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煉獄の焔  作者: yukke
第一章 現世への帰還
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第二話 煉獄にて

 どこを見渡してもひたすらに業火が広がる謎の世界。その業火の間を細い道が続いている。


 そしてその道を、今一人の少女とふわふわと浮かぶ龍の少女が歩いていた。


「で? 瀕死のあんたは俺の魂を見つけて、名案が浮かんだと?」


 歩きながら腕を頭の後ろで組み、未だに理解に苦しむ顔をしながら亮は聞いた。


『そうそう~いや~グッドタイミングだったね。あの時に死んでくれて~』


 リエンと名乗る龍の少女は、あっけらかんと答えている。


「おい……タイミング悪く、俺は捕まっちまったわけか」


 ふてくされるようにつぶやくが、今の亮は可愛い女の子になっている為、可愛いさが増すだけであるが、そんな事本人は気付く訳も無かった。


『まぁそんなことで、私の魂はかなりボロボロだったからね~しょうがないから君の魂をメインにして、融合させてもらったんだよ』


 腕を組み得意気に話すリエンを、亮はまじまじと見つめながら歩いていく。


『ただ、その時にちょっと君の性別情報壊しちゃってね……違う種の魂同士だったし、無理があったのかな~? それで、慌てて私と同じ性別情報を付け足したんだ』


 リエンは、あごに手を当てまさに推理しているかのような仕草をするものの、少女の様な彼女がそれを行っても、あまり賢そうには見えない。


『とにかくあなたを巻き込んだのは悪く思ってる。ごめんね』


 今まで明るかった彼女がしょんぼりとしていたのに驚き、亮は慌てフォローする。


「いや、そんなことはないよ。あんたが助かったんなら、それで良いよ。でも、女性の情報を性別のないものに付けるなんて、簡単に出来るものなのか?」


『それがね、割と簡単に出来たんだよ~』


 そう言った後、リエンは亮をじ~っと見つめてくる。


「な、何? 後、今更何だけど裸なのはなんで?」


『いや、あなたもしかして女性としての素質あったのかな~って思って』


「そ、そんなわけないだろ!!」


 あまりに突拍子な事を言われ、両手を前に振り赤面していく亮を見るリエンは、「やっぱり」見たいな顔をしている。しかし、その顔は少し楽しんでいる様にも見える。


『それと裸なのは、魂が服を着てたらおかしいでしょう?』


 さも当たり前の様に答えるリエンに対して、亮は当たり前の様に突っ込んでくる。


「いや、あんたはなんか付けて隠してるじゃんか」


 そう、リエンは隠すべき部分を隠す様にして、鱗で出来た鎧の様なものを着ていたのだ。


『ん~今の私はあなたの補助的な役割で、あなたの内に宿っている状態になってるしね~これも思念体みたいなものに近いかな? だから、こういうイメージでちゃんと隠してるんだよ~』


 そう言うと、リエンはくるくると亮の周りを回っては、自分の体を披露する。そんな中、自分だけが裸なのが恥ずかしくなってきた亮であった。


「で、ここはどこで俺達はいったいどこに向かってるんだ?」


 恥ずかしいのは一旦置いておき、現状把握をしようとする亮に対して、リエンは亮の女性になってしまった体をじっくりと眺め、鑑定していた。


『我ながら良いできだね~胸が私よりあるのがちょっと気にくわないけどなぁ……』


 リエンはそう言いながら自分の胸に手を置いている。

 そんな彼女の様子に、亮は「小学生の妹がいたらこんな感じなんだろうな」と、そう考えていたがすぐに考えを改め注意をする。


「こ~ら、いつまで見てんだよ。それに、いい加減この場所を説明してくれ」


 腕で胸を隠し、サービスタイムは終了と言わんばかりにリエンを見つめる。


『もうちょっと観察させてくれてもいいのに~』


 おもちゃを取り上げられた子供の様にふてくされるリエンに対し、やっぱり小学生の妹みたいだなと亮は感じていた。


『まぁ、いいや~後でまたじっくり見よ~ここはね煉獄と呼ばれてる場所だよ』


 不吉な言葉があったが一旦聞き流し、亮は首をかしげて聞き慣れない単語について回答を求める。


『煉獄って言うのはね~なんて言うんだろ、天国と現世の狭間にあるって言えばいいのかな~天国に行けなかったけれど、地獄にも落ちない。そんな人達が苦罰を受け、罪を清めこの炎によって浄化される場所よ』


