第七話 ~ 小さなヒーロー ~ ①
夏休みも半ばに差し掛かり、子供達は夏休みの宿題に追われていた。
ここにも、夏休みの宿題にうんざりしている10歳位の3人の小学生達が、塾の夏期講習に向かうため、雑貨ビルの立ち並ぶ大通りを歩いている。
「あ~あ~何で夏休みだってのに、朝から塾の講習行かないといけないんだよ~」
ヤンチャそうな風貌で髪も短く整えてる子供が、文句を言ってくる。
「ほんとほんと、面倒くさいよな~隆」
そのヤンチャな子、隆の右隣の小太りな子が返事をする。
「ちょっと健斗、隆~あなた達が遊び呆けて、学校の宿題も塾の宿題もやってなかったからでしょ~?」
隆の左隣にいた、肩までのセミロングの可愛らしくて綺麗な女の子がそう話しかける。小太りな子の健斗が、更にそれに返事をする。
「だからって、俺らの親厳しすぎだろ~無理やり講習行かせるなんてよ~」
「だから! そうしないとあなた達は宿題やらないでしょうが~一緒に居るからって、私までとばっちり何だからね!」
どうやらセミロングの女の子は気がキツい性格の様で、2人に向かってガミガミと説教をしている。
「勘弁してくれよ~綺羅々(きらら)~」
「そうだぜ、綺羅々~」
そんな中、2人がからかい気味に言ってくる。
どうやら、セミロングの女の子はキラキラネームを付けられていた様である。
「名前で呼ばないで~!!」
そう言いながら、2人の男子に殴りかかろうとするも、所詮男子と女子の違いからか、軽くかわされている。
「や~い! や~い! お星様みたいなキラキラした名前~おかしいでやんの~」
「うるさいわね~!! もっと変な名前の人もクラスに居るでしょうが~」
3人の子供達はじゃれあいながら、大通りを進んで行く。
塾のあるのは、大通りから小さな道路に入った先の、雑居ビルの2階部分になっていた。しかし、今そこの雑居ビルには規制の黄色いテープが張られ、警察官が立ちふさがっている。
「あっれ~?? なんだなんだ?」
「なんか事件かな?」
野次馬の中をかき分けながら、隆と健斗が不思議そうに覗いている。
「ちょっと~何があったの~?」
その後ろをぴょんぴょんと綺羅々が後に続く。そして、野次馬の中から声が聞こえる。
「怖いわね~殺人事件ですって……」
「なんでもここの塾に通う女の子が、無残な殺され方をされたんですって?」
「そうなのよ~私が聞いた話だとね、お腹を引き裂かれ、臓器のいくつかが食べられていたそうなのよ~」
その話を聞いた3人はその場に凍りついた。すると、その雑居ビルの中から、警官と一緒に塾長らしき人物と、塾の先生らしき人が出てきた。そして警官と何やら話している。
いつしか3人は、野次馬の1番前に出てきており、呆然とその様子を見ていた。
そしてその3人に、塾の先生らしき人が気づき、3人に近寄ってくる。眼鏡をしていて髪は耳までのセンター分け、エリートっぽい風貌のその人は3人の前に来ると、屈んで話し掛けてきた。
「あぁ、君達かすまない今こんな事になってしまっていてね。申し訳ないけど、今日の夏期講習は休みだよ。後で親御さんにも電話しておくから」
そういうと、その先生は優しく微笑み立ち去ろうとする。しかし、隆が興味津々な目で聞いてきた。
「なぁ、先生! 殺人事件ってホントか?! 誰か殺されたの?」
「やれやれ、野次馬の人達にも困ったものだね……」
3人に対して首を振り、帰るように促す先生は、少し疲れ切っている様子だ。
「君達は聞かないほうがいいよ……」
その少し威圧的な口調で言ってきた先生に、3人は怖くなったのか、渋々その場を後にする。
その様子を、反対側の雑居ビルの屋上から花凛が眺めていた。 繁華街は危ないと感じ、地下鉄で2駅進んだこの街にやってきていたのだ。
その格好は、短めの半袖チャイナ服に、ホットパンツと膝までのハイソックスを履いており、何だか奇抜な格好でもあった。
「ん~、これって鬼の仕業なのかな?」
『十中八九ね。食われてるって事は、人肉の味を覚えたのかな? 化け物の姿を見たという話が出ないところを見ると、人に化けてる可能性が高いわね~』
花凛の問いに腕を組みながらリエンが答える。
「ということは……」
『真鬼の可能性大ね……』
真剣に語るリエンに、生唾を飲む花凛は緊張している様だ。
