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煉獄の焔  作者: yukke
第二章 放浪
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第五話 一日の終わりに

 日も傾き、辺りはすっかり暗闇に包まれていた。

 花凛は、繁華街にずっといても危ないと考え、結局実家のあるこの街に戻ってきていた。


「はぁ……やっぱ、風呂入らないと駄目?」


『当たり前でしょ、それと着替えないといけないでしょ? 豪快に川に突っ込んだんだもん』


 そうため息を吐きながら、銭湯の前にやって来ている。


 花凛は、正直今が真夏で良かったと思っていた。真冬で川に突っ込んでいたら確実に風邪をひくからだ。

 しかし、真夏と言えども今は日が傾き始めている。そんな中半乾きの状態だと少し気持ち悪いようで、たびたび手で服を引っ張っている。


 ブラやパンツも、現世に戻された時に服と一緒に着せられていた為、抵抗もくそもなかったのだが、やはり戸惑いは隠せない。その下着が見えた瞬間、花凛は顔を赤らめていた。


 それでも、ずぶ濡れになったとき人の視線がやけに気になったのも事実。自分は女の子の体になってしまったのだと、再度認識されてしまっていた。


『ここに戻る時、色々買えてよかったけどね~』


 そう、花凛は戻る前に繁華街のショップで、安めの服やズボンを何着か、替えの下着も勿論買わされていた。

 そして、着替えや何やら荷物を持ち運ぶ為に、少し大きなリュックも一緒に買っていた。


『あいつら、結構持ってたわね~』


「うん、これでしばらくは大丈夫だけど。バレた時が怖いなぁ」


 花凛は俯きがちになり、少しだけ罪の意識を感じている。


『いちいち気にしない方がいいわよ~それに、お金がないと生活出来ないでしょ?』


 リエンにもっともなことを言われた為に、しぶしぶ納得せざるを得ない様で、花凛は再び前を向いた。そして、これから始まる試練を考えて再びため息をつく。


 ここの銭湯は、実家のある商店街にあった。

 こじんまりとしていて、どこか古臭さく感じるそのたたずまいは、昭和の息吹を感じさせている。


 実家が近くにあるとは言え、家族は誰もここの銭湯を利用していない。と言うより、近所のお年寄りしかここを使っていなかったので、気軽に使えそうだと感じた花凛は、気づけばこの銭湯に足を向けていた。


