第六話 逃避行
ここは、事件の起きた繁華街の通りと交わる、少し細い道。居酒屋などが立ち並び、夜にはサラリーマンや、若い人々で賑わう場所。だが、今は昼間な為人通りは少ない。
そして、逆に繁華街には今、警察官がごった返えしになっている。そして、その細い道にも警察官が数人いるのだが、そんな状況で、突如悲鳴が聞こえてくる。
「きゃぁ~!!」
「ぐおぉぉおお!!」
なんと悲鳴を上げた若い女性の後ろから、禍々しい角を真ん中に一本突き出し、厳つい顔つきとなり鬼化した化け物が、女性を襲っていた。
すると、小さな通りの間にある路地から、急に小さな影が飛び出し、襲われている女性にを追いかけて行く。
「だ、誰か……誰か助けてぇ!」
その鬼に肩を掴まれ、万事休すの女性は必死に叫ぶも、皆恐ろしくて逃げだしている。
しかしその直後に、小さな影が女性を飛び越し、鬼化した者に向かうと、次の瞬間、その影は鬼を飛び蹴りで蹴り飛ばし、女性から突き放す。
そして、瞬時に手に持っている長い物で、その鬼を下から上に切り裂く。同時に鈴の音が鳴り響き、途端に鬼が燃え上がる。
女性は驚き、腰が抜けていた為に、それが誰なのか良く分からなかったが、ロングのツインテールの女性であることは確認出来ていた。しかし、そのまま路地に飛び込み、その小さな影は姿を消す。
「ふぅっ、危ない危ない。ギリギリだったし、警官もすぐに駆けつけて来たね」
路地に入り込み、繁華街の別の大通りに姿を現した花凛。ついさっき現れた影の正体は、もちろん花凛であった。
『この約1週間で、普通の鬼化した奴2~3体なら、楽に倒せるようになってきたね~』
「まぁ、あれだけ頻繁に出てればね~」
そう、花凛が繁華街に居るのは、少しでも戦闘に慣れようと思っての事で、1日に1回は必ずやってきていたのだ。
そのおかげで、この1週間でだいたい10体近く鬼化した者を浄化していた。
「まだ、真鬼になった奴とはあの時の3体だけだけどね~」
『言ったでしょ? 理性もあるし、人間に扮してるって。そう簡単には姿を表さ無いよ。あの時の3人は、真鬼となって日が浅かったし、あんな風に姿見せたけどね~』
リエンはそう言うと、フワフワと花凛の横につき、花凛の体を眺めている。
「な、なに?」
『いや~でも、1週間といえども立派に女の子してるよね~』
「なっ?! ちょっ、今そんな事言うことか?!」
花凛は、自分の顔が真っ赤になっているのが分かるくらいに、顔が熱くなっていた。
『ま~だ微妙なとこあるけどね。トイレを未だに間違えそうになるし~』
「うぐっ、しょうがないだろ。こちとら30年も男性やってるんだよ、もう無意識だって。なかなか適応出来ないよ」
リエンに文句ありげな顔で見つめた花凛は、トマトの様に顔が真っ赤になっている。花凛はトイレに入ってからも、なかなか慣れていない様で、その事を思い出している。
そして、それを想像してしまうと、こんな風に真っ赤になってしまう自分が恥ずかしい様である。
『その服装も可愛いしね~』
「そう、かな? 適当に選んだんだけど?」
そして、花凛は自分の体に視線を落とし、服装を披露するように見せる。上はホルターネックのブラウスに、下はキュロットを履いている。
何とも可愛らしい格好をしており、どういう心境の変化なのかリエンは不思議に思い、問いただす。
『だえど、急にこんな格好するなんてどうしたの? 目覚めたの?』
「なっ、ちが! 怪しまれない様にする為にも、こういう格好しといた方が良いんだろ?」
自分で言っていて恥ずかしいのか、スタスタと先に進む花凛。
しかし、褒められてどことなく嬉しくなってる自分もいて、複雑な心境になっていた。
すると、急に花凛は後ろから声をかけられる。
「すいませんそこの人、少し良いですか?」
その声に反応して振り返ると、なんと2人の警察官がそこに立っていた。
「やばっ!」
咄嗟に小さな悲鳴を上げ、走りさる花凛。
靴だけは動きやすそうな靴にしており、ここでヒールを履くような馬鹿な事はしていなかった。
それでも警察官の方が早いのか、花凛の後ろにピッタリとついている。
「待ちなさい!!」
そして、その叫び声の後、もう1人が無線で応援を呼んでいる。
「容疑者逃走! ○○方面に逃げます。応援を」
花凛は今、事件の重要参考人として警察に追われていた。何故こうなったか、時間は少し遡る。
数日前ーー
