第八話 ~ 小さなヒーロー ~ ②
公園では、隆と健斗がブランコの柵に腰掛け、隆がスマホをいじっている。
小学生でも、もう普通のスマホを持たされていて、時代を感じさせる。
「おっかしいな~綺羅々のやつ返事返さないぞ?」
どうやらスマホで、無料のSNSアプリを開き、そこに登録している、何時まで待っても来ない綺羅々に、催促のメッセージを送っていたが、既読にならないことに不思議がっていた。
辺りはすっかり夕暮れに染まり、隆達の家の近くの住宅街の公園は、人がまばらになっていっていた。
「もう、帰ったのかな?」
健斗が隆に向かって問いかける。
「バカ野郎、あいつが今まで約束破った事あるか?」
「うん、ない」
「やっぱ、なんかおかしいな……」
そう言いながら、隆は柵から飛び降りる。
「よし、ちょっと塾まで行ってみよう!」
「え~今から~?」
塾まではここから歩いて行けるとはいえ、片道20程かかる距離だった。
「いいから、行くぞ!」
「いててて! わかったから~」
そして健斗の耳を引っ張りながら、隆は公園を出ると、塾へと向かって行く。
その後、辺りが薄暗くなる頃には、隆と健斗の2人は、塾の入っている雑居ビルと、隣のビルとの隙間の細い通路に、その小さな身を隠していた。何故なら、ビルの前を警察官が、度々巡回に現れていたので警戒をしていたのだ。
「やっぱり、綺羅々の家に電話してもまだ帰って無いって。心配しているみたいだったよ」
「そっか、それならまだ塾にいる可能性があるな。尚更怪しいな~」
健斗から自分のスマホを受け取り、隆は真剣な表情でビルの前を見る。
「よし、警官行ったぞ!」
そう言うと、隆達は細い通路から飛び出してビルの入り口に向かう。
「あれ?? あかね~ぞ!」
そしてビルの入り口のドアを開こうとするも、鍵がかかっているのか開かなかった。
「くっそ、どうなってんだ? 綺羅々は家に帰ってないんだぞ、どっかで迷子になるような場所じゃないし、塾にいるのは確実だろ」
「でも、途中で誘拐にあったりとかは?」
隆の言葉に、健斗が横から突っ込んだ。
「あのなぁ、俺達が待ち合わせしていた公園からは大通りが見えるし、そこまではずっと大通りを通ってるだろうが、誘拐とかほぼ不可能だろ? まぁ、塾にいなけりゃ誘拐だろうけどさ、警官巡回してんのに鍵かけるか?」
およそ小学生のヤンチャ坊主とは思えない推理力に、健斗が拍手をする。
「さすが~隆の兄ちゃんのミステリー小説、こっそり呼んでるだけあるね~」
「誉めたってなにも出ないし。とにかくさっきの通路に戻るぞ、作戦を立てないと」
そう言って、健斗を連れて先ほどの通路に戻った。
「う~ん、どうやって中に入ろうかな……」
そして、腕を組み考え込む隆。すると、その後ろから突然女性の声が聞こえてきた。
「お困りのようだね~君達」
隆達は急に声をかけられ、びっくりして後ろを振り向く。
するとそこには、半袖のTシャツにショートパンツ、更に綺麗な細い足がハイソックスに包まれている、若い女性の姿があった。
そしてその頭には、マリンキャップをすっぽりかぶり、髪を隠している。
そう、少しボーイッシュな感じの佇まいをした花凛が、そこに立っていた。
実は、あれから花凛はリエンに言われたので、しばらく塾の近くで見張っていたのだ。勿論、鬼の可能性が浮上した、塾の先生の尻尾を掴むためだ。
しかし、巡回する警官を回避しながらだったので、かなり大変ではあった。そうやって見張っている内に、今緊急事態が発生したのである。
「誰だ!」
隆が花凛の姿を見て叫ぶ。
「静かにして、君達にとって有益な情報を持ってるのよ、私は」
花凛は人差し指を上に向け、静にするよう促す。