 そんなリエンこ言葉に、亮は驚きを隠せなかった。そんな場所が存在していたとは、そしてそのような所にに自分が居るという事は……そんな嫌な考えが亮の頭をよぎる。


『あ、安心してね~私と魂が融合したからここに来たんだよ~あなたは宗派が違うからね~』


 的確に心を見抜いた様な発言に、亮は正直ほっとしたものの、新たな恐怖を覚え彼の体は震えた。

 リエンはそれを見て。何やら嬉しく感じたのかニヤニヤしている。


「じゃぁ、いったいこれはどこに向かってるの?」


 そして亮が、続けてリエンに質問をする。

 すると、リエンは頭を抱え、この人物に頼るしかないが断られたらどうしよう、と言うような複雑な思いで答える。


『とにかく、あの人に頼んで現世に帰らないと……私はまだやらないといけないことがあるの』


 果たしてこの人はどう答えるのか。リエンは、そんな感じで彼の顔を横目で見る。


「現世に、戻るのか……」


 がっくりしているのか喜んでるのか、良く分からない表情をする亮に、リエンは不思議に思い尋ねる。


『何? 嬉しくないの? 人生をその姿でやり直せるんだよ?』


 すると、亮は突然表情が明るくなり、そうだったと言わんばかりに手を打っている。どうやら、彼の頭からはその事が抜けていた様である。


「そうだった!! 男の俺はもう死んでるんだよな? 多分この体15歳くらいかな? って事はまたそっからやり直せるのか! あの地獄のような社会から、毎日から抜け出せたんだ~」


 いきなり降って湧いてきた考えに、亮は舞い上がっていたが、その姿にリエンは少し苛立っていた。


 この人は地獄のことをよく知らずに、現世を地獄と言うのかと。だったら遠慮することはない。これはこの人の罪なのだから。

今まで何も考えず、人のせいにして生きてきたこの人には、丁度良い罰だ。


『じゃぁ、今はあなたが煉獄龍となっているのだから、現世に戻って私がやっていたことをやってね~この状態じゃ、私は力を貸す以外何も出来ないからね~』


 リエンはそう言うと、不敵な笑みを浮かべ亮を見つめる。亮はその視線に幾ばくかの恐怖を感じていた。


「ちょっ、なんだそれ? 現世でやってた事って何?」


 いきなりの事にさすがに動揺を隠せずに、亮は聞き返した。


『鬼・退・治♪』


 そのかなり不吉な言葉に、訳が分からないといった顔をした亮に対し、リエンは悪魔のような笑みを浮かべ続けた。


『大丈夫~鬼と言っても地獄の鬼じゃないから。現世で起こってる不可思議な変貌をした人を、一旦そう呼んでるだけ』


 リエンは更に続ける。


『数ヶ月前から、負の感情を抑えきれず、罪の意識をなくした人々が、異形の姿に変貌するという事が起こってるの』


 腕を組み、悪魔のような笑みから真剣な顔に変わったリエンに、亮も少し真剣な顔になる。


『なんでそうなったのか、その原因も何も分かってないの。ただ、鬼になった人はもう人間には戻れないから、私はこの武器でそんな人を浄化していたのよ』


 そう言うと、リエンは腕を横に伸ばし手を広げる。

 その瞬間、広げた手に炎が纏わり付くように集まり、固まっていき形を成していく。


 それはまさに、偃月刀のような刃の広い刃に、長い柄の付いた武器だった。そして刃には、綺麗な装飾が施され威厳も放っており、刃と柄の間に鈴が付いている。

 リエンはそれを鳴らし、得意気に見せつけてくる。そして、亮を見るとその武器を彼に向ける。


『良い? あなたもこれを出せるようにね。そして、戦い方も教えてあげる。パパの元にたどり着くまでに、少なくとも普通の鬼一体くらいは倒せるようにして』


 急に厳しい目つきになり、今までとは違うオーラを放つリエンに、亮は戸惑い気味になっていた。


「な、なんで俺がそんなことを?」


 これが、亮の精一杯の反論だった。


『確かに、こうなっちゃったのは私のせいだし、巻き込んでしまったのは悪く思うわ。普通頼んだりしないよ。でもね、あなたを見てたらこのままで良いとは思わなかったわ。100年は生きてた私ですら、こんな人は初めてだったわ。ホントの地獄を知らない人は……』


 最後の語尾だけかなり怖い言い方だったのと、あんな形で100年も生きてると言うリエンの年齢に、亮は震え上がった。


「ひゃ、100年?!」


 亮のその言葉に、リエンは少しふてくされるようにして反論する。


『あら? たった100年よ~私なんてまだまだガキよ~だいたい龍の寿命なんて1000年くらいだって』


 

 あまりの長さにびっくりしてしまったが、一つ気づいたことがあり亮は聞き返す。


「じゃ、まさか俺まで……1000年近くも?」


 亮のその言葉に、リエンは初めてその事に気づいた。

 しかしリエンが考えを巡らせても、正当な方法で生まれたのではない為、どうなるかは分からなかった。


『う~ん、分かんないや……』


 首をかしげて答えるリエンに亮は不安を覚え、頭を抱えて項垂れる。


『とにかく、あなたは何も知らなさ過ぎて自分勝手過ぎるわ。他人と関わろうとしないあなたにとって、これは罰なのよ』


 リエンの言葉に頭をあげる亮。その目には不安の色が隠せないでいた。


『ふふ、大丈夫よ。私がフォローしてあげるから~せめて、その体で歩む次の人生は、実り多い人生にしなさいよね』


 良い事を言った、と誇らしげに腕を組みウンウンと満足そうにするリエンに対して、亮はこれからの事で不安に押しつぶされそうになっている。


「その前に、まず女性の体に慣れないと……」


 ため息をつき、今更ながらな事を呟き、亮はトボトボと歩く。


 その先に、希望があるはずだと微かに信じて。

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