第七話 頼み事と忍び寄る影
翌朝、初めての場所で寝るため落ち着かなかったのか、割と早めに花凛は目を覚ました。
そして、リビングに向かうと神田がテレビを見ながら朝ご飯を食べていた。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
朝の挨拶を交わし、花凛はリビングのテーブルに着いた。
「朝ご飯、パンだけど大丈夫か?」
「うん、大丈夫です」
「はは、俺達は養子だが家族になってるんだ。堅苦しくならなくていい」
先程の一連の流れで、花凛が未だ慣れずに堅くなっているのに気づき、神田が笑顔で言ってきた。
『そうそう、もっとさ~「パパおはよう~」ってくらい言わないと~』
リエンが、早々にからかってきた。
「無理、実家の両親にすらそんなこと言ったことないんだよ」
花凛は、顔を真っ赤にしながらリエンを睨んだ。
朝ご飯を食べ終え、テレビを見ながらのんびりしていると、神田が話かけてきた。
「そうそう、花凛。今は、世間では夏休みだが夏休みが明けたら学校に行ってもらうが、良いか?」
「えっ? 学校ですか?」
あまりの言葉に花凛は聞き返した。
「なんだ? 嫌か?」
「嫌ではないですけど、お金とか色々かかるでしょうし、そこまでお世話になるには」
花凛が、俯きがちになりながら言った。
養子とは言え、花凛にとってはいきなりの事、まだ神田の事もよく知らないのに、そんな事までお世話になるというのはどこか申し訳ない気分になっていた。
「気にするな、金などいくらでもある。忙し過ぎて全然使えないから、貯まってるのさ。気にする事は無い、それに君に特別な事を頼みたいんだ」
神田が、今度は真剣な表情で花凛を見てきた。
「私に?」
「そうだ。実は警察とは言え、学校の内部までは捜査ができない。鬼化したという通報があれば行けるが、今のところそんな通報はない」
花凛は、目を閉じ今まで鬼化した人達を思い浮かべたら、ある共通点が沸いてきた。
「そう言えば、子供や未成年は鬼化してないですね」
目を開き、花凛はゆっくりと確かめるように呟いた。
『未成年は、鬼化しないのよ。どういうわけかは分からないけどね』
その疑問に、リエンが後ろから答えた。
「リエンちゃん。原因は分からなくても、君がこの前言った事は未成年にも当てはまらないかい?」
今は、リエンは姿を見せてるらしく神田はリエンを見て質問してきた。
『ありえるかもね、なるほどそれで花凛を学校にね』
リエンは納得した表情を見せた。
「そう、1つの学校しか無理でもそこのクラスの人達と友達にでもなれば、その同級生のツテで何か情報が得られるかもしれない」
神田は、あれから自分なりにこの事態の原因を突き止めようと、動いてくれていた。
警察とは言え、何故彼はここまで親身になってくれるのか、花凛は疑問に思えた。
『それに、鬼化の原因はこの街に有るかもしれないわね。何者かが水面下で動いてる。そんな予感がするわね。そうね、花凛あなた学校に行きなさい』
リエンまで賛同したので、花凛も賛同せざるを得ない状況になった。
果たして、今の女の子っぷりで通用するのだろうかと、花凛は不安になっていた。
しかし、もう1つ不安材料があった。
「あ、あのさ。学校に行くのは良いけど、私テレビに映ったりしてるじゃん、騒ぎにならないかな?」
花凛は、リエンと神田に向かって聞いてみた。
『そこは、気合でカバーよ。良いじゃん、有名人なんて友達いっぱい出来るじゃん』
「おぉ、そう言われたらそうだな! なら大々的に肯定してしまえ。分かったな?」
この2人やけに息が合うなと思うと同時に、この2人に相談事するとろくでもないことが返ってくる。
口元をひくつかせ、そう実感した花凛であった。
その後、神田が入り用になる物を買いに行くと言い、ショッピングモールへと車を走らせた。今日の花凛は、丈が短めのTシャツに短めのハーフパンツを着ている。
