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煉獄の焔  作者: yukke
第二章 放浪
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第十五話 迫る包囲網 ③

 花凛は浴場からでると、何やら空気がおかしい事を感じていた。

張り詰めているというか、周りの人達もそわそわとしていた。

花凛はマリンキャップを深くかぶり直し、出来るだけ早足で出入り口の受付へと向かう。


 するとそこには、2人の警察官がいた。

どちらも地元の警察官らしかった。やはり、通報されていたようだ。しかし、まだ花凛の存在に気づいては居ない様子であった。


「バレずに行けるかな……」


 花凛は、自分の心臓の音が大きくなっているのに気づいた。

胸に手を置き、深呼吸をする。その時、自分の胸も触ってしまい柔らかい感触が返ってきて、顔を赤くしてしまっていたが何とか落ち着き、意を決して受付へと向かう。


 受付に着き、控えのタグを渡す。

受付の人と、警察官もこちらを見ていた。


「お願いだ、バレるなよ……」

花凛は、心の中でそう思っていた。

そして受付の人は、スッと靴箱の鍵を渡してきた。

それを受け取り、出来るだけ怪しまれずに靴箱に向かい、靴を取り出す。

しかし、次の瞬間。


「ちょっと、君。良いかな?」


 花凛は心臓が縮み上がり、明らかにビクッと体が反応してしまった。


『バカ……』


リエンが腕を横に広げて、やれやれといった様に呆れていた。


 警察官2人が、こちらに歩み寄り声をかけてきて来ていた。

まじまじと花凛の体や、顔を眺めてくる。


「ちょっと、帽子を取ってもらえるかな?」


もはや、万事休す。そう感じた花凛は、靴を片手に持ち出入り口に向かい全力疾走した。


「あ!! こら! 待ちなさい!!」


出入り口から飛び出すと、花凛は足に力を入れ小高い丘から点々と見える住宅の屋根めがけ、高らかにジャンプした。

そして、見事に屋根に着地し忍者のように地面に降りるとそのまま全力で走り去った。

後ろから警察官の声が聞こえるが、追っては来られないだろう。



 その頃、花凛の居る田舎に向かう車があった。その中にはスーツ姿にオールバックの花凛を追う刑事の姿があった。


「そうか、わかった。また見つけしだい刺激せずに対応しろ、いいな?」


 そう言いながら、スマホを操作し電話を切った。


「こうも早く目撃情報が来るなんて、子供だから油断してるのですかね?」


 運転する若い警察官が尋ねた。今は私服を着ているようで、フォーマルな無難な服装をしていた。


「さぁな、子供にしちゃこんな田舎と海の近くを選ぶかね~どっちにしろ、昨日3人の子供達から聞いた特徴と一致してる。まず、居るのは間違いないな」


 そう言いながら刑事は窓の方を向き、外を眺める。





 その日の夜、母親の実家の様子を伺い留守を確認して、2階の窓から中に入れないか確認する。


「くっ……やっぱ全部鍵しまってるっぽいけど、たしか……」


 そう言いながら、花凛は何か思い当たる節があるようで手当たり次第に窓に手をかける。


『窓を壊して入っても後でバレるし、何とかならないの?』


 花凛の様子に、早くしないと人が来るのではとそわそわしてるリエンが話かけてきた。


「ちょっと、まって。あっ! 開いた! やっぱりね、ここだけ鍵が壊れてるのよ~物を置いて塞いでるけど、何とかここから……」


 花凛はそう言いながら、音を立てないように積まれてる荷物を退かし中に入る。


「けほけほっ、やっぱ埃っぽい。おばあちゃん2階には上がらなくなったし、掃除全然されてないね」


 この家は、昔ながらの平屋で母親の子供の頃には、1階に機織りの大きな台もあったそうだ。

そのため、土間の玄関から入ると左手が高い天井の居間になり、右手が階段で2階に続いており、居間の奥には仏間がある部屋に続いて、その右手に寝室があった。

居間の右手に、台所やトイレ風呂等が密集しており、部屋だけ無駄に広かった。

2階も、寝室が2つあるだけ。花凛は、その内の1つの部屋に今日は寝させてもらおうと、荷物を置いた。


