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煉獄の焔  作者: yukke
第二章 放浪
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第九話 ~ 小さなヒーロー ~ ③

 塾の中は異様な空気に包まれていた。

 それはまるで、猛獣の檻の中に居るような。そんな恐ろしい空気が漂っている。


「た、隆、絶対におかしいよ。自習室の明かりだけ点いているなんて……」


「う、うん……そうだな。何で、先生達の居る部屋以外の明かりが点いているんだろう?」


 子供達が指摘した通り、薄暗い廊下の中、自習室だけがうっすらと明かりが漏れている。


 足が震えながらも花凛の後に続く2人。

 それでも、やはりあの女の子のことは心配なのだろう、決意したその表情には男らしさが芽生えていた。


「ここね、いい? 何が起こっても、君達はただ女の子を助ける事だけを考えてね」


 自習室の前にたどり着き、花凛の言葉に頷く2人。

 そして、花凛は扉に手をかけ開けようとしたが、鍵がかかってるらしく開かなかった。

 ますます怪しくなり、これは確実に何かが起こってるのは間違いない。


「ど、どうしよう……綺羅々の奴もう殺されてたら」


「バカっ! そんなこと言うな」


 2人とも、考え無いようにしていた最悪の状況を考えてしまっている。最早、一刻の猶予もなかった。


 その様子を見て、花凛はドアから少し離れて深呼吸をする。


「ちょっと、そこ退いてて」


 花凛は隆達にそう言うと、ドアを睨みつけた。

 そして隆達は、花凛が何をするのかだいたい予想出来たらしく、慌ててドアから離れた。その次の瞬間。


「はあっ!!」


 雄叫びと共に花凛はドアを蹴り破った。大きな音と共に、ドアが吹き飛び、自習室の部屋は開け放たれる。

 花凛はそれだけのパワー手に入れており、これくらいの事は造作も無く、戦いの中でそれを感じていた。


 そして扉を開けた先には、信じられない光景があった。


 自習室の端に机はずらされ、中央にはパイプ椅子らしきものがあった。そしてそこに、裸にさせられた女の子が縛りつけられていた。


 手は後ろに縛られ、足も縛られているらしく、体を隠せずに女の子は泣いていたが、さるぐつわもされていたので声が出せていない。


「ん~! ん~!」


 それでも、女の子は助かるという思いからか、必死に花凛達に助けを求めている。


「綺羅々!!」


 その姿を見た隆と健斗は一斉に叫び、綺羅々に向かっていこうとするが、急に立ち止まる。

 理由は、教壇のホワイトボードの所から、獣のような視線が放たれていたからだ。


「いけませんね~君達。塾はもう閉めているんですよ……探検するにしても、他所でやって欲しいですねぇ」


 そこには、センター分けで眼鏡をかけピシッとしたスーツ姿の、塾の先生がいた。

 それは3人対し、この女の子にだけ妙な視線を送っていたと、そうリエンが注意していた先生でもあった。


「先生! 綺羅々に何してやがる!」


 そしてこの光景を見た隆が怒り、先生を睨みながら怒鳴りつける。


「何って、少し勉強で分からないとこがある。そう言っていたので教えていたのですよ。保健の授業をねぇ……」


 この状況でも、その先生は悪びれる様子もなく淡々と続ける。あくまでもこの子が自ら、こういう事を望んできたのだと言わんばかりに。


 だが、その先生の態度にさすがの健斗も声を荒げる。


「う、嘘つけ! 綺羅々は、俺達と別れる前に先生に呼ばれたって言ってたぞ!」


「そりゃぁ、友達には隠したいでしょ。こんな、はしたないことねぇ」


 そう言いながら、先生は綺羅々に近づきあごに手を置き、綺羅々を睨んでいる。

 その目に優しさ等どこにもなく、歪な欲望に染まり、獲物を物色する様な目をしている。


 そして、その目に綺羅々は恐怖を感じ、更にガタガタと震えだす。


「先生!! 綺羅々に触るな!」


「その前に。あなた達は勝手にここに侵入したあげく、部外者まで引き連れ、ドアを壊すなんて。後で、親御さんに賠償請求しなくてはねぇ」


 綺羅々のあごに触れてる手が、徐々に下に下がっていく。目は隆達を睨みつけながら。大人とはいえその異常な目つきに、隆と健斗も恐怖している。


 すると、その様子を見た花凛が、隆と健斗に近づき肩に手を置き耳打ちをした。


「言ったでしょ? 何があっても、あなた達はあの子を助ける事だけを考えて」