「ちゃんとしたパジャマも買わないとな。Tシャツとハーフパンツだけじゃ、味気ないだろう」
そう言われて、花凛はピンクの花柄のパジャマを買って貰っていた。その時花凛は、体の奥から何か温かいものを感じ自然と笑みがこぼれていた。
その後、服も何着か買ってもらい、その他入りそうな物を買っていった。
そして、神田は帰りに花凛の通うことになる学校にも寄り、転入の手続きしていた。
「よし、これで後で転入試験を受ければ良い」
その言葉に、花凛は少し不安を抱いた。何せもう十数年近く、勉学と言う物から離れていたからだ。
それでもやるだけやってみようと、花凛は考えていた。
そして、気づけば夕刻になっており昼間の暑さより、幾分か涼しくなっていた。
夕焼けを見ながら、晩御飯どうしようと考えていたら。
「そう言えば、明日は土・日だな。どうする? このまま、実家に戻るか?」
そう言われて、花凛は気がついた。最近、慌ただしくて曜日の感覚が花凛からは無くなっていた。
「そうだった、えっと……」
花凛が口ごもっていると。
「俺の事は気にするな、明日明後日はずっと署に缶詰めだから。どうせ、あそこに居ても暇だろう。何かあれば電話するさ」
そう言いながら、神田は花凛の横に置いてある携帯電話会社の袋に目をやった。
そう、買い物ついでに新しいスマホも買ってもらっていたのだった。
「えっと、分かりました。じゃぁ、お願いします」
花凛は、そう答えた。
因みに、リエンは花凛が持つことになるスマホをまじまじと興味津々に眺めていた。
神田の車は、谷本家の家に着いた。
出迎えた両親は、神田に向かってペコペコと頭を下げ「わざわざどうも」
と言っていた。
「おにぃ、お帰り」
「うん、ただいま。でも、今は兄じゃなくて年齢からして妹だよ」
「あ、そっか」
美沙が、舌をペロッと出している。その姿を見て、化粧をすればある程度は綺麗になるのにと花凛は思った。
その夜は、この2日間の事を両親に話した。
「そう、わざわざ学校まで。何から何までそんなに親身になってもらえるなんて、感謝しても仕切れないわね」
母親が、そう言うと珍しく父親が言葉発した。
「何か、お礼でもしないといけないか?」
花凛は、慌てて手を振り否定した。
「あ、そういうのは嫌がる人だと思うよ、何となくだけど。後親身になっているのも、多分娘さんと私とを重ね合わせてるかも」
花凛は、リビングに合った写真立ての事を告げた。
「そう、何かあったんでしょうけど、余計な詮索はしない方がいいわね」
母親は、花凛の行動をたしなめた。それに気づき、花凛は少し縮こまった。
「なら、神田さんの好意に甘えちゃいましょうか。悪い人ではなさそうだしね」
そう言って、母親はテーブルに夕御飯を並べ始めた。
「そう言えば、おに……花凛。神田さんの所ではご飯はどうなっているの?」
美沙が、不思議に思い花凛に聞いてきた。そして、思い出したかのように花凛も目を見開いた。
「そうだった、神田さんの所ではずっとコンビニ弁当なんだよね。だから、その……」
しかし、やはり言い辛いのか花凛は口ごもってしまった。
それに気づいた母親が、代わりにその言葉を口にした。
「料理が出来るようになりたいのね? 神田さんの所に世話になるなら、それくらいは感謝の気持ちとして作ってあげても良いわね」
「う、うん」
花凛は、恥ずかしそうに頷いた。
『ふふっ、家族って良いわね~』
リエンはその様子を微笑ましく眺めていた。
そして、今日もゆっくりと幸せな時間が流れていった。
花凛は、死んだことには後悔していた。
しかし、男の時の人生よりかは幾分かマシだと実感し、死んだことへの後悔が薄れてきていた。
そして、その様子を外から谷本家の家を眺める様にして見ている、ある男の姿があった。
「クヒヒ、そこにいましたかぁ。今度こそはその力、頂きますよぉ」
その男の目はぎらついており、そして睨め上げる様な視線をしていた。