 そして、いい加減ずっと銭湯の前で佇むわけにもいかず、覚悟を決め花凛は銭湯ののれんをくぐる。

 そして、入口に行こうとしたとき後ろからリエンが冷静な口調で言ってきた。


『どっち行くの? あなた女湯でしょ?』


 その言葉に、ようやく自分が男湯に入ろうとしていた事に気づく。


「あっ、はは。ごめんごめん。なかなか女って自覚が出来なくて」


 頭をかきながら女湯に向かう花凛に、リエンは腕を組みながら呆れた顔をしていた。


 それから番頭にお金を払い中に入った花凛は、銭湯をグルッと見渡す。予想通りお年寄りしかいない。

 女性の裸には慣れていない花凛でも、何とか平静でいられている様だが、問題はここからだった。


 花凛はロッカーに荷物を入れ、自分の体に視線を落とす。


「脱がなきゃ。でも、自分の体とはいえ女の裸なんて……」


『焦れったいわね~早く脱ぎなさいよ。私が生身の体であれば、とっとと脱がせたのに~』


 イライラしている感じでリエンがそう催促してくる。


「あ~もう、ここまで来たら覚悟するしかない~」


 花凛は自分を鼓舞するかのように、ほっぺをピシャリと叩き、意を決して服を脱ぎだした。

 しかし、下着だけになった花凛は手が止まる。それを見てリエンが不思議そうにのぞき込む。


『どうしたの?』


「ブラって、どうやってとるの?」


 花凛は困った表情をしている。


『もう~あなた本当に女性を相手にしたことないのね~』


「仕方ないだろ~女友達どころか友達すらいなかったんだよ~」


 呆れた様に言うリエンに対し、花凛は小声で反論する。


 悪戦苦闘しながら、どうにかブラも外せて浴場へと向かう。

 しかし、ここは途中に大きな鏡があって、自分の全身を映し出す事が出来る。そこで、花凛は自分の裸を始めて見ることになった。

 小ぶりな胸にクビレのある腰、足は割と長めであり、見たところ体型も顔に恥じぬほどのものを持っていた。


『な~に自分の体に魅了されてんのよ~』


 またしてもリエンが後ろからニヤニヤとからかってくる。


「ち、ちがっ?! 女の裸なんて始めてだからつい……」


 少し声が大きかったので慌てて口を塞ぐも、相も変わらず周りは耳の遠いお年寄りだらけ、花凛の声に気付いていない様子で、安堵の息を漏らしながら、コンビニで買ったシャンプー等を片手に花凛は浴場に入る。




 先ずは洗い場で体を洗いはじめた花凛。しかし、その横からリエンがいちいち突っ込んでくる。


『あ~!! もうちょっと丁寧にしなさいよ! 女の子の体はデリケートなのよ!』


「そんなこと言われたって……」


 文句を言いながらも、女性の体は男性とは違い、いつも通りに洗うとすぐに肌が赤くなっていた。

 花凛はしぶしぶリエンの言うとおりに洗い、髪も言うとおりに丁寧に洗っていた。


 すると、その隣に誰かがブツブツ言いながら座る。


「あ~もう……オトンもオカンもなかなか立ち直らない、あんなおにぃでも、やっぱ自分の息子がってなったら、あんな風になるんだね。まぁ、ならなかったら逆に恐いから、あれが普通なんだろうね……」


 聞きなれた声、花凛はシャンプーをしながらなので目が開けられないが、それでも十分過ぎた。


「あんなとこにいたら、息が詰まっちゃう。たまにはこういうとこに来て気分転換しないとね」


 そう言いながら隣の人は、桶に溜めていたお湯をかぶる。

 花凛は顔だけ泡を取って、目に入らないように横目で隣の人を確認する。

 するとそこには、髪は軽く茶色に染めていて、一重で目が細い中の下といった顔立ちなのに、体はDカップの胸に、クビレのある腰で、足は細すぎない丁度良い具合の太さである、亮の妹、美沙の姿があった。