 その花凛の言葉に、2人は自分達の目的を思い出す。そして、力強く頷いた。綺羅々の様子からして、明らかに自ら望んだとは到底思えなかったのである。


 その子を見て、先生の視線は隆達から花凛に移された。


「あなたは不法侵入ですよ。警察を呼びましょうか」


 あまりの言葉に花凛は耳を疑い、そして反論する。


「ええ、どうぞ。但し、捕まるのはどっちでしょうね~児童監禁どころのレベルじゃないですよね?」


 その言葉に、先生は眉をひくつかせたがすぐに続ける。


「全く無関係のあなたが、何故その子等の味方をしているのです?」


「塾の前で、友達の帰りが遅いとオロオロしていたから、“大人”として助けてあげてるんですよ」


 だが、花凛の“大人”という言葉に、その場の全員が首をかしげる。花凛は今どう見ても、隆達と5歳位しか変わらない、女の子だったからだ。


『あなた、今素で言ったわよね? 自分の今の姿忘れたの?』


 その台詞に、リエンがため息をつき嗜めるように言ってくる。

 あまりにも集中していた為、すっぽ抜けていた花凛は慌てて口に手を当て、素知らぬ顔をしているが、隠しきれていない。


「とっとにかく! 年上として、困ってる子の力になってあげるのは当然でしょ!」


 それでも急いで誤魔化し、相手に指をつけつける花凛に、後ろからリエンが手を横に広げ、「やれやれ」と言っている様な気がした。


「あぁ、めんどくさいですねぇ。こうなったら」


 そして、その先生項垂れる様にしては頭を下げ呟く。


「全員、食べてしまいましょうかねぇ……」


 その言葉と同時に視線だけが、射貫くようにして花凛達に向けられる。

 それは、獲物を狩る時の野獣の睨めつけるような視線。体から出るオーラは、鬼の顔が浮かび上がる程に湧き出ている。


 この迫力に隆と健斗は後ずさり、足が震えていた。

 それを見た花凛は、隆達を見つめると、大丈夫と言わんばかりに微笑む。


 そして手を広げると、どこからともなく炎が纏わり付く様に集まり、形を成し偃月刀になっていく。


 隆達には何が起こってるのか訳が分からなかった。

 目の前の高校生くらいのお姉さんが、いきなりとんでもなく長い武器を出したからだ。

 その出し方もおかしな現象であり、まるでゲームのキャラクターのような出し方だったから、目を丸くして驚くのは無理も無い。


 驚く隆達を横目に、壮麗な鈴の音を響かせ、花凛は手にした武器を手で回転させ、そして構える。


「ほぉ、あなた。普通の人間じゃないのですか?」


 その言葉と同時に、花凛は跳び上がり鬼のオーラを出し始めた先生に斬りかかる。だが、刃は途中で止まった。


「危ないですねぇ。いきなり斬りかかるなんて、なんて凶暴な人でしょう」


 その先生、いやその鬼は、ついに正体を現したかの様にして、徐々に変貌していく。


 だが、いつもの鬼とは明らかに違っていた。

 髪が白くなり、2本の角が生え、そして目は眼球が赤くなり目玉は黒く染まっていく。体つきはあまり変化はないが、爪が異様に発達し鉄の様に硬化していた。


 そして、その爪で花凛の攻撃を防いでいたのだ。


「ふんっ!」


 そのまま、返す勢いで花凛を吹き飛ばす。


「くっ!!」


 机や椅子が並べられているところに、激しく突っ込んだ花凛は、咄嗟に体勢を立て直す。


 その様子を唖然と、何が起こっているのか、頭で状況を把握できない状態の隆達に、花凛は叫ぶ。


「早くその子のロープを解いて、ここから脱出して!!」


 その声に我に帰った隆達は、咄嗟に綺羅々に駆け寄る。


 しかし、それを見逃す鬼では無かった。


「させませんよぉ……」


 隆達に猛スピードで迫る鬼に、花凛が慌てて間に入り偃月刀を横に構え、鬼の突進を防ぐ。


「この雑魚敵は私がやるから。君達はその子を助けなさい!」


 そう言いながら、偃月刀を押し出し鬼を突き放すと、腹に蹴りを入れる。今度は鬼が盛大に机や椅子に突っ込んだ。


『かっこつけちゃって、あの様子からしてあれは確実に“真鬼”よ。果たして、雑魚敵かしらね~』


 そしてリエンが、横から腕を頭の後ろに組みながら言ってくる。


「さぁね~でも、言ったからにはやらないといけないでしょ! 小さなヒーロー達の為にもね!」


 そう言いながら、決意を新たに鬼にむき直した花凛の目は、闘志に溢れていた。

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