第六話 新たな家での一夜
「おいおい、無理やり鬼化させられたってのは無理あるんちゃうけ?」
紫電が、リエンの突拍子もない発言にまるで呆れたように言ってきた。
『そうでも無いわよ』
リエンが負けじと反論した。そして、その目には確信に満ちた目をしていた。
『そろそろ言わないといけないわね。私がやられた相手ね。実は鬼じゃ無いの、人間なの』
「えっ?!」
またしても全員一斉だった。
それもそのはず、龍であるリエンがただの人間にやられるなんて、どうにも考え難い事態なのだ。
花凛は、信じられないという顔でリエンを見ていた。
「それも、冗談きついで~人間がそないな事出来るかいな」
しかし、その言葉にリエンはジッと紫電を見ていた。
「ま、まじかいな?」
その様子に、察したのだろうか紫電も目を丸くし始めた。
ただ、リエンにも何が起きたか分かってないらしかった。
『真鬼を倒して、とどめを刺そうとしたらね。急に後ろから衝撃を受けたの。それで、致命傷負っちゃってね。何とか犯人の姿を見たけど、普通の人間だったわ』
リエンは、ゆっくりと淡々とした口調で続ける。
『どういうトリックかは分からなかった、その時は夜だったしよく見えなかったの、そして腕からもう一発衝撃波が飛んできたの。そこで、私は意識が途切れ気づいたら魂の状態だった。しかも、魂にまで大ダメージを受けてね』
花凛は、ただ真剣にじっと聞いていた。
『後、その男ね腕にのみ鬼のオーラが出ていたわ。体は普通なの、でも腕は普通じゃなかったわね』
そのリエンの言葉に紫電が口を開いた。
「ほな、その男が何らかの理由で鬼の力を得ている。それで、実験台か何か知らんが、普通の人間にその力を与えてどうなるか見てるってわけか?」
『そこまでは分からないわ。でも、その男が何らかの鍵を握ってるいるのは間違いないわね』
リエンは終始暗い表情で、真剣であった。こんなリエンは初めて見たかもしれない。花凛はそう思いながらただならぬ不安を感じていた。
「うじうじ考えてもしゃ~ないな! そいつが正体現したらとっ捕まえたらいい事や!」
紫電が、この重苦しい空気は嫌だと言わんばかりに、バカみたいに明るく声を張り上げた。しかし、それはどことなく虚勢に見えなくもないと感じた花凛だった。
「ほな、俺はさっさと自分の街に戻るわ。何かあったら連絡してくれたらええわ~」
そう言って、スマホを取り出したが花凛はそこで初めて気づいた。
「あっ、スマホ持ってないんだった」
「はぁ? ったく、しゃ~ないな~」
紫電が、頭を掻きながら文句を言ってきた。
「しょうがない、俺ので良いか?」
そう言って、神田がスマホを取り出した。
「まだ俺は、警察に協力するとは言ってへんわ! まぁええ、今度会った時にスマホ持ってたらにしとくわ。お前がこの辺に居るのは分かったしな。ほなな!」
そう言って、紫電は紫の雷に包まれ雷光のごとく一瞬でその場から飛び去っていった。
夕焼けに染まり子供達の帰宅の声と、遊んでいる子供達の声が入り混じる。
花凛は、神田のマンションの玄関の前に立ち、手渡された合い鍵を使いゆっくり扉を開けた。
「お、お邪魔します。じゃないや、ただいまか。と言っても私だけだけど」
『私も居るでしょう』
リエンがふてくされるように花凛を見ていた。
「あ、ごめんごめん」
花凛が、苦笑いして謝るり
しかし、そこに神田の姿は無かった。
神田はあの後、事後処理に追われることになり、帰りは遅くなると言っていた。
なので、花凛は近くのコンビニでお弁当を買っていた。
「料理覚えた方が良いのかな?」
広いリビングのテーブルに、お弁当と飲み物を置き花凛はボソッとつぶやいた。
『へぇ、良いわね~お世話になるんだし、それくらいはしても良いんじゃ無い?』
リエンが珍しく花凛に賛同してきた。
「でも、出来るかな……」
今度の土曜日にでも実家に行って、母親に教えて貰おうかな。
花凛は、そんなことを考えていた。
食事を済ませ、お風呂にも入り、リビングのソファーでのんびりテレビを見ていた。
すると、テレビの乗ってる台の端に伏せられている写真立てが目に入った。
気になった花凛は、こっそりとそれを見てみた。
そこには、神田の家族なのだろうか、優しそうな笑顔をした女性と、無邪気に笑う9歳か10歳くらいの可愛いらしい女の子が写っていた。
神田が言っていた家族だろうか、日付が書いてある。
【20××年 5月14日 この日を忘れるな、そして許すな】
6年前の日付と横には神田が書いたのであろうか、一文が添えられていた。
『もう、亡くなってるんじゃないこの人達』
リエンが横から覗き込んできた。
「うん、だよね。前に、もう居ないような言い方してたし」
花凛は、そっと元の場所に戻した。
日付が変わる頃、神田はようやく自宅マンションに帰ってきた。
「ったく、事後処理にこんなに時間がかかるとは、最近の奴らは仕事が遅い」
文句を言いながら、神田は鍵をさし扉を開けて中に入る。
「花凛、もう寝てるか?」
リビングは、既に照明が消されていて真っ暗であった。
神田は、花凛が決めた部屋の扉をゆっくり開けて、中を確認する。
すると、客用に置いてあった布団にくるまり可愛い寝息を立てていた。
どこからどう見ても女の子である。
これが、元男とは思えなかったようだ。
「明日は、非番だしな。色々、入り用な物を買うか」
ポリポリと頭を掻きながら、花凛の寝てる横に座り寝顔を見つめた。
「お前は、もう1人で戦ってるんじゃない。何もかも1人で解決しようとするなよ、今日みたいにな」
そう言って神田は花凛の頭を撫で、髪に手をかける。
さらさらと流れるその髪は、触り心地が最高だった。
「ちっ、公私を分けてるとは言えないな俺も」
そう言いながらため息を付き、部屋から出て行った。
『起きてるんでしょ? 花凛』
リエンが、花凛の寝てる上から話かける。
「うるさいなぁ」
そう、花凛は神田の帰ってきた音で起きていたのだ。
花凛は、うっすらと目を開け半目になりつぶやいた。
「人に迷惑はかけたくない……強く、ならないと」
そうして、再び目を閉じ眠りについた。




