第十八話 逃走の果てに
翌日の昼頃、花凛は見慣れた街並みの中を歩いていた。
そこは、花凛の実家のある街だった。花凛は再びこの街に戻ってきていた。
そして、花凛の家からバスで10分程。通りに面した閑静な住宅街の中をゆっくり歩いている。
何か思い詰めた表情をして。
『いったい、どこ行くの? それに、昨日あれから全く口を利かないけど?』
花凛の無愛想な態度に、リエンはご立腹だった。
「あっ、ごめん。ちょっと、ね。悩んでて」
『それは、分かってるけど。警察官に見つかって、簡単に捕まりそうで怖いわね』
「ん~」
曖昧な返事を返す花凛に、リエンはもしやという顔をした。
『正体明かすの?』
「そんなとこ、かな」
そう言いながら、花凛は目的地の前にたどり着いていた。
そこは、住宅街の中にある立派な寺であった。
入り口から入り、砂利を踏みしめ先に進む。
横には駐車場が有り、車がある程度止まっていた。
お盆に入り、墓参りに来る人がいるのだろう。
お堂の横を通りすぎ、更に進むとブロック塀に囲まれた墓地が見えてきた。
花凛は、墓地に入り迷うことなく目的の場所に向かっていく。
そして、ある墓の前で立ち止まった。
目の前には、ビルがそびえ立ち少し狭苦しく感じる。
「やっぱり、もう出来てたか」
その出来たばかりの真新しい墓には【谷本家之墓】と書かれていた。その横は更に大きな墓があり、そこにも【谷本家之墓】と書かれていた。
つまり、ここはよく墓参りに来ていたので、自分の墓が出来るとしたらここしかないと思い、やってきたのだ。
花凛は、新しく出来た墓を確認した。すると、横には【谷本 亮20××年没】との文字が書かれた墓と同じ石できた板があった。
間違いなく、この体になる前の。死んでしまった自分の墓であった。
花凛は、持ってきていた線香に火を付け墓の前にさした。
他にも色々な花が指してある。四十九日はまだ済んでいないようで、卒塔婆も綺麗なものであった。
しかし、花凛は複雑な気持ちになっていた。
「自分のお墓参りをするって、何か気持ち悪いね。こんなの、他の人では絶対経験出来ないよね」
『そうね』
苦笑いする花凛に、リエンは何と言えば良いのか分からずに、無難な返事をした。
回りには他にも墓参りの客が来ており、チラチラこちらを見ていた。しかし、花凛は通報されようがもうどうでもいいようだった。
しばらくそうやって自分の墓を眺めていたら、こちらにやって来る足音が聞こえてきた。
砂利道なのではっきりと聞こえてくるその足音は、3人~4人くらいの足音だった。
花凛の心臓は、その瞬間から異常に高鳴っていた。
まるで、裁判で判決を聞く被告人のような。もしくは好きな人に告白する時のような。どちらにせよ、花凛の心臓はそれぐらい心拍数が上がっていた。
心臓が痛くなってきて、花凛は胸を抑えた。
『ほんとに良いの?』
その様子に、リエンが心配そうに聞いてきた。
「うん、もうこれ以上逃げるのは厳しそうだからね」
花凛はそう言ったが、その顔色は悪かった。恐かったのだ、信じてくれなかったらどうしようか。
そのまま刑務所に放り込まれたらしどうしようか。
こんな事例は初めての為、警察がどう動くか予想できなかった。
こうなってしまったのも自分の怠慢のせいでもあるが、それでも警察の動きが早すぎたのだ。
妹が居たとはいえ、警察がこんな突拍子も無い推理をするだろうか。死んだ人間ではないかと考え動くだろうか。
花凛は、首を横に振りそんな考えは今しても仕方ないと、いったん考えるのをやめた。
それよりも、受け入れてもらえるのか、それとも殺人者として刑務所に放り込まれるか。
花凛の頭にあるのはこの二択だけだった。
そして、ついにその足音が花凛の背後に迫った。
「やっぱり、ここに居た」
その声は、聞き間違えようが無い妹美沙の声だった。
花凛は、ゆっくりとそちらに顔を向けた。
美沙の横には驚いた顔をした両親と、花凛を追い続けたあの刑事がいた。
美沙はゆっくりと花凜に近づいてきた。その手には花があり、墓にそなえられているしおれかけの花と交換するつもりだろう。
美沙は、花凛の横に立った。そして、墓の前に花を置くとしおれかけた花を取り出し、両親から受け取ったゴミ袋に手際よく放り込み、新しい花を添えた。
その間、美沙の顔は至って真面目で表情が読めなかった。
その後、バケツにくんだ水で墓の掃除を始めた。
一応突っ立てるわけにもいかず、花凛も手伝った。
「ありがとう」
そう言って、にこやかに笑顔を返す美沙。
やはり、美沙はもう確信しているのだろう。花凛の正体を。
掃除も終わり、各々が線香に火を付け墓の前につけた。そして、手を合わせる。花凛も、もちろん手を合わせた。
しかし、何か不思議な気持ちになっている様子であった。
周りには他の墓参りの人達もいたが、ここだけは更に静まりかえっているようで、空気が違っていた。
皆手を戻し、視線をお墓に向けていた。
そんな中、美沙が重い口を開きついに花凛にその言葉を発した。
「やっぱり、この場所知ってるのなんて身内ぐらいでしょ。探偵が探った様子もなかったし、もう間違いないよね?」
花凛はゆっくり顔を上げ、横にいる美沙を見つめた。
美沙の横にいた母親も、信じられない顔をしながら見つめ口を開く。
「亮……なの?」
その言葉に、花凛はゆっくりと頷いた。




