第十一話 ~ 小さなヒーロー ~ ⑤
うす暗い雑居ビルの立ち並ぶ通りに、様々な人々の悲鳴が響き渡る。
それもそのはず、今目の前で起きたことはどんな人でも経験したことのない惨事であったからだ。
いや、開拓時代の北海道の一部の人なら、ヒグマに食われるというのを見たことあるだろうが、この現代で人が目の前で食われるということなど、一生経験する事のないことだろう。
よって、人々はその恐怖から逃れるために逃げ惑っていた。
「いやぁぁぁぁ!! タクうぅぅぅぅ!」
鬼の目の前では、恋人を食われたギャルが泣き叫んでいた。
花凛は呆然とし、そして後悔していた。外に出すべきではなかった。痛恨のミスをしてしまった。そう思いながらも、鬼が泣き叫ぶギャルにまでその鋭い爪を突き立てようと振り上げているのが見え、再び走り出した。
「あっ……」
鬼が次は自分を食べるのだと気付いたギャルは、逃げられないことも悟り絶望の顔をした。
その瞬間、鉄と鉄が激しくぶつかる音がしたと思ったら、目の前には刃らしきものが横から現れ、鬼の爪を防いでいた。
「早く逃げて!!」
「あ、あぁ……」
何とか、間に合った花凛が鬼の攻撃を防ぎギャルに声をかけるも、ギャルは腰が抜けていた。
「あ~~~もうっ!!」
そう言いながら花凛は、その刃で爪を防いでる偃月刀を、思いっきり横に振り払い鬼を払いのけた。
そして、武器を構え直し鬼の居る方に飛び込む。
これ以上、被害は出さない。その為にもすぐに片づける。
自分のせいで犠牲者が出てしまい、罪悪感に駆られるも先ずは目先の驚異を取り払わなければ。そんな思いが花凛の脳裏をよぎる。
「後悔するのはあと、先に、こいつをっ!!」
そう言いながら、目の前の鬼に偃月刀を槍のように素早く突き刺そうとするが、刺さる前に止まってしまった。
「なっ!!」
「やれやれ。あなたは、何度私の邪魔をするのですか……」
鬼は軽く花凛の攻撃を爪で受け止めていた。
花凛は押し込もうとするも全く動かなかった。
「面倒ですねぇ。どうやら、あなたから先に食べないといけないようですねぇ」
ここにきて、始めて鬼が花凛に殺気を向けた。
その殺気に花凛は身震いしたが、目を吊り上げ鬼を睨みつけた
負けるわけにはいかない、花凛は押し込むのを止め今度は刃を上に捻り、そのまま切り上げ鬼の手を払い除けた。
そのままガラ空きになった鬼の腹に、刃を横にし切りつけた。
しかし、鬼に刃が届く前に花凛の体に衝撃が走る。
鬼が、花凛の腹に裏拳を考えられないスピードでたたき込んでいた。
「あっが……」
そして、そのままビルの壁に叩きつけられ、壁に大きなヒビをつけられた。
「ぐぅっ!」
痛みに耐え、うめき声を上げずり落ちていく花凛に向かい 、鬼が再度突撃してくる。
そのスピードは尋常ではなく、花凛は慌てて体勢を立て直しすかさずその場から離れる。
鬼は勢いよく、ビルに殴りかかる。その威力はビルを、崩壊させるほどであった。
それを、冷静な様子で鬼を見て分析していたリエンが言ってきた。
『どうやら、人を食べる事でパワーアップする能力のようね』
「なっ、なんだって?!」
それを聞いた花凛が声を荒げた。
『あなたがこの前相手したのは、あの時始めて鬼化した。しかも、理性を保ち真鬼となったばっかりで、能力も分かってなかっただけ。そして、これがほんとの真鬼よ』
「くっ、これが……真鬼の実力」
鬼がこちらをむき直し、再び突進してくる。
鬼が爪を真っ直ぐ突き刺してくる。さすがに、戦いに集中した花凛はなんとかそれを屈んで交わし、その状態から鬼の懐に飛び込む。
腹に刃を突き刺そうとするも、鬼が反対側の爪で切りつけてきた。
「……っ!!」
花凛は咄嗟に、刃でその攻撃を防ぐ。