「あ、使ってない布団がある。これ使わせて貰おう」


『布団で寝るなんて、その体になってから初めてじゃない?』


「うん、そうだね」


 実は花凛は、ずっとネカフェで寝泊まりていたので、柔らかいで布団で寝るのは久々だった。

帽子もとり、床に座り込んで昨日の事を振り返っていた。


「そういえば、昨日さあいつ倒すとき、凄いことになってなかった? あれは何?」


 花凛は、ずっと頭に引っかかっていた事を聞いた。

すると、リエンが難しそうな顔をした後説明するときが来たのかと言う具合に、真剣な顔つきに変わった。


『そうね、丁度良いから説明しましょうか。結論から言うと、龍の力を発揮さてる状態だね。鬼化ならぬ、龍化って感じかな?』


 花凛は目を丸くしながら、リエンの言葉に耳を傾けていた。


『実はね。あなたの体は龍の体と人の体と半々になってるのよ』


「え? ちょっと待ってそれって、リエンのお父さんがそういう風な体で復活させたってこと?」


 花凛はあまりの事に、額に手を当て難しい顔をする。

あまり難しい話は得意ではないが、何とか頭をフル回転させ理解しようとしていた。

『そうだよ、出ないとあなたの魂で龍の体にしても、暴走する危険性があったから。それでも、龍と人は普通馴染まないわね、だから魂の融合それ自体が出来ないわ。でも、あなたは普通じゃないの』


「え? 私、普通じゃないの?」


『ま、それはまた今度ね』


 花凛のその問いにリエンは目を逸らして誤魔化した。


『とにかく、そんなあなたでも龍である私の魂と、すんなり馴染む訳にはいかなかったみたいで、こうやって魂の欠片みたいな感じで私が出てきてるのよ』


 リエンは腕を組み話を続ける。


『で、龍の力は龍の体じゃないと使えないからね。私が、その辺りの力の調整をしているのよ。まぁ、私がストッパー見たいな感じだから、それがないと……あなたの体は力に耐え切れず、龍になっちゃいます』


 その言葉に花凛は背筋が凍った。

力の調整を失敗したら、もしかしたらというのが頭をよぎったからだ。

そして、それと同時にもう一つ頭に疑問が浮かび上がった。


「さっき、魂が馴染んでないって言ったけど、馴染んだらあなたはどうなるの?」


『まぁ、魂の中で2つの意思が馴染まず共存してる状態だから……馴染んだら、私は消えるかな? あなたの魂を主体にしてるからね』


 凄く重要で、大変な事をリエンは割とあっけらかんと言った。


「ちょっ、そんな……」


 あまりの事に花凛は言葉を失った。

それを見ていたリエンは何故か、嬉しそうににこにこしていた。


『なに~? そんなに私の事心配?』


「そりゃ、だって……」


 なかなか言葉が出ずにしどろもどろになる。

花凛は何故か、不思議な感覚になっていた。女になる前の自分は、正直人との付き合いとかどうでもよかった。

しかし、この子は違っていた。

共存してるからなのか、いつの間にか常に一緒に居るのが普通になってきていてこれからもずっと一緒なのかと、当たり前のように思っていた。

でも、それは違っていた。

そう、花凛はショックを受けていたのだ。


『大丈夫よ、人と違って死の概念が違うのよ。人は肉体を失えば、死ぬってなるけど。私達龍は、制限はあれど肉体を復活できるしね。だから、龍にとっての死は存在を失った時よ。だから、私は死なないわよ、私はあなたになる。あなたは私になる。私は存在が消えない限り死ぬことはないの』


 リエンは、淡々とした口調で龍についての事を色々と花凛に教えた。


「う~ん、そんなに概念が違うってなると難しい~」


 花凛は頭を抱えながら悶えていた。


『まぁ、一生馴染まないって事もあるからさ~あんまりこの事に関しては難しく考えないで良いわよ~』


「そっか、わかった。というか、疲れもあるのかな? なんか眠くなってきた」


 気づいたら時刻は23時になっていた。花凛は、布団に潜りウトウトし始めた。


「ちょっと早いけど、お休み~リエン」


『そうね、お休み花凛』


 花凛はすぐに寝息を立てた。それを確認すると、リエンは呟いた。


『でも、馴染んで貰わないと、困るのよね~』

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