第二話 現状把握とこれからのこと
花凛の乗せた車と家族の乗る車は花凛の、正確には亮の実家へとたどり着いた。
数週間ぶりとはいえ、もう何年ぶりかに帰省するような感覚に襲われた花凛は、少ししんみりした表情になっていた。
「息子とはいえ、なんだか他人を迎え入れてる見たいね」
母親は苦笑いして、花凛に目配せした。
母親も同じように複雑な感情になっているのだろう、その表情をみて花凛も苦笑いで返した。
玄関から入り、狭いリビングへ向かう。
そこには、亮の遺影が飾られた小さな仏壇が飛び込んできた。
もともと狭いリビングなので、更に狭苦しく感じられた。
改めて花凛は、男としての自分は死んだのだから、これからは女として生きていかないといけないのだと、強く感じ真剣な顔で自分の仏壇を見つめていた。
「お線香あげる? 今までの自分への別れというか。ね?」
美沙が花凛の気持ちを組んだのか、切ない顔をしながら言ってきた。
「うん、ありがとう。そうするよ」
花凛は小さく頷き、そう返した。
その後、リビングのテーブルに全員がつくと、刑事が花凛に目を向けた。
「さて、花凛さん。あなたの身に起こったこと、今人が化け物になるという現象。あなたが知っている限りの事を教えてくれますか?」
神田刑事は、両手をテーブルの上に置き指を組み、真剣な表情で花凛の正面に向き合っていた。
「えっと、でも何から話せばいいのか……」
花凛が、どう説明しようか悩み口ごもっていると。
『焦れったいわね~私が説明してあげようか?』
リエンが腕を組み、花凛の後ろからひょっこりと姿を見せてそう言ってきた。
「いや、でもリエンの姿は見えないし、声も……」
そう言おうとしたが、家族の口から漏れる小さな声が聞こえ花凛は慌ててそちらに目をやると、全員がリエンに視線を向けていた。
『あぁ、今私は他の人に姿も見えるし声も聞けるようにしたけど?』
「できるのかよ?!」
リエンがあっけらかんと答えたので、花凛は素で答えてしまったようだ。
『出来ないとは言ってないわよ』
リエンが目線を逸らして素知らぬ顔で言ってきた。
『初めまして、私は煉獄龍のリエンよ。貴方達の息子さんの魂と融合させてもらった者よ』
リエンがそう言いながら、両腕を腰に当て偉そうに自己紹介をした。
『あれ? 皆フリーズしてるんだけど?』
「そりゃ、誰だってフリーズするってば」
キョトンとするリエンに対して、花凛は目を細めて当たり前の事だと言わんばかりに見つめていた。
数分後、ようやく頭が動き出した刑事と家族だったが、まだリエンをまじまじと見つめていた。
『あんまり、見つめられたら恥ずかしいなぁ』
リエンが、顔を紅潮させ体を腕で隠しながら、まるで乙女の様な仕草をしていた。
「普段から、そんな格好なんだし恥ずかしいも何もないじゃん」
『うるさいなぁ、私も乙女なのよ?』
花凛の厳しい言葉に、リエンは頬を膨らませ文句を言っていた。
「えっと、とりあえず説明してくれるかしら? りょ……花凛」
最初に口火を切ったのは母親だった。
「あ、ごめん。えっと、だったらまずこの子の説明からかな?」
『任せなさい!』
リエンが無い胸を張り、拳を作り胸をトンっと叩いて全部任せろというポーズをして見せたが、強すぎたのかむせていた。
「大丈夫かなぁ……」
一抹の不安を覚えた花凛であった。
それから、1時間近く説明をしていた。その間にも刑事が合間に質問をぶつけていた。
『という訳で、ざっとこんな所かしらね』
一通り今までの事を説明し終えたリエンは、花凛の横についた。
「なるほど、それがあなたの身に起こったことと。今現在、この世界で起きている事ですか」
神田刑事は、そう言うと両親から差し出されたお茶をすすった。
「しかし、鬼化と真鬼と呼ばれる者の脅威ですか。これは、とんでもない事態ですね。とてもじゃないが、我々では対処できない事ですね」
神田刑事は、難しい顔をしてテーブルを睨んだ。
しばらく、場は静寂に包まれた。
「でも、あなたが助かったんだから。リエンさんにはお礼を言わないと」
その静寂に耐えられずに母親が口にした。
『何を言ってるの? 助けたんじゃないよ。私はこの人を巻き込んだのよ、お礼を言われる筋合いじゃないわ』
リエンは、申し訳なさそうな顔をして俯いた。
「それでも、お礼を言わせてくれないかしら? こうやって体は違えど、息子と再び会えるなんて奇跡はあなた無しでは叶わなかった事なのよ」
