛はしっかりと頷く。


「わかったわ。だったら、母さん達は何も言わないわ。でも、あなたが谷本亮であったことは忘れないで。それを忘れると、自分を見失う事にもなるわよ」


「うん、分かってるよ」


 花凛は、にこやかな笑顔でそう返した。




 夏の暑さも和らぎ、秋の涼しげな風が吹き花凛の髪をなびかせていく。

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