第一話 再会
蝉が急にけたたましく鳴きだす。正確にはずっと鳴いていたが、それが聞こえないくらいにその場は静寂に包まれていたように思えた。
目の前の家族は全員、目を丸くしたかと思えば、じっと花凛を見つめてきた。
未だに信じられないといった表情が見て取れた。
それもそうだろう。目の前の少女の姿は、ホルターネックの可愛らしいブラウスに、ホットパンツを履き、膝までのハイソックスといういかにも女の子な格好をしているからだ。
これが、とても死んだ息子とは思えなかった。
しかし、状況証拠の全てが息子の亮だと物語っていた。
息子しか知らない実家の事に、未だに誰にも息子の墓の事は教えていない。
というより、昨日出来たばかりなので誰も知るよしがない。息子が死んだというのも、身内くらいしか言っていない。
なのに、この少女は的確にそれらを知っていたのだ。
もう、息子と言うしかあり得なかった。
家族が、そんなことを頭の中でフル回転させて考えているんだろうなと思い、花凛はゆっくりと口を開いた。
「俺が、ここにいるってよく分かったね」
花凛は、あえて男の時の口調にした。
その口調に家族全員驚き、ビクッとしている。
息子の口調そのものだったからだ。
「だって、昨日おにぃがすごい思い詰めてた顔してたし。もう、限界なんだろうなって思ったんだ。でも、昨日はあれだけ警察官でいっぱいだったし、言い辛かったんだろうって」
花凛は、美沙の言葉に耳を傾けていた。
「もう、正体明かしたかったんだろうなって思ったら、家族と本人しか知らないことでそれに関係する場所って、残るはこのおにいのお墓しかなかったよ」
「そうだね。よかった、そう考えてくれて」
花凛は、嬉しそうににこやかに笑った。
「亮……!!」
美沙の話が終わった瞬間、母親が抱きつき泣き喚いてきた。
「ちょっ、母さん。苦しいよ」
背が小さくなった分、完全に顔までスッポリと覆われるように抱きしめられてしまい、花凛は苦しそうにしていた。
「もう、お母さんったら……私、せっかく我慢してたのに。」
そう言いながら、美沙も近づき抱きつきポロポロと涙を流していた。
「おにぃ、こんなことになるとは思わなかったよ。気づけなくてごめんね」
2人に抱きしめられて気恥ずかしくなり、花凛はうつむいてしまった。
もちろん、後ろで父親も泣いていた。
花凛もうっすらと涙が滲んできた。
色々溜め込んでいたものが一気に崩壊するように、家族全員泣いていた。
周りの、墓参りに来た人達は何事かとこちらを見ている。
さすがにそれに気づい花凛がその事を口にした。
「ちょっと、周りの人が変な目で見てるから」
そう言って、花凛が離れようとする。
「あっ、ごめんなさい。あまりの事につい」
母親が涙まみれの顔をしていて、よっぽど自分の死に対してショックを受けていた事がわかった。
あれだけ、息子の事を疎ましく思っていたのではと思っていた花凛だったが、もちろん実際はそうではないことが分かり、胸が痛んでいた。
『もうちょっと、抱きついてなさいよ~』
その様子をずっと見ていたリエンがからかってきた。
「うるさいな……」
家族に聞かれないようにボソッとつぶやく。
「あ~失礼。そろそろよろしいでしょうか?」
父親の少し後ろにいたオールバックでスーツ姿の刑事が、ようやく言葉を発した。改めて近くで見るとがたいもよかった。
この状況では、なかなか言葉がかけづらかったのかずっと見ていただけだった。しかし、目的を達するためにようやくと言った表情をしながら花凛に話かけてきた。
「あなたが、死んだ人間でこの世に復活したというのは信じ難いのですが、今はそれよりも化け物の事についてを聞きたいのです」
この時が来たのか。そんな感じで花凛は覚悟を刑事に顔を向けた。
「あぁ、自己紹介がまだでしたね。私、刑事をやってます神田賢治と言います」
「え? 検事さん?」
花凛が首を傾げて聞き返す。
「違います。私は刑事です。名前が賢治です」
「賢治さん?」
「違います、刑事です」
「えっ? 刑事さん?」
「違います、検……」
場に何とも言えない空気が流れた。
「ふぅ、とにかく……よろしくお願いします」
そう言って気持ちを落ち着かせると、神田刑事は花凛に握手を求めてきた。
「あ、よろしく」
しかし、刑事のその手は少し力が入っていた。花凛はしかめ面をして訴えた。
「痛い痛い。やっぱり、俺の事捕まえる気か」
「とんでもないです、捕まえはしないですよ」
花凛は、信じられない顔をして神田刑事を見上げた。
「鑑識の結果、あの化け物はDNA自体が別物。人とは違うと判断をしました。つまり、あなたは殺人をしたのではなく、化け物退治をしただけです。どこに捕まえる理由がありますか?」
手を離し、刑事がにこやかに笑って言ってきた。
『逃げるだけ無駄だったわね』
リエンが呆れたように腕を組みながら言ってきた。
しかし、花凛にはまだ1つ引っかかることがあった。
「えっと、これは?」
そう言いながら、右手を広げ炎を出すと徐々に形を作り、一瞬にして偃月刀を出現させた。
一度見ている美沙と、神田刑事以外の家族はびっくりしていた。
「武器を携帯もしくは所持しているのが違法ですが、それは果たして携帯や所持になるのか怪しくて、私では捕まえられないですね」
神田刑事はわざとらしく手を横にし、肩を上に少しあげた。
「その方が、良かったのでは?」
花凛の考えを読んでいたのか、その刑事の問いかけにゆっくり頷いた。
「さて、場所を変え少し話を聞かせてもらいたいのですが。ご家族も一緒に来てもらえますか?」
家族皆が、息子に何が起こったのか知りたかった為、全員頷き刑事の後に続いた。
そして、寺の駐車場には家族の車と、覆面パトカーが止まっていた。
「普通のパトカーでは目立つのでね、こちらで来ました。亮さんでいいのでしょうか?」
刑事が、悩んだような顔をしながら言ってきた。それもそうだろう、谷本亮は事実死んでいるのだから。この刑事はよく分かってるなと花凛は関心した。
「花凛。今は花凛って名前にしてる」
「なるほど。でわ、花凛さんは私と一緒にこちらの車に」
そう促され、覆面パトカーの方に乗り込む。
家族は、乗ってきた車に乗り込む。
乗り込む際に、美沙が耳打ちしてきた。
「花凛か、良い名前だね。自分で決めたの?」
「えっと、いやそれも後で話すよ」
美沙は首を傾げたが、今ここで説明するには長くなりすぎると思ったので、一旦移動する事にした。