『……』
リエンは俯いたまま、無言になってしまった。
「ありがとう」
母親は、リエンに対して深々とお辞儀をした。
『変わった親ね』
リエンは、そっぽを向いていたが、その顔は少し恥じらんでいるように見えた。
「まぁね」
花凛は苦笑いしてリエンを見つめた。
「とにかく、私はこの事を上司に相談し、今後の事を決めさせて貰います。なに、悪いようにはしませんし逮捕なんて事にもしません。こんな事例は初めてですからね、様々な所に相談し対処させて貰います」
すっと考え事をしていた神田刑事が、ふいに口を開きそう言ってきた。
「戸籍の問題など、これからどうするかも決めなくてはいけませんよ」
「そう……ですね」
神田刑事の言葉に、母親はすごく不安そうな顔をしていた。
「私も可能な限り、お手伝いさせて頂きます。あと、花凛さんはしばらく、こちらに居たら良いでしょう」
そう言って、神田刑事は一礼をし玄関はと向かう。
「でも、刑事さんはなんでそんなに親身になってくれるんですか?」
美沙が当たり前の疑問を口にした。刑事にしてはあまりにも色々と関わってくるからだ。
「いえ、何少し私情がありまして。気にしないで下さい。私が好きでやってるので。でわ、失礼します」
そう言って、敬礼をした。その後を父親が見送りをするためについていく。
父親は、人見知りが激しい為さっきの話に表情の変化はあれど、言葉は発していなかった。それでも少なからず動揺の色は見て取れた。
谷本家の中は久々に暖かな空気が流れていた。
母親は、しばらく気持ちが沈みうつ病になるのではというくらいにまで落ち込んでいた。しかし、今は心なしか楽しそうに夕飯の準備をしていた。
父親も、難しい顔でテレビを見ているが内心は息子が帰ってきたことにホッとしてる部分もあるのだろう
。
お互い、これからの事を考えると不安しか出てこないものの、今は息子が戻って来たのを喜ぼうと。
だが、女の子になって帰ってきたのでいったいどう対応すれば良いのか、少し迷っている所もあった。
そして、花凛と美沙は風呂に入っていた。
なんとか2人ぎりぎり入れるか入れないかの広さの風呂場で、美沙は花凛の背中を流していた。
「良いな~肌すべすべで羨ましい~」
「美沙、なんかやっぱ恥ずかしいんだけど」
花凛は俯きがちになり、顔を赤らめていた。
「何言ってんの? この前、銭湯で鉢合わせになったじゃん。今更気にしなくて良いでしょ」
美沙は気にせず花凛の背中を洗い流す。
『そうよ~姉妹水入らず、仲良く背中の洗いっこしたら?』
リエンが湯船に浸かりながら言ってきた。もちろん、その体には隠す物は一切無かった。普段は鱗の様な薄い鎧で、重要な部分を隠しているが。風呂の時はちゃんと取っていた。
しかし、花凛はまた不思議な事をしているなと思い、リエンにツッコんだ。
「だから実体ないのに、風呂入る意味あるの?」
『気分の問題で~す』
そういう問題なのかと思ったが、あまり追求しないでおこうと思い、再び前を向く。
すると、今度は美沙がにこにこしながらリエンの方に顔を向けた。
「えっと、リエンちゃんで良いのかな?」
『リエンで良いわよ』
「わかった。リエン、ありがとう。おにぃを助けてくれて」
また、礼を言われたリエンは恥ずかしさのあまり顔を背けた。
『だから、何でお礼を……』
「ううん、そんなことないよ。それに、妹が2人出来たみたいで私はうれしいな」
あまりの言葉に、リエンがびっくりして美沙の方に向き否定してきた。
『ちょっと! 私は少なくとも100年は生きていたのよ。どちらかというと私がお姉さんよ!』
「でも、見た目的には私の方が年上っぽいから、リエンは妹ね」
『どういう理屈よ~!』
リエンも見事に美沙のペースに乗せられていた。
その光景を見て、今まで張り詰めていたものがとけたのか、花凛はくすくすと笑ってしまった。
『あら、あなたが笑った所なんて初めて見たわね。可愛いじゃない~』
リエンがにやにやしながらからかってきた。
「え? そ、そうだっけ? というか、からかわないでよ~」
リエンの入っている湯船に浸かりながら、花凛は恥ずかしさを誤魔化すように言った。
その姿を見て、美沙は聞こえないようにつぶやいた。
「おかえり……おにぃ」
辺りは日が落ち暗闇に包まれる中で、谷本家からは美味しそうなカレーの良いにおいが漂ってきた。