ここで怯む訳にはいかない花凛は、刃の近くの柄で支えてる左手に力を入れ、渾身の力で切りつける。
しかし、その体には傷も付かず更に鬼は、怯むことなく最初に伸ばしていた腕を曲げ、花凛の首の後ろに思い切りひじ鉄をくらわした。
「あっ……」
花凛はあまりの衝撃に、視界が歪みその場に倒れた。
鬼は、そのまま花凛の腹に蹴りを入れ前方に吹き飛ばした。
「くっ!!」
咄嗟に身を翻し、足を地面に付け踏みとどまる花凛。
『なかなかのパワーと、タフネスさね。もう少し力を解放しないと無理かな? でも、まだ力を使いこなせてないし……う~ん』
「そうはいっても、あんまり炎出したり派手な技は目立つし。それに、野次馬も完全に逃げてないしね」
リエンの言葉に花凛はそう言って、辺りを見回した。
周りの人々は安全そうな距離から、こちらを眺めていた。
やはりこんなシーンは、2度とみることがないだろうという思いからかまるで映画や舞台を見るかのように、人々はその戦いを観戦していた。
「これだから、人間は。危ないのは分かってるだろうに、物好きな人はそれでも見たいのね……」
『文句は後! とりあえず鬼から目を離さないで!』
そう叫ぶリエンの言葉に反応し、急いで前をむき直す。
しかし、鬼は既に突進してきていた。
「あなたは、すぐには食べませんよぉ。じっくりいたぶらないと、気が済まないですからねぇ!」
「それは、どうもっ!」
ダメージを受け痛む体に耐えながら、突撃する鬼に対し偃月刀を下から切り上げる。
鬼は横に軽々よける。しかし、花凛は急いで刃を鬼に向けなおし、返す勢いで斜めに切りつけた。
自分でも、驚く程の手さばきとスピードで鬼の体を再び切り裂く。
しかし、やはり鬼はそれくらいでは応えず、先程と同じく切り口が生まれなかった。おかげで発火させられるずに、さっきも吹き飛ばされた。
今回も案の定、鬼は花凛の後頭部を掴み地面に顔面を叩きつけた。たったそれだけで、地面が割れた。
「……っ!!」
さすがに、龍の力を手にしパワーアップし体も丈夫になったとは言え、これほどのパワーで何回も攻撃を食らうのはきついらしく、花凛はそのままうつ伏せに倒れた。
『ちょっと!! 起きなさい!』
リエンが叫ぶも、花凛は痛みで頭がくらくらし四肢に力も入らなかった。
「もうおしまいですかぁ?」
鬼は花凛を見下し、口角を上げようやくこの邪魔者を片づけられる事に悦を感じていた。
ここまでかと思ったその時、どこからか子供の叫び声が聞こえてきた。
「お姉さんを離せ!! 化け物め、ヒーローの俺が退治してやる!」
その声に花凛は顔を上げた。するとそこには、何かの戦隊物の決めポーズをしながら、隆と健斗が鬼の背後から叫んでいた。
しかし、よく見ると足はがくがくと震えていた。
「何、やってんの君たち! 逃げてって言ったでしょう!」
花凛が叫ぶも、隆と健斗の目は戦う覚悟をした目をしていた。
「女性なのに、そんなにボロボロになって戦ってるお姉さんを、ほったからかして逃げらんないよ!」
隆は、花凛を見ながら叫ぶ。その姿は小学生ではない、立派な男がそこに居た。
『あらら、あの子等の方があなたよりもよっぽど逞しいわね~戦う覚悟をした目をしてるわね~あなたも、元男だったのに何その体たらくは?』
リエンの言葉に少し頭にきた花凛が反論する。
「うっ、るさいなぁ! 女になりきれと言ったり、男のくせにとかいったり。俺は、どっちにしたらいいんだよ!!」
完全に元の男口調に戻った花凛に、リエンは続けた。
『戦いの時まで、女を意識する必要はないっていってんの。馬鹿じゃないの?』
「そんな、器用な事できるかぁ!!」
怒りに体を震わしていた花凛は、徐々に力が入っていくのがわかった。
『ふふ……良い感じね』
リエンは、不敵な笑みを浮かべその様子を眺めていた。




