第四話 養子縁組と助っ人
数日後、花凛はあるマンションの前に立っていた。
そこは、花凛の自宅から地下鉄で3駅の所にある、オフィスビルの並ぶ街だった。
朝は、通勤のサラリーマンが行きかい。昼は、オフィスビルの並ぶ中のいくつかのマンションに住むサラリーマンの家族が、交差点等で井戸端会議をしている。
大通りの脇には木々が生い茂り、人々に癒やしを与えていた。
そんな大通りの何個か立つ大きなマンションであり、家族向けのマンションのようで入り口から入るとホールがあり、横から駐車場に続いていたり、ガラス張りの窓に椅子とテーブルが置いてあったりした。
花凛はそのマンションの前で佇んでいた。
そして、神田がマンションの入り口に向かって歩いていく。
「おい、どうした? 今日からここがお前の家だぞ」
神田が振り返り花凛にくるように促した。
「あ……ご、ごめんなさい」
花凛は慌てて神田の後ろについた。
そう、あれから結局花凛達は養子縁組を受ける事となった。
理由は簡単である、谷本家が資金の事で限界だったからだ。
谷本家の両親は、母親も父親も病気を患い、通院と薬の服用をしていたからだ。
父親は、耳の難病。母親は、乳がんの再発予防。
そして、妹は専門学校に通っている為働いていない。
家計はぎりぎりだったのだ。とてもじゃないが、もう1人子供を育てる余裕はなかった。
もちろん、両親も悩み抜いた。正直この刑事は、何故全く関係ない人を養子にという話が出るのだろうか。それを問いただすと、神田はおもむろに警察手帳にはさんである1枚の写真を取り出した。
「言ったでしょう、私情だと。ここに写っているのは、私の妻と娘です。娘はこの時、9歳でした。生きていれば花凛さんあなたと同じ歳になっていたのです」
それを聞いて家族全員が口を閉じた。それ以上の詮索はもはや不要だった。
「どうも、あなたを追っている中で徐々に娘と重ね合わせていたのです。こんなに人を信じようとしない子は初めてでした。私が何とかしてやる。そんな思いが最後には沸いてましたね」
神田はじっと花凛を見つめていた。つり目で怖かった目が若干優しく感じられた。
そして、両親は何日か悩んだ末「どうか、宜しくお願いします」と養子縁組を成立させた。
「何、土・日はそちらに帰らせますので安心してください」と付け加えて。
そして、養子とは言え神田の娘になった花凛は新たな家に足を踏み入れた。
3LDKのその部屋は、まっすぐ廊下が続き、玄関から少し入った所の左右にそれぞれ部屋が3部屋あり、1つは客間に出来そうな小さな和室になっていた。
その奥、右手側にトイレと正面左手側に洗面所やお風呂等が備え付けられていた。
そして突きあたりが、バルコニーのついたリビングであった。
ここは8階にあたり、中々の高さがあるのでバルコニーには木製の椅子とテーブルが置いてあった。
神田がそこで毎晩晩酌をしているか、たまにはその場所で食事をしていたりするのだろうと、花凛は想像していた。
「まぁ、最初は慣れないだろうが、自分の家だと思ってのんびりしてくれ。部屋なら和室以外なら好きなのを使え」
神田が、スーツを脱ぎカッターシャツだけになり、更に胸元のボタンも緩めて着崩していく。
「俺は、仕事柄なかなか帰れない場合があるが、コンビニで勝手に飯買って食っておいてくれ。あ、そういえば良いのか? 警察に協力するという前提で話を進めても」
神田が、リビングのソファーに腰掛けて話かける。
「うん、そのつもりでお願いします」
『ま、それがベストよね。私達だけでは限界があるしね』
リエンが部屋の広さを確認した後、花凛に続いて口にした。
神田が、まじまじとリエンを見ていた。
どうやら、今は姿を見せているようだった。
『ほとんど姿を見せられないとは言え、私もやっかいになることになるし一応ね。これから宜しく~』
そう言って、リエンは右手を上げ元気にあいさつをした。
「軽い……」
そのリエンの態度に花凛が文句を言った。
「はっはっはっ。まぁ、緊張して暗い顔してる奴よりはマシだわな」
「悪かったね」
自分の事を言ってるのだとすぐに分かった花凛は、頬を膨らませ不機嫌な態度をとった。
そして花凛は、入って右手の部屋を使うことにした。ロフトがあったので即決してしまった。とは言え、そのロフトの上は収納スペースになっていた。そして、他には何も無くガランとしていた。
「荷物はこんなものかな」
『こんなものって、着替えぐらいじゃない』
リエンがカバンを見つめてつぶやいてきた。
確かに、谷本家には自分が男であった時の物も若干あったが、女になった今では着られない服ばかりだった。後はほぼ処分されていた。
「また、服とか買わなきゃいけないかな?」
花凛は、Tシャツを掴み自分の服装を見つめた。
今日は、そのTシャツとショートパンツというラフな格好をしていた。
すると、部屋がノックされ神田が声をかけてきた。
「すまん、花凛。色々と積もる話もあるが、鬼が出たという通報があった。悪いが、来てくれるか?」
「えっ?! どこにですか?」
花凛は慌てて扉を開けた、そこにはスーツに着替え直した神田の姿があった。
「場所は、俺が聞いている車を出すから向かうぞ」
「分かった!」
神田に続き、花凛は急いで部屋を出た。
『良い? 真鬼なら分かってるわね?』
「うん、あの時の力で全力で行く」