「私は、この塾が怪しいと思って独自に調べていた者よ」
「はっ? 秘密警察かなんかか?」
さすが、発想は子供だなと感じた花凛は、とりあえず話を合わす事にした。
「まぁ、そんなところね」
腕を組みながら答える花凛に、隆達が胡散臭さそうな目で見る。だが、それも当然と言えば当然であった。
見ず知らずの人の言うことは信用しないと、親から徹底されている世の中であるからだ。
そんな隆達の様子に、どうしたものかと悩んでいた花凛は、とっておきの情報を告げる事にした。
「まぁ、私の事を信じる信じ無いは良いとして、君達の友達の女の子だけどね、私はずっとここを監視してたの。それで、君達2人が出てきたのは確認したけれど、女の子はまだ出て来ていないのよ。そして、塾の先生が鍵を閉めたところまで見たわ」
「ま、まじか!!」
隆と健斗は同時に叫ぶ。
「おねえちゃん、それほんとか? 嘘じゃないよな?」
隆のその言葉に花凛はゆっくりと頷く。
「子供をだまして何の意味があるの?」
『花凛、ホントに良いの? この子等に教えても?』
「良いじゃない、この子等必死だしね。それに少し調べたらさ、前の犠牲者はこの子等の友達だったみたいだし、今嫌な考えが頭にあるんじゃないかな? 制止しても聞かないよ、子供って言うのはね。だったら助けてあげたいじゃん、こういう小さな勇気を持った子達をさ、前の私にはそんなもの無かったし、ちょっと羨ましいんだよね」
そう小声でリエンに言うと、花凛は今度は隆達に質問をする。
「君たちは、あの子を助けたい?」
その言葉に、隆達は迷い無く力強く頷いた。
「そう、分かった。あの子にとってのヒーローは、君達2人なんだね、それならヒーローらしく格好良く、彼女を助けてあげなよ? 雑魚敵は私に任せてさ~」
花凛は2人の目を再度確認する。すると、小さなそのヒーロー達の目には、明らかにする子供らしからぬ闘志の火が揺らめいていた。
その後、話がまとまると、花凛は準備運動をしながらビルとビルの隙間から上を確認する。
「あそこからなら入れそうかな?」
その視線の先には、塾のある雑居ビルの2階の窓を見つめている。
「でも、どうやってあそこに?」
「そこはお姉さんに任せないさい~」
そう言って花凛は、隆達2人を両脇に抱えて塾のある雑居ビルの壁と、反対側のビルの壁を順番に蹴りながら、上へと跳ぶ。
「うわわわあぁぁぁ!!」
そのあまりの出来事に隆達は叫んでいた。
そして、雑居ビルの2階の窓にたどり着き、順番に2階へと入っていく花凛達。
「ラッキー、窓が開いてて良かった」
しかし後ろの隆達は、恐怖の顔を向けるよりも、キラキラした目を花凛に向けている。
「お姉さん、何者?」
「ん~この事は秘密にしてもらえるかな?」
その2人の様子を予想はしていたが、それでも花凛は困った様な顔をして、人差し指を上にして口元に当てる。
「うん、分かった。ヒーローのお姉さんとの約束は絶対守る」
小声で健斗が花凛に向かって言ってくる。どうやらいつの間にか、花凛は2人のヒーローにされていた。
「ありがとう、でも今回のヒーロー役は君達だからね? 私はちょっと手助けするだけだよ」
「うん!」
その花凛の言葉に元気よく返事をする隆達に、今ので見つかってないだろうか不安になっていた。
その後、辺りを見渡す花凛だが、ビルの中は暗く3人が侵入した窓は、階段の踊り場についているものだった。
そこから、正面に塾の入り口がある。
そこも真っ暗になっていたが、奥の自習室からうっすらと明かりが漏れている。その中に誰かいるのは確実だった。花凛達は息を飲み、ゆっくりと入り口の扉を開け、中に入って行く。




