第五話 小さな疑惑
花凛は、突然現れたこの人物に驚いていた。
リエンが、他にも龍が居ることを言っていたがこんなにも早く出会えるとは思ってもいなかったのだ。
すると、残り1体の鬼が横から襲いかかってきた。
「おっと、話はこいつを倒してからやな」
そう言うと、紫電は右腕の袖をまくり、紫の雷をその腕に纏わせた。
すると、その腕がみるみる変化していった。
龍の鱗のようなものが生え、大きく鋭い爪も生えその腕は正しく龍の腕になったのだ。
「はっ!! 覚悟せ~よ!」
そう言うと、紫電は変化した右腕を引き鬼に向き合った。
「電撃特攻!!」
そして、紫電は物凄いスピードで鬼に突撃し、その龍の腕であっという間に引き裂いた。
「ぐぅうあぁぁぁ!」
鬼は、強烈な電撃を浴びせられあっという間に黒焦げになり倒れ込んだ。
「ま、ただの鬼ならこんなもんやな」
紫電は腕を戻し、袖も元の位置に戻した。
そして、再び花凛に近づいてきた。
「よぉ、あんたも俺と同じ龍なんやろ? テレビでよく取り上げられとったしな。それにしてもさっきの戦い方はいったいなんやねん。下手過ぎんで」
いきなり、初対面の人に何を言い出すのかと花凛は目を丸くした。
『しょうがないでしょ、まだ戦い始めて間もないんだから』
リエンが、花凛の横から紫電に向かって言ってきた。
すると、紫電はリエンの姿が見えているようで驚きの声を上げた。
「お前、リエンやないか! どないしたんや、魂だけになってもうてるやんけ」
『あんたのせいよ……!!』
紫電の言葉にリエンが怒りの声を上げた。いったいこの2人に何があったのか、花凛は気になってしまった。
「何やいきなり? 俺のせい?」
『そうよ! あの時、私が体を失った時の調査は、本来あんたが行くはずだったんだからね!』
すっとぼける紫電に、リエンが更に強い口調で怒鳴り散らしてきた。
「あ~説教堪忍や。しゃ~ないやろう、ナンパしてた女が俺におちそうやったんやぞ。そりゃ、そっちに集中するやろうが」
紫電が頭を掻きながら、理由を言ってきたがとても許される内容ではなかった。
『あんたねぇ!! 役目とナンパとどっちが大事よ!』
「ナンパや!!」
驚いた事に紫電は即答してきた。
『花凛、こいつ切っちゃって』
「え? 良いの?」
リエンにそう言われたので、花凛は持っていた偃月刀を振り回し、柄の先を地面に叩きつけ鈴を響き渡らせた。
「わぁ!! タンマタンマ! 冗談やっての!」
紫電は慌てて両手を横に振り必死に否定してきた。
「えっと、そろそろ良いか?」
そう言うと神田が後ろからやってきた。
「ん? 何やおっさん。警察関係者か?」
神田の姿に気づき、紫電が声をかける。
しかし、花凛は近づいてくる神田を見て初めて、紫電に対し違和感を感じた。
そう、圧倒的に背が違っていた。
神田は180センチはあるんじゃないかという背丈に対し、紫電は圧倒的に低かった。多分、160程度だろう。それでも花凛よりは高いが、神田と比べてしまうと圧倒的だった。
「そうだ、私は刑事をしている神田だ。よろしく」
神田が、紫電に対して握手を求める。
しかし、紫電はそれに応えなかった。身長差が分かってしまうからなのだろうか、小さなプライドであった。
だが、神田が無理やり紫電の手を握り、握手をした。
「ちょっ、離せや!」
そう言って、神田の手を振りほどいた。
紫電は余程、高身長の者を嫌ってるのだろう。
「で、君も花凛と同じ龍なのか?」
神田は気にせず話を続ける。
「あ? こいつとって、こいつ半分人やないか」
説明もしてないのに、よく分かったなと花凛は感心していた。
「なんや? よく分かったなっていう顔してんな~当たり前やろ、体を失い魂だけの存在になったリエンが、お前の横でふわふわ浮いてたらこいつと融合したんやって、すぐ気づくわ」
紫電が、リエンに指を指して言ってきた。正に、名探偵みたいなそのものズバリな推理だった。
