第十二話 ~ 小さなヒーロー ~ ⑥
雑居ビルの立ち並ぶ通りには、今野次馬の人々がざわめいていた。
何故なら、ここに人を食う化け物が現れたかと思えばそれと少女が戦い、更には小学生の男の子2人が立ち向かおうとしていたからだ。
「警察はまだこないのか?!」
「何か、この野次馬のせいで車が立ち往生して渋滞起こしてるらしいぞ」
「何を考えてんだあの子らは」
「おい、助けてあげろよ!」
「いやいや、だったらお前行けよ!」
周りの人々は口々に言い合っていた。
しかし、そんな中で1人の50代くらいの男性が勇敢にも鬼の方に走って行く。
「お、おい! あんた危ないぞ!」
サラリーマンが、その男性を止めようとした。
「何を言ってんだ! あんな子供達が戦ってて、大人が臆病風にふかれてじっとしてるなど、情けないと思わないのか!」
50代の男性は、周りの人々に訴える様に叫んだ。
その言葉に、ざわついていたのがピタッと止んだ。
その頃花凛は何としても立ち上がろうとしていた。
このままでは2人の子供が危ない。
「動けよ、今度は助けるんだ。もうこれ以上人が死ぬとこなんて見たくないんだ」
四肢に力を入れ、立ち上がろうとする花凛を尻目に鬼は隆と健斗の方にゆっくりと歩いていく。
「やっ、やめろ!」
鬼の背に向け必死に言葉を浴びせるが、鬼は止まらなかった。
「あなたは、もう立ち上がれない。いつでもトドメをさせるのなら、更に絶望も与えましょうか。あの子らを目の前で食べてねぇ」
「くっ! させ、るかぁ!」
更に力を入れ、何としても阻止しようと必死になる花凛。
『ふふ、大丈夫もうちょっとよ。その前に、あの子らの元にたどり着かれたら終わりだけど。杞憂だったわね』
リエンは、後ろを見ながら花凛に言う。
いったい何を見てるのかと、花凛も後ろを見た。
すると、そこには怒号と共に野次馬だった人々が、各々パイプや傘や角材やらの武器を持って鬼に突撃していた。
「な、何だこれ!!」
花凛は目を丸くした。なんせ、あれだけ怯えて逃げ惑っていた人々が、何の心境の変化か、兵士の様な目をして突進されては驚きを隠せないだろう。
『どうやら、あの子等に触発されたようね。人々の心を動かすなんて、もう立派なヒーローね』
「……」
花凛は、うつむき黙ってしまった。
それを見たリエンは首を傾げていた。
『何か、納得できないようね。でも、今は例え人々が果敢に挑んでも、あの鬼を倒せるのはあなただけよ! 早く立ちなさい!』
その花凛の横に、人々が集まり立ち上がらせようとしてきた。
「君! 大丈夫か! 早く逃げるんだ!」
若い大学生くらいの人が、花凛の腕を持ち立ち上がらせようとする。
「私は良いから! 皆逃げて! 殺されるから!」
花凛は、立ち向かう人々に叫んだ。
しかし、既に遅く人々は既に鬼に攻撃を与えていた。
「おらぁ!! この化け物が!」
「何、子供を狙ってんだ! それ以上進むな!」
さすがに、まったく効かないとは言うものの鬱陶しくなった鬼は、腕を大きく振り自分に集るハエをちらすように、人々を吹き飛ばした。
「だから、言っただろ! 逃げろ!」
その様子に、花凛は必死に叫ぶ。まだ、体を起こせないのか膝をついたまま偃月刀を杖の様にして、体を支えている。
「大丈夫、警察が来たら何とかなる」
隣にいた別のサラリーマンの男性が、花凛に声をかける。
しかし、花凛は分かっていた。警察が来ても何も変わらないことを。むしろ犠牲者が増える一方であることを。
『じゃぁ、あなたがやらないとね』
まるで心を読んだかのようにリエンが口にした。
その言葉に、花凛は真剣な目をし前にいるリエンを見つめた。
「お願いだ、もっと力をくれ!」
『わかったわ』
花凛のその願いに、リエンは待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべた。
鬼に立ち向かっていた人々は、吹き飛ばされた場所で痛みにうめいていた。