この時既に。5件ほど同じ場所で同じ事件が起き、オールバックでスーツ姿のあの刑事は、頭を抱えながら机に広げられた写真と睨めっこしていた。
「刑事! ちょっと気になる電話がありました!」
「なんだ? またがせネタか?」
徹夜続きで隈が出来ている目を上に上げ、入ってきた警察官を睨む。その警察官は、一瞬びくっと体を強ばらせたが、そのまま続ける。
「い、いえ。動画やニュースで出てる人物を、近所で見たという通報がありまして、容姿を確認すると、その人物と一致するのでもしかしたらと思いまして……」
それでも、やはり引き気味で喋っていた。
「なるほど。ただのがせネタではなさそうだな。よし、そいつに聞き込みに行ってみるか。ここで唸っても何も出てこないしな」
「はっ!!」
そう言うと、刑事と警察官は出て行きそ、の目撃者の家へと向かった。
寂れた商店街に佇むこじんまりした家に、パトカーが1台止まる。そう、ここは谷本家の家族が住んでる家。そして通報したのは、妹の美沙であった。
数日前に銭湯で出くわしたあの少女が、兄の葬式の時に、不法侵入してきた女と、同一人物ではないかと疑っていた。と言うよりは確信していた。あの髪の色、黒髪に赤のメッシュはそうそう居ないからだ。
そして両親に相談し、両親も納得の上通報したのだ。
「ふむ、なるほど。では不法侵入した者と、その銭湯で出くわした者は同一人物と、そしてその人物がネットにあがっていたのでもしかしたら……ということですね」
先ほどの刑事が、メモを取りながら復唱する。
「その女性というのは、この人ですか?」
刑事は、スーツの内ポケットから何枚か写真を取り出すと、美沙に見せる。
「あっ、この人です、間違いない!」
美沙はすぐに答えた。顔はよく見えないが、間違えようが無い髪型と、髪の色だったからだ。
「なるほど。で、またこの辺りに現れると?」
「分かりません。でもっ。もしかしたら……」
刑事の問いかけに、美沙が口ごもる。
「美沙。あんたまさか……」
美沙が、俯きながら言おうか言うまいか迷っているのを見て、母親が気づき制止をした。
「ダメよ、あんまり非常識な事を言ったら、警察の捜査の邪魔になるからね」
その母親の言葉に刑事は、片手を広げ制止した。
「それを決めるのは警察ですので、例え非常識でもね。それに、既に非常識な事が起こっているのです、遠慮なさらずに気になる事は全て言ってください」
その刑事の言葉に意を決し、美沙は話を始める。
「なるほど、死んだ兄の財布からお金を抜け取った的確さ、地元の銭湯に現れたのは、そこに人が少ない事を知っており、油断していたからでしょうかね。そう考えたら、辻褄は合いますが。う~む……死んだ人間が生き返るというのはどうにも……」
美沙の話を聞き終え、刑事が顎に手を置き考える。
「あっ、すいません。あり得ないですよね、こんな事……」
顔を俯かせ、沈んでしまった美沙を見て、刑事は慌ててフォローする。
「あ~いや、気にしないでください。大丈夫ですよ、とにかくあなたが見たのが同一人物で違いないのであれば、有益な情報になりますから。また何かありましたら、連絡してください。これ、私の電話番号なので」
そう言うと刑事は名刺に携帯の番号を書いて、美沙に手渡した。
「では、ご協力ありがとうございました」
刑事は一礼をし、パトカーに乗り込みその場を後にした。
そして、パトカーの中で刑事は警察官に伝える。
「他の警察官にも伝えろ。重要参考人としてこいつの行方を追うぞ!」
「はっ!!」
――そして現在。
花凛は、路地の入り組んだ道を走っている。
ここの繁華街には良く来ては、ブラブラしていた為に、土地勘があったのだ。
「はぁ、はぁ。逃げられた……かな?」
花凛は息を整えながら、辺りを見渡す。どうやら警察官は、花凛を見失った様で追っては来なかった。
「もう~最悪。何でこんな事に~」
昨日の夜、繁華街から少し離れたネットカフェで、パソコンを使い情報収集していたところ、検索サイトのトップに、自分のやった事が取り上げられていた。
しかも、重要参考人として警察が行方を追っている、ということも書いてあり驚愕した。
しかし、警察なんて所詮まともに捜査しないと、そうたかをくくり、戦闘の練習の為に繁華街に戻って来たら、あまりの警察官の多さに、ほとんど身動きが取れずに、鬼化した者を浄化するたび、警察官に追われていた。
『警察舐めてた?』
リエンが横から冷ややかな目線を送る。
「はい、すいません……」
花凛は、数日前の自分を恥じていた。