「なっ……!」


 花凛は、うっかりそう叫びそうになり、慌てて手で口を塞ぐ。

 妹の裸を見てしまったという罪悪感もだが、この前うっかりして一瞬だが、この姿を見られている。


 死んだ兄だとは露とも思わない為、ただの不法侵入者としてしか見られていないであろう事は、簡単に想像出来た為、花凛はそのまま固まってしまう。


 そんな中で、リエンは相変わらず、面白い事が起きたと言わんばかりに、その光景を楽しんでいた。

 髪は泡で隠れているのでよく見えないだろうし、顔もまだ確認されていない。そう考え、花凛は落ち着いて対処法を頭に巡らせる。


 幸いすぐに美沙が髪を洗い出したので、花凛は直ぐさま頭を洗い流し、なんとか立ち去ることが出来た。


 そして、そのまま気づかれぬ様に湯船に浸かる。


「あ~危なかった……」


 口まで湯につかり、心臓がバクバクなってるのを押さえようと胸に手を当てるが、柔らかい感触が返ってきたので、焦って手を離す。

 そんな花凛を眺め、リエンはなんて面白いんだろうと、お気に入りの玩具を見つめるような目をしていた。


「しかし、真鬼はなんで浄化できないの?」


 花凛は小声で、今日起こった出来事の中で、不思議に思ってる事を聞いた。


『魂まで鬼になってしまってるからよ。私達でも、人の魂じゃないものまで浄化する事なんて出来ないのよ。それは、更に上位の存在がすることだからね』


「そうなの? でも、人に戻れるなら浄化出来るんじゃ……」


 リエンの答えに納得できず、聞き返そうとするが、途中でそんな返しは予想していたと言わんばかりに、リエンが遮るように言ってくる。


『人に戻るってあの時は簡単に言ったけど、厳密に言うと人に化けてると言った方が良いわね』


 そして、リエンもお湯に浸かってくる。

 魂なのにお湯に入れるのかと、疑問に思った花凛だが、前回と同じセリフが飛んできそうだったので辞めておいた。


『あいつらは理性がある分、鬼化した自分達が、特別な力を得たと勘違いしていてね、人の姿になって隠れては、悪事を重ねているのよ』


「悪事だって?」


『そう、未だに解決されていない事件とかあるでしょ? あれはほとんど、その真鬼となった者の仕業なのよ。あいつらの中には特殊な力を持った奴もいるからね』


 リエンが、お湯から浮かびながら上がり花凛に指を差してくる。


『いい? これはあなたが思ってる以上に簡単ではないわよ? そこんところ、しっかり覚悟しておいてね?』


 あまりの事に花凛は言葉を失い、呆然としている。そんな時……。


「あの~? 失礼なんですけど、どこかで会いませんでした?」


 その突然の言葉に驚き、声の方に振り向くと、そこには妹の美沙がいた。

 ツインテールはほどいていたものの、髪色でさすがに怪しまれたのか、美沙はそんな目で花凛を見てきていた。


 花凛は、リエンとの会話に没頭しており、美沙のことを完全に忘れ、接近を許してしまっていた。


「あ、誰かと間違えてませんか? 私、上がりますので失礼しますね。ほ、ほほほ」


 男性が、どうしようもない理由で女装をさせられてしまい、そんな時に知り合いに出会ってしまい怪しまれる。

 花凛はその時に出る必死の言い訳と、引きつった笑いが出てしまった。咄嗟に浴場から出るも、しばらく美沙の視線を感じていた。






 夜も更け、サラリーマンが家路につくため前の通りを通り過ぎる。そんな光景を何度見たことだろう。


 通りに面した警察署の一角の部屋から煌々と明かりが漏れ、そこから男性が疲れた顔で、通りを眺めている。恐らく、頭ではそんなことを考えていたのか、もしくは今日起きた事件を考えていたのだろう。


「刑事、あれだけの目撃者がいたのです。それに、ここの警察官も何人も見ているのですよ」


 1人の若い警察官がそう口にする。その歳からして警察官に成り立てなのだろう。ピカピカのバッジが映える。

 それに対して、オールバックで背が高くスーツ姿の似合う刑事が、タバコをふかしながら返す。


「ふぅ。そうは言っても君、こんな事はあり得ないだろう……化け物が現れ少女を追いかけ、しかもその少女は化け物と戦い焼き切っただぁ?」


 刑事はタバコを灰皿に押し付け、机の上の写真に手をかける。

それを見て、若い警察官は怯みもせずに言い返す。


「ですが、既に沢山の人が目撃し、写真や動画がたくさん撮られているのですよ。マスコミも既に嗅ぎつけ、動画サイトにはこの動画が上がってるんですよ。どう説明を付けるんですか?」


「おい、情報規制はどうなった?」


 若い警察官の返しに、きつめの口調で刑事は答える。


「間に合いませんでしたよ、あの直後に一気にアップされたんです。規制されても、もうバックアップ取られてますよ」


「ちっ!」


 若い警察官のほうがその辺りは詳しかったようだ。刑事は舌打ちをし、写真をテーブルに放り投げる。


「これが本当だとしたら、この国に何が起きていやがる」


 刑事は眉を吊り上げ厳しい顔で、テーブルの上の多数の写真を睨む。

 そこには、河川で長い獲物を持ったロングツインテールの少女が、3体の化け物と戦っている姿が映っていた。

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