すると、雑居ビルからもう1人出て来る。
オールバックに、キリッとしたつり目、スーツ姿の彼は何者なのかと花凛は耳を澄ます。
「刑事、どうでしょう? この事件は刑事の追ってる事件の犯人と、同一人物でしょうか?」
中年の、少し腹の出た警察官が話しかける。
「殺され方が違う。俺が追ってる奴は、切り裂いて焼いている。しかし、こいつは食い殺してる。こんなに犯行をガラッと変えるような奴はそんなにいない。全く違う人物による犯行と考えた方が良い」
「そうですか」
中年の警察官は、その答えを聞きがっかりしている。どうやら、自分の管轄でこんな奇妙な事が起き、正直面倒くさいからこの刑事に丸投げしようとしていたらしい。
「あの人刑事なんだ、しかも焼き切ってる奴って事は。あの人が私を追ってるの……?」
花凛は、その男の顔をしっかりと確認していた。
『まぁまぁ良い感じの奴じゃん~好みなの?』
リエンがまたしてもからかってくる。
「なっ?! ち、違う! 自分を追ってる人の顔くらい覚えとかないと、逃げられないでしょうが!」
ニヤニヤしているリエンに、花凛は怒って少し声を荒げる勿論、下に気付かれないように気を付けていた。
すると、スーツ姿のその刑事が突然、花凛達のいる雑居ビルの屋上に顔を向けた。その様子に、花凛は慌てて身を隠して口を押さえる。
「何、あいつ。気配にでも気づいたの?」
『普通の刑事じゃ無さそうだね~なんか他の人と雰囲気違うよね』
花凛とリエンは、小声でそう言いながら、これ以上ここにいては危険と判断し、その場を後にした。
『でも、とりあえずあの3人の子供達は見守っといた方がいいかも……特に女の子の方』
ゆっくりと移動しようとしたその時、リエンが突然話しかけてくる。
「なんで?」
『あなたはまだ力に慣れていないし、見えない時もあるけど。3人に近寄ってた人から、薄らと鬼のオーラが見えたわ』
「マジで……?」
リエンのその言葉に、花凛は信じられないという顔をした。
「…………気のせいか?」
花凛のいたビルをまっすぐ見つめる刑事は、ようやく視線を落とす。そこに、横に居た中年の警官が問いかける。
「どうしました?」
「いや、なんでもない」
そして、刑事はタバコに火を付けふかし始める。
「しかし、その若さで刑事とは、見たところ30代後半のように見えますが、さぞかしスゴい事件を解決してるんでしょうね~」
中年の刑事が、誉めてるのか皮肉を言ってるのか分からないような口調で言ってくる。
「それくらいに見えるか」
「え? ほんとはもっとお歳を?」
「いや、見た目の年齢でいい」
「???」
そしてそのまま、刑事はパトカーに向かっていく。刑事が意味深な言葉を残した為、中年の警官も含め周りの警官も全て、理解が出来ていないように見えた。
それから1週間後、事件のあった塾は営業を再開していた。しかし警察官は、塾の入っているビルへの巡回を増やしていた。犯人が捕まってない以上、警戒は怠ってはいない。
そして、その塾の教室の中にあの3人組の小学生達がいる。先週やるはずだった講習を、今日やっているようだ。とは言っても宿題を片づけているだけである。
しかし、その空気はどこか重かった。
何故ならあの後、親に聞いたところによると、犠牲になったのは隆達とこの塾で仲良くしていた、女の子だったからだ。
学校は違っていた為、同じ塾の友達と言う事だったが、それでも綺羅々とは仲良く遊んでいたようだ。
数時間後、ようやく目処がたった3人達は帰り支度をしていた
「よし! このまま遊びに行くぞ~!」
隆が元気よく、嫌なことを忘れようと必死に叫ぶ。
「あ、ごめん2人とも。私ちょっと先生に呼ばれてるから、先行ってて」
綺羅々は、塾から出ようとしていた2人にそう声をかけた。
「なんだよ~そんなんほっとけよ~どうせしょうもないことだろ~」
隆が不満そうな顔で言ってきた。
「そんなわけにはいかないの。大丈夫、すぐ済むから。いつもの公園に行ってて」
綺羅々が2人にそう言うと、教室を出て行った。
「ちっ、しょうがないな~先行くぞ健斗!」
「うん、わかった~」
隆だけが、気持ちが沈むのを何とかしようと頑張ってるものの、他の2人はやはりどこか暗く、隆の頑張りは空回りしていた。