現場に向かう、車の中。
リエンが、花凛に問いかけると花凛ら力強く答えた。
今回は後ろ立てがある、もう迷わない。
花凛は力強く拳を握り締めた。
神田はスマホを車の前に専用の台で固定させており、通話しながら運転していた。便利だとは思うものの、刑事がそんなので良いのだろうかと思ったが、首を振り今はそれどころではないと考えを改めた。
「良いか、俺達が着くまで応戦はするなよ。追い込むか、誘い込むだけにしろ! そうだ、人気が無く広いとこにな!」
神田が電話越しに指示を飛ばす。
「よし、目的はこの路地を入った先だ。準備はいいか?」
その神田の言葉に、花凛はコクリと頷いた。
大通りから路地に入り、しばらく車を走らせた先には野次馬が出来ていた。
「ちっ! 住民の避難が全くじゃないか、何してやがる!」
神田がイラつきながら、野次馬の最後尾で車を止めた。
花凛は、急いで車から飛び降りた。
「あ、おい!」
「大丈夫! このまま行くから!」
そう言って、神田の静止を振り切り走り出した。
様子からして、真鬼では無さそうだった。
手早く処理しようと花凛は頭で考えていたが、現実は甘くはなかった。
「ちょっと、退いてください!」
そう言いながら野次馬をかき分ける。
時折、人の視線がこちらに注がれるのを感じたが、気にしてはいられなかった。
どうせ、ニュースで見た子だと騒然となってるだけだ。花凛はそう言い聞かせて、野次馬をかき分けていく。
花凛はようやく、野次馬を抜けて規制がされている所までやって来た。
規制の近くで、住民に説明してる警察官を見つけ声をかけた。
「入ります。神田さんから話のあった応援の者です」
「えっ? えっ? き、君が?」
住民達に説明をしていた気弱そうな警察官が、あたふたとしていた。無理もないと思った花凛だが、急いでるので花規制の中に入り再び走り出した。
しばらく走ると、十字路の所に公園が見えてきた。そこに多数の警察官が何かを取り囲んでいた。
花凛は、右手を広げ炎を出し、いつものように偃月刀を出現させた。
鈴の音を鳴らし、柄を地面に付け棒高跳びの様に、軽やかに飛び上がり警察官の輪を飛び越え公園の中に着地した。
『やっぱり、異常ね。4体も同時にとか私の時はあり得なかったわよ』
「えっ?!」
リエンの言葉に驚き、花凛は顔を上げた。
するとそこには、4体もの鬼が花凛を睨みつけていた。
周りの警察官がいきなり登場した人物に驚き、ざわついていたが。
「その子が、唯一そいつらに対処出来る助っ人だ! 俺達は補助に回るぞ!」
囲いを作った警察官の後ろから、神田が声を張り上げた。
そうはいっても4体相手にどう立ち回ればと思考していると。
「ぐおぉぉぉおお!」
何と、4体が同時に襲ってくる。
「くっ!!」
花凛は、横に走り出し鬼達に囲まれないように対処した。
すると、近くにいた1体が対応しこちらに振り向き向かってきた。
「うっ、ぐううぅぅう!」
花凛は、鬼の顔をはっきりとは見たことがなかったのだが、今見ると少し苦しそうだった。
真鬼とは違い、この人達は苦しんでるのだと改めて実感した。
そして、こちらに向かってきた鬼の体に素早く刃を振り、腕を落とした。
「ごめんね、今苦しみから解放してあげるね」
そう言いながら、花凛は右上から斜めに鬼を斬りつける。そして、切り口から発火し、鬼の体を炎が燃やし尽くしていく。
しかし、ゆっくりもしていられなかった。すぐに次の鬼が花凛に向かい、襲いかかって来ていた。
『う~ん、やっぱり欲望を抑えきれずにいた人が、何らかの原因で鬼化し理性を失ったようにみえるね』
「こんな時に冷静に分析って」
リエンがあごに手を置き考え事をしていた。
すると、3体の鬼が花凛の近くまで迫っていた。
「っ?!」
花凛は、3体の鬼の攻撃をしゃがんだり、後ろに下がったり、軽やかに次々と避け、腹がガラ空きになった鬼に刃を突き刺し、2体目も炎により浄化を完了した。
しかし、続け様に残り2体の鬼が同時に攻撃をしてきた。
「しまっ?! これ避けられ無いかも」
『バカ!ガードしなさい!』
またしても無駄な思考をしてきた花凛にリエンが怒鳴った。
咄嗟にガードを取ろうと、偃月刀を横にしガードの体制をとった。
しかし、その瞬間。
「なんやなんや、武器の使い方なってないやないかい」
突然、鬼の背後に何者かが現れた。
その人物は鬼の頭をガシッと掴むと、腕が帯電しているのかバチバチと激しい音を立てていた。
「あんなぁ、こういう状況でリーチの長い武器で、何各個撃破しようとしとんねん。アホちゃうか! 一気に4人バッサリいけや」
そう言いながら、腕に力を入れると強烈な電流が鬼に流れ、黒焦げにしたのだ。
「なっ?! あなたは?」
花凛は思わずそう聞いたが、リエンから聞いた事が急に脳裏に浮かぶ。
「はっ!? 何や、なんも知らんわけ無いやろうが」
そう言いながら、鬼の背後にいた人物が近づいてきた。
男性だったようだが、帯電してるせいでか、紫色の髪の毛が少し逆立っている。
そして、ジーパンに雷のマークのはいったスカジャンを着て、肩にはヘッドホンをかけていた。
顔はキツいつり目、歯はギザギザな形ばかりで犬歯ばかりなのかと疑うほどであった。
見た目完全にヤンキーのこの男は、腕を組み自己紹介をした。
「俺は、雷光龍 紫電や!!」