「俺は、リエンと同じ正真正銘の龍や! 半分まがい物のこいつとはちゃうわ!」
花凛は、紫電の言葉が胸に刺さった。
そして、肩を落としガックリとうなだれた。
『ちょっと、普通は龍の魂と人の魂が融合出来るわけ無いでしょ』
リエンが補足するように、紫電に向かって言い放った。
「あん? どういう意味や? 確かに言われりゃそうやな。ん? こいつ、まさか?」
紫電はそう言うと、花凛を見つめそして意味ありげな笑みを浮かべた。
「あ~そういうことかい。リエン、お前はまたけったいな者と融合したな~」
『ま、おかげで助かってるけどね~』
花凛は、なんの話をしてるのか分からずにずっと首を傾げてしまっていた。
「さて、リエン。警察と一緒に居るのはなんでや? 鬼になったとは言え人を殺してんねんぞ。捕まるやろうが」
紫電は、警察と距離を取りながらいつでも逃げられるようにしていた。
「それについては、私が説明しよう」
神田が、1歩前に出て説明をし始めた。
「な~るほどな、それが本当なら助かるわ。警察からこそこそ逃げながら、鬼を駆除するのは正直しんどかったしな。これからは好き勝手出来るって事やな」
神田からの説明を聞き終わり、腕を組み頷いていた。
『ちょっと、加減はしなさいよね。警察かって限界あるんだから』
紫電の後先考えない言葉に、リエンが注意をしてきた。
この男なら、ほんとにとんでもないことをしでかすんじゃないだろうか。まだ、会って間もないが紫電という男がどれだけ危険かが分かってきた。
「リエン、大丈夫なの? この人」
花凛は、ほんとに心配になってきてリエンに聞いた。
『まぁ、無茶ばかりするけど今のところは大丈夫よ』
その“今のところ”に凄く引っ掛かるものを感じた花凛だった。
「それにしても、隣の県からちっとばかし遊びに来ただけやのに、えらいぎょうさん鬼がおるわここは。ちょっと異常やで」
紫電が、焼け焦げて真っ黒になっている鬼を見つめて言ってきた。
「え? 他の県はそうでもないの?」
花凛は、びっくりして聞き返した。
自分のいる今の県が異常なのだとしたら、ここに原因があるのではと考えた。
「そうやな~他の県は同時に出ても精々2体やな。それが、こっちは倍ときてるやんけ。おかしいで、これは」
『そうね、私もおかしいとは思ってたわ。前から出てるにしても、ここはつい最近一気に増えてるのよね』
紫電の疑問にリエンも同意した。
「ちょっと待て、ならここの県に鬼化する奴らの原因が?」
ただならぬ雰囲気に神田が慌てて問い詰めた。
「そうやなぁ。後、この鬼共もなんかおかしなかったか?」
その紫電の言葉によく分からずに、花凛も神田も首を傾げた。
「普通鬼ってのは、己の欲望に絶えきれずに何らかの原因で鬼化し、そして理性を失い欲望を満たそうと暴走する」
その言葉に、花凛はゆっくり頷く。ここまでの間花凛も鬼達を浄化してきたことで、薄々と感づいていた。
すると、そこでようやく紫電の言ってた言葉を理解した。
「あっ、そう言われたらこいつら……」
「ようやっと気づいたか? そうや、こいつらは欲望がないねん!」
ようやく気づいた花凛に向かい、紫電が声を荒げた。
いったい、どういう事なのか花凛はあごに手を当て必死に頭を回転させた。
しかし、その間ずっとリエンは難しい顔をしていた。
自分の気付いたことを言おうか言うまいか迷っているような顔だった。
「なんやリエン、なんか思い当たる節でもあるんかいな?」
その様子に気づいた紫電がリエンに向き合った。
すると、ようやくリエンは重い口を開いた。
『まだ、可能性でしかないわよ。でも、これが本当だとしたら相当頭がいかれた奴の仕業ね』
「何やねん、言ってみろや」
しびれを切らした様に、紫電が足のつま先を地面に何回も叩きつけ、リエンに催促した。
『この鬼さ、もしかしたら何者かに無理やり鬼化させられたのかも』
「なんだって?!」
リエンの突拍子もない推理に、その場の全員が一斉に驚きの声を発した。