普通の人間が、軽くとはいえ鬼の攻撃を受けたらこうなる。幸いこれで死者は出ていないようだが、かなり重傷者が出てしまっていた。
それをぐるりと眺める鬼に、今度は子供の叫び声が聞こえてくる。
「くらえぇ~~!!」
「うりゃあぁぁ!」
隆と健斗が同時に突撃していた。どこから持ってきたのであろう、野球のバットを振り回しながら。しかし、鬼はそれを軽くはじいている。
「うわっ!!」
「あぁ、隆!!」
「隆!!」
鬼はそのまま、隆の首元を左手で掴み持ち上げていた。
健斗と綺羅々が同時に叫ぶ。
「くっ! あの子を助けるんだ!」
周りの動ける人達が、再び鬼に向かっていく。
「女の子の方が私的には好みですが、子供ならさっきの不味い男性よりマシでしょう」
そう言いながら、鬼は口を開けた。
「くそっ! お前なんかに食われてたまるか!」
そう言いながら持ってるバットで何度も叩くが、全くビクともしていなかった。
「その子を離せぇ!!」
数人が鬼に飛びつくが、鬼は軽々振り払う。
徐々に、鬼が隆を口に持っていき食おうとする。
丁度その時。花凛が、叫び声を上げる。
「皆! ちょっと退いて!!」
驚いた数人が飛び退くと、急に空を切る音がし、鋭い風が鬼に目がけ飛んでいくのを感じた。
そして。
「あっ……?」
隆を掴んでいた、鬼の左手がスッパリ切られていたのだ。
驚いた鬼が、花凛の声のした方を向く。
するとそこには、風貌がガラリと変わった花凛の姿があった。
花凛の横に居た2人の男性は、何が起こったのか理解出来ずに呆然としていた。
何故なら目の前の少女が立ち上がると、自ら発したであろう炎が体に纏わり付き、そのまま徐々に姿を変えていったからだ。
その風貌は、ツイテールは解けロングヘアーをたなびかせ、目は眼球が細く縦に変化し獣のようになり、背中は体に纏わり付いていた炎が集まり形を成し、龍の翼のような形に変化したからだ。服装は変わっていなくても、目に見える変化に周りの人は騒然となった。
その後、即座に偃月刀を構え左手を刃近くの柄に添え、下から上に思い切り切り上げた。すると、刃から真空の刃が飛び出し鬼に向かっていき、左手を切り落としたのだ。
「体の奥から力が湧いてくる! これなら!!」
『うん、第一段階はクリアね。さぁ、思い切りいきなさい! そして、この一撃で仕留めるのよ!!』
「もちろん!!」
警察のサイレンが近くで鳴り響いている。あまり、時間は残されていなかった。
警察がきたら、捕まってしまう可能性があったからだ。
花凛は、手にした偃月刀をくるくると右手で回し始めた。
すると、徐々に刃先から順に熱を帯びたように赤く発光していく。
「なんなんですかぁ、これはぁ。また、私の邪魔をするのですか!!」
鬼は完全にキレたようで、物凄い表情で花凛に突進してきた。
「もう、いい加減あなたは邪魔です!!」
鬼の怒号に、花凛は冷静に返した。
「それは、こっちの台詞! あんたはもう浄化出来ないレベルならその魂ごと、燃え尽きな!!」
右手に持った偃月刀の回転を止めると、そのまま投てきをするかのような持ち方に握り直した。
偃月刀は、激しく熱を発してるような輝き方を見せていた。そしてそのまま、花凛は勢いを付け激しい言葉と同時に鬼に投げつけた。
「煉獄の焔!!!」
すると、鬼に向かっていた偃月刀が炎に包まれ、徐々に塊に変化し鬼に向かっていく。
「な、なんですかぁ……これはあああぁぁぁぁ!!」
炎の塊は、鬼に激突すると鬼の体をその業火で包み込み、激しく燃やしていった。
鬼は、驚愕と絶命の悲鳴を同時に上げ業火の中に消えていき、その身を燃やし尽くされた。
「はぁ、はぁ。やったの?」
『お見事。何とかなったわね』
リエンのその言葉に、花凛は地面にへたり込む。
しかし、そのすぐ後に赤いランプが後ろから光ってるのが見えた。
「やっば、パトカー着いた?」
花凛は後ろを振り返ると、そこにはぞろぞろとパトカーから降りてくる警察官の姿が見えた。
戦闘描写めちゃくちゃですね……へこむ……




