【6】基本は節約です
養子縁組の書類もそろったし、役所にでも行くかなと思ってたら、クロードに止められた。
絶対反対するだろうなと見越して、他の執事に頼み、内緒で書類は用意して貰ったのだけれど。
うっかり机にしまい忘れて、それを見られてしまったのだ。
「兄妹ごっこでも頭が痛いのに、養子縁組なんて何を考えてるんですか!」
基本的にはなんだかんだ言っても私に従うクロードだけど、これだけは折れてくれなかった。
「百歩譲って彼らはいいとしても、でもこの四人は駄目です」
クロードが書類を振り分けて私の前に出してくる。
その四人は全部獣人で、私が特に後ろ盾をあげたい花街出身者が全員含まれていた。
「なんでよ」
「彼らは全員奴隷の身分だからです。お嬢様は記憶喪失で忘れているのかもしれませんが、獣人の多くは人間と同等ではありません」
むっとした私に、クロードが淡々と告げる。
「奴隷身分のものをいきなり貴族にとなると、反感を買います。お嬢様の立場が危ないのです」
クロードの言い分はもっともな気がした。
私のいたニホンには奴隷なんてなかったし、軽く考えすぎていたんだなとちょっと反省する。
「獣人の多くはってことは、同等の身分の獣人もいるってこと?」
「はい。特定の学校を卒業した獣人には平民の身分が与えられます」
私の質問にクロードは答えながら、それは難しいとは思いますがと付け加える。
「なんで難しいの?」
「人より劣っているとされる獣人を、わざわざ入学させる者がいませんし、卒業できる者も少ないからです」
クロードの言葉に、ゲームの中での獣人の子の事を思い出す。
彼は主人に着いて、あの学園に入学していた。
従者として学園いる獣人は多かった。
けど彼は主人公に恋をして大人の姿になって、主人に頼んで生徒として登録し、獣人であることを隠して通っていた気がする。
それに、獣人は大人に変身できるようになるまでは、子供っぽく知能も高くない。
だから入学するのすら無理だと、クロードは言いたいようだった。
つまりは、獣人を養子にするには、学園を卒業してからということになる。
なかなかに難易度の高いお仕事だけど、できるかなぁと不安になった。
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養子縁組をしたいと言っていた、獣人以外の子たちだけ籍をいれる。
それでとりあえず縁組は完了で、後は保留だ。
当初の目的が達成できなくてモヤモヤするけど、まぁしかたない。
花組の子たちには、教師を雇い一般的な読み書きと基礎知識から教えてもらっているのだけれど、彼らは基本飽きっぽいのでうまく行ってない様子。
それは一旦置いておいて。
次の問題は、オースティン家が所有してるこの領土。
財政はかなり悪いみたい。
それでこんなゴージャスな屋敷で贅沢三昧してたら、恨みも買うよね。
けどこれに関してはヒルダっていうより、オースティン一族が悪い。
ヒルダの夫が当主だったみたいだけど、ロクな治め方をしていなかったみたいだ。
ちなみに、夫が亡くなってからは、ヒルダの代理として当主の弟がこの領土を運営している。
彼は他の領土の貴族へ婿養子として入っていて、本来この領土を治める権利はない。
しかし、オースティン家には他に跡継ぎもなく。
夫が死亡した当時十七歳と若く、領地運営を面倒臭がったヒルダから、彼が積極的に引き受けたようだ。
貴族が二つの領土を治めるのは、権力の集中から本来よくないらしいんだけどね。
それでもって、彼がこの領土をどう治めているかというと……これもまた酷い。
今年は天候不良で作物が出来なかったのに、税はいつも通り。
その上よくわからない理由さらに税を取り立ててる。
悪政にもほどがあるよねって感じだ。
この領土は特に目立った産業があるわけでもなく、地味という印象。
スラム街まであるっぽい。
屋敷から出てないから、どんな風になってるか詳しくはわからないけど。
後回しにしようかなと思ってたけど、こんな状況だと早めに手をつけた方がよさそう。
しかしそんな政治みたいなことを、この前まで平凡なOLしてた私ができる自信はあまりないんだよね。
そういうわけで、とりあえずはできることから。
基本の節約から手をつけてみることにした。
削れるところはないかなと見直しをするため、今までの支出を見せてもらった。
……恐ろしい金額がヒルダの買い物に消えてた。
何を買ったのかな? と思ったら、少年たちだったり、服や嗜好品だったり。
はっきり言って無駄遣いしすぎだ。
ヒルダの衣裳部屋に案内してもらったら、大量のゴージャスな衣装が眠っていたので、ほとんどを売りにだしたら、なかなかいい値段になった。
ついでに普段着もドレスから、軽装に変更。
クロードがそれは駄目ですお嬢様なんていってたけど、動き辛いし。
綺麗なドレスって見て着るのはテンション上がるけど、日々の生活だと鬱陶しいだけなんだよね。
今の私はブラウスと男性用のズボンを着用して、髪は適当に上で纏めてる。
ジャージがあったらよかったなぁと切実に思う。
私の家でのユニフォーム、くつろぎの一品。
動くのにも、ゴロゴロするのも最適な、最強の服だと思うんだよね個人的に。何より楽でいいし。
……特注で作らせちゃおうっと。クロードが怒りそうだけど。
それでいて別荘とかも持ってるんじゃないかなと思ったら、やっぱり沢山持ってたんでこれも売り飛ばしました。
いやぁ、いい値段で買ってくれる人がいてよかった。
相場をクロードに調べさせて、まずは高値でつけて。
値切ってくる人に、他にも買いたい人はいるんだよってアピール。
そういうと魅力的に見えてくるものだから、食いついてきた人に今ならこれも付けていいよとオマケを差し出し。
割引もしてあげると言って、まんまとこちらの希望価格で売るのに成功した。
こういう駆け引きって楽しいよね。
ポイントはその品物のいいところだけじゃなくて、欠点もちゃんと言ってあげることで信頼度が増すってところ。
それでいて笑顔で接客。
ヒルダさん美人だから、相手が男の人だと交渉力がアップする。
前世の私では使えなかった、美人限定スキル。
これは今後とも使えそうな気がする。
あと、ヒルダは宝石集めが趣味だったらしくて、それもいくつかは売りました。
宝石だけは多めに取って置いたんだけど、理由はこのゲームの世界で宝石が魔力を貯蓄できるっていう設定だったから。
それに、お金の価値は下がっても、宝石の価値は滅多に変動しないと見込んだのもある。
これによって多少お金に余裕が出来たし、贅沢も控えるつもりだから、税金を少し下げても問題はないはずだ。
当主の弟は税を下げるのをかなり渋ってたけど、それを決める権利は本来ヒルダにある。
代理の立場は返上してもらったから、名実ともに今は私が当主だ。
領土の悩みも山積みだけど、それは一旦置いておいて。
問題の少年達なんだけれど。
さすがに十三人全員の面倒を、私がいっきに見るのは無理がある。
なので、三つのグループに分けて、それぞれの面倒を見ていくことに決めた。
私と、クロードと、もう一人屋敷のマトモそうな男の人。
この三人で、グループそれぞれの子供達を責任持って請け負う形にしたのだ。
時折面倒を見るグループを交代しながら、それぞれに合った教育を探っていくつもりでいる。
グループにはそれぞれ、わかりやすく星組、花組、月組という名称をつけてみた。
まるで宝塚みたいだなと思わなくもない。
まずは星組。
アベルを含めある程度学力のある子や、年長の子たちのグループ。その素性や性格を見るに、一筋縄じゃいかなそうな子ばかりだ。
担当はクロード。
彼らには主に勉強をしてもらい、将来のスキルアップのためにクロードの作業を補佐して執事業務を手伝ってもらう予定だ。
次に花組。
花組だけに花街出身者が中心のグループ。全員獣人。
学力は低く、主にエロ方面でどうにかしなきゃなと思わせてくれる。
これは私の担当だ。
最後に月組。
二つの組に入らない、問題の少なさそうな子を集めたグループ。
月組はセバスさんという男の人に頼むことにした。
セバスさんは子供達のお世話担当、つまりはベビーシッターで、今まで子供達の面倒をひとりで見ていたらしい。
セバスさんは優しそうな面立ちの老紳士。
本名はセバスチャンというらしく、名前も執事服もとてもよく似合っている。
少年達の様子に心を痛めていた様子でもあって、今まで彼らに心を配ってきてくれていたようだ。
そのため少年たちの多くはセバスさんに懐いていた。
自分を殺しにくる攻略対象であるアベルどうにかするなら、本来星組の面倒を見た方がいいだろうと思う。
しかし花組は色々問題有りというか、放っておけない。
何かと挨拶がわりにエロいことをしようとしてくる。
ほんともう不健全すぎる。
ヒルダに愛されていないイコール、店に返される。
そう彼らは考えてしまうらしく、積極的にアピールを続けてきていた。
今日も疲れた、寝ようかなとベッドへ行けば、裸の少年が食べてと迫ってきたり。
風呂に入ればお背中流しますとやってくる。
時にはキスを平然とねだってくる彼らは、幼いのにかなり色っぽい。
私にショタ趣味はない。
けど、美少年にそういうことをされると、やっぱりドキドキするというか心臓に悪い。
私の精神衛生上よくないし、やっぱり子供がこんなことするなんていけないと思うんだ。
直せるのはきっとヒルダである私だけだ。
ここは私が彼らに、真っ当な道を教えていくしかない。
よし、と私は気合を入れて。
とりあえず、服屋に全員分のジャージの注文をしに行った。
4/5 誤字修正しました。
4/6 オースティン家の当主の弟に関する記述を追加しました。
★4/18 誤字修正しました。報告助かりました